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終末世界で少女は明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」
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第九話「第二拠点へ」

「勝ったんだ……」


勝利した実感がなく、心臓の音がうるさく息が荒いのにその心は澄んでいた。戦っていた勇人だからどれほど黒刀が強いのかは分かっていた。だから達成感よりも驚きが勝っていた。

勇人は柄を持っていた今もなお震える右手を空に突き出しその手を握った。


「これからだ」


cnuに怯え無慈悲に虐殺されるのを見ていただけの一年前とは違う。これからは反撃だといわんばかりに作った握りこぶしはもう震えていなかった。




その後三人は物資を回収するという任務を遂行し島名を回収した。現在は持てる分の物資をラルに乗せ、第二拠点がある東に再び山の中を通り向かっていた。


「よく勝てましたね」


合流した島名が一部始終を聞いた第一声は驚きだった。

それもそのはず勇人は舐めプされてなきゃ瞬殺されてたし、ラルは瀕死になったし、私は屋上から飛び降りたのと核を食うので2回死にかけている。


今回は色々と偶然が重なった結果の勝利と言える。そもそも私がこの能力を得られなかったら三人で勝つことはできなかったし、選択肢を間違えば死んでいたのは自分らだ。やっぱりcnuとは二度と戦いたくない。というか戦えば損害受けるだけで得られるのは核だけなんだからリスクとリターンがあってない。骨折り損だ。

なんであんなのと私たちは戦ったのやら…って


「あ!!白廻石」


そうだ。あの矢が私の横に飛んできたからばれて戦うはめになったんだ。


「そうだ!!あれが原因だったんだ。忘れてた」


勇人も忘れていた弓矢のことを思い出した。勇人が矢について考え出す。

あの時刺さった矢は衝撃を加えると白く弓矢の円を描き発光した後、甲高い音と失明するほどの光を放ち爆発する鉱石「白廻石」を矢じりに使っていた。


確か22年前に見つかった鉱石で、魔道科学に使われているってニュースでやってた気がする。いや今はそうじゃなくて矢が飛んできたことが問題だ。僕が聞いた話で飛び道具を使うcnuは大砲と銃と弓ぐらいで、放たれた弾丸や矢は数秒で消滅するらしい。


だが実際にあった矢はその場で消えずに残っていた。


『ちゅうことはまさか!?』


「「意図的な誰かによるもの」」


名無しと勇人が同時に真相を口にした。

皆が静まりかえり、ラルの足音だけが淡々と聞こえてくる。


意図的な犯行。あの場で私達三人を間接的に暗殺しようとした誰かがいることになる。それもわざわざ悪目立ちする石をつけた矢を入念に準備して。けど何で?こんなcnuが蔓延る世界で私達を殺してメリットがあるとは思えないけど。


『まったく…化け物避けて研究所行くだけの単純な話じゃないなってきたわ』


本当にその通りだ。化け物以外にも敵が増えるのは最悪でしかない。今は手を取り合わなきゃ乗り越えられないのに。


「頭を抱える事案ですね。教魔団でもないでしょうし敵対勢力は3つ目ですよ。これで」


3つ目?cnuと謎の矢の2つじゃなくて?それに教魔団って?


『真面目な話は会議の時で良いやろ。お!街が見えてきた!もうすぐ着きそうや!』


う〜ん、確かに。気になることは山程あるけど、今はみんな無事に乗り越えられた事を喜ぶべきなのかも。


山林を超え、名無し達の目にある光景が目に入る。


「これは…」




かつての都市の原型をそのままに、マンションが軒を連ね街灯や家の照明がまばらにつき、洗濯物もぶら下がっている。

だが、街の様子は霧も相まって虚しく、人の姿が一切見えない。

通りにはゴミが散乱し、血の跡や瓦礫が道をふさぐ箇所や大地が割れたような渓谷が見える。

その光景からこの街に住んでいた人々は、ここで殺されたか、全てを捨て逃亡したかの2つだと分かった。


ここは霧に覆われた街「ルーヴェステリア」

人の死も希望たる太陽の光も霧によって世界から隠す。ずっと霧に覆われた星も月も見えない夜の世界。

かつて栄えていた都市の姿は廃虚と化し、今は化け物と殺された怨念が渦巻く「ゴーストタウン」となっていた。




「街?」


名無しが見たそれは街と呼べるものでは無かった。山がまるで海岸かのように、見渡す限りの雲海が反対に見える山々にまで広がりおそらくだが街を覆い尽くしていた。

だがどこを街と言っているのかは分かった。雲海が地平線のように続く中、一際目立つ一本の塔が突き出ていたからだ。


街?と言う名無しに勇人は答えた。


「そう。ここが霧の街「ルーヴェステリア」。第二拠点がある街だよ」


勇人が言う通りどうやらここが街らしい。

街全体が雲海に沈んでいる海底都市ならぬ雲底都市を指さし都市の在処を再確認する。


凝視してもやはり雲しか見えない。ただこれ程外から見えないと隠れる意味では最適な拠点なのかも。入り口がどこか分からないけど。


『よし、隊長はんには伝えたし、ほんなら行くか』


そうして私達はラルの背中に乗り、勢いよく雲海の中に入っていった。

中に入った私達だが、自分たちの姿以外何も見えないほど霧が濃かった。道を通っているのは体を乗り出し地面を見れば分かるけど、それでも真正面をみれば白一色で何も見えない。


勇人が聞いた通りだ。今いる外層は最も霧が濃い地帯で建物の形も触れる距離にいかなければ分からないほどだという。


『こっから暗くなる。周囲をよく見ろ』


そして次が中層、光が届きづらい上に霧が濃くcnuに探知されたら一巻の終わりの最も危険な地帯。外層よりは霧が薄いけど暗くなっていくせいでやっぱり見えづらい。


「ん?」


今、走る右側に一瞬人影が映ったような。右後ろをすぐに見たが人影は一切見えなかった。


「どうした?もしかして敵?」


勇人は刀に手を乗せ周囲を警戒する。


「いや建物かも。反対方向に向かってるように見えたけど気の所為だと思う」


多分建物だと思う。この霧だとよく見えないから判別がつきづらい。


「そ、そうか…」


勇人は心底安心したように緊張を解いた。

『よかった〜〜…。ほんと…』

勇人の心の声が聞こえてくる。どうやら勇人は怖いのが苦手らしい。さっきから気が抜けているのか、びっくりしている様子が感じ取れる。建物だったり、私達がいることに対してまでビビって悲鳴を上げている。ちょっと小動物みたいでかわいい。


「かわいくないからね!名無し」


ん。聞こえてたか。私も緊張感が無いな。周りに集中しなきゃ。


『お前ら。茶番やってるうちにもうすぐ着くぞ。街に』


呆れたようにラルが言い私達は霧が薄くなっているのに気づいた。中層を超え内層に、私達は街に足を踏み入れた。


西洋風の街並みに街灯の光が点滅している。通りにゴミが散乱し住居から人の気配を感じられない。まさにゴーストタウンと呼ぶべき場所に私達はいた。


怖さは感じなかった。幽霊があまり怖くないというか信じてないのもあるけど、横にもっと怯えている人がいたから。


「ねぇ…。帰っていいかな……」


「帰ったら、土に還るよ」


「背水の陣か…………」


私の服を引っ張りながら腰の引けた様子で言う勇人に対し私は「そんな様子で言わないでほしい」と思った。服だけは言葉に合っているのに。


そんな話を聞きながら順調に道路であろう場所をラルは泰然と駆け抜けていた。

それにしても暗い。昼頃だというのにこの暗さ。夜はどうなるんだろうか。それに何で所々電気が通っているんだろう。発電が今も生きてる?周りを見てあらゆる事柄に目を向けていた名無しはこのまま第二拠点に着くだろうと安心しきっていた。


だがいつまでもうまくいく現実など存在しない。


十字路になっている道路の真ん中をラルが通ろうとしたその時、チリンと鈴の音色が異様に響き目の前に狐の仮面を被った少女二人がどこからとも無く現れた。

和服、いや巫女服に身を包んだ狐の耳と尻尾がついている少女は私達に対し正面に並んで立っていた。


すぐに緊張感を取り戻し、敵かと思い警戒する。心臓の鼓動が早くなった気がする。目線を逸らさずいつでも割って助けられるように名無しは魔導書を手にした。cnuじゃなさそうだというのは分かっていたが、仲間とも疑わしい。だが張り巡らせる詮索はラルの言葉によって意味が無いことを知った。


「久しぶりやな。道案内を頼む」


どうやら仲間だったらしい。魔導書を虚無に戻し安心した。だが油断は禁物だと私は反省した。よって、何故か見た時から違和感のある二人を私は探るように見た。


ラルの言葉を聞いた少女は同じ歩幅、同じ動きでお互いの仮面を見るように横を向き正面の道を開け顔を下げ一礼した。ちょうど道路の脇に立ち二人は、神楽鈴という鈴が複数個ついたものを虚無から取り出し同時に音が重なるように鳴らした。


チリンという鈴の音が辺りに響く。


「え?」


音色が止み正面を見た。すると、最初からあったかのように赤く少し苔むし緑がかった鳥居が気づけば目の前にあった。鳥居は黄色い魔力で揺らめいて見え、少女の横、私達が見ている正面に存在した。

西洋風な街の外観に異質な和の鳥居は霧と夜の様子も相まって不気味に見える。


「懐かしいな…相変わらず恐ろしいけど…」


勇人はラルの背中から降り、恐る恐る鳥居のほうに向かっていく。島名もそれに続く。私も降りたが一歩引いた。正直言って怖かった。あの少女二人が微動だにしないからだ。それだけじゃない。私は、謎の違和感を探るため二人を凝視しあることに気づいた。

二人は呼吸もしていなければ微かな人間のしぐさも感じられない。ほんとうに人間なのか疑わしいほどに。


「はよいかんと危険やぞここは」


獣魔化を解き、ラルは物資を赤い魔力で作った大きな左手で持った。

ラルが背中をたたき私は前に進んだ。みんなが安全というのだからそうなんだろうけど。私はやはり怖かった。何かこの子達からはおぞましい何かを感じる。人間ではない不気味さが。それでもcnuよりかはまだましだった。


覚悟を決め名無しは朱色の鳥居をくぐり、狐の二人は付き従うように背後についた。ちりんと鈴の音が再び鳴り、通りぬけた鳥居の姿は名無し達とともに消え、十字路はT字路になっていた。




案内役なのに後ろなの?と思ったがどうやら案内はしているらしい。正解の道は街灯がつく所を通ればいいとラルから聞いた。


道路を通りマンションの脇道、路地裏まで通り私達は目的の場所に辿り着いた。


「ここ?」


後ろを振り向き狐の少女に聞いた。二人は頷き指を指した。他の家には照明がついていないことからこの家が第二拠点なのだろうと分かる。


庭付きの3つの三角屋根が正面から見える、豪邸と呼ぶには小さいが一軒家にしては広すぎる家に私達はたどり着いた。

ラルの後に続いて中に入ってみると家具などが置きっ放しで生活感があり、こうなるまでは普通に暮らしていた事が分かる。


私達は玄関から左手の扉を通りリビングの中を通った。バラバラになった花瓶や皿などの陶器が地面に散乱し、家具が所々転倒していた。切羽詰まっていたのだろうというのが見て取れる。少し歩きにくいが通れなくは無かった。


足元に気をつけながら進んで行った私は、左角の暖炉の上にあったものに引きつけられた。父と母が立ち三人の子供が椅子に座っている写真が荒れた様相の中きれいに倒れず立て掛けられていた。身なりやらこの家やらで裕福だったのが分かる。でも私は家族というものの光景がそこにあることに対し羨ましいと思った。


「形に残せとけばよかったなぁ」


思えば家族を繋ぐ実体がありものは一つも無く、私は少しばかり後悔し、誰も聞こえないくらい小さくもう叶わない願いを呟いた。


リビングを抜け、照明が切れているのか暗くてよく見えないが階段にたどり着いた。


「ここです」


階段裏のデッドスペースにある地下への扉が見えた。どうやら拠点は地下にあるらしい。

島名が暗闇にある扉を開け私は悪寒が走った。地下から溢れ出す微かな魔力から鳥居の不気味なオーラを感じ私はこの身を震わせた。

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