第十五器 妖刀
「お前と斬り合うのは何年ぶりだろうな」
「どうして御劔兄さんが…」
「まだ俺を兄と呼ぶか…
まぁ、簡単に言えばお前の敵だよ」
「なぜ襲撃を?まさか御劔兄さんも…能力者に?」
「違う。
俺はただの人間…でも、波の扱いは一流だがな」
御劔の刀が波に包まれ始め、それを見た刀磨は身構えた。
「俺はお前を探してたんだ」
「俺を?」
「流動剣術を使えるのは、俺とお前だけだからな」
「?師匠は?」
「死んだ…俺の踏み台になった!」
「!」
「でもお前は剣術を捨てたんだよな」
「俺は…自分の能力を最大限に使う選択をしたんです」
「ま、師匠じゃないから別に責めたりしねぇよ。
ただ…能力者の力がどれ程か見せろよ!」
御劔は刀磨との距離を一気に詰め、刀を斬り上げる。
刀磨は後方に跳びながら、御劔の刀を受け止めるも、刀は折られ胸を斬られる。
胸の傷を押さえながら更に後方に下がる刀磨。
「くっ…波で覆っていても、ここまでの威力はあり得ない」
刀に付いた血を舐め、刀磨を睨み付ける御劔。
「見下してるのか?波の扱いは一流って…言っただろ」
御劔が刀を振り下ろすと、地面を裂きながら斬撃が刀磨に向かっていく。
刀磨は刀を地面に刺し、斬撃が刀に触れた瞬間に爆風を起こし、辺りに砂埃広がる。
「まさか終わりじゃないよな?」
「ええ…これからが本番です!」
炎の刀で砂埃をなぎ払い、構える刀磨。
「楽しくなってきたな!」
「炎刀・刻朱!」
低姿勢で御劔に向かっていき、振り下ろされた刀をかわすように、体を回転させながら斬り抜ける刀磨。
「…どうして…がはっ」
破裂するように刀磨の刀は消え、肩から腰にかけて血が吹き出し、地面に倒れ込む刀磨。
「単純だ。お前より俺の方が強いんだよ」
血を流しながら、拳を突き立てて体を起こすに、御劔はゆっくり近付き、自分を見上げる刀磨を蹴り飛ばす。
「ぐっ…能力もない人間が、大量の波を扱えるなんて…」
「驚いたか?てめぇの経験を基準に考えてんなよ馬鹿が。
捨てたのは剣術だけじゃなく、教え全てを捨てたか…」
「教え…」
「敵と向き合いし時、己の経験を捨てよ。己の前に立ちし敵に、同じ者はなし。
お前は俺をただの人間として、見知った相手と思って戦った。
その時点で負けてんだよ」
御劔の言葉に自分の未熟さを知り、怒りが込み上げながらゆっくり立ち上がる刀磨。
「御劔兄さんの言う通りだ…
ここからは兄弟子ではなく、敵の御劔として相手をしよう」
刀磨は刀を御劔に向け、意識を集中する。
「風刀・景翠!」
刀磨の刀が捻れた形に変化し、刀の前で風が玉のような形になると、一瞬で御劔へと飛んでいき、御劔の体を吹き飛ばす。
「これが能力者と人間の違…馬鹿な!?」
御劔は何事もなかったかのように立ち上がり、刀磨に笑みを向けると、地面が砕ける程強く踏み込み、刀磨の元へ凄まじい速さで駆け寄り、刀を一撃で砕く。
「くっ!」
刀磨はとっさに後ろへ下がり刀を地面に突き刺す。
「氷刀・流蒼」
刀が氷で覆われていき、氷が刀から地面を凍らしながら御劔の足元へ進み、一瞬で氷漬けにする。
「これなら…!?」
刀磨が勝利を確信した時、氷を弾け飛ばし、間合いを詰めて地面に刺さった刀磨の刀を払って砕き、刃先を返し刀磨を斬る御劔。
刀磨の体は二つに斬らかれ、地面に転がると土へと変化した。
「フッ…曲芸を見てるようだ」
御劔が振り向くと、そこには刀磨の姿があった。
「地刀・纏土、見抜けるか?」
「流動剣術奥義、九動一剣!」
御劔は刀を低く構え、低姿勢のまま刀磨へ走り出し、右へ向きを変えながら刀を振り上げると景色が裂け、刀磨の姿が現れる。
「(馬鹿な!波でも探知出来ない程のカモフラージュを見破った!)」
そのまま振り上げた刀の刃を返し、垂直に振り下ろし刀磨の右肩から足まで斬ると右足を軸に回転しながら刀磨の腹部を斬り、刃を押し当てるように押し飛ばし、刀磨が離れていく一瞬に踏み込みながら刀を突き刺し、横に斬り抜きながら姿勢を低くして回転し三段に斬り上げる御劔。
御劔の技は3秒にも満たない速さで刀磨を襲い、血を撒き散らしながら空中を舞って地面に落ちる刀磨。
「俺の目的は果たした。
次はどうするかな」
御劔がその場を去ろうとした時、血塗れの刀磨がフラフラと立ち上がる。
「その傷じゃ戦うのは不可能だ。ゆっくり死んでろ」
「…妖刀…村正…」
刀磨から凄まじい量の波が溢れ出し、傷が一瞬で塞がると、二本の刀が現れると柄を合わせて口でくわえ、手足の指先に黒い刃が現れ、手を地面に付きながら姿勢を低くし、御劔を睨む。
「まるで野獣だな。悪あがきを…」
目の前にいた刀磨が消え、御劔みつるぎは一瞬、何が起こったか理解出来ず、背後に気配を感じ、気付いた時には、左手が斬り落とされていた。
「驚いたな…それがお前の呪装か」
御劔は斬られた左手を見ながら、痛みも出血もない事に驚きと興奮を覚える。
「シューーー」
「会話すら出来ないか。本能の塊…なら!俺も本能に従おう!」
一瞬、御劔の波が死神のような形になると、全身を呑み込むように包まれ、次の瞬間、二人の姿は消え、金属同士がぶつかる音と、空気の破裂するような音と共に風が吹き荒れた。
次に二人の姿が現れた時、傷だらけの刀磨と御劔が向かい合っていた。
「痛みがないってのは厄介だな。
自分がどれだけ追い込まれてるかわからねぇ。
けど…最高だ!」
御劔は飛び上がり、落下の力を使いながら刀磨に刀を叩き付け、刀磨は口にくわえた刀で受け止めると、御劔の刀を這うように刀を滑らせて、首を反対の刃で狙う。
御劔はそれを紙一重でかわすと、刀の刃を歯で噛みながら体を捻って刀磨の体を足で地面に叩き付ける。
刀磨の体が地面にめり込み、地面がひび割れると大きな窪みと共に地面が吹き飛んだ。
「はぁ…はぁ…さすがに…はぁ…反応速度を…はぁ…はぁ…限界以上に上げると…はぁ…消耗が激しい…はぁ…はぁ…」
御劔は刀磨から離れ、乱れた呼吸を整えると、刀に波を集中させ始める。
刀磨は口から血を流し、フラフラと起き上がると、くわえた刀に禍々しい波を纏わす。
「この一撃で終わらせよう…」
御劔は天高く刀を振り上げ、刀磨は四つん這いのまま姿勢を低く保ち、地面に足をめり込ませる。
ほんの数秒が、とてつもなく長い時間に感じれる程の静寂が辺りを包むと、刀磨と御劔の呼吸が徐々に重なり始め、同時に息を吸い込んだ瞬間、刀磨が襲い掛かり、御劔の刀が振り下ろされる。
振り下ろされた御劔の刀は、刀磨のくわえた右側の刃にぶつかると、徐々に進んで刃を斬り抜く。
「(終わりだ!)」
御劔の刀が刀磨の体に向かって行くと、徐々に刀磨の体が刀の外側に回り始め、刀が触れたのは反対側の刃だった。
刀磨の刃は巻き上げるように下から御劔の刀を砕き、右腕の根元から斬り落とす。
「フッ…反対の刃が逆向きになっていたのに気付かなかった…俺の負けか」
刀磨はくわえた刀を放り捨て、左手で御劔の顔面を地面に叩き付け、右手の爪で胸を引き裂き、心臓をゆっくり掴む。
「(これが…恐怖…)」
次の瞬間、御劔の心臓に噛み付き、血を吹き出しながら飢えた獣のように食べ始め、食べ終えると天へと雄叫びを上げ、浴びた血が涙のように刀磨の頬を伝っていた…