第七器 生徒と制御
「ここがアメリカかぁ」
夜詩達はアメリカに到着した。
「みっともないからでかい声を出すな」
「なっ!初めての海外なんだから良いだろ!」
「ま、まぁまぁ。迎えが来てる筈なんだけど…」
「游ー!」
ブロンドの女性が大声を出しながら、夜詩達に駆け寄る。
「キャロル!」
「久しぶりね!游が帰ってくるって聞いて、飛んできたのよ!」
「ありがとう。私も会いたかった!」
「キャロル、早く会いたい気持ちは分かるが、僕を置いていくなよ」
寝癖だらけで白衣を着た男が、頭を掻きながら現れた。
「ごめんなさい、ロバート。游に会えなくて寂しかったんだもの。
刀磨も久しぶり!あら?あなた…游の彼氏!」
「へ?いや、俺は違います!」
「そうよ!彼氏じゃなくて、新しい仲間よ!」
「知ってるわよ!冗談はこのくらいで、車までいきましょう 」
「はぁ(冗談だったのか…)」
夜詩は苦笑いを浮かべ、荷物を持って付いていく。
「俺は別行動だ。じゃあな」
「あ!…本当に刀磨はせっかちね」
「キャロルに疲れたんじゃないのかい?」
「ロバート、どういう意味?」
「車へ急ごう!」
「ちょっとロバート!待ちなさい!」
そんな二人を見ながら苦笑いを浮かべる夜詩に、游が声をかけた。
「ま、まぁ、ちょっとテンションは高いけどいい人達だから。いきましょう」
「う、うん」
夜詩と游はロバート達を追いかけ、外に停めてある車に乗り込んだ。
車の中でも、ロバートとキャロルのテンションは下がらず、夜詩は適当に相づちを打ちながら、窓の外を見ていた。
しばらくすると、広い墓地の前で車が停まる。
「着いたよ」
「え?お墓…ですよね?」
「そっちは緊急用、あの教会が目的地だよ」
ロバートが指差した方向には小さな教会が寂しく建っている。
「(緊急用ってなんなんだ…)は、はぁ」
夜詩達は、教会の中へと入っていく。
教会の中は、マリア像と聖書台に長椅子が並ぶごく普通の姿だった。
「ここは何ですか?」
「秘密基地の入り口さ!」
ロバートがそう言って、マリア像の足元を押すと聖書台が沈み、地下へ続く階段が現れる。
「スパイ映画みたいだな」
「さあ、こっちだよ」
四人は階段を下り、細長い通路を進んで行くと、重厚な扉が進路を塞ぐ。
「認識番号1855623、ロバート・タイラー」
ロバートは扉に手を当て、そう言うと、ゆっくり扉が開く。
扉の先には、一つの街がある位に、沢山の建物と人がいた。
「すごい…」
「すごいだろ?ここが我らフィラルの研究地下都市、アルガードだ!」
「今日から游と夜詩はここで暮らすのよ。游は久しぶりよね」
「ええ、懐かしい」
「先ずは、荷物を寮に預けようか」
「寮?」
「そうさ!夜詩はアルガードにある訓練学校に入ってもらう」
「訓練学校?」
「僕達みたいに能力者ではない人間は入れない、能力者専門の学校さ!
能力の使い方、基本となる波の制御に強化。後は普通の学業もするんだ」
「未熟な俺にはぴったりか」
「確かに君は未熟だけど、実践経験もあるし、あの凶也を倒したんだ!すぐ一人前になれるさ!」
「凶也…」
「ちょっとロバート!」
「あ、ごめん…」
「大丈夫です!俺は前に進まないと!」
「そうか。あ、そうそう!君に会いたいって子がいるんだよ」
「俺に?」
夜詩達が大きな建物の前に着くと扉が開き、人が飛び出してきた。
「お兄ちゃん!」
「アリス!」
アリスに飛び付かれ、夜詩は尻餅をつく。
「どうしてここに?」
「私もこの寮に住んでるの!」
「アリスは正式にフィラルの一員になったんだよ。
1から学んで、任務にも出てもらう」
「そうか。アリスが元気でよかった」
「お兄ちゃんのお陰だよ!ここの人はみんな温かいんだ。ここにこれてよかった」
「感動の再会もいいけど、先に荷物を置きに行きましょう!
あんまりベタベタしてると、游が拗ねるわよ!」
「ちょっ!なんで私が拗ねるのよ!キャロル待てー!」
逃げるキャロルを追いかける游を見て、笑いながら夜詩達も寮の中へ入り、それぞれの部屋に荷物を置いた。
夜詩が部屋を出ようとした時、ロバートが真剣な表情で話掛ける。
「夜詩、後で君の体を調べたいんだがいいかな?」
「え?構わないですけど…」
「ありがとう。それと、この都市…いや、フィラル全体に君の事は知れ渡っている」
「俺の事?」
「多くの能力者を殺してきた凶也を倒し、二つの能力を扱う。
珍しく、そして恐れを抱いてる人もいる…もしかしたら、嫌な思いをさせてしまうかも」
「平気です。俺はこの力に感謝してます。周りにどう思われようが、やるべき事をやるだけですから!」
「強いな、君は。何かあったらなんでも相談してくれ!
游の事も相談に乗るよ!あ、アリスもいるんだったね!こりゃ大変だ」
「そんなんじゃないですから!行きますよ」
夜詩達は、訓練学校へ見学しに向かう事にした。
訓練学校は大きな校舎と、グラウンドは分厚い壁に囲まれている。
「登校は明日からだ。今日は旅の疲れもあるだろうから、寮で休むのが一番だね!」
一通り見終わり寮へ向かい、夜詩とロバートは検査のために途中で游達と別れた。
研究所で徹底的に調べられ、終わった頃に夜詩は魂が抜けたように項垂れる。
「お疲れ様。検査は終了したから、食事と行きたいんだけど、僕はまだ仕事があって行けそうにないんだ。
地図を渡すから、一人で行ってくれるかい?ここでは無料で食事や買い物が出来るから安心していいよ」
「は…あ…」
夜詩は地図を受け取り、ふらつきながら研究所を出ていく。
「だ、大丈夫かなぁ…」
夜詩は地図を見ながら何とかレストランにたどり着き、お腹一杯食べて寮の部屋に戻った。
「あー疲れた…明日は…学校…に…」
ベッドに倒れ込んだまま夜詩は眠りに落ちていく。
翌朝、アリスに揺さぶられて起こされる。
「お兄ちゃん!学校行かないと!起きて起きて!」
「あと10ぷ…ん…」
「すぅー…起きろー!!」
アリスの大声で、夜詩はベッドから飛び起きた。
「鼓膜が破れるって!」
「早く着替えて!遅刻しちゃう!」
「分かったよ…」
「きゃっ!目の前で脱がないでよ!お兄ちゃんのエッチ!」
その時、部屋の扉が開く。
「夜詩?すごい声がしたけど、何かあっ…た…」
「へ?」
しばらくして、顔が腫れ上がった夜詩と游とアリスは学校に向かって走っていた。
「全く!疲れてるのは分かるけど、しっかりしないと任務こなせないわよ!」
「しゅびばぁぜん」
「これからは自分で起きてね」
「ばい、ぜんじょじまず」
夜詩達は何とか間に合い、教室の前にたどり着く。
「じゃあ私はここで」
「游は違う教室なのか?」
「何言ってるの?私は教師よ」
「教師!?何で?」
「私はとっくに訓練を終えてるの。頑張ってね」
游は何処かへと歩いていった。
「さすが優等生」
「アリスがいるから大丈夫!ね?」
「よろしくお願いします」
「おい!」
教室にいた金色で短髪、蒼い瞳の男の子が話し掛ける。
「俺?」
「さっきから騒ぎやがって。誰だお前?」
「え?ああ、騒がしくして悪かった。俺は今日からこの学校に入る事になった神塚夜詩、よろしく」
「いきなりこのクラスかよ」
「?」
夜詩が不思議そうにしていると、黒髪でおかっぱの小さな女の子と目が合う。
「は、初めまして、黒崎涼子っていいます。彼はロック・アームストロング君です」
「勝手に紹介してんじゃねぇ!」
「ひゃっ!ご、ごめんなさい」
「い、いちいち怯えんな。ったく」
「よろしく。1つ聞いていいかな?このクラスって、俺を含めて四人だけ?」
「そ、そうです。この学校のクラスは能力を扱う段階で分けられてます。
このクラスは実戦可能な生徒だけなんです」
「なるほど。実戦可能なら何を学ぶんだ?」
「それは授業を受ければ分かるさ」
後ろから急に声がして、夜詩は驚いて振り返ると、目の前にはジャージを着た無精髭の男が笑顔を浮かべている。
「さあ、席につけ!」
「アリス、あの人は?」
「担任のホランド先生よ」
「転入生の神塚!」
「は、はい!」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
ホランドは歯を輝かせながら夜詩に笑顔を浮かべる。
「さて、まずは波の扱いの復習にするか。
じゃあ…神塚、波を高めてみろ」
「へ?高める?」
「そうだ。お前なら簡単だろ?」
「えーっと…分かりません…」
夜詩の言葉に、クラス中の全員が驚き、固まってしまった。