第八話:蠢く影 投稿する 保存する
キャラ紹介
ビット・アークライト
主人公である謎の少年、ビット・アークライト。その正体は?極点に至る魔力10の魔術師。あらゆる魔術に精通しているものの、内なる魔力の少なさから、扱える魔術はない。しかし……?
怪しい影に唯一気付きかけている少年。
――――――――――――――
学院に広がった“魔物出現”の噂は、もはや避けようのない話題となっていた。
結界に守られた学内に魔物が現れるなど、本来ならばありえない。だが、つい先日ジェリーが大量発生した一件を誰もが目にしている。生徒たちの不安は、もはや空想ではなく現実の延長にあった。
「また外壁近くで影を見たって……もう“噂”じゃ済まされないわ」
アミシアが食堂で小声を落としながら、唇をかみしめた。彼女の表情に浮かぶのは苛立ちと焦燥だ。
「学院側も動いてるらしいな。上級生の一部は見回りを命じられてるとか」
ルインがスープをかき混ぜながら応じる。軽口を装っていたが、その声には落ち着きがなかった。
「でも、もし結界に穴があるなら……」
ビットは視線を落とし、低く呟いた。
彼の言葉に、三人の間に一瞬の沈黙が落ちる。学院の防御結界は鉄壁の象徴だ。それが揺らいでいるとなれば、単なる事件では済まない。
「……確かめに行くしかないな」
やがてルインが椅子を蹴って立ち上がった。
「口先だけで怯えてたって仕方ない。どうせ俺たちは戦う力を持ってるんだ。なら、調べるくらいしてもいいだろ」
アミシアがわずかに眉をひそめたが、反論はしなかった。
「正直、私も落ち着かないわ。ジェリーの時みたいに、突然現れられたら――」
「……動こう。俺たちで」
ビットの言葉に、二人は強く頷いた。
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夕暮れ、外壁近く。学院を囲む森の奥、普段は立ち入りが制限されている区域に三人は足を踏み入れた。
木々の間から見える結界の光壁は、いつも通り淡く揺らめいている。だが――。
「……ここ、見ろよ」
ルインが足を止め、枝の折れた地面を指差した。土は抉られ、粘ついた液体が黒く染み込んでいる。
「……魔物の痕跡?」
アミシアが剣の柄に手をかけながら、険しい目を向けた。
それは以前、ジェリーを斬った時に残された残滓とよく似ていた。
「誰かが戦った……いや、通った跡か」
ビットが地面をなぞり、低く呟いた。結界の内側に、確かに魔物の存在を示す形跡がある。
だとすれば、単なる“噂”ではない。
と、その時――。
「……待って。あれを見て」
アミシアが森の奥を指した。木陰のさらに向こう、夕闇に溶けるように蠢く黒い影があった。
人のようでいて、形は歪み、輪郭は掴めない。だが確かに“魔”を帯びている。
「影……? いや、魔物……?」
ルインが息を呑む。
影は彼らの視線に気づいたのか、ゆらりと揺れ、音もなく森の奥へと消えた。
「……逃げた?」
「違う。――こちらを見ていた」
ビットは背筋に走る冷気を振り払い、アミシアの言葉を受けて静かに首を振った。
ただの偶然ではない。あれは確かに意志を持っていた。
そして――それが、学院に潜む何者かの手によって呼び込まれたものだと、直感していた。
「……確かめる必要があるな。これ以上は、僕も嫌な予感を放っておけない」
ビットは目を細め、口元に僅かな緊張を浮かべた。その瞳は、闇に消えた影を追い続けている。
「もう、ただの噂じゃ済まないわね……こんなところにいるなんて怪しすぎるもの」
アミシアの声には決意が宿っていた。
影が残した痕跡を前に、三人は静かに頷き合った。
学院を揺るがす事件は、もはや目前に迫っている――。
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キャラ紹介2
アミシア・リューゲルト
魔剣士の少女。嫌いなものは斬れないもの。
ルイン・エネモア
魔弾の魔術師。好きな物は肉とトマト。
セリオス・ヴァンデル
魔剣の魔術師。趣味は複数の魔剣を走らせ無軌道な動きから発想を得ること。