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愛哀傘 三

   第三章 北大阪秋雨事件前編


 彼は真剣な顔になった。

「なるべく簡潔に事件の詳細を分かっている範囲でお話いただけますか?」

「わかりました。事件が起きたのは私の家の敷地内のソメイヨシノの下で、三日前の大雨だった日の深夜です。警察によると犯行時刻は妻が最後に娘を見た午前一時から私が物音で起きて娘の死体を発見した午前三時の間だということです。私の娘の名は川本英理と申しまして二十三歳で電子会社に勤務しているいたって普通の会社員です。私の娘は母親に似て美しく、温厚で、恨まれるようなことはなかったはずです。そして娘には幼馴染の染谷省吾という彼氏がおり、これもなかなかいい男でしてお似合いだったはずなんですが……」

「どうしました?」

「あいつは次の日の朝家にやってきて、娘に会いたいと言うので亡くなったと知らせてやった途端に走って出ていきまして、それから連絡がつかないのです」

「その彼は毎朝会いに来るのですか?」

「いいえ。その日だけです。あぁ、でもあいつは犯人じゃありませんよ。それは警察の皆さんがアリバイがあったことを認めています」

「ほう。これはなかなかたいへんだ。どういう意味か分かるだろう?姫子」

「えぇ、急がないといけませんわ。殺害現場に向かいましょう。案内してくださいますか?」

「それは構いませんが殺害現場について何も話していませんよ」

「それは向かいながらお話しいただきましょう。事態は極めて深刻だと考えていいでしょう。今更行ってあの警部が現場の状況を維持できているとは思いませんが、動かないことには始まりませんしね」

 そう言うと我々は急いで何日かの旅の用意を始めた。私はゴールド君を呼び、急いで用意を始めて、ここを二、三日空けることになるかもしれないと管理人さんに伝えるように言った。

 用意が終わると我々は彼と一緒に現場に向かった。途中の汽車の中で我々は犯行現場について話を聞くためにゴールドに何も話さず静かに話を聞くように念押しして話を戻した。

「それでは現場についてお話しいただけますか?」

「はい。娘は心臓を鋭利な刃物で一突き、それ以外の外傷はなく即死だったとのことです。争った形跡はなく、犯人と思われる足跡と娘の足跡がソメイヨシノまで続いていました」

「なるほど、あなたは警察に何を聞かれましたか?」

「娘を恨んでいる人物がいるかとかその日の様子とかぐらいですが」

「では警部が聞き逃した質問をさせていただきます。あなたは光線えーっと……」私が病名を忘れて言葉を詰まらせると姫子がすかさず、

「光線過敏症」と言った。姫子を見るとウインクされた。

「そう。あなたは光線過敏症で間違いありませんね?」

「はい、そうです。娘も同じ病気でして娘は遺伝性光線過敏症なんです」

「ほう。あなたたち親子が傘を買うところはいつも一緒ですか?」

「はい、娘が生まれて大阪に引っ越して来てからずっと同じ店にお世話になっています」

「ソメイヨシノはどれくらいの大きさですか?」

「うちの家と同じくらいの高さです。桜なんか手入れが難しくてすごく大きくなるもんですから私は植えてないんですが、使用人か誰かが何かと間違えて植えてしまったんでしょう」

「なるほど、姫子は質問はあるかい?」

「いいえ、あなたの質問であなたが考えていることも事件の概要もなんとなくわかったわ」

 その会話が終わるとともに我々は目的の駅に着いた。ゴールド君は初めての三人での旅に少しワクワクしている様子だったが、私と姫子は事件が少し簡単なことと、早く犯人を捕まえたいというので頭がいっぱいだった。

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