今日も今日とてヘイワですね。
「僕は君が嫌いだ。」
「別にいいよ、私はあの人が好きだから。」
二人は、ちょっと優し過ぎただけでした。
* * *
「ねぇ莉央さん、用がないなら帰ってもらっていいですかね。」
「用ありまくりんごですよ。今もこうして立花君を目に焼き付けるのに忙しいのです。」
「はぁ…その為だけに呼ばれる私の身にもなってよ。」
「いつもお務めご苦労様です。いつか私の恋が叶ったらカリカリ君アイス奢ってあげるね。」
「あんたにとってあたしの価値はそんだけかい…」
1年5組の黒板側の出入り口。
ほぼ毎時間の休み時間、私、小林莉央は友人の瑞希を呼び出してそこに居座るのが恒例となっている。
目的の2割は瑞希とお喋りをする為。
残り8割は立花葵君を拝みたいがためだ。
「はぁ、今日も素晴らしい笑顔だこと…」
私の視線の先には、沢山の友人と話をしながら笑みを浮かべている立花君がいる。
相変わらず人気者だなぁ。
彼は成績も良く運動神経も抜群でルックスもスタイルもいい方だ。おまけに人当たりもいい。
こんなにも優秀な点を備えた彼は、案の定男女問わず凄まじい人気を誇っている。
なので、こうやって立花君目当てで5組に押しかけている子は何も私だけじゃない。
出入り口、廊下、教室の中まで沢山の女の子が見物目当てで来ている。
分かる。分かるぞぉ。
校舎を越えてでもお目にかかりたいよね。
それほど素晴らしいよね立花君て。うんわかる。
「うんわかる。」
「え、何が?」
「失礼、何でもないです。それより瑞希も見てみなよ、立花君。ほら!今はにかんだ!はぁぁ八重歯が可愛い…」
「いや、私彼氏いるし。」
「それとはまた別で!目の保養的な!」
「彼氏いるし。」
「はい。」
この分からず屋リア充一途美人め。
末永く爆発してしまえ。
心の中でそう吐き捨てながら、再び教室内へと視線を戻す。
教室の真ん中で談笑する立花君を通り過ぎ、窓側の一番後ろの席へと目を向ける。
そこには、文庫本に目を通している彼の姿があった。
見慣れた容姿。
それもそうだ。もう10年以上傍にいるのだから。
「高橋君にも声かけてけば?」
「ううん、いいや。」
そんなんじゃないから。
「…あ、もう時間だから行くね。また来まっせ。」
「はいはい、行ってきなー。」
瑞希に向かって手を振り、自分の教室に向かって歩みを進める。
- 今日も私達はヘイワです -