#1-江川なつの目線-
桜並木に誘われ普段より胸の高鳴りが強い。
高校1年生の春。
新しい校門をくぐりそんな短い桜並木を胸の高鳴りを隠しつつ歩く私は周りにはどう見えているのだろうか? そんなことを考えながら私は周りをきょろきょろしながら案内看板に従い入学式会場に行く。
まるで吸い込まれるように大勢の新入生たちが会場である体育館に集まる。一人また一人と。
全員が集まるころには体育館の半分を埋め尽くすほどの人数の新入生と保護者がそこにはいた。
となりの席の子はどんな人だろう? ここにいる新入生がクラスメイトになる可能背があるんだよね。などと考えつつ知りもしない高校の教師の話を聞き入学式は進み1時間もすれば終わる。
「えー、新入生はこれから張り出されるクラス表を見て各自教室に移動してください」
少しこけた頬をした男の先生がそう言うと檀上前にクラス表が6クラス分出てきた。
クラス表が前に出てくると新入生全員が一斉に檀上前に行き一気に混雑する。
そんな混み合っている中、私は右からクラス表を何とか見ていき……あ、一クラス目にあった。
出席番号4番。男女別だと2番目。
私は確認するとクラスに移動する。
クラスに行くまでの廊下に吹き抜き少しの風と胸の鼓動が高くしているこの体温が程よくおりあいちょうどいい心地。
階段1段1段上がるたびに体温がたくなりそのたびに春風が私の体温を下げるように包んでくれる。
もうすぐでクラスにつく。
不安要素は少しあるけどこれからのことを思うと不思議と胸が弾む。
ドアに手をかけ横にガラガラと開ける。
中にはすでに5人ほどいる。
綺麗になびく栗色の髪の子。染めたであろう金髪をよくある髪をセットした子。黒髪にメガネをかけた人。アクセサリーを大量につけじゃらじゃらと音をたたせている人。本を読み独特な雰囲気を醸し出している子。それぞれが個性的で存在感をよくはなつ。
そんな中を歩き窓際の前から4番目の席につく。これが私のこのクラスでの最初の居場所。
今このクラスには私を含め6人いる。それぞれ違う列にいてそれぞれがここにしたいことをしている。
気まずいなと思いつつ時は流れいつの間にかクラスには40人ほどの人が入ってきていた。
私は気付いたら寝ていたらしく前の席も後ろの席も人が座っている。
恥ずかしくなってつい顔を真っ赤にさせてしまう。
「集まってるな。若人」
年端もいかないであろう比較的若い女性の先生が入ってきた。どうやらこの先生が担任になるらしい。
「やぁ、私はこのクラスの担任になった阿澄優実だ。以後よろしゅうな」
阿澄先生は似非関西弁をなぜか最後にいい、にかっと裏表なさそうな笑顔を見せた。この先生は完全に体育会系だ。少なくとも私は直感的に思ってしまった。
「よし。うだうだしている時間は無いから自己紹介1番から順にしちゃって」
阿澄先生はバトンを投げ渡すように目線で合図する。そして1番目から自己紹介が始まった。と言っても私4番目だからすぐに来るわけだが。
「江川なつと言います。――中学から来ました。よろしくお願いします」
当たり障りのない教科書になっているかのような自己紹介をして終わる。
これでいい。ある程度の友達を獲得し平穏に高校生活を過ごすならこの程度の自己紹介がちょうどいい。
私は自己紹介を終えて席につき、それ以降の人の自己紹介をながしながら聞く。
けど流しながら聞くのにはもったいないインパクトのある自己紹介がいくつかあった。
「絹栄沙織です。あなたたちみたいなバカとは話したくありません」
こいついじめられたいのか? と思うほどに馬鹿にした自己紹介だった。
この子はたしか私よりも先にいたあの本を読んでいた子だ。
私はこの子とは絶対に話さないし、かかわらないと思ったのだが少し席が離れた廊下側の一番最後のあの金髪の子がゲラゲラと笑い急に立ちだした。
「いっやー、最高だねアンタ。あ、私は鷲須詠美だから。よろしくみんな。それに文学少女も」
「どうやらあなたは面白い部類人間の様ね」
「その上からのスタイル私めっちゃ好きだぜ。文学少女」
あぁ、この2人はきっともうクラスの輪には入れないな。だってこの会話もそうだけど2人の顔がそろいもそろって思いっきり悪戯っ子のような笑顔を見せてるし。
「はいはーい。順番を見ださないの」
阿澄先生が話を割るように入ってきて、自己紹介を再開させる。
そしてまただ。またインパクトのある自己紹介が来た。
「須藤彩美です。よろしくお願いします」
話していることはいたって普通だった。けどその話している本人にインパクトがあった。
ロングの栗色の髪がきれいに風にあおられゆれる。その姿は記憶に焼きつくほどに綺麗で綺麗でたまらなかった。
仕草の一つ一つが彼女を表しているかのようで次に自己紹介する人もただその姿に見とれてしまい忘れてしまっていた。
それからぼーっと眺めていたが後ろの席のこの自己紹介が始まりはっとなりまた流し聞きを始めた。
またつまらない自己紹介が延々と繰り返される。
「不藤琢己。よろしくお願いします」
あの、私より先にいたメガネの人も案外つまらない自己紹介をした。
そしてあのじゃらじゃら音をたてていた人の自己紹介も中身がなぜか優等生っぽく案外つまらないものだった。
「百井翔琉です。よろしくお願いします」
それから数人の自己紹介が終わりクラス全員の自己紹介が終わった。
自己紹介が終わると阿澄先生が注意事項などを話し出す。
「さて、こっからは注意事項だ。まずこの学校には定時制が存在していて全日制。つまりはお前らは4時半までにはクラスを完全にでなきゃならない。まぁ、定時制に関してはよく知らないけどほかの先生たちは毛嫌いしていると言うか馬鹿にしている面もあるから特に意味のないかかわりは持つなよ。それから明日は教科者等を配るらしい。つまりは授業が始まるからノート、あとは今日と同じく筆記用具を持ってくることいね」
クラスから当たり前のようにブーイングが来る。
けど、私にはどうでもよかった。ただ一つ定時制がある。そのことが頭からなぜか離れないでいた。
なんでだろう。これからの私に物凄くかかわってくるような気がしてならない。
「ってことで、今日は解散! ほら帰った帰った」
阿澄先生のその言葉を合図にクラスから続々とひとが出ていく。
私もその中に紛れクラスから出ていく。
その日。その時。私は気付かずに家に帰ってしまった。
「にしっ。確か江川なつだったっけ。面白そうだからコレ消さないでおこう」
生徒全員がいなくなった教室で阿澄先生が私の机を見て何やら楽しそうに笑っていた。
まさかこの阿澄先生の判断が行動が私の高校生活を思いっきり面白く騒がしいものにかえるとは知らずに。