愛哀傘 二
第二章 黒い傘を持った男
我々の探偵事務所が始まってしばらくの間、なかなか依頼が来ず、暇を持て余していた。たまに来る依頼も、飼っていた犬がいなくなったので探してほしいとか、その他も雑用みたいな仕事が多くてうんざりしていた。姫子が、
「探偵事務所の名前を知ってもらうため」と言うので仕方なく仕事をこなしていく日々が続いた。
するとある日の夕方、いつも通り私とゴールド君はトランプでポーカーをして遊んでいると、窓から外の景色を眺めていた姫子が、
「雨が降っていないのに黒い傘を差した男性がこっちを見ているわ!」と言うので、私たちは慌てて駆け寄ってその男を見た。男はいかにも裕福そうで、でっぷりと太っていた。男は日本人の顔とは言えない三人に見つめられたので少したじろいだが、マンションに向かって歩き出して中に入って来た。我々は今までの依頼人とは違い、明らかに困った様子の人間を見たので、これは何か事件がやって来たのだと思い、お互い目を合わせて歓喜した。
すると間もなく男が事務所に入って来た。そこで私は応接間に案内して、姫子は依頼人のために紅茶を淹れて、私たちの後を追って部屋に入って来た。ゴールド君は、話を聞いている間に別の依頼人の対応をしてもらうために窓際で外を見ていた。
「おかけください。話をお聞かせください川本さん」私がそう言うと男は驚きのあまりカップに当たり、淹れたての紅茶をこぼしてしまった。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?服を汚してはいませんか?そう、すみません。傘の柄のところにお名前が彫られていますのよ」すると彼は自分の傘を見て、
「なるほど、そういうことでしたか。実は事件が起きまして、警察に助けを求めたのですが、どうやら全く分からず、手詰まりのようでして。警部さんにここの探偵事務所にいる……レオン君?という探偵に助けを求めるように紹介されたのです」
「ほう、その警部のお名前は?」
「南という警部さんです」
それを聞いた瞬間、私は落胆した。南警部という男は大阪府警の中でも全く頭の切れない人物で、さらにプライドが高く、自分で来ずに川本さんにここに来るように言ったのもそのせいだろう。唯一称賛に値する点を挙げるとすれば、犯人を掴んだら決して離さない執着心ぐらいだろう。
「その警部なら知合いですよ。私たちは必ずあなたのお力になれると思いますよ」
「そうですわ。私たちは警察の皆さんよりかははるかに頭が切れますわ」