表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

婚約破棄された悪役令嬢は全てを捨てたはずなのに、隣国最強王子に執着され復讐ごと溺愛されることになりました

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/26

「エリシア・フォン・ルクレツィア。貴様との婚約を破棄する!」

 ――来た。

 その一言を、私はずっと待っていた。

 王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに顔を上げる。

 婚約者である第一王子アルベルトは、私を見下ろしながら得意げに笑っていた。

 隣には、あの女――平民出身のリリアナ。

「彼女を虐げ、陰湿な嫌がらせを繰り返した罪は重い。証拠も揃っている」

 ……証拠、ね。

 胸の奥で、冷たい笑みが浮かぶ。

 それ、全部。

 ――私が用意したものだけど?

「……そうですか」

 私はただ、それだけを返す。

 ざわめきが広がる。

 普通なら取り乱す場面。泣き崩れるべき場面。

 でも私は、違う。

 だって――

(ようやく、ここまで来た)

 この瞬間こそが、私の復讐の始まりなのだから。

「何だその態度は!?」

 アルベルトが苛立つ。

 リリアナは怯えたふりをしながら、私の背後に隠れる。

 滑稽だ。

「では、婚約破棄。受け入れます」

 その瞬間、空気が凍った。

「……は?」

「ただし」

 私は一歩、前に出る。

「それに伴う契約破棄に関して、全て法に則って処理していただきます」

「契約、だと……?」

「はい。王家と公爵家の同盟契約です」

 アルベルトの顔が引きつる。

 そう――

 この婚約はただの恋愛ではない。国家間の均衡を保つためのもの。

 そしてそれを、一方的に破棄すればどうなるか。

「違約金、領地返還、兵力供給の停止……全て適用されます」

 会場がざわめく。

 アルベルトの側近たちが顔色を変える。

「な、何を言っている!そんなもの――」

「正式な契約書は、こちらに」

 私は侍女に目配せする。

 差し出された書類に、王族たちは言葉を失った。

 ――終わりよ。

 あなたたちの。

「なぜ、こんなものを……!」

「最初から分かっていましたから」

 私は微笑む。

「あなたが、愚かだということを」

「なっ……!」

 怒号が飛ぶ。

 でも、それすらどうでもいい。

 だって――

「もう、あなたに興味はありませんので」

 その瞬間。

 扉が開いた。

 重々しい音と共に現れたのは、漆黒の軍服を纏った男。

 銀色の髪。鋭い瞳。

 場の空気を一瞬で支配する存在感。

「随分と楽しそうだな」

 低く響く声。

 誰もが振り向く。

「隣国グランディア王国第一王子――レオンハルト殿下!?」

 ざわめきが爆発する。

 彼はゆっくりと歩き、私の隣に立つ。

「迎えに来た」

「……早いですね」

「待てなかった」

 さらりと言ってのける。

 相変わらず、この人は。

「なぜ、ここに……!」

 アルベルトが叫ぶ。

 レオンハルトはちらりと視線を向けるだけ。

「契約だ」

「契約……?」

「エリシアは、我が国の客人として迎える」

 静かな宣言。

 だがその意味は重い。

「ふざけるな!そんなこと認めるわけが――」

「では、戦争か?」

 一瞬で空気が凍る。

 誰も、何も言えない。

 レオンハルトは淡々と続ける。

「同盟を一方的に破棄したのはそちらだ。理由はどうあれ、こちらには介入の正当性がある」

 完璧な理論。

 逃げ道はない。

 私は小さく息を吐く。

(これで、舞台は整った)

「行こう、エリシア」

「ええ」

 私は彼の手を取る。

 その瞬間、彼の指が強く絡む。

「……逃がさない」

「逃げませんよ」

「信用できない」

 小さく囁かれる。

 その声音は、戦場の王子のものではなく――

 執着する男のそれだった。

(相変わらず、重い)

 でも、それでいい。

 彼は私の“切り札”なのだから。

 ――数日後。

 グランディア王国。

「さて、復讐の続きだな」

 レオンハルトが楽しげに言う。

「楽しそうですね」

「当然だ。お前を泣かせた連中を潰せる」

 物騒すぎる。

 でも否定はしない。

「情報は全て揃っています」

「流石だ」

「私は、ただ奪い返すだけです」

 名誉も、地位も、全て。

 そして――

「断罪も」

 私は微笑む。

 それから数週間。

 王国では次々と不正が暴かれた。

 アルベルト派の貴族は失脚。

 リリアナの虚偽も明るみに出る。

 そして、ついに――

「エリシア……なぜだ……」

 牢の中で、アルベルトが呟く。

 その姿を、私は見下ろす。

「なぜ、ですか?」

 私は首を傾げる。

「あなたが、私を捨てたからですよ」

「違う……俺は……」

「愛していた?」

 その言葉に、彼は黙る。

 私は笑う。

「なら、なぜ信じなかったのです?」

「……っ」

「簡単なことです」

 私は背を向ける。

「あなたは、私より“都合のいい嘘”を選んだ」

 それだけ。

 それだけの話。

「処分は、法に則って」

 私は淡々と告げる。

 悲しみはない。

 怒りも、もうない。

 ただ――終わっただけ。

 そして。

「……終わったな」

 レオンハルトが隣に立つ。

「ええ」

「なら、次は俺の番だ」

「……何のです?」

 嫌な予感しかしない。

 彼は私の顎に手をかける。

「お前を手に入れる」

「もう手に入れているでしょう」

「足りない」

 即答だった。

「全部だ。心も、身体も、未来も」

 ……重い。

 でも。

「拒否権は?」

「ない」

「でしょうね」

 私は小さく笑う。

 この人は最初からこうだった。

 冷酷で、合理的で――

 そして、異常なほど執着する。

「いいですよ」

「……本当か?」

 珍しく、彼が戸惑う。

「条件付きで」

「言え」

「私の復讐に、最後まで付き合うこと」

「当然だ」

 即答。

「そして」

 私は彼の目を見る。

「最後まで、私を捨てないこと」

 一瞬の沈黙。

 そして。

「ありえない」

 彼は断言する。

「俺が、お前を捨てる?」

 低く笑う。

「そんな未来、存在しない」

 ――ああ。

 やっぱりこの人は。

(最悪で、最高だ)

「では、契約成立ですね」

「ああ」

 彼は私を抱き寄せる。

「これでお前は、完全に俺のものだ」

「ええ」

 逃げる気なんて、最初からない。

 だって私は――

 全てを奪われた悪役令嬢だから。

 だから今度は、全部奪い返す。

 愛も、地位も、未来も。

 そしてその隣には――

 最強で最悪な王子がいる。

 それでいい。

 それがいい。

 ――復讐の先にある、この歪んだ幸福でさえ。

 私は、もう手放す気はないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ