表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で少女は明日を見る  作者: がみれ
第一章「希望の光と絶望の認識」
8/39

第八話「逆転ー信じる仲間ー」

体の内から温かい何かが込み上げてくる。感情のような曖昧なものでもないはっきりとした何かが全身に染み渡っていく。

これが魔力というものか。体の中に染み渡る内側の魔力と体の外に溢れ出す外側の魔力の2つを感じた。


適合は成功したらしい。


外側の魔力は自分の目からでも見ることができ、体から溢れ出すように金色の魔力を放っていた。客観的な視点で彼女を見るなら、金の魔力が身に覆われている少女は天使のように映るだろう。

そして、魔力の流れと同様に自身の能力がまるで産まれつき備わった体のように理解できた。


再生の書。金色の魔力を使い、失われた生命を蘇らせる魔導書。

使いたい魔法の章と節を開き、外側の魔力で魔法陣を描く。その後詠唱を行い任意の魔力を込め魔法を発動するらしい。


魔法と呼ばれるものの原理は不明だが、私は今まさに欲している超常の力を手に入れることが出来た。歓喜するにはまだ早いが生き残る活路が頭に浮かぶ。

この能力ならラルを助けられるかもしれないと私は手のひら返しに運命に感謝した。


そして能力を獲得した時納得するように何故この能力が生まれたのか理解できた。

この能力はきっと誰かを助けるために生まれた。私と同じような思いが幾重に重なり生まれたのだと。何故だかそんな気がした。


魔力や能力の情報が頭に入った後、意識が引き延ばされたような感覚が現実に戻った。一瞬の出来事は数分のように感じ、感情を静めあらゆる出来事を広域的に認識できた。

魔導書を手にした名無しは急いでラルの元に向かった。能力のおかげでしぶとくなっているとはいえ、命の灯火は小さくなりあと数秒で死に至ることは能力で測らずとも分かっていた。名無しは魔法陣を地面に展開し、そして魔法を行使した。


「亡失する血肉は慈愛の祈りに精を受け、願いは天へと至る。再生の書第一章三節ローラスアルフェルト。慈悲深き異界の天使よ!この願いを聞き届け再生の力を我が身に!」


手を傷口に乗せ、私は魔法を発動した。両手からラルに向かって魔力が流れ込む。金色の魔力はみるみる肉体を再生させ重症の傷は跡形もなくなった。一命をとりとめたラルは目を覚ました。


「ここは?」


意識が回復したラルは困惑した。

咄嗟に避けたとはいえ体を半分まで切られたはず。あれから助けるのは不可能。けれど実際に今肉体は原形を留めている。


理解不能な現状にラルは唖然とするしかなかった。黄泉の世界かとも思ったが頬を抓っても痛かったのでどうやら違うらしいというのが分かる。


剣と剣がぶつかる音が外から聞こえる。

勇人が戦っているのか。だったらワイも…


ともかくとして体は五体満足に完全回復し意識ははっきりしている。

ラルは立ち上がり手助けに向かおうとするも名無しに体を押され静止し、再び仰向けになった。


「少し待ってください。今戦っているのは勇人とあのcnuです」


自身の事に注視していたラルは横に名無しがいたことにやっと気づいた。


「だから、わいが行くんや」


再びラルは起き上がった。


「今じゃない。奴が攻撃を受けたのは奇襲のみ。正攻法ではまず攻撃すら当たらない」


「じゃあどうしたらいいんや!」


今できるのは自分も一緒に戦うことだと考え、語気を強めラルは言い返した。


「私に秘策がある」


そういい名無しはある計画をラルに伝え駆け抜けた。


勇人はcnuの足場を切り崩したり、宙に飛ばしたり色んな手を使いcnuの体勢を切り崩そうとた。しかし猛攻の甲斐虚しく、やはり全ての攻撃は弾きかえされた。


「勇人!」


再び名無しは屋上に上り勇人に合図をした。戦闘が激化する最中でもやはり名無しの声は勇人に届いた。


前と同じ光景だ。

灰色の雲と屋上にいる私の図はつい先日の出来事と酷似していた。けれど今の私には空一面に広がる灰色の雲がこれから晴れる未来を示しているように見えた。そして


「助けて」


私は屋上から飛び降りた。大の字に出来るだけ空気抵抗を受ける姿勢で落下する私は、少しの恐怖をこの身に受け止め、会ったばかりの仲間を信じた。


自分の身を投じるほどの信頼をその日会ったばかりの勇人にかけたのだ。


咄嗟の判断で勇人も名無しを信じた。コンマ数秒の刹那にて名無しの死とcnuの反撃を天秤にかけ名無しを救おうと決めたのだ。勇人は名無しを受け止めるよう一歩で数十メートルを飛び衝撃を与えないように建物に自分の体をぶつけゆっくりと名無しを抱きかかえた。


数秒の隙を逃さず、cnuは二人を殺そうと柄を手に取り漆黒の魔力を刀身に込める。勇人達に迫る剣は二人には止められない。


頼んだよ。ラル。

飛び出す彼を見て全てを信じ名無しは目を瞑った。

全てがこの一撃にかかっていた。




「私に秘策がある」


cnuにはおそらく意思がある。まず最初にこの中で一番脅威になるラルを消し他二人を放置し、その後不意打ちを受けたこと。

そして勇人に対してまるで遊んでいるかのように攻撃を受け反撃をせず終いには左手でリズムをとっている。これを見て意思がないだということはないだろう。であれば最後の一撃には致命的な隙が生まれる。なんてたって生き残り二人が死ねばそれで終わりなのだから油断したってリスクはない。だからこそ死んだはずのラルの攻撃は致命の一撃になる。


そういい化け物殺しの計画をラルに言い渡した。


「なるほど。ってほとんどわい頼みやないか」


「そう。だから」


ラルの右肩に名無しは手を乗せた。


「託したよ」




「はあぁぁぁぁ!!!!」


半月が地平線から姿を現しラルは人狼となる。その毛並みはあらゆる攻撃を弾き返す鉄壁の盾となり、更に増した腕力と鋭利な爪は敵を切り裂く矛となした。全身が人型のまま狼の姿をなすそれはまさに人狼だった。


ラルは不意をつくように地上からcnuに接近し、熊をも切り裂く鋭い爪をcnuの肉体の内部まで食い込ませた。


「くっっ……!!!」


だが体の半分、核の一部を損傷させ勢いは静止しcnuは校庭に吹き飛ばされた。すかさずラルは建物の角を掴み、それを推進力にcnuを追い勇人も名無しを地面に着地させたのち、戦闘に参加した。


致命傷を負ったcnuの起き上がる隙を与えずラルは悪魔のような両手を地面に押さえつけた。勇人はその隙を見て一瞬で距離をつめ剣筋を首にとらえた。そして押さえつけられ動けない相手にいとも簡単に刃筋が通り、首と胴体は離れ離れに切断された。


「まだ!!!」


名無しの言う通りこれでは終わらない。核を破壊しなければ肉体を限界まで酷使し奴らは命を刈り取ろうと執念深く襲い掛かる。


その考えに一歩及ばず、首を切られたら死ぬという固定概念が油断を生み、両手は振りほどかれラルは腹に数発のパンチを食らった。重いパンチにラルは片膝をついた。隙を見たcnuはその場から離れ、ラルを殺そうと剣を構えた。しかしそれを許さないように、間に入り力を使いきるつもりで刀を必死に振り続けた。


「わいもおるんや!」


立ち上がりラルも攻め始め、挟み撃ちになるように2人は立ち回った。剣は刀と拳は爪と相対し、二人はcnuが逃げる方向に移動しながら攻撃をし続けた。


そしてついに勇人の刀が肩をかすめcnuのバランスが崩れた。そこを逃さないとばかりに重みを乗せた拳をcnuに意趣返しの意をこめ叩き込み、反対からは数十の切り込みが体に刻まれる。


「「はぁぁぁ!!!!!」」


絶えまない2つの攻撃が肉体の表層を突き破り、どんどんと深層に接近する。噴出する血飛沫から損傷を与えているのが分かり、一撃一撃をさらに速く重くその体を切り裂くイメージを持って二人は攻撃していった。

そしてやっと光り輝く球体の黄緑色の核が二人の目に映る。cnuも窮地に立たされた状況に危機感を募らせ、自身よりも劣っている相手に追い詰められていることに苛立ちという感情が湧き上がる。


cnuは攻撃の手を止めさせようと悪魔のような真っ黒の手で二人の首を掴もうとした。だがその手は空を掴む。


核が見えた瞬間2人は下がり力と魔力を全力でこめた最大火力を叩きこもうと己の剣を構えた。勇人は相手の顔を真っ直ぐに捉える正眼の構えで刀を構える。ラルは重心を前にし前傾姿勢で核を正面に捉え右手の爪を前に構えた。


その光景は名無しがいる校舎側から正面に見え、緊張が高まる一撃に名無しは息を呑んだ。


勇人は純白の魔力を刀に、ラルは緋色の魔力を爪にこめた。この攻撃で終わらせるという意思を持ち息を合わせるように、刀と爪から流れる血が地面についたと同時に二人は技を繰り出した。


「斬魂一閃!!!」

「爪痕一閃!!!」


二人はコンクリートが割れるほど強く踏みこみ核に向かって、勇人は刀を横に左一文字斬りをし、ラルは右手を突き出した。二人の一閃は各々の魔力で光り輝き肉体を突き抜け核に到達する。だが寸前cnuも倒されまいと漆黒の魔力で核を囲うように障壁を展開した。


剣は障壁に苛まれるが二人は止まらない。その刃は闘志に満ちていた。揺るぎない信念が結界に亀裂を生じ始める。

3つの魔力、攻防のせめぎ合いが何人たりとも近寄せない暴風を吹き荒れさせた。


そして力の奔流に耐えられなくなった結界はパリンと音を立て消滅し、一閃は核へと至った。最後の生命線の防御を失ったcnuの核は、結界を砕いた勢いを残した一閃が中心に当たり損傷した部位から亀裂が走った。盾を失ったcnuは攻撃を止めるため矛をもって盾としようと勇人の首に刺突しようとする。


黒刀が勇人の首に迫る寸前、勇人は気づいていた。このままでは避けられないことに。それでも勇人は刀に力を込め続けた。名無しが命をかけてなしたチャンスを我が身可愛さで捨てるくらいなら自分の命をかけてみせようと勇人は刀をしっかりと握った。それに勇人もこの三人なら倒せると心のそこから信じていた。


「はあああ!!!!!」


最後の力を振り絞り、剣が首に触れ薄皮が斬られ赤い血が見えた瞬間、核はガラスが割れたように粉々になった。

核が壊れ、勢いそのままに二人の立ち位置が交差し白と赤の軌跡がcnuの前と後ろに形をなした。首に斬り掛かっていた右手にある黒刀が手から離れ、力がなくなったようにダランと手が振り下ろされcnuは仰向けに地面に倒れ込んだ。


それは誰から見ても明らかな勝者と敗者の図。つまりこの勝負


「私達の勝ちだー!!!」


名無しは目一杯の笑顔で喜び、歓喜の声を上げる。勇人とラルの二人は全力を出しつし疲労困憊にその場に倒れ込んだ。


この残酷な世界で勝利を手にしたのは世界の9割を殺した現時点での頂点捕食者cnu。ではなく、恐怖を乗り超え仲間を信じ、下剋上を果たした勇気ある三人の人間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ