第六十八話「最短のイカれた能力判別」
東谷の眼光が強まる。
首を締める手にさらに力がこもる。
対する鬼の仮面は東谷の腕を掴んだまま。
互いの目がしっかりと合った。
その二人の視界に別の人物が現れる。
「それ、もらうね」
東谷の腕にキューブの手が伸びる。
白くなったその手は閃光の如き光を放つ。その中で東谷はさらに深い笑みを浮かべた。
「じゃあ、くれてやるよ」
鋭い目つきにキューブは小さく口を開ける。
東谷は腕を引き、体を捻った。そして、金棒でも振るうかのように鬼の女を放り投げ、キューブにぶつける。
手を引き、抱きかかえるようにして受け止められたが、ずっしりとした重みにキューブは吹き飛ばされ、床に着地した。
東谷はそのまま空を蹴り、天翔と一柳の前に立った。
「リスウェル。伝えろ。あの王様気取りは俺様と天翔でやる。根暗野郎は鬼仮面と、ってな」
「おい。いきなり来て、勝手に決めるな。相手との相性も分かってないだろ。大体俺は嫌だぞ。一対一なんか」
「知るか!!俺様は俺様の指図にしか従わねぇ」
東谷は鬼の金棒を虚無から取り出す。
金棒を振り下ろし、床にめりこむようにして地面につける。
すると、東谷の周りに緑色の魔力が揺らめいた。
その直後、魔力は四角く形作った。まるで、東谷自身を閉じ込めるように。
金棒を引きずりながら進む東谷に、キューブもまた一人前に出る。
抜けた床の対面で静止する二人。
気の抜けた様子であくびするキューブの一挙手一投足を、東谷は目で追わない。
空気が歯の隙間から漏れるように息を吐き、まばたきも一切しなくなった。
沈黙が続き、キューブはやっと東谷の目を見ると先に言葉を発した。
「ねぇねぇ、やめない?」
「………」
東谷は返答しない。
対し、キューブのまぶたがピクリと動く。
「はぁ…めんどくさ。戦う前に喋ろうよ。人には言葉があるんだし」
「言葉が要んのか?敵同士」
まるで殺意のこもった目で睨みつけ、東谷は金棒を自身の肩に置く。
瞬間、東谷の魔力が解き放たれ、通路が緑色に染められた。
「構えろ」
「………」
その言葉にキューブは頭の上の王冠を掴み分解。
両手に魔力を纏い、半身に構える。
一直線の通路と両側どちらも絶え間なく続く部屋の数々。
両者が建物の構造を何となく認識した。
その瞬間、東谷が飛び出した。それとほぼ同時、天翔はキューブから見て左手側の部屋に入り、扉を閉める。
金棒を大振りに振るう。
それにキューブは左足を一歩横に進め、その足を軸に体を捻る。右足を回転させすれすれで回避。
体の向きを東谷と交差するように向け、身を屈めると体を前に。
右手を金棒、左手を東谷の脇腹に近づける。
「その程度?」
心臓の鼓動も聞こえないキューブは涼し気に顔を見上げ、東谷の表情を見る。
だが、余裕そうな表情とは一転。
キューブは一瞬息を止め、動きを止めた。
同時、キューブの背後にある壁が破壊される。
体勢そのままに振り返ると、そこには瓦礫の隙間から突出する一本の短刀が、キューブの首目掛け真っすぐ迫っていた。
(もう一人の。まぁ、別に想定内。だけど)
キューブは東谷の表情の真意に思考を巡らせる。
矛と盾の役割を担う外側の魔力に意識を向けるのが本当に正しいのかと。
(空間を把握するにも膜の展開は難しい。やるなら層)
それは自らの感覚で何となく分かっていた。
水いっぱいに入ったプールの中、厚い空気の層に包まれている自身が、薄い空気の膜を外側に放ったところで膜はすぐに形を保てず崩壊し、迫りくる水の刃に気付けないことを。
だが、解決策はないわけではなかった。
その水の刃は自分の周囲だけの空気の層に触れた瞬間、確実に気づく。
であれば、察知し体に刃が到達する前に刃をバラバラに分解すれば何の問題もない。
(方向が分かってるなら二つは確実に対処出来る。でも、その馬鹿にした表情はなに?何か策があるの?)
上から見下ろすその目に、追い詰めていたはずのキューブの顔から汗が滴る。焦りのあまり目線が泳ぐ。
短刀は外側の魔力に触れる寸前にまで迫っていた。
キューブは目を瞑る。
そして、汗を吹き飛ばすように笑みを浮かべた。
「分かんないや」
白くただ白く閃光が通路を埋め尽くす。
東谷の魔力などないものとするように魔力を押しのけ、暴風を引き起こした。
東谷と迫りくる短刀が吹き飛ばされる。
壁を貫通し部屋の奥まで、いとも簡単に吹き飛ばした。
キューブは指先を弾き、魔力の解放を止め風を鎮めた。
「小細工があったのかも知らないけど、結局全部無駄」
すぐに立ち上がり、部屋の中を駆け近づく東谷。
それを壁越しでありながらキューブは目で追う。
東谷は壁を豪快に壊した。
瓦礫の中、いつの間にか持った天翔の短刀でキューブの腹目掛け東谷は手を伸ばす。
だが、すれすれで後ろに避けられる。
「意味ないってだから」
薄目で東谷を見て、キューブは言う。
それにがっかりしたような冷めた表情を東谷はした。
「お前、頭使ってないだろ」
キューブの右足に衝撃が走る。
床が砕かれ、下から飛び出した鋭利物が素足に突き刺さる。
ひりつくような痛みを感じ目を見開く。
痛みの反応で足を上げ、突き刺さったものが目に入った。
「なッ……いつ」
それは緑色の魔力の短刀だった。
魔力を足に集め、バラバラに分解するも血は足裏に垂れていく。
正面を向くと、金棒を手にする東谷が。
間髪入れず、金棒が頭部目掛け振るわれる。
キューブは自ら金棒に触れ、金棒の上部を分解。
片足で地面を蹴り、距離を取る。
東谷はその場で止まり、天翔が壁から出てくるのを待った。
「いつだろうなぁ?足りねえ脳みそで考えろ」
「……そっちの人が壁壊した時か。それ以外に壁を破る音無かったし」
通路に出てきた天翔にキューブは顔を向ける。
「まぁ、そうだね。それで東谷、能力は分かった?」
「いいや。けど、ありゃ能力発動に魔力の溜めが要んなぁ。属性に関しちゃ相反でも同属でもねぇ。ちゃんと反発も干渉もしてる。あと、魔力の解放を渋ったってことは底なしの魔力じゃねえかもな。ま、でも一発受けたら大体分かんだろ」
キューブが鬼の仮面の女に耳元で囁く。
すると、通路を真っすぐ音を消して駆け抜ける。天翔と東谷はそれに目もくれず横を通るのを許した。
「全く無茶するよね」
「こんぐらい無茶じゃねえよ」
投げ渡された金棒を天翔は抱える。
東谷は武器を持たずに走り出した。
一直線に近づき、拳を振るう。
キューブはその拳を包み込むよう手のひらを広げた。
魔力が集まり、白く手が光る。
そのまま両者の手がぶつかった。
ように見えたその寸前、東谷は手を広げた。互いの指と指を合わせるように接触する。
案の定、キューブに触れた指の先端、第一関節まで五指が分解される。
東谷はそれをまばたきせず見続ける。すると、揺らめきながら形を大まかに保つ小さな斬撃が目に入った。
一指三分割ずつ血と肉と骨が意図も簡単に断たれ、東谷は手を引き天翔の元に飛んで戻った。
出血を抑えるように傷口を片手で押さえ、東谷は俯く。
「は、ははは。こりゃいい収穫だ」
目をかっぴらき、ギザギザの歯を見せるように東谷は野性的な笑みを浮かべた。
「なぁ、知ってるか?能力扱うための魔力の動きとそれ以外の自分で動かす魔力の動きと精度ってのは完全には一致しねえって。まぁ、当たり前だよなぁ。能力は最初っから達人みてえに使えるのに、魔力関連の技量は鍛錬しねぇと上手く扱えねぇ」
傷口を覆う手を外し、大量の血が地面に流れ落ちる。
「何を言っているのかな?」
天翔は東谷の手を持つと、自身の魔力で出来た緑色のボックスの中に入れた。
数秒経ち、天翔が手を引く。
すると、東谷の五指が何もなかったかのように再生していた。
「再生……」
「ま、つまり言いてぇのは、切断以外が能力なんだろ?ってことだけだ」
目を見開き、キューブは自身の胸に手を当てた。
「東谷、それはどういう」
「触れる寸前、手と手付近の魔力ががっちり固められた。切断箇所以外だけな。それも荒い斬撃と違って異常な精度だった。要は体全体で扱う外側の魔力を切断部分だけ俺から切り離して、外側の魔力の防御を完全に消してるってことだろ?」
「……ッそういうことか!そしたら内側の魔力だけで防ぐだけになった肉体は斬撃に対処できな…いや、つまりそれって」
「ああ。切断だけに関しては完全にあいつの技量だ」




