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幻想の器  作者: 夢物語
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第五器 憎しみと殺意

ナルスは巻き上がる砂を払いながら前に進み、目の前に夜詩よしが現れる。



「来いっ!」



夜詩よしは大きな盾を両手で持ち構えた。



「ガァーー」



ナルスは拳の連打を浴びせ、夜詩よしは後ろに下がり始める。



「くっ!なんて力だ。腕が持っていかれる」



ナルスの連打は、徐々に夜詩よしの腕を弾き始め、ナルスが力を溜めて放った拳が盾を弾け飛ばす。



「くっ!」



ナルスは夜詩よしに殴りかかる。



「上出来だ」



ナルスの体を風が包むように通り抜けると、背後に刀磨とうまが現れ、体を回転させながら刀に集めた風の刃を無数に浴びせ、ナルスの全身から血が吹き出る。



「グゥアァァァァ!」



獣のようなナルスの叫び声は闇夜に響き、地面に倒れ込むナルス。



「や、やったのか?てか、お前一人で倒せたんじゃないのかよ!」



「確実に仕留める方法を選んだだけだ。お前のお陰で風をたっぷり集められたからな」



「このっ!」



「グゥ…」



ナルスが血を流しながら起き上がろうとする。



「まだ息があったか…なんだ?」



刀磨とうまがナルスに近付こうとした時、立つのがやっとのアリスが立っていた。



「ナ…ナルスは…殺させない…」



「アリス!」



「じゃあ、一緒に死ね」



刀磨とうまはアリスに刀を振り下ろし、鉄と鉄のぶつかる音が響く。



「何してる?」



アリスの前に夜詩よしが立ち、刀磨とうまの刀を受け止めていた。



「これ以上は必要ないだろ!」



「お兄ちゃん…」



「馬鹿か?相手は敵だ。そいつらだって死を覚悟して戦いに身を置いている。

なら、殺されても文句はないはずだ」



夜詩よしは刀を弾き、盾を投げて刀磨とうまを後ろに下がらせる。



「確かにそうかもしれない。だからってもう二人は戦えない!そんな相手を殺してなんになる?」



刀磨とうまは刀に風を集め始め夜詩よしを睨む。



「そうか…なら、お前も敵だ」



刀磨とうまは刀を揃えるように掲げ、一気に振り下ろすと、巨大な風の球が夜詩よしへ目掛け飛んでいき、盾を構えて受け止める夜詩よし



「くっ!盾が持たないっ…」



盾が削られ続け破壊された瞬間、水の塊が風の珠を弾きとばす。



「水…なんの真似だ?」



刀磨とうまの視線の先には、両手を前に突き出したゆうが立っている。



「それはこっちのセリフよ!仲間を攻撃するなんて、また仲間を殺す気?」



「…」



「た、助かった…」



「グァァァァァ!!」



その時、ナルスが立ち上がり、雄叫びをあげた。



「危ない!…(そんな!?さっきは力が出たのに!)」



ゆうが手を伸ばすが、何も起きない。



「ナルス…苦しいんだね…私が休ませてあげる」



アリスは口を大きく開けようとした時、夜詩よしに口を手で押さえられた。



「アリスちゃん…君がそんな事する必要はない」



その言葉に夜詩よしを見上げるアリスの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。



「ナルス!お前はアリスに辛い思いをさせたいのか!そんな力に負けてどうする!

この子に背負わすな!」



目の前歩み寄る夜詩よしの言葉に、ナルスはゆっくりアリスを見つめ動きを止めた。



「グゥ…ア…アリ…ス…アリス」



ナルスの体は元に戻り、地面に倒れるのを夜詩よしに受け止められる。



「ナルス!目を開けて!ナルス!」



地面に寝かされたナルスに駆け寄るアリス。



「アリス…悪い」



「ううん、いいの!だからそんな悲しい顔をしないで」



アリスは涙を流しながら笑顔を作り、ナルスの頬に触れる。



「アリス…メドヴェーゼには…がぁはっ…帰るな」



「喋っちゃダメ!」



「メドヴェーゼは…負けたお前を…生かしはしない」



「でも…私にはあそこしか帰る場所が…」



ナルスは夜詩よしを見つめた。



「た、頼みがある… ぐっ…アリスを…フィラルで保護してくれないか?がはっ」



「フィラルで?ゆう…」



「可能よ。どんな扱いを受けるか分からないけど、

命の保証はするわ」



「ありが…がぁはっ」



「ナルス!ナルスも一緒に行こう?ね?」



「すまない、俺はここまでだ。でも、いつもアリスの側に居るから。強く…強く生きろ」



アリスの頬を流れる涙を拭うナルス。



「いや!私を一人にしないで!」



「大丈…夫。頼めるか?」



「ああ、アリスの事は任せろ」



「よか…った。少し…やす…」



ナルスは微笑みながら、眠るように息を引き取る。



「ナルスーーーー」



アリスは、ナルスの手を握りながら大声で泣き、少しすると、アリスは立ち上がり、ゆうの側に歩いていく。



「ナルスはお墓にいれてあげて…」



「ええ、行きましょう」



ゆうはアリスの肩に手を置き、校門へ向かう。



刀磨とうま…なんでそこまでする?」



去ろうとする刀磨とうまの背中に声をかける夜詩よし



「敵は排除する。それ以外にない」



「でも!」



「そんな甘い世界じゃないんだよ」



刀磨とうまの気迫に黙る夜詩よしを残し、刀磨とうまは闇に消えていった。



「何だよ…何なんだよ…」



翌朝、夜詩よし達が戦っていた廃校がニュースで取り上げられ、事故として処理されていた。



「これもフィラルの力か…」



夜詩よしはソファーに座りながら、ただテレビを見つめる。



夜詩よし!何ぼーっとしてるの!早く病院行ってきなさい!

階段で転がり落ちたなら頭打ってるかもしれないからちゃんと見てもらいなさいよ」



「分かってる。行ってきます」



怪我の理由を嘘でなんとか誤魔化したものの、母親に言われるまま夜詩よしは仕方なく家を出て病院に向かい、途中でゆうと偶然出会う。



夜詩よし!怪我は痛む?」



「大したことないよ。親がうるさくってさ」



「そう。でも無事でよかった」



「…一つ聞いていいかな?」



刀磨とうま、ね…」



「なんであそこまで…」



刀磨とうまはフィラルの処刑人て呼ばれてるの。

敵を容赦なく倒し…前に仲間まで…」



「仲間まで!昨日の俺と同じか…」



「理由はわからないけど、確かに仲間を斬ったそうよ。

だから、組織内でも危険人物扱い。

何を考えてるかも分からないし…夜詩も気を付けてね」



「う、うん…」



「じゃあ、私は用事があるから」



「わかった。じゃあ」



夜詩よしは、ゆうと別れ再び病院に向かおうとした時、物陰から夜詩よしを睨むしゅんの姿があった。



「よ、よう」



「ずいぶんゆう様と仲良いな」



しゅん夜詩よしに冷たい視線を送る。



「違うって!俺の怪我の心配してくれたんだよ!」



「心配ねぇ…知り合いだったのかぁ…ふ~ん」



「うっ、それは…あ、病院行かないと!」



「な!逃げるなー」



走り出す夜詩よしを追いかけながら、しゅんはわめき散らし、それを遠くから見つめる人影があった。

何とかしゅんをなだめ、病院で検査を終えた夜詩よしは、家に帰ってベッドで眠りに落ちてしまう。


しばらくして、部屋に母親が慌てた様子で入り、夜詩よしを起こす。



夜詩よし!起きなさい!」



「んー、何だよ…」



「しゅ、しゅん君が亡くなったって…」



「ん?…しゅんが死んだ?…死んだ!?」



飛び起きた夜詩よしは、夜道を一心不乱に駆け抜け、着いたしゅんの家には灯りはなく、夜詩よしが鳴らす呼び鈴の音が響く。



「くそっ!…そうだ!携帯!」



夜詩よしが慌ててしゅんの携帯にかけたが、呼び出し音が聞こえてくるだけだった。



「嘘だろ…」



夜詩よしは仕方なく家に引き返し、家に着くと玄関の前で母親が立っている。



しゅん君のお母さんから連絡があって、明後日にお通夜をするそうよ。

信じられないわ…」



「…」



夜詩よしは何も言わず家に入り、部屋のベッドに倒れ込みそのまま眠りに落ちた。

通夜には、多くの同級生や先生達の姿があり、夜詩よしは虚ろな瞳で床を見つめる。

その時、夜詩よしに周りの会話が聞こえてきた。



「なんでも通り魔に襲われたらしいわよ」



「最近、頻発してる事件でしょ?恐いわねぇ」



「(通り魔…通り魔…あいつか!?)」



脳裏に凶也きょうやが浮かんだ夜詩よしは、しゅんの家を後にし、街中を探し回ったが、凶也きょうやの姿はなかった。



「はぁ…はぁ…いない…くそっ!」



「何イラついてんだ?くっくっくっ」



夜詩よしが振り返ると、凶也きょうやが笑みを浮かべ夜詩よしを見ている。



「よう」



凶也きょうやの姿を見て、夜詩よしは無表情で見つめた。



「すげぇ殺気だな。そんなに友達が殺されて悔しいか?」



「なんでしゅんが俺の友達だって知ってる?」



「昨日たまたま見たんだよ。お前ら二人が楽しそうに走ってるのをな」



「そうか…なんで殺した?」



「最初はお前を誘きだそうと思ってたんだが、あいつが友達を裏切るなんて出来るか!なんて言いやがるから、首を跳ねてやった!あっはっはっは」



「そんな理由で?」



「殺しに特別な理由なんて要らねぇだろ?

殺したいから殺す、そんなもんだろ?

てめぇもすぐに送ってやるから」



凶也きょうやは取り出した鎌を掲げ、夜詩よしに目掛け降り下ろし、瞬時に夜詩よしは盾で鎌を受け止め、凶也きょうやを睨む。



「いいねぇ…戦える様になったじゃねぇか。

けどなぁ…そんなんじゃ俺は殺れねぇぞ!」



凶也きょうやが鎌を両手で掴むと鎌の刃が三又に分かれ、盾を砕き夜詩よしの腕をを切りつける。



「全てを剥ぎ取る魂を砕く三魔(デーモンソウル)!」



腕から血が吹き出し、後ろによろめく夜詩よし



「ギリギリで腕を引いて致命傷を避けたか。

反射神経はなかなかだな。だが、俺の鎌は全て破壊する!次は腕貰うぞ!くっくっくっ」



「黙れ…」



「あぁ?よく聞こえなかったなぁ」



「黙れよ雑魚」



「へぇ、言ってくれんじゃねぇか…楽に死ねると思うなよ?」



「それはお前だよ。絶対に…殺す!」



夜詩よしの手元が輝き、眩しさから凶也きょうやは目を細める。



「くっ!なんだそれ?

盾と真逆じゃねぇか」



「さあな。

でもこれでお前を殺せる!」



そう言った夜詩よしの手には、赤黒い刃の鎌が握られていた。



「そうだな…断罪の意志(ギルティーエンド)と呼ぼうか」



夜詩よしの憎しみは街の雑踏を飲み込んでいく。

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