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幻想の器  作者: 夢物語
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第二器 選択

「どうなってんだよ…」



「何驚いてる?

お前、目覚めたばっかりか。外れだな…弱くてすぐ殺しちまう」



「こ、殺す!?」



そう言って夜詩よしが後退りすると、目の前にあった盾が消えた。



「全く…もういい、死ね」



男がもう一度、手を振り上げると、大きな鎌が現れる。



「一体どこから?!」



「てめぇの不運を恨め!」



男が鎌を振り下ろそうとした時、夜詩よしの後ろから別の男が現れると、手にした刀で鎌を受け止めた。



「なんだお前?邪魔してんじゃねぇぞ!ああ?」



能力者イディル狩りの神谷凶也かみやきょうやだな」



凶也きょうやは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべる。



「へぇ、俺を知ってるのか。お前、なにもんだ?」



刀の男は、鎌ごと凶也きょうやを払い飛ばす。



「フィラルの皇刀磨すめらぎとうま



凶也きょうやは鎌を消し、ゆっくり髪をかきあげる。



「へぇ、あんたがフィラルの処刑人か。

長髪に赤い刀身の刀…まさかとは思ったが、なんで邪魔する?」



「お前には組織うちに借りがあるしな」



「わりぃ、何処の誰をやったか覚えてねぇんだ。戦いを楽しめればいいからな」



「じゃあ、俺が相手をしてやろう」



凶也きょうやは両手を軽く上げながら、刀磨とうまに背を向けた。



「やめとく。まだまだこの街で遊びたいからな。

負ける気はねぇが、お楽しみは最後だ」



そう言って、凶也きょうやは夜の闇に消えていく。



「その時は本当に最後にしてやるよ」



刀を鞘に戻し、足元で気を失っている夜詩よしを担ぎ上げ、刀磨とうまも夜の闇に消えた。



「うぅーん…あれ?…」



窓から射す朝日で、夜詩よしはベッドの上で目を覚ます。



「何で部屋に…夢…じゃないよな…」



震える手を必死で抑え、夜詩よしが天井を見つめていると、ドアをノックする音がした。



夜詩よし?入るわよ」



ドアを開け、寝ている夜詩よしを見て、母親は両手を腰に当てながら深い溜め息をつく。



「服のまま寝てたのね。さっさと顔洗って、学校行く準備しなさい」



「俺どうやって帰ってきた?」



「母さん知らないわよ。玄関に靴があったから、晩御飯食べるか聞きに来たら寝てたし。いつ頃帰ってたの?」



「いや…」



「変な子ね。早くしなさいよ」



母親はドアを閉め、一階へ降りていった。

夜詩よしは顔を洗い、陽菜ひなや父親の問い掛けも耳に入らず、ただ黙々と朝食を食べて二階へ上がり、まだ朝早いにも関わらず学校へ行く準備をして家を出る。

まだ通勤通学する人はおらず、まるで夜詩よしだけしかいないような静かな朝だった。



「おい」



そんな静寂を破るように男の声で、夜詩よしは振り向く。



「?」



振り向いた夜詩よしの後ろには、刀磨とうまが立っていた。



「覚えてないのは無理もないか。

付いてこい。昨日の夜の事を教えてやる」



「(こいつは確かゆうって子と昨日一緒にいた…)お前、昨日の男の仲間か?」



「逆だ。あいつからお前を助けてやったんだよ。

所持品から調べてわざわざ家まで届けてまでしたんだぞ」



「お前が…ありがとう」



「礼なんかどうでもいい、付いてこい」



夜詩よし刀磨とうまと距離を置きながら後に続く。

しばらく歩くと、刀磨とうまは廃ビル中へ入り、更にビルの一室の中に入っていき、夜詩よしも後に続く。



「ここでいいだろ。とりあえず見ろ」



刀磨とうまはそう言うと、右手を前に突き出し目を閉じる。

すると、右手の前に刀が現れ、刀磨とうまはそれを掴み、左手で刀を抜いた。



「嘘だろ…」



夜詩よしは驚き、後退りして壁にぶつかる。



「別にお前を斬るつもりはない。これが俺の能力」



「能力?」



「世界には俺のような力を持ったやつが大勢いる。

能力者イディルと呼ばれてるが、その存在を知るの人間は極僅かだ」



刀磨とうまは刀を鞘に戻し、壁にもたれ掛かった。



「…」



「昨日、お前を襲った男もそうだ」



夜詩よしは体の震えを止めようと、右手で左手を強く掴む。



「余程怖かったようだな。

大抵の能力者イディルは、様々な組織に属してるが、単独で己の欲望のためだけに力を使うのもいるがな。

ちなみに俺はアメリカにある、フィラルという組織に属してる」



「俺に何の用なんだ?」



「最初は関わる気はなかったが、お前を襲った男、神谷凶也かみやきょうやには借りがあったし、ついでにな。

もしお前が望むなら保護してやる」



夜詩よしはうつむき、体を震わせ笑いだす。



「保護…くっくっくっ、組織?能力者イディル?そんなの信じられるかよ!

変な宗教か何かに入れるんじゃないのか?」



「今見たことすら否定するか…好きにすればいい。だが、近い内にまたあの男は現れる。

昨日みたいに助かるとは思うなよ」



「あんた達が何者かわからないが、俺を巻き込むな!」



夜詩よしは早足でビルを出て、再び学校へ向かう。



「もう当事者なんだよ。

ま、俺の仕事じゃないからどうでもいいが」



刀磨とうまは窓から走り去る夜詩よしの後ろ姿を見つめる。

その日の夜詩よしは、しゅんが話し掛けても気の抜けた返事ばかりで、授業も全然集中していなかった。

夜詩よしは校門を出た時、一人歩いているゆうを見付ける。



「あの子は…」



刀磨とうまの事を聞くため慌てて後を追い、夜詩よしゆうを呼び止めた。



「新堂さん!」



ゆうは振り向き、夜詩よしを不思議そうに見つめる。



「あの、どちら様ですか?」



「あ、えっと…3年A組の神塚夜詩かみつかよしっていいます。ちょっと話があって…」



落ち着きのな い夜詩よしを見て、ゆうは笑みを浮かべ、遠くを指差した。



「いいですよ。じゃあ…あそこの公園でいいかしら?」



「うん」



夜詩よしゆうは公園のベンチに座り、沈黙が続く。



「(声掛けたけど、なんて聞いたらいいんだ…)」



「…あの~、話って?」



ゆうが沈黙を破り、夜詩よしを見る。



「えっと…実は昨日、新堂さんが男の人と居るの見ちゃって。

あの人とどんな関係なのかなぁって」



「見られてたんだ。深い仲って訳じゃないけど?、(どうして刀磨とうまの事を…まさか敵)」



「実は朝にあの人に声掛けられて、ビルまで連れてきたと思ったら、急に手品で刀出すし、能力者イディルだ組織がなんだのって意味の分からない話をしてきてさ。

もし宗教か何かの勧誘なら断っといてほしいんだ」



「(この人も能力に目覚めたんだ )彼はどうしてあなたを知ってたの?」



「昨日夜に、変な男に襲われて、助けてくれたと言ってたんだけど覚えてなくて…」



「変な男?」



「確か…神谷凶也かみやきょうやって言ってたかな」



今までのゆうの表情とはうって代わり、真剣な眼差しで夜詩よしを見つめる。



「そう…ならすぐに身を隠した方がいいわ」



「え?新堂さんは信じてるの?あの人を悪く言うつもりはないけど、信じられないって」



ゆうは立ち上がり、夜詩よしの正面に立つ。



神谷凶也かみやきょうや能力者イディルしか狙わない…あの男に狙われたと言う事は、あなたも能力者イディルって事。

あなたを助けた人は、同じ組織にいる私の仲間よ。

とりあえず保護を受けて」



「ちょっ、ちょっと待って!俺にそんな力はないし、仲間?じゃあ新堂さんも能力者イディル?」



「私も能力者イディルよ。

それに能力者イディルは、固有のエナと呼ばれるものを発しているわ。

訓練した人はエナを隠せるけど、あなたのように目覚めたばかりの人は、無意識に発したままだから、実力者には簡単に位置が把握できるからまた襲われるわよ」



「何だよそれ…何なんだよ!」



夜詩よしは頭を抱えうつ向く。



「確かにいきなりこんな話を聞かされて理解できないのはわかる。

でも、今あなたに起きている事は現実なの!

それに私達の組織は、主に研究や治療が目的だけど、ちゃんと力についても学べるわ。

だから保護を受けて?」



ゆうはそう言いながら、夜詩よしの肩にそっと手を置く。



「やめてくれ!」



夜詩よしは手を払いのけ、ゆうを見る。



「俺は…俺は普通の人間だ!そんな力なんてない!巻き込まないでくれ」



「そう…強制する気はないから。

でも、あなたに危険が迫っているのは事実で、もう逃げられない。

もし、私の話を信じる気になったら言ってね」



「…」



自分から目を逸らし、地面を見つめる夜詩よしを残し、ゆうは去っていく。



「俺は…くそっ!」



夜詩よしは一人、公園のベンチに座り、空を流れる雲を見つめる。



「ご機嫌ななめだな?」



声がして夜詩よしが正面を向くと、目の前に凶也きょうやがいた。



「お、お前!」



「昨日の続きをしようか」



夜詩よしはゆっくりベンチから腰を上げ、辺りを見渡す。



「(に、逃げないと!)」



凶也きょうやの冷たく鋭い目が、大きく開く。



「邪魔が入る前に始めねぇとな」



凶也きょうやはそう言うと、軽く右手を横に振る。



「え?」



気付くと左足にナイフが刺さり、夜詩よしは地面に倒れた。



「じっくり遊んでやる」



凶也きょうや夜詩よしにゆっくり近付き、鎌を取り出す。



「腕いっとくか?」



凶也きょうやの鎌の刃先が、夜詩よしの左腕にゆっくり入っていく。



「ぐあぁぁ!や、止めてくれ!」



泣き叫ぶ夜詩よしの頭を踏みつけ、鎌を抜いた。



「楽しいなぁ。じゃあ、次は腹いくか!」



蹴り飛ばし、仰向けになった夜詩よしのお腹に、肉を裂きながら鎌が入っていき、血が溢れだす。



「ぐぁ…がぁはっ!」



夜詩よしは血を吐き、虚ろな目をしている。

その時、サイレンの音が近付いてきた。



「んあ?誰か通報しやがったな。まぁ、今更遅いけどな」



凶也きょうやは勢いよく鎌を抜き、夜詩よしの耳元で囁き、公園から姿を消す。

その後すぐ救急車が駆け付け、夜詩よしは病院へ運ばれ一命を取り留めた。



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」



夜詩よしの目が少し開き、涙を流しながら自分を呼んでいた、陽菜ひなが笑顔を見せる。



「よかった…お医者さん呼んでくるからね」



陽菜ひなは、急いで病室を出ていく。



「お前は運がいいな」



窓から現れた刀磨とうま夜詩よしに近付く。



「もうお前はこっち側の人間だと理解しろ。

もし、お前が生き続けたいなら力の使い方を教えてやる」



夜詩よしの脳裏に凶也の言葉が甦る。



「死ぬまで恐怖をたっぷり味わえ。

それが弱いお前に出来る最後の事だからな」



夜詩よしは涙を流し、刀磨とうまの言葉に小さく頷いた。

死の恐怖は、夜詩よしを一歩そしてまた一歩と、戦いの中へと進ませる。

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