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幼馴染の幽霊さん  作者: 誰も知らない初蝉
Ⅱ エルネストの侍女
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エルネストと修羅場

 ある霊がAという人に取り憑いた場合、Aが活動している間――目覚めている間、霊は表に現れることはできない。

Aの精神が身体の所有権がAにある事を無意識に主張するからだ。

しかし、Aが眠ったり、気を失った場合はどうだろう?

Aの精神は休むことを優先し、身体を支配する力を緩める。

そのわずかな隙を突いて、霊は身体を乗っ取ることができる。


だから、霊――リーシャが表に出てきた時、ヴィオラは完全に香の力に負けたのだと思った。

ヴィオラの意識がハッキリしているのに、リーシャが出てきたというのは予想外だった。


 不測の事態はさらに続く。


開かれた扉。

そこに立っているのは、下の兄ライムント。


『ありゃりゃ。結界が裏目に出ちゃったね』


 チェシカの抜けた声が聞こえた。


 エルはリーシャと対話するにあたって、部屋に霊達を通さないようにする結界を張っていた。

もしもリーシャを強制除霊することになったら、無関係な霊を巻き込んで消してしまうかもしれなかったからだ。


結界を張っている間、エルは霊達からの恩恵――情報を得る事ができなくなる。


もちろん鍵は掛けていたが、次兄にそんなものが通用しない事も分かっていた。


結局は、エティに強く口止めをしなかったエルの油断が今の状況を生み出したのだった。



『お、おい……』

『ああ。やべぇぞ! ……修羅場だ!!』

『修羅場と聞いて!』

『会場はここか!?』

『うるさいわねあんた達!! 聞こえないでしょ!』


 扉の向こうに集まって来た暇人(霊)が、修羅場修羅場と、とてもうるさい。

この深妙な空気に似つかわしくないざわめきを認識できるのがエルだけで本当によかったと思う。

霊達があまりにうるさいので、ライが入ってきた時の驚きと緊張は吹っ飛んでいた。

そのおかげか非常に冷静に物事を考えれている。



 ライはしばらく呆然としていたが、ハッするとものすごい形相で睨んできた。

ライに敵意を向けられるなんて始めてだ。

それ程、彼にとってヴィオラは大切な存在なのだろう。


「おまえ、何やってんだ昼間っから!!!」

「「は?」」


 エルはそこではじめて自分とヴィオラの体勢に気付く。

これは……どこからどう見ても抱き合っているようにしか見えない。

しかも、さっき暴れるリーシャを押さえつけた影響でか二人ともいい感じに服が乱れていた。


「ひゃあっ! も、申し訳ありませんエルネスト様っ!」


 ヴィオラはいっぱいいっぱいなのだろう。

真っ赤になってエルから距離をとり、身なりを整えている。


 抱きしめていた。

この程度ですんだのは不幸中の幸いだったとエルは考える 。

暴れるリーシャを押さえていた時に入って来られていたらと思うとゾッとする。

あの場面を見られていたら、間違いなく強姦の罪がかけられただろう。

 これくらいならまだ覆すことができる。



「お前がそんな奴だとは思わなかったぞ!!」


「言っとくけど、別にやましい事はしてないよ?」


「この状況で誰がそんな事信じるかよ! それに俺は聞いたんだ! お前、彼女を気絶させて襲おうとしたんだろ!?」


「はぁ?」


 何を言ってるんだこの兄は。


エルは自分とヴィオラの会話を思い返してみることにした。


――優しく扱ってやらないとな


――あ、あの……エルネスト、さま?


――……まさか、意識があったのか!?


――ええ、まぁ……



 この会話だけを聞いたらなんとビックリ。

エルが部屋に連れ込んだ彼女を気絶させ、良からぬ事をしようとしたという構図が浮かんでもおかしくない。


ライも半信半疑で飛び込んできたのだろう。

もしかしたら状況証拠でその構図がひっくり返るかもしれないからだ。


 しかし入ってみるとこれまたビックリ。

エルと侍女は抱き合っていましたとさ。


 ……さて、この状況どう言い訳しようか?


タラーっと嫌な汗が背中を伝わった。



「あ、あのっ! 誤解なのです!」


「無理にかばう必要はない。お前とてクォーツ家の娘だからな」


「ほ、本当に私は何もされておりません!! エルネスト様は悪くないのですっ。お願いですっ信じてくださいっ!」


 ヴィオラに下方斜め四十五度から見上げられ、真っ赤になった次兄を目の当たりにして、エルはとんでもない打開策を思いついてしまった。


にやける口元を抑え込み、演技の為の顔を張り付ける。


「仕方ないよヴィオラ。私達は何もしてないけど、こんな疑惑がかけられたら君の立場も危うくなるかもしれない。もしそうなってしまったら、責任を持って私が君を妻に迎えよう」


「は?」

「え?」


「クォーツ家も、王家と繋がりが持ててさぞや嬉しいだろうね。喜んで君を差し出してくると思うよ」


「お、おいエル」


「あーあ。ライ兄の物分かりが良かったら君も自由に恋愛できたんだろうけどねぇ」


 チラリとライを見ると、予想通り深刻な表情になっていた。

エルの言った事は本当にそうなる可能性があるのだ。


「……本当に、何もしてないんだな?」


 勝った。

ライの言葉は、主導権がエルに移った事を告げていた。


「だからそう言ってるだろ?」


「じゃ、じゃあ、なんでお前の部屋にヴィオラがいるんだ!」


「なーんで、そんなムキになーるのー?」


「な! ムキになんてなってねーよ! 俺は、その……あ、兄として弟の悪行をとがめないといけないんだ!!」


「ふぅーん?」



 自分で言っといてなんだが、今、エルネストはかなりウザい人になっていると思う。

あたふたと慌てるライを見るのが楽しすぎて、つい演技に熱が入ってしまった。

 人の恋路を端から傍観し、影で手回しするのがエルのスタイルだったが、たまにはこうやって舞台に立つのもいいかもしれない。


 まあ、遊ぶのもここら辺にしとこう。

正直、ジル兄と同じ顔であたふたされるの、なんか気持ち悪い……。



「俺はヴィオラを侍女にしようと思っただけだよ」


「……はぁ? だって、彼女は……。ああ、男と認識されなかったんだなエル」


「うるさいな! そうだよなにか文句ある!?」


 とは言い返してみたが、本当はもう治ってるはずだ。

しかし、何のきっかけもなしに突然治ったというのは不自然過ぎる。

かなり不愉快だが、『ヴィオラの男性恐怖症が治ったのは、少女顔で有名な第三皇子の侍女をしたことで慣れたから』という理由をこじつけるのが一番手っ取り早い。


 ヴィオラを侍女にする利点はまだある。

エルネストは唯一仕えてくれていた老年の使用人、ベダン爺に暇を与えたかった。

最近目に見えて具合が悪そうで、心配していたのだ。


 それに、彼女にはエルの秘密を知られてしまった。

よって、徹底的な口止めの暗示を試みる必要がある。


 いくつかのデメリットもあるのは容易に想像がついたが、彼女をしばらく侍女にするというのが一番楽な方法だった。


これから、少し大変になるな。

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