第十四器 襲撃
ブラッドの自殺から数日が経ち、夜詩とアリスは気分転換するため街に来ていた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!あのクマさん可愛い!」
「へぇ~、クマのぬいぐるみ専門店か」
クマを見ては夜詩を見つめ、またクマを見ては夜詩を見つめを繰り返すアリス。
「ほ、欲しいのか?」
目を輝かせ、激しく首を縦に振るアリスを見て、渋々店に入る夜詩。
「ありがとうございました~」
「お兄ちゃんありがとう!」
「あ、ああ(俺の小遣いが…)」
その後、夜詩はアリスに連れられてあちこちに行き、休憩するため公園に来ていた。
「疲れた~」
「私はまだまだ大丈夫だよ!」
「うっ(恐るべし子供の元気…ん?)」
近くで、男とアリス位の女の子が揉めているのに夜詩は気付く。
「だから謝ってるですよ!」
「謝って済むと思ってんのか?俺のヴィンテージのズボン汚しやがって!」
「これだけ謝ってるのに、小さい男ですよ!」
「このガキ!親はどこだ!弁償させてやる!」
「凛々は一人旅ですよ。
貴方と違って大人なんですよ!」
「ほぅ、じゃあてめぇに払ってもらおうか!」
男が凛々の手を掴むと、その手をひねり、そのまま男の手を軸に回転し、踵で男の顎を蹴る。
「ぐっ!このガキ!」
男が凛々に殴ろうとした手を掴み投げ飛ばす夜詩。
「うっ!」
「子供相手に大人がみっともない」
「なんだと!」
夜詩は立ち上がる男を睨み付け、一歩近付く。
「次は怪我じゃすまないぞ?」
「くっ!」
男は走って逃げていった。
「お兄ちゃん!」
離れて見ていたアリスが駆け寄る。
「お嬢ちゃん大丈夫か?」
「お嬢ちゃんじゃないですよ!凛々ですよ」
「悪い悪い。俺は夜詩でこっちがアリス」
「凛々ちゃん、ちゃんとお兄ちゃんにお礼言わないとダメだよ」
「別に助けなんていらなかったですよ!」
「そ、そうだったかぁ(素直じゃない!)
1つ聞きたいんだけど、凛々の語尾は方言?」
舌を鳴らしながら、人差し指を立てて横に動かす凛々。
「あなた遅れてますですよ。
最近では語尾に何かを足すと可愛く見えるって、雑誌に書いてあったですよ!」
「そ、そうなんだぁ(何かが違う…)
まぁ、気を付けて帰るんだ…ん?」
凛々はアリスが抱いているクマのぬいぐるみに目を奪われていた。
「これはお兄ちゃんに買って貰ったの!いいでしょ?」
凛々は夜詩を見つめ続ける。
「ちょ、ちょっと待て!なんで会ったばかりの子に!」
凛々は目を潤ませながら夜詩を見つめ続けた。
「いや、無理だから!お金無いって!」
クマのぬいぐるみ専門店のドアが開く。
「お買い上げありがとうございました!」
「えへへへへ」
クマのぬいぐるみを抱き締めながら満面の笑みを浮かべる凛々。
「はぁ(游か刀磨に借りないとなぁ…俺のばか!) 」
「夜詩さんありがとうですよ!」
「いいえ…」
涙を堪えながら財布を握り締める夜詩。
「ねぇ、凛々ちゃんはどうして一人旅してるの?」
アリスの言葉に、今まで明るかった凛々の表情が曇っていく。
「俺達で良かったら話聞くよ?」
「実は…」
3人は公園に戻り、ベンチに腰を下ろして話を続けた。
「凛々の家は代々続いてる拳法を教えている家なんですよ。
そこに天才と言われている幻龍という人がいて、皆の憧れだったですよ。
でも、ある日不思議な力に目覚めて、周りは恐れ始めて幻龍を追い出したですよ。
凛々は止めたけど、もっと強い相手と戦いたいって言って…
しばらくして、幻龍に似た人がアメリカにいるって聞いて、一人でなんとかアメリカに…」
「そうか…(幻龍は恐らく能力者…)」
「ねぇ、お兄ちゃん。
私達に何か出来ないかな?」
夜詩はしばらく考え込み、口を開く。
「凛々、幻龍の力の事は俺達なら分かるかもしれない」
「本当に!?」
「あぁ、たぶん幻龍の居場所もその内分かると思うよ。
俺達の仲間に会って相談しよう」
凛々は大きな瞳に、いっぱいの涙を浮かべ、大きな声で泣き出す
「まだ泣くのは早いよ。行こう!」
「はい!ですよ!」
同時刻、ハートネスの社長室。
「ええ、よろしくお願いします。では」
「社長、お茶をお持ちしました」
「いつもすまないね。おっとこんな時間か」
「何かご予定が?」
「いや、ちょっと友人が急に来るんだ…そうだ!
近くの店で適当にスイーツを買ってきてもらえないかな?」
「かしこまりました」
「悪いね」
秘書はエレベーターで一階へ降りていき、ビルの外に出る。
それと同時に、空が一瞬光り、ビルの最上階が爆発した。
「きゃっ!…しゃ、社長?」
その頃、夜詩達はアルガードに着き、寮へ向かう。
「地下にこんな街があるなんてびっくりですよ!」
「ここの事は秘密だからね」
夜詩達が寮の入り口に着いた時、游が飛び出してきた。
「どうした?」
「夜詩!ハートネスさんが…ハートネスさんが…」
「ハートネスさんがどうした?」
「敵に襲撃されて…死んだって…」
「そんな…」
「詳しい事を聞きに行くから付いてきて!」
「わ、わかった!アリス、凛々《リンリン》と一緒に寮で待っててくれ!
凛々すまない、少し待っててくれ」
「全然大丈夫ですよ!アリス、行きますですよ!」
「凛々ちゃん待ってよ!」
夜詩と游は管理中央施設に向かい、入り口でロバート、キャロル、ホランドに出くわす。
「みんな!」
「游!夜詩!」
キャロルは二人に駆け寄り、游を抱き締めた。
「ハートネスさんは?」
「社長室が丸ごと破壊されて…」
「そんな…」
その時、一台の車が夜詩達の側で止まる。
「何をしている?」
車からスーツを着た男が降りてきた。
「ザルガン!」
ホランドは驚き、男の名前を叫ぶ。
「ザルガンは代表補佐で、代表と違って規律に厳しいんだ」
「へぇ」
ロバートが夜詩に小声で教える。
「何をしていると聞いている。
ここは許可の無い者は立ち入り禁止だ!」
「そんな事はどうだっていいだろ?それより、フランスに居たんじゃないのか?」
「たまたま帰国していたんだ。
緊急事態でも規則は規則だ!守らなければ連携が乱れる!
それとホランド、今は私が代表代理だ!口の聞き方に気を付けろ」
「くっ!わかった…みんな、一旦戻ろう。
詳しい事が分かったらちゃんと教えてください!代表代理殿!」
「貴様に言われんでも分かっている。出せ」
ザルガンは車に乗り込み、施設に入っていく。
夜詩達は別れ、連絡を待つ。
一方、謎の男女6人がアルガードの入り口に集まっていた。
「ボスは?」
「もう内部に到着してる頃だ」
「じゃあ、光帝様ちゃっちゃと終わらせて」
「命令するな」
レイが手をドアに当てると、まばゆい光と共にドアが吹き飛ぶ。
「さあ、狩りの時間だ」
ドアが破壊されたと同時に、アルガード内に警報が鳴り響く。
「なんだ?」
「よ、夜詩さん何ですかですよ!」
「分からない」
その時、夜詩の部屋のドアを勢いよく開け、游が飛び込んできた。
「敵襲よ!非戦闘員をシェルターまで避難警護するから付いてきて!」
「て、敵襲!わかった!
凛々もはぐれないように付いてきて」
「は、はいですよ!」
夜詩達はシェルターへ向かうも、逃げ惑う人に阻まれ、バラバラになってしまう。
夜詩は凛々の後ろ姿を見付け、人混みを縫って駆け寄る。
「凛々!大丈夫か?凛々?」
夜詩の呼び掛けに答えず、一点を見つめる凛々。
凛々の視線の先には、一人の男が街を破壊していた。
「幻…龍…」
「あいつが幻龍?敵…だったのか」
「幻龍!」
凛々は暴れている幻龍に駆け寄る。
「危ない!」
幻龍の攻撃が当たる寸前に、夜詩が凛々を抱えかわす。
「ん?少しは出来るのがいるみたいだな」
「幻龍!なんでこんな事してるの?」
「凛々、どうしてお前が…まあいい、ここには強い奴がいるみたいだからな。
そこのお前、相手しろ」
「幻龍、帰ろう?みんな心配してるんだよ?」
「弱い奴に興味はない」
「そんな…」
「凛々の気持ちも分からないか…お前には体で教えてやるよ」
一方、街の東側では、一人の男が暴れていた。
「逃げろ逃げろ!」
逃げ惑う人混みの中に、一人泣きじゃくる女の子を見付け、男は刀を降り下ろす。
「やっと会えた。久しぶりだな…刀磨!」
男の刀を受け止め、女の子が母親に連れられて逃げるのを確認し、男の刀を振り払う刀磨。
「こんな所で会うとは…お久し振りです、御劔兄さん」
その頃、街の入り口には無数の怪物が集まっていた。
「私の可愛いキメラ達よ!さぁ、餌は沢山あるぞ!イシシシシ!」
男が両手を広げると、キメラ達は方々に散り始め、街はまるで地獄絵図へと化していた。
「我々は世界を救う戦いを始める!さあ、力を示せ、イレイデッドの戦士よ!アハハハハ」
管理中央施設の屋上で高らかに笑うフードコートの男がいた。