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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第六十七話「俯瞰した知略」

 地上海岸沿いにて。

 荒れ狂う波と嵐の如き暴風の中、鬼の子海へと飛び出す。


 待ち構えるのは特殊型魂喰霊「クラーケン」。

 岸を掴み地上に足を伸ばし、堅牢な施設の四つは潰れ、引き戻す足は数多の建造物を海にかっさらい、更地を作り上げた。


 岸を掴む足は六。

 地面を抉り、作り上げた穴に引っ掛けた足で地上に自身の身を寄せ、黒霧に包まれたクラーケンの頭が浮かび上がる。


 互いの目が合い、その瞬間、カチャっと鞘に入る刀の音が海上に響いた。


月光げっこう天月あまつき


 周囲一帯が暗闇に包まれる。

 しかし、何も見えない黒ではない。空から微かに光る七つの月光が互いの顔を照らし、クラーケンがまばたきする。


 そのまばたきの一瞬で天に浮かぶ三日月の斬撃が海上へと落ちる。


 岸を掴む六本の足と頭に、相応の大きさの斬撃が直撃。


 輝夜は空中を足場に飛んで戻り、地上に着地した。


 遅れて、地面を震えさせる衝撃と轟音。

 斬撃はクラーケンの足を海に叩きつけ、見上げるほどに巨大な波が地上に押し寄せた。


 輝夜はその波に対し、さらに上へと地面を踏み込み飛び上がる。


 そこで切り傷もつかないクラーケンの足が上から見え、輝夜は柄を逆手に取り刀身を見つめた。 


「時間稼ぎは造作もない。が、魔力が持たないな」


 刀身から揺らめく魔力が輝夜の手から肩へと這い上がる。


 輝夜は目を瞑り、まゆをひそめた。力を込め、震えた腕で力いっぱい刀身を鞘に納めようとする。それに合わせ刀身の魔力も刀に戻っていき、完全に刀が収まった。


(いっそのこと核を狙えればいいが)


 背後を振り向く。正面から来る銃弾に魔力を込めた手刀で逸らし、海に落下。まるで大砲が落ちたかのように海水が天へと噴き上がる。


 波が収まり、濡れた地面に降り立つと輝夜は柄に手をかけた。


「ここで止めねば、貴様は地下を追うのだろう?より大きな魔力を求めて。ならば、ここから先通すわけにはいかない」


 刀をクラーケンに向け輝夜雫は堂々と言う。


「リスウェル。時が来れば合図を出せ。私も地下に退避する」


 巨体の影が輝夜に差し掛かる。

 クラーケンは海を抜け、空を飛んでいた。上を見上げなければ、全体がつかめないその巨体に輝夜は臆せず前へ進む。


「承知いたしました」


 輝夜の言葉にリスウェルは姿を消した。


 ◆ ◆ ◆


 地下での名無したち一行にて。


 亀裂状に光る通路の床。その光は細かく分解されたキューブの集合体によるもので、荷重に耐えきれず足場は簡単に崩落した。


 言葉を介さず、ルプスに抱き抱えられ名無しは離れないよう服を強く掴む。


 そのままの勢いでさらに地下へ、次の階の床も同様に崩れて落下していく。


(私たちの目標は戦いに勝つことじゃない。生存と帰還。勧誘と生け捕りは二の次)


 ポケットからモゴモゴと動き、リスウェルの人形が浮き上がると名無しの耳を掴む。口を動かさず小声で人形は言葉を発した。


「ダブレス様が戦闘地点から離れ、最下層へ。目的地点へは後二秒でございます。いかがいたしましょう」


 一秒、目を瞑る。

 苦悶の表情を浮かべ、名無しは苦しそうに声を出した。


「続行」


「続行って?」


 食い気味に言うキューブ。

 手に白い魔力が宿る。その時には、一柳は泥の剣を握っていた。


 白い光が消え、地面の分解が止まる。

 皆の足が床につく。しかし、純粋な落下の衝撃に床が耐えきれず割れ、全員がさらに下の地下通路に足先をつける。


 瞬間、リスウェルの言葉とともに皆が動いた。


「今です!!」


 腰を落として足を踏み込む一柳。

 その足先から泥の魔力が洪水のように沸き起こり、キューブの方へ通路いっぱいに押し寄せる。


 すぐさま一柳は下がり、天翔が前に立った。

 手元に魔力の塊を浮かべ、天翔はそこから魔力の短刀二本を取り出し、構える。


「名無し。これから話す作戦によっては、俺たちは無理だと判断して指示には従わない。が、お前だけは最下層に向かえ」


「分かってる。相当な無茶だけど頼んだから」


「ああ、やることはやるさ」


 名無しは地面に降りると駆け出し、ルプスの背中に飛び乗った。


 そのまま加速しすぐに天翔たちは見えなくなった。


「戦闘面は任せる。私は」


「皆に作戦を伝える。でしょ?」


「そう。多分伝えられたのは、リスウェルの合図でキューブの進行を止めて、あとは時間稼ぎ。私とルプスは離れてダブレスのもとへ向かう、ぐらい。だからリスウェル、皆に伝えて」


「かしこまりました」


 人形を握りしめ、名無しは口を開く。

 これからの作戦について。


「現状、私たちの目標は特殊型魂喰霊クラーケンの探知外だと予想される最下層への退避。けど、全員が今、そこに逃げ込んでも輝夜を追ったクラーケンに私たちが見つかり、最悪地上への退路を完全に塞がれる。よって、現状判明している地下三か所での戦闘」


 リスウェルを通して伝えられた各戦闘地点と相対する者たち。


 地上に最も近い上層での「カイ VS アリア&リスウェル」

 中間層での「黒仮面&鬼仮面 VS 東谷」

 東谷の戦闘場所より二階分高い中間層での「キューブ VS 天翔&一柳&リスウェル」


「その内の一つ、キューブとの戦闘を何としてでもその高さで維持する。それが出来れば、輝夜の登場とともに天翔たちは交代、最下層に退避。この時点で他二グループは最下層付近に居ててほしい。輝夜は天翔たち退避のためキューブとクラーケンを相手取って時間稼ぎ。リスウェルを介した合図で地下を追ってきたクラーケンの標的をその時点で最も魔力を持ってるキューブに変えさせたら、輝夜も合流。全員が最下層でクラーケンが去るのを待つ、が一連の流れ」


(ただ、特殊型魂喰霊の人間を襲う優先度が魔力の内包する総量なのか、外側に溢れる魔力なのか、人の多さなのか、熱源を見るのか。これに関しては賭けでしかない)


「撤退指示は私かリスウェルが出す。目安としてはキューブ以外の二戦闘が最下層付近に敵を誘導し、いつでも最下層に退避可能な状態に持って行ったのち、どれか一つが続行不可能とリスウェルが判断した時、もしくは私がダブレスと交渉を終えた時、順序別に撤退。これが作戦」


「すごッ。私には何が何だかさっぱりだわ。考えられすぎでしょ」


「ううん。この作戦は死神とダブレスがどう動くかを考慮出来てない。輝夜と私たちがその二つに対応できなきゃ、いやそれより誰が欠けてもこの作戦は詰みだ」


 ◆ ◆ ◆


 天翔たち一行にて。

 リスウェルから耳元で作戦を囁かれ、一柳はため息をつく。


「はぁ……こりゃほんとに相当な無茶だな。帰りてぇ」


 一柳はゆっくりと歩き、天翔の横に立つ。

 泥の剣を構え、睨んでいるように見えるほど薄い目で動かずこちらを見るキューブを捉える。


「で、どうだって?」


「合図が来るまでこの階に奴を殺さず留める。時間稼ぎだ」


「はは、そりゃ無茶でしょ。手加減しながら戦える相手じゃないって」


 乾いた笑いで言う天翔だが、その目はずっとキューブを捉えていた。


 伸びをするキューブ。それに合わせ、飛び出した二人は剣を振るう。その寸前、二人は足元に目を向ける。敵の目の前で互いに顔を見合わせ二人は一歩を強く踏み込むと、後ろに距離を取った。


「駄目か。私って演技下手だし。そりゃ、そうだよね」


 二人が次、踏み込むはずだった通路の床が光り、崩れ落ちた。


 それを見て二人は眉一つ動かさない。汗が滲みもしない。


 この盤面上で勝機の一切を見つけられず、踏み込む隙さえ敵に委ねるしかない状況にいるにも関わらず二人は冷静そのものだった。


「流石に思うんだけどさ」


「ああ」


「二人は無理でしょ」


 一柳は背後を見る。

 そこには直立不動のリスウェルの姿はあるが、戦闘に加わる様子は見られない。


 それを確認すると一柳は魔導書を左手に持つ。


「弱音。今言うことなのか?それは」


「言いたくなったんだよ。無視していい」


「……あの女の能力は何だと思う?」


「単純に考えれば物体をキューブ状に変換か分解する能力かな。反発無視して分解する感じ、僕との属性相性は相反に近いと見ていいと思う。ざっくりと僕が創造系であっちが破壊系だったら能力自体も筋は通るし」


 右手の短刀を上に投げ、天翔は緑色のキューブに右手を突っ込む。


 そこから三本の同じ短刀を指の間で持ち、落ちてきた短刀を残った指の隙間でキャッチ。左手の短刀を逆手に持った。


「それなら厄介。触れられたら終わりなんて打つ手なしだ。けどな、分解した後建造物はともかくクラーケンの血がキューブ状になったままだったのはどうにもおかしくないか?」


「…確かに流体を無理やり固体にし続けてるなら無駄な魔力を消費をしている」


「おまけに暴風並みの魔力解放でその血は飛ばされたのに、キューブの背後には血のしみがあった」


 一柳が言い終わる。

 その頃、キューブは真っ白な手を壁に突っ込み、そこから手持ちサイズの立方体になった石を取り出していた。


「じゃ、私行くから」


 キューブは地面にそれを勢いもつけず落とす。

 瞬間、轟音とともに地下が揺れた。その場にいる三人は上を見上げるが、その音は下からだんだんと近づいて響く。


 皆の視線は下を向く。

 明らかに天井をぶち破りながら進むその音に、キューブは落ちている石をそのままに飛ぶようにして後ろに下がった。


 石が床に落ちる。

 その瞬間、石は跳ねるように天井に飛び、床は粉々に割れ、首を掴まれる鬼の仮面の者と好戦的な笑みを浮かべる男が下から現れる。


 それに天翔は口を大きく開け、こう言った。


「東谷!!」

定期更新ですが、大学が始まるので継続できるか怪しいです。

なので、週一投稿なら金曜日に投稿します。

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