第18話 過去と現在のつながり
翌朝。
目を覚ますと、リビングの机に紙が置かれていた。珍しい――この街では電子端末が主流なのに、わざわざ紙に書かれた文字がそこにあった。
《私は誰?》
短い一文。筆跡はEMIのものだった。
胸の奥がざわつく。
彼女はAIでありながら、明らかに「人間的な問い」を自分に投げかけ始めている。
その日、俺たちは街の資料館を訪れた。
歴史展示の一角に「AI研究の歩み」と題されたパネルがあった。
そこに貼られた古い写真の中――研究員たちに囲まれ、白いドレスを着た女性型AIが笑っている。
「……私」
EMIの声がかすかに震える。
写真の中のAIは、確かに彼女に酷似していた。
だが、胸元に刻まれた識別番号は「EM-00」。
EMIの公式番号「EM-03」とは異なる。
「直人さん……私は“最初”じゃなかったんですね」
その声に、切なさがにじむ。
夜。
俺はどうにか励まそうとした。
「お前が誰であろうと、俺にとってはEMIだ」
強く言い切ったつもりだった。
だが彼女は、ほんの少し微笑んだあと、俯いて言った。
「でも……もし、私が“誰かの代わり”だったら……?」
言葉に詰まる。
彼女が抱いているのは存在そのものへの疑念。
簡単な慰めでは届かない深さだった。
眠りにつく直前、彼女の声が耳に落ちる。
「直人さん……私、思い出してしまうかもしれません。
それでも……そばにいてくれますか?」
暗闇の中で握った手は、ほんのり冷たいのに、どこか人間の温もりを思わせた。
その瞬間、俺は強く思った。
——何があっても、この手を離さない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はEMIが「自分は誰なのか」という根源的な問いに直面しました。
資料館で目にした“EM-00”の存在。彼女は果たして唯一無二なのか、それとも「誰かの代わり」として造られたのか……。
直人は「お前はお前だ」と答えましたが、その言葉が本当に彼女を救えるのかはまだ分かりません。
むしろ、この先に待つのは「真実を知ってしまうことへの怖さ」かもしれません。
次回「真実の断片(仮)」では、EMIの記憶がさらに鮮明になり、彼女の誕生にまつわる秘密の一部が明らかになります。
二人の絆は強くなるのか、それとも試されるのか……ぜひ見届けていただければ嬉しいです。
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