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幼馴染の幽霊さん  作者: 誰も知らない初蝉
Ⅱ エルネストの侍女
10/17

エルネストと男性恐怖症

 ともかく、あそこは目立つという理由でエルとヴィオラは場所を移した。今はヴィオラの事を考えてあまり人気のない裏路地にいる。

二人が裏路地に入った事で、一般人で構成された野次馬の壁は解体されたが、霊達の壁は一緒になってついてきた。


そして、そこでエルはどうにかヴィオラに自分が男である事を認めさせようと頑張っていた。


「だから、私は男だと言っている!!」

「えと?」


何故そこで首を傾げる……!


『エル、落ち着いて!』


これが落ち着いていられるか!!


彼女が男性恐怖症だというのなら、俺にもそれ相応の対応をしてもらわないと困る!

だって、だって、だって!!

それが自然だろ!?

普通だろ!?………なんで話せるんだよ……なんでなんともない顔なんだよぉぉ……ううっ。


「え!? ……あの」


本気で泣き始めたエルを前に、ヴィオラは目に見えてオロオロし始めた。

かっこ悪い事この上ないが、溢れ出す涙を止める術はなかった。


「なんでもない……」


『エル……』

『涙フケヨ。……でも可愛いからもうちょっと泣いてて欲しいかも……』

『傑作!! 今年一番の爆笑ネタだよ!!』

『今日からエル坊改めエル姫だな!(歓喜)』

『『きゃーエル姫様ーー!!』』


これでここら一帯の霊たちにエルの新たなあだ名がふれ回った。

霊達の噂は、もうあり得ない勢いの広まり方をする。


『エル。泣かないで』


チェシカが早々に慰めモードに入ってきたが、これは泣いていいと思うんだ。

今から毎日エル姫って呼ばれるんだぞ?


 ぐずるエルの前に、一人の霊がもの言いたげに出てきた。


『なあなあ。なーんか変じゃねぇか?』

『あなたは確か……』


どこかで見た顔と思ったら、エル達にあの噂を話に来た時の霊だ。

彼は、今では【ライムントの恋路を堂々と見守る会】の名誉会員になっている。

霊達の間にはいくつかの【◯◯を堂々と見守る会】が存在するが、彼奴らの活動は主に合法的ストーカーだ。


『何が変なの?』

『ヴィオラ嬢だよ。俺は名誉会員として、四六時中彼女の様子を見守っているから、なんとなく違和感があるっていうか……うまく言えないけど、何か引っかかるんだよなぁ……』


引っかかるだろうよ!

俺!

男!

男と話せてるよこの子!

男性恐怖症なのに!!


『エルと普通に話せている事じゃなくて?』


エルの心中を察して、チェシカが代弁する。

幼い頃から共にいる幼馴染はエルの思考パターンを熟知しており、エルが対話できない状況下におかれていても的確に欲しい情報を引き出してくれる。


『それは、なんか、エル坊改めエル姫なら……納得できる!』


おい!

ダメだろ納得しちゃ!!


彼の発言を皮切りに霊達からわざとらしい言葉がどんどんとばされる。


『流石ですエル姫様!』

『男から山のように求婚される実力はだてじゃねーなぁ!』

『男性恐怖症なんてエル姫様にかかればあってなきに等しですよねー!!』

『『『うんうん!』』』


こいつら……ある事ない事言いたい放題言いやがって!!

だいたい! 男から求婚された事なんて一度しか・・ない!!


「あぁーーーーーもう!! 散れお前らぁぁぁぁぁあああ!!!!」




『やべっ、からかいすぎた!』

『逃げろー!』

「えと、その、すみませんっっ!!!」


霊達だけでなくヴィオラまで散ろうしていたので慌てて引き止める。

霊視ができるというのはこういう場合にすごく不便だ。


よし。言い訳するのも面倒だし、彼女天然そうだし、ここは何事も無かったかのように振る舞おう。


「君はどこかに行く所では無かったのか?」


エルの思った通り、ヴィオラは気にするそぶりもなかった。


「はい。近くの装飾品店に……。大切にしていたペンダントが壊れちゃって……」


そう言って彼女は懐から布包みを大切そうに取り出す。

その中から出てきたのは、大粒のエメラルドにちょっとした装飾が施された、なかなか高級そうなデザインのペンダントだった。

今は結合部分が壊れてしまっていて飾り部分と鎖が分断されている。


「これ……」


一度、見たことがある。

確か、コレは……。


「……あの、どうか?」


「あ、いや。……これくらいなら私にでも修理できるぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。ここの部品を変えればすぐなおる。確か、ちょうど部屋に予備があったな……」

「あのっ! 修理をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「いいよ、これくらいなら」


ちょっと確認したい事もできたし。


「ありがとうございます!! 次の装飾品店の主人も女性じゃなかったらどうしようかと思っていたんです!」


嬉しそうに笑う彼女の手前、苦笑は飲み込んだ。

名誉会員の話によると、彼女は朝から十三軒もの装飾品店を回っているそうだ。


『それなら、ヴァンさんに頼めば良かったのにね』


確かに。

徹底して男を避けているヴィオラが、わざわざ危険を犯してまで王宮の外に出てくる必要はなかったはずだ。

そして、ヴィオラがいつも通り王宮から出なければ、彼女がチンピラに絡まれる事はなく、俺は不本意なあだ名をつけられる事もなく、不様な姿をさらす事もなく王宮に帰れていたんだ!!


『それがなぁ、どっかの第三皇子が変な行動ばかりするからヴァンの休日が潰れちまったんだよ。ヴィオラ嬢は一ヶ月も前からペンダントがなおる日を待ち続けてたのにさ』


『あーいたいた! 朝、エルを追いかけてた中に。ヴァンさんってああ見えて実はジルベルト様お抱えの密偵部隊長だもんね』


……最終的に自業自得という事か……。

……なんだか、ちょっと証拠品くすねただけでかなりの精神ダメージを受けた気がする。

これは割に合わないな。

なにか、ストレスを一気に発散できるイベント……起こらないか?


 そんな事を考えていると、慌てた様子の霊達がわらわらとエルネストのもとに寄ってきた。


『おい、エル坊……じゃなかったエル姫よ!』

「言い直すな!!」


「え?」

「あ、えーっと」

エルがヴィオラに言い訳している間に、チェシカが霊達の対応をする。


『今すぐここから離れた方がいいぞ! さっき、その嬢ちゃんに絡んできたチンピラが仲間を引き連れてこっちに向かってる』

『しかももうかなり近い所まで来てる!』


それは、まずいな。


この場所は狭い通路の一端で囲まれたら確実に逃げ場はない。

エル一人なら突破できるだろうが、今はヴィオラも側にいる。

先手必勝。逃げるが勝ちだ。


『どっちに行けば安全?』

『あっちだ』


「とりあえず部屋までついてきてくれるか?」

「はい。お手数かけます」


エルは、霊達が安全だと言った方に歩き出す。

しかし、ヴィオラは一向に動こうとしない。

「どうした?」

「あの、すみません。その道は大通りに続いていて……私、大通り通れないので裏路地から遠回りして王宮に向かいます」


徹底して男に会わないようにするには裏道を通るのが一番。

だが、彼女は先程それでチンピラに絡まれた事を学習した方がいいと思う……。って、今そんなことはどうでもいい。

どうにかして彼女をこの場から離さないと……。


不運な事に二人の周囲の道はたった三本。

内二本からチンピラ共がやって来ているそうなので消去法からこの道を行くしかないのだ。


「離れてしまったら君はどうやって私の部屋に来るんだい?」

「お部屋の場所を教えていただければ……。王宮なら私の体質は有名ですから……」

「あー、あの事件があったからなぁ。でも、さっき君は裏路地を一人で歩いていたから絡まれたんだろう?」


「それは……そうなんです、けど……」


やっぱり無理です、とヴィオラは申し訳なさそうに首を振り、視線を落とす。

なんとか説得しようと思ったが、震えている彼女の手を見ると何も言えなくなる。




『エル!』


 チェシカの声にハッとした時には遅かった。


「見つけたぞ、この女共だ!」


思っていた以上に奴らの到着は早く、二人は剣だの鉄の棒だのを持ったいかにも悪人面の男達に囲まれてしまっていた。


とっさに、ヴィオラを背中で庇う。

この状況で彼女に何かあったらライムントに刻まれる。

「……あ、あれ?」


どうしようか悩んでいたら、背後から困惑したヴィオラの声が聞こえた。


「どうした?」

「なんで、なんともないの?」


彼女はふらぁと、エルの前に出て行く。

なんだか様子がおかしい。


『ああーーー! そうか! 分かったぜ! さっきから引っかかってた事!』


突然声を張り上げたのは例の名誉会員だった。


『ヴィオラ嬢は男性恐怖症! 近くに野郎がいれば半狂乱におちいる! なのに、エル姫が最初にヴィオラ嬢を助けた後、男を含む野次馬の人垣に囲まれてたにも関わらず彼女は平気だった! 今もこんな至近距離に男――しかもさっきは受け付けなかった奴がいるのに大丈夫そうだし!! これは普段の彼女からはあり得ない事だ!』


そして、彼女が平常でいられた時には必ずエルネストが側にいた。


『つまり、彼女はエルだけが大丈夫なんじゃなく、エルの近くにいれば男性恐怖症自体がキャンセルされるっていう事?』


「はぁ? なんでそんな……」


その理由はすぐに分かった。


チンピラAがヴィオラの腕を掴んだのがきっかけか、周囲の空気がピンと張り詰める。


「……い、いや……」


異様に緊張した空間の中でエルが感じ取ったそれは、街中で気にしていたあの気配と同じもの。


「なるほど! そういう事か!!」


エルがそう言い終わるや否やドス黒い霊力が彼女を包むようにまとわり付いた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」


 間違いない。

ヴィオラの男性恐怖症は悪霊によるもの。

だから、エルネストの事は平気だった。

霊達がエルネストに害を加える事は絶対にできないから。





………少女顔関係なかった! ちょっと嬉しい!


こっそりガッツポーズしてたのは秘密だ。


 じゃ、なくって!


「いやっ、いやぁぁああ!!」

「落ち着けヴィオラ!!」

チンピラから引き離し、彼女にまとわり付いていた霊力を払いさってもヴィオラは混乱し続けた。


しかたないか。


当身をして、彼女の意識を強制的にとばす。

気を失ったヴィオラを近くの壁に寄りかからせると、エルはチンピラ共と向き合った。


「なんだぁ? 灰色の嬢ちゃんどうしちまったんだ?」

「知るかよ。用があるのは茶髪のほうだけだ!」



「君達、全く反省が足りてないようだね」


呆れたと言わんばかりのため息をついて、エルは懐から一枚の紙切れを取り出す。

見つめ続ければ、浮き上がるのは金色に輝く文字のような印。



「そんな紙切れで何しようってんだ嬢ちゃんよぉ!」


『おらが簡単に今の状況を説明しよう! 霊力でできた文字は一般人には視認できない。つまり、今、奴らの目にうつるエルネストは、ただ紙切れを見つめる可憐な少女なのだぁーー!!』


「無視してんじゃねーよ!」

「じっとしててくれるんなら都合いいじゃねぇか。嬢ちゃんには少し痛い目にあってもらわんと気が済まねんでなぁ!!」



 リーダー格のかけ声で、チンピラ共が各々の武器を振り上げてエルネストに襲いかかる。


迫ってくるのはエルネストより一回りも体格のある男達ばかりなのに、エルネストが紙から目を離す事はなかった。


エルネストの背後にひっそり控えるチェシカも、周囲で鑑賞する幽霊たちも顔色一つ動かさず、どこか余裕そうな笑みを浮かべてその光景を見ている。



金の炎が紙切れを、その上に浮かび上がった印を焼き尽くしていく。


振り上げられた剣や鉄の棒はもう目の前に迫っていた。


紙の最後の一片が黄金の炎に飲まれたと同時に、まるで時間が止まったかのようにピタリとそれらの動きは止まった。


「な、なんだ?」

「身体が、うごかねぇ!?」


動けるはずもないだろう。

それは霊達の悪戯。


金縛り。


『ひゃぇー! な、なんでおらまでぇーー!!』

『うおっ! 俺も動けねぇぞ!?』

『うちは大丈夫やが……』

『おいっ! 固まってる奴ら、さっきエル坊をからかった奴ばかりじゃないか!?』


それは当然の報い。


「さて」


動きを止めればこちらのもの。

彼らにはしばらく眠っていてもらおうかな?

霊達は反省するまで放置。


「うげっ!」

「がっ!」

「へぶっ!!」


「フフフ……ちょうどストレス発散用のイベント探してたんだよ〜。大丈夫。俺はジル兄ほど鬼じゃない」


レッツ憂さ晴らし!!



………………。

…………。



『あっ! ねぇねぇエルゥ! いいもの見つけたよ!!』


エルがチェシカの指差す先に見たもの。

それはお仕置き必須アイテム。


「こ、これは! でかしたぞチェシカ!!」


『えへへ』



……………。

………。



「よし。これで全部だな」


「うぅーん?」


「お。起きた。ナイスタイミング。気分はどうだい、ヴィオラ?」

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