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 さなかは家族が嫌いだった。

 正確には、好きになれなかった。


 毎日両親は喧嘩の日々。時には近隣に聞こえるような怒号が飛び交っていた。原因はいつも些細なことだったが、どちらも譲らなかった。

 なぜこの夫婦は離婚しないのかと常々思っていた。「喧嘩するほど仲がいい」とは言う。でもあれは嘘だ。さなかの目が一番よく知っている。

 そんな場所に、毎日帰るのが苦痛だった。

 父は母に騙されたと言い、毎晩ウイスキーを煽った。

 母は父のせいだと言い、娘を囲った。歯向かえば居場所が無くなるような気がして、仕方なく従った。

 何が正解かは知らなかった。どうでも良かった。ただ、生活する為にはその場所に居るほか無かった。


 だからかもしれない。

 ネットで出会った、外の世界に居た彼がキラキラして見えた。

 さなかを暗闇からすくい上げてくれるのは、彼しかいないと思っていた。依存というやつだ。


 しばらくは彼という灯火は消えないだろう。どこかで、また一緒に笑って通話してくれるんじゃないかと思ってしまっている。

「あー、しんど」

 勘違いかもしれないのは分かっている。

 ただ、そう思いたいのだ。

 

 ぬるい風に揺られて、ベンチ後ろの木々が、さわさわと動く。ぺったりと皮膚に張り付いていたTシャツが、気持ちマシになった。

「水浴びしたいな」

ぱーっと。ホースから勢いよく出る水を想像した。

思い切り流されればスッキリしそうだ。

何が、とか、わからないけれど。


とにかく、さなかは帰りたくなかった。

新幹線の帰りのチケットも買っていない。

(今日どうしよう)

最後の一口を飲み干して、ペットボトルをギュッと握りつぶすと、1m先のゴミ箱に投げ入れた。

がこんとフレームに当たり、地面に転がる。

(あ、外した)

重い腰を上げて、丁寧に入れ直した。

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