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作者: MEIKA

今でも忘れる事の出来ない真っ赤な空が見えた――


これが死の世界なのか、と感じる――



Epsode 01

"Akai sora⇔Lost justice"








 アニマル雑貨屋の店外に飾られた、高級海外メーカーの犬のぬいぐるみ。

 抱きごこちを感じられる程の程よい大きさで、品質の良い生地を使ったアニマル雑貨屋の看板。

 彷徨う私の魂はそんな将来有望のぬいぐるみへと着床した。

 近くには共学高校があり、帰宅する生徒達は間の抜けたような顔で私に触れてくる。

 悪い言い方をしてしまったが、正直幸せだった。と思う。

 ただ、誰も私を購入するものはいなかった。

 店も値段は付けてるもの、売り物ではなく、宣伝の見せ物としての考え方が強く、長い時をその場で過ごした。

 当然、私を欲しがる父娘が通ったところで。

「おもちゃ屋に行って気に入るのを探そう」

 流石に原価の高級メーカーを雑貨屋で買う人はいなかったんだ。

 私。

 この犬のぬいぐるみでないと駄目だ、という人が居るとするなら別なのだけど。

 そんな中で私も長い年月を重ねたと思う。

 そもそもとして、このアニマル雑貨屋も頑張っている。

 不況に耐えながらも、アルバイトを雇う程の儲けを見せてるのだから、普通に儲かる仕事をしていれば伸し上がれた人種だと思う。

 そんな暇な事を考える毎日の中で、あの二人はやって来た。

「この子、本当に可愛いなー……」

 片方の女の子はいつもの調子で私を抱く。

 片方の男の子もいつも控え目に私を撫で上げてくれる。

 この二人はどうやらいわゆるアベックで。いや、カップルというのかな。

 二人は帰路で私を介して結ばれたカップルだった。

 お互いが知らない頃から私にいつも触れてくれて、お互いが付き合い始めたその後も私に愛を注いでくれた。

 もしかするといつか、この二人が私の所有者になるのだろう。

 私としても願ってもない事。

 持ち主の愛情の分だけ私達は生き長らえる。

 そして生きてきた分幸せを感じる。

 そんな中で男の子は一人、私の前で漸く決断してくれたのだった。

「内緒でバイトすれば……、買え。るかな」

 その一言を聞いたその日の私の気分は最高だった。

 バイト禁止の高校だった為に、高校の子達の誰もが私の足元に貼られた8400という数字に見向きもしなかった。

 個人的には安い方なのではないか、とも思うのだが、やはり不況の壁がそこに存在していたのかも知れない。

 とにかく、嬉々として待つ一ヶ月。

 恋人の女の子が一人、いつものように私を抱きに来ると報告の様に耽美な言葉を私に放つ。

「私の誕生日に啓太君が買ってくれるって!」

 ありがとう、啓太君。

 私は幸せになる。

 そして一ヶ月もしない中、男の子。啓太君がお金を握り締めて私の前に来た。

 嬉々として啓太君の手元を見ると、5000円札が見える。

 啓太君は深刻な表情で私を見据えていた。

 暫く私を見た後に、誰にも気付かれる事の無いような小さな涙。

 私は気付いてしまった。

「彩、ごめん……」

 どうやらバイトは即学校にバレてしまっていたらしい。

 私自身も落ち込みたいが、啓太君を見ているうち、ただただ申し訳ない気分になる。

 彩というあの女の子に対してもだ。

 あれだけ期待を向けていた最中、裏切られたあの娘は一体どのような気持ちで満たされるのだろうか?

「ごめん……」

 啓太君は私の前で謝る。

 その言葉はその時それまでは、その彩ちゃんにのみ宛てられているものだと感じていた。

 次の瞬間、啓太君は私の頭を掴むと、そのまま紙袋へとおさめた。

 私は盗まれた。

 紙袋の中で私は考えた。

 正義と悪の定義について。

 いつまでたっても答えが出るはずも無いが、私はこの男の子。啓太君の行動を強く咎めたくなかった。

 複雑な気持ちしか湧かない最中、私は彩と呼ばれる女の子の下へと届けられた。

 啓太君が家で被せた包装紙が、彩さんによって開かれると、彼女の幸せそうな顔で心が一杯になった。

「一生大事にするからね」

 恐らくそれは実現しない。

 だけど、そのたった一言で私達は満たされる訳で。

 彩さんは私を優しく抱き、毎晩ベットで寝て、毎晩勉強を共にした。

 どのくらい経った時か、彩さんは私を連れて商店街に出た。

 啓太君とのデートだろう、沢山おめかしした彼女はいつにもまして美しかった。

 彩さんは揚々と待ち合わせ場所へと足を運び、ベンチに座る啓太君を見付けると私を掲げながら大声で呼んだ。

 啓太君は青い顔で彩さんと私の方へ歩み寄ると言った。

「ごめん、少し抜けられない用事が出来て。 行かなきゃ」

 すぐに啓太君はその場を離れた。

 漸く私は気付く。

 ここは私が売られていたアニマル雑貨屋のすぐ近くの公園。

 長年看板をしていた私を知らない人は、この付近では殆どいない。

 たずねられた時の後ろめたさもさながら、盗まれたという事情を知っている人から見たらどう思うか。

 私も口が聞ければここで彩さんを帰したのかも知れない。

 しかし彩さんは啓太君の急な用事に関わらず、用事が終わるまで。と近くを散歩し始めた。

 私の住んでいたあのアニマル雑貨の前を通ると、案の定店員は彩さんを引き止めた。

「ねぇ、君。 その犬のぬいぐるみ、どうしたの?」

「これですか? これは……」

 彩さんが答える前に、更に店員は先程より強い口調でたずねた。

「盗まれたぬいぐるみに汚れ方すらそっくりなんだけど?」

 彩さんはしばらく白昼夢に浸っていた様子だった。

 それも当然、恋人が購入した。と渡されたぬいぐるみが盗品だ、と教えられたのだから。

「君が盗んだのか?」

 彩さんは首を横に振る。

「貰ったものです」

「となると、誰に貰ったの?」

 彩さんは答えない。

 答えたなら、恐らく犯人である啓太君が捕まってしまうから。

 悪事なれど、彩さんの為に。と行った行為は許されるものでなくても、彩さんには告発なんて出来なかったのだろう。

 黙る彩さんから店員はぬいぐるみを掴むと、我に帰る彩さんはそれを拒んだ。

「きっと誤解です! 大事な人から貰ったんです……」

「そんな訳は無い、ただでさえ同じ物が並ぶ事すら珍しいぬいぐるみなんだ!」

 もみ合う内に店員が引き剥がすと、私は宙を舞っていました。

 高く高く舞う中で、私は思いました。

 もう、終わりかな。

 店の目の前の道路へと、恐らくアーチを描いて浮かぶ私の視線に映ったのは一台の車。

 さよなら。

 頭の中だけでもそう彼女に伝えるべく、彼女の方に視線を向ける。

 すると、視界が真っ暗になった。

 その時とうとう死んだんだな、と感じた。

 もし、輪廻という概念があったならば、また会いたい、触れたい。

 素直にそう思った。

 真っ暗な中、自分に感じるのはなま暖かい感触と水気。

 幾人の叫びと共に、私を包む何かがゴロリと周ると、真っ赤な空が見えた。

 今でも忘れる事の出来ない真っ赤な空が見えた。

 これが死の世界なのか、と感じる。

 どうやら死の世界はやけにうるさく、全てが赤く見えるらしい。

 そのうち白い服を着た連中が私を運び始めた。

 私はそこで漸く気付いた。

 この血塗れの女の子は誰?

 血に塗れた私はその顔すらよく見えない。

 ただ、直感した。

 彩さんが私を助けに飛び出てしまったのだ、と。

 その先は良く覚えていない。

 どうやら不幸にも店員が訴えられた事、彩さんの母親が私を洗濯した事。

 そして彩さんの母親は私を外へ連れ出すと、彩さんが事故死したと思われる道路前のガードレールにそっと置くと、私の身体をポー ルへと簡単に結び付けた。

 この時漸く彩さんが死んだ事を実感した。

 私なんて、ぞんざいに扱われる運命を持ったたかがぬいぐるみの為に。

 血の染みが取れない私を盗む人がいる訳もなく、時は刻々と過ぎた。

 この長い間を持っても私の命は消える素振りを見せない。

 強い念を残された私は浄化出来なくなってしまったと気付く。

 丁度私を覗いてくれる“あなた”と会った時の様な雨が振る日曜日。

 絶望にうちひしがれる最中、見知った顔が私の前に現れた。

 やあ、咎人の啓太君。

 ジョークにすらなりえない。

 啓太君は私を掴むと紐を解き、今にも泣きそうなその顔を私に近付けた。

「お前のせいだ」

 正直そう言うと思った。

 当然私としても沢山言いたい事はある。

 けれど、誰が悪いとかもうそんな事はどうでもいい。

 その方が彼女が報われる気がした。

「お前の……」

 私は浸水しそうな地面に叩きつけらると、何度も啓太君に踏み付けられる。

 耳も千切れ掛かっていたけど、ぬいぐるみの私が痛い訳もなく。

 ただただ心だけ痛かった。

 雨で衣服が重い中でこれだけ暴れた啓太君は、やがて息を切らすとこの泥水の中四つんばいなる。

 よしなよ、私みたいに汚れてしまうよ。

 君も悪くない。

 君の咎は物を盗んだ事、事情を言えなかった事。

 彩さんが死んだ事は、君もあの店員も願わくは私も罪は無い。

 だからそれ以上、私相手に土下座するのはやめてほしい。

 まだぞんざいに扱われた方が、お互い他人に押し付け合えて気休めになるから。

 そして通り掛かった警察官が不審に感じ、啓太君を引き上げ事情を聞く。

 私は彼の背中を見つめていた。

 私のはっきりした記憶はそこまで。

 浄化されない人形は廃棄出来ない世の中の理に従い、各所を彷徨う中で私は“あなた”に会う事を望んだ。

 この記憶が“あなた”の中へ引き継がれる事に感謝する。

 いつかそれも消えてしまうのかも知れないけど、それでも漸く私は安息を得られる。

「覗いてくれて、ありがとう」



Episode_01 Lost justice end

もともと連載にする予定だったものですが、即筆が止まってそのままだったので、(好みと違うジャンルなので……)完全完結って事で短編に移しました


元々この小説は

「書きたいけどアイディアが浮かばない」という、友人に

「こういうのをオムニバス方式で作ってみるのはどうだ?」と提示したものでした

だからその友人の好みに合わせました(解せないので、それでも読者視点という捻くれたひねりを入れておきましたが)


そして友人は一話も作ることなく飽きました



本来この作品は、設定を複写すれば誰でも出来るような形を見越して作ってます

と、いうのも、友人がモチベを上げるために私と共同で作りたいとの事


ですが、友人はお世辞にも上手いと言えなく、少なくとも私が小学生だった頃より酷い文章力だったので……(エブリのHelp a princesって奴を見れば理解できると思います、技名「アイスレジデンス」その他諸々は今でもネタですから※氷の高級分譲アパート)


切り離して作るような形にしようとしたのです



つまり何が言いたいのかって言うのは、もしネタがあるならばこの設定を使って何か物語を作っていただければとても嬉しいって事ですね


人形視点で作れる短編って感じですが(ダッチワイフ、雪だるま、爆弾人形、遭難した子供の浮き輪、断片的なネタは一杯浮かびますけどね、これでもいいんで使って欲しい)


まあもしそういう奇特な人がいれば、一報入れて頂ければ幸いです

同じテーマを扱った小説、として小説の相互リンクを張れば、並列関係が出来あがる、現実になったならば面白い事だと思います


ではさようなら

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