第九話;暗躍の黒き刃が降り注ぐ。それは、影法師。
キャラ紹介
ビット・アークライト
主人公である謎の少年、ビット・アークライト。その正体は?極点に至る魔力10の魔術師。あらゆる魔術に精通しているものの、内なる魔力の少なさから、扱える魔術はない。しかし……?
使える技
・極点障置あらゆる攻撃を受け止め、弾くことができる最大10点の極点を任意の場所に設置する技。
・極点動薙受け止め、弾き飛ばす極点を高速で動かし、防御と同時に攻撃も行える技。吹き飛ばすことしかできない為威力はそこまでない。
・指刃圏指で描いた魔力の刃を空中に固定し、総べてを切り裂く絶対領域を展開する技。
アミシア・リューゲルト
魔剣士の少女。抜刀術と、至天六法による攻防両面の戦術で学内でも一位二位を争う麗姫。入学試験で自らの魔剣を指一本で止められ、ビットへの恐怖と尊敬を抱く。それを「恋」と錯覚しているが、自覚はない。度々後方彼氏ヅラをするところがある。
ルイン・エネモア
魔弾の魔術師。大量の魔弾を同時展開し、物量で押し切ることを信条としている。省エネルギーかつ正確な極点で迎撃してくるビットを「小細工」と嘲るが、心の底では認めざるを得ない。いつか完全な同時攻撃を成功させ、勝利を掴むことを新たな目標とする。
アミシアとはライバルであり親友でもあり、互いを高め合う存在。
セリオス・ヴァンデル
魔剣の魔術師。無数の魔剣を自在に召喚し、射出する。爆発で面を制圧するルインに対し、鋭い斬撃で点や線を制する戦術に長け、応用力は学院随一。その魔剣はただ硬いだけではなく、あらゆる魔術を拒む“絶対の刃”である。が、ビットに細切れにされ、傷心中。
――――――――――――
学園から離れた森深く。
ビット、アミシア、ルインの三人は、ここ最近の噂を確かめるため、結界の様子を見にやってきていた。
「おい、見ろよ。こんなところに穴があるぞ」
ルインが立ち止まり、振り返って二人に呼びかける。
「……もしかして、結界の楔を安置している洞窟かもしれないわね」
「行ってみよう」
三人は顔を見合わせ、小さくうなずくと、暗い穴の中へと足を踏み入れた。
洞窟内部は湿り気を帯び、ひんやりとした空気に満ちていた。だが、地面は不自然なほど滑らかに整えられている。
「やっぱり……人工的に造られた洞窟のようね」
「あぁ。ってことは、やっぱり結界の楔が隠されてる可能性が高ぇな」
ルインは不敵に笑みを浮かべ、再び前を向く。
「あの“人影”も、この先にいるかもしれない。……用心しよう」
ビットが声を落とすと、二人も真剣な顔でうなずいた。
奥へ進むほど外からの光は弱まり、やがて闇が視界を覆いはじめる。
ビットは手の中に極点を灯し、即席の明かりとして進んでいった。
「便利なもんだな……消費する魔力も1だけだし、危険性もほとんどねぇ」
「確かに。普通の灯りの魔術だと、ずっと維持してれば体内の魔力が削れていくのに」
ふたりが感心したように声をあげる。
「いや……実際には継続していれば、じわじわ消費はしていくよ」
ビットは静かに首を振った。
「え?じゃあなんで魔力量が10しかないのに……」
「しっ。……待って。誰かいる」
アミシアの問いを遮るように、ビットが鋭く声を潜め、二人を制した。
前方に、不動の影が立っていた。
仄かな光に照らされ、黒いマスクをつけた人物の輪郭が浮かび上がる。
「……あれは、ノワール・ディスヴェイル先輩……? どうしてこんな場所に……」
アミシアが低く呟く。
「チッ。こんなとこにいる時点で、黒確定だろ。捕まえて全部吐かせてやる!」
ルインは考えるより先に、衝動のまま駆け出した。
「待って! 一人じゃ危険よ!」
アミシアの制止は、すでに彼の背に届かなかった。
「ルイン!」
ビットが思わず声をあげた瞬間――。
ノワールがゆらりと手を掲げる。
次の瞬間、洞窟の壁や天井、地面に落ちた影から黒い槍が突き出し、一直線にルインへと襲いかかった。
「うおっ!?」
間一髪、ルインは身をひねってかわす。しかし槍は次々と生まれ、影の群れが波のように押し寄せる。
「影魔術……!」
アミシアが目を見開いた。
「この暗がりじゃ、いくらでも影を作れるってわけね……!」
「なかなか察しがいいね」
マスクの奥から、冷ややかな女の声が響いた。
「だけど、ここで君たちの冒険はお終い。――大人しく倒されてね」
影が蠢き、槍の雨がルインを囲む。
彼は防御の障壁を展開しながら叫んだ。
「クソッ、守るだけで精一杯だ! ビット、アミシア、援護してくれ!」
「……やっぱり、あなたが異変の元凶だったのね、ノワール先輩!」
アミシアが魔剣を構え、炎の陣を展開する。
その背後で、ビットは静かに息を吸い込んだ。
(影を自在に操る魔術……洞窟の中じゃ相性が悪すぎる。けど、その特性にも必ず隙はある……!)
極点の光が揺れ、影がより深く濃く広がっていく。
戦いの火蓋は、すでに切って落とされていた。
「ルイン、一人で突っ込むなんて無謀すぎよ!」
アミシアが横合いから飛び込み、魔剣で影の槍を切り払った。
「うるせぇ! だが助かった!」
背中合わせに立つ二人。だが、その隙をついて、アミシアの足元に影が走った。
「――しまっ!」
気づいたときには遅かった。彼女自身の影が鎖のように形を変え、腕と脚を縛り上げる。
「がっ……!?」
いくら魔剣を振るおうとしても、己の影は決して振り払えない。
「アミシア!」
ビットは即座に極点を展開し、光を弾けさせた。
瞬間、拘束の影が淡く焼き切れ、アミシアは膝をつきながらも自由を取り戻す。
「はぁ、ありがとう……でも、全部の影は消せないわね」
「だろうな。ここは洞窟、影だらけだ」
ビットは汗をぬぐい、ルインのもとへ駆け戻る。三人は背中を合わせる形で陣を組んだ。
雨のように降り注ぐ影の槍を、ルインが魔術の障壁で受け、ビットは極点障置で弾き返す。
アミシアも必死に切り結ぶが、防戦一方。攻めに転じる余裕はまったくない。
(このままじゃ、じり貧だ……!)
ビットの頭の中で、ある考えがよぎる。
だが、それを実行に移すにはわずかな時間が必要だった。
「ルイン、アミシア。……少しの間だけ、持ちこたえてくれ」
真剣な声に、二人が振り返る。
「おい、まさか一人で何かやろうってのか?」
「信じて。必ず突破口を開くから」
短く告げると、ビットは集中を深めた。
ビットには数多の術を扱えるだけの知識と、技能があった。しかし魔力量10の落ちこぼれ。
だが、彼にはもうひとつの道がある。
――大気に漂う膨大な魔力を、外から取り込む。
誰も試みたことのない、常識外れの方法。それは魔力量10しかなかった彼だけの技。他の誰も真似しようとすらしなかった方法だった。
空気が震え、髪がふわりと揺れる。周囲の魔力を一点に集束させ、影の流れを読み解いていく。
(……わかる。構造も、流れも。ならば――俺にもできる)
ノワールが再びアミシアの影を使い、拘束を狙った瞬間。
彼女の足元から、同じように黒い影が蠢き出した。
「なっ……!? この術は……!」
ノワールの瞳が見開かれる。
影は彼女の体をなぞるように伸び、逆にノワール自身の身体を絡め取った。
「ぐっ……!? ま、まさか私の影を……同じ術を……!」
抗おうとした彼女の手が震える。だが、相手と同じ技を操られることが、ノワールにとって最大の隙となった。
「ここで終わりだ!」
ビットの声とともに、影が首元を絡め取り――ノワールは意識を失い、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
重い沈黙が洞窟に広がる。
「……やった、のか?」
ルインが荒い息をつき、大剣を地面に突き立てる。
ビットは膝をつき、苦笑を浮かべた。
「……一発限り、だな。もう次は……無理だ」
勝利の余韻とともに、三人は互いの無事を確かめ合った。
しかし、その心の奥底では皆理解していた。
今の戦いでビットが見せた力は、ただの防御役ではない。――新たな可能性の扉を開いたのだと。
――――――――――――
キャラ紹介2
ノワール・ディスヴェイル
影を自在に操る影魔術師。
学院の制服を着ているが、口元には黒いマスク。やや長めの髪を結び、ミステリアスな雰囲気をしている。
その正体は、外部から送り込まれた侵入者。長期間、学院の上級生をとして潜伏していた。
歳は20。この学園のOB……ではない。別の学院のOBのため、知り合いが居なくて安堵している。
学院の防御結界を内側から崩壊させるため、各所の「結界の楔」に細工を施していた。今回の異変は彼女が仕込んだもの。