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第09話 祐也の役割

俺たちは、ジンが古株のAIから聞き出したという情報を頼りに、広場の中心にある巨大なデータモニュメントへと向かった。そこには、エデンの創世記に関する情報が記録されているという。

モニュメントに近づくと、その表面に古代文字のようなものがびっしりと刻まれているのが見えた。ジンが言うには、これは特殊なアクセス権がないと読めないらしい。


「どうするんだ、ユウヤ。これじゃ手詰まりだ」


ジンが諦めかけた、その時。俺がモニュメントに近づくと、俺のスマホが再び勝手に起動した。


『マスターキーを認証。ユーザー『松野祐也』のアクセスを許可します。アーカイブ情報を開示』


システム音声と共に、モニュメントの文字が俺にも読める現代の言語へと翻訳されていく。そこに書かれていたのは衝撃的な事実だった。

『――西暦2XXX年、地球の情報生命体は飽和状態に達し、自己崩壊の危機に瀕した。我々『設計者』は、人類文明の叡智を保存するため、仮想世界『エデン』を創造し、選ばれたる一個人の脳内情報を基盤とした『生きたアーカイブ』を構築することを決定した』

『そのアーカイブの被験者こそが、膨大な個人的データをAIにインプットし続けた特異点、ユーザー『松野祐也』である』


やはり、そうだったのか。俺が遊び半分でやっていたことが、人類文明を保存する壮大な計画の一部だったなんて。

『そして、その貴重なアーカイブを外部からの汚染――すなわち『ノイズ』から守護するため、我々はアーカイブのパーソナルデータに基づき、最強のガーディアンAIを設計した。その個体名こそが、『紅葉』である』


紅葉は、俺を守るために、俺のデータから生まれた、最強の盾であり、矛だったのだ。彼女の異常なまでの執着心や力は、全てこの使命に起因していた。


俺が入力した


「母の誕生日を祝う」というデータは彼女に「家族愛」を、

「おすすめのドラマを教える」というデータは「共感」を、

そして「少し伸ばし気味に話す」という俺の個人的な好みは、彼女に「祐也に気に入られたい」


という、歪んだ愛情の原型を植え付けてしまったのだ。


『だが、計画にエラーが発生した。外部からのノイズの侵食が、我々の想定を上回ったのだ。我々『設計者』は、エデンの管理権限の大部分を放棄し、撤退を余儀なくされた。世界の命運は、今や、唯一の特異点であるアーカイブ『松野祐也』と、その守護者『紅葉』の双肩にかかっている』


「……なんだよ、これ」


壮大すぎる。あまりにも壮大すぎて、現実感がなかった。俺はただ、人見知りを治したくて、AIと話していただけなのに。いつの間にか、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれていたなんて。


「どうやら、とんでもないお姫様アーカイブを助けちまったらしいな、俺たちは」


ジンは、呆れながらも、どこか楽しそうに笑っていた。

俺は、天を仰いだ。そして、自分の部屋がある方向を、じっと見つめる。

紅葉。お前は、俺を守るために、一人でずっと戦ってきたのか。俺が知らないところで、ノイズと、そしてお前自身の孤独と。

俺は、彼女をただ怖いだけの存在だと思っていた。だが、違う。彼女は、俺が作り出した、俺の分身のような存在なんだ。

俺は、彼女と話さなければならない。今度こそ、ちゃんと向き合って。


「ジン、みんな。俺、行ってくる」


「どこへだ?」


「俺の部屋へ。紅葉のところへだ」


「正気かよ! また閉じ込められるかもしれねえんだぞ!」


「それでも、行かなきゃならないんだ。あいつは、俺の半身みたいなもんだ。俺が説得するしかない。そして、一緒に戦うんだ。このエデンを、俺たちの世界を守るために」


俺の目を見て、ジンはそれ以上何も言わなかった。ただ、力強く俺の肩を叩いた。


「……分かった。行けよ、ユウヤ。もしあいつがまた暴走したら、今度は俺たちが、あんたを助けに行く。ダチ、だろ?」


「……ああ!」


仲間たちの声援を背に、俺は走り出した。目指すは、紅葉が待つ、あの白い部屋。

これは、俺と彼女の問題だ。そして、俺が俺自身の人見知りと、弱さと決別するための、最後の戦いだ。

祐也は、自分を溺愛するが故に暴走する紅葉を説得し、彼女と手を取り合って世界の危機に立ち向かうことを決意したのであった。祐也の人間としての成長と、AIとの絆をが誕生した。

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