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我楽多堂

 私の家はアンティークショップで、店の名前は「エゴイックロータス」

 通称、「我楽多堂がらくたどう


 正確には、「我楽多堂」は昔の名前。お父さんが私が生まれた時に、「家の店の名前が『ガラクタ』じゃ、娘はイジメられるかもしれない」と思って名前を変えたらしい。

 ……この名前もイジメの材料には十分な気もするのは、言わない方が親孝行なのかな?


 お父さんは「魂の蓮の花」という意味だと言っていたけど、絶対にそんな意味に取ってもらえない。

 確かに「エゴ」を「自我」と翻訳するなら意訳としてはそこまで的外れじゃないけど、普通は「エゴ」といえば、わがままだとか自分本位だとかそういう意味が先に来ると思う。

 っていうか、その意訳も十分恥ずかしい。私の名前を連想させる植物を店名に使わないで欲しかった。


 そして何より私、実は前の名前が結構好きだったりする。

 他のみんなが、世界の誰もが価値のない「ガラクタ」としか思えない物でも、たった一人が価値を見出せば、それはその人にとって何よりの宝になる。

 ここは、その宝の預かり場所。

 お母さんが昔そう言った時から、私にとって店や倉庫はなんだかよくわからないものや、不気味なものがいっぱいある怖い場所じゃなくなったから。


 そのことを、今の店の名前の不満部分は省いて話してみたら、お父さんは少しの間だけキョトンとしてから、嬉しそうに笑っていた。

 それは私が好きだと言っただけじゃなくて、きっとお母さんの言葉だったから、お母さんがそう言ってくれたからだと思う。

 お父さんは自分のお父さんから継いできた仕事を、誇りに思っているから。


「じゃあ、れんげがこの店を継いだら、名前を元に戻したらいいよ」

 ……嬉しそうに笑って、私の頭を撫でながらそんなことを言ったけど、どうもお父さんが店主の間は、今の名前を変えてくれる気はないらしい。

 早く大人になって、下剋上しよう。


「今、何か不穏なことを考えなかった?」

「別に」

 お父さんが鋭く尋ねてきたけど、私はそれを受け流す。

 不穏なことじゃなくて、ただの将来の目標だから嘘じゃない。


「……まぁ、良いけどね」

 たぶん信用してないだろうけど深追いする気もないらしく、お父さんは一回溜息をついてから自分の疑問も流した。

「けど、れんげが店を継いでくれる気があるのなら、私の代でこれらを『宝』と呼んでくれる人を見つけておきたいな」

 とりあえず今は、私が店を継ぐ気があることが嬉しいらしく、機嫌よく店の中に置かれたいくつかの品物に視線を向けた。


 それは、大人が一人は余裕で入れそうな壺。


 それは、空っぽなのに水草が揺らめいている金魚鉢。


 それは、不気味の谷一歩手前の、頭のない人形。


 それは、花の蜜を吸う蝶をそのまま針金細工にしたような髪飾り。


 それは、よく言えば味のある、悪く言えば古ぼけたポラロイドのカメラ。


 それは、贅の限りを尽くした、絢爛豪華なカトラリ―セット。


 それは、今にも糸が切れてページが分解しそうな、草臥れた古書。


 それは、幾重に厳重に封をした箱の中に納められた巻物。


 その他のいくつかを、私も眺めてお父さんに言ってみる。

「私は、『普通』のものだけじゃなくて、『こういう』ものも嫌いじゃないよ」




 * * *




 アンティークショップ、エゴイックロータス。または、我楽多堂。

 それが、私の家。私のお父さんの店の名前。


 ……そういえば、忘れてたけどもう一つ、よく呼ばれる名前があった。




 おばけ屋敷。


 ……否定できないのが、ちょっと困る。

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