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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第六十四話「精神の理解」

「絶対にルプスを助ける。そのために、リスウェル。手を貸して」


「お任せください。ご主人様の望みを叶えるのがメイドでございます」


 東谷と別れ、名無しはルプスを目指す。

 リスウェルの人形が曲がり角で指さす、薄暗い通路を駆け抜けながら。


「こちらに」


 その間、名無しの心情は穏やかではなかった。


(私がルプスを一人にさせたんだ。見知らぬ土地でただ一人。私が冷静じゃなかったばっかりに)


「ルプスの運命を変える。そのために守るって誓ったのに」


 拳を強く握りしめ、名無しは汗を飛ばすように勢いよく前を向く。


 そこに待ち構えるのは数多の蠢く機械の軍勢。属性検査した時に見かけたのと同様の、銀色の光沢を放つ機械たちが通路を埋め尽くしていた。


(だから、これ以上一人になんてさせない)


 黄金の書を右手に持ち、名無しはそれを前にする。


 風が吹くように頁が開かれ、体の内から黄金の魔力が溢れる。


 気味が悪い機械を前に名無しは足を止めず、なおも加速する。


「強行突破。一秒も無駄には出来ない」


 襲い掛かる機械たち。

 それに立ち向かうまるで既にそこにいたかのように数十に増えたリスウェルの分身。


 互いが通路を駆け抜け、激突する寸前、先頭の機械の伸びた腕から炎が振りまかれる。視界はオレンジ色に。何も見えないその渦中へと耐え難い熱を感じながら名無しは炎の海へと踏み込んだ。


 目をつむり、視界が阻まれる前の光景を思い出す。


 体勢を低くし、重心を前に。名無しはそこにいるであろう炎の大本の機械の顔面めがけ下から右こぶしで殴りつけた。


 炎が逸れ、視界に映り始める光景。

 それは針のような鋭利物が眼球に触れる悪夢のような光景だった。避けれず捌けず、その針は確実に目に突き刺さると名無しは理解した。


 貫通し、血を流し、立ち止まる未来が頭によぎる。


(怖い……けど、立ち止まれない!!)


 殴った右拳は戻せない。左手で機械の腕を掴もうと名無しは意識もせずに動かした。


 しかし、針は突き刺さった。左手は腕を掴めず、針が引き抜かれるとともに眼球が地面へと落っこちた。


 べちゃっという音と次に血が地面に流れ落ちる。両腕は脱力するようにぶら下がり、全身から噴き出る汗と混濁する意識によろけそうになる。


 地面に手をつきそうになったその時、名無しは自分の頭のこめかみを殴りつけた。そして、淡々と感情のないように虚ろに詠唱を始めた。自分の意思で立ち上がって。


「亡失する血肉は慈愛の祈りに精を受け、願いは天へと至る。再生の書第二章三節"慈悲の大いなる天涙"。慈悲深き異界の天使よ。この願いを聞き届け再生の力をわが身に」


 光の羽が通路に降り注ぐ。

 名無しの背に天使の片翼がつくも、その目の奥にあるのはどす黒い感情だった。


 羽が無くなった眼球の前にひらりと落ちる。

 すると、失った目に羽が一つ、二つと突き刺さり片目全体が白くなるほどに密集した。


 やがて、それらは落ち、失った目は完全に再生し元通りとなった。


「よくも、ルプスを。いや、言っても無駄」


 機械を前にし、名無しは立ち止まった。

 その瞬間、名無しは自分の頬を思い切りビンタした。心からの怒りが薄まり、何も感じなくなっていくのが感覚で感じたのだ。まるで、ダブレスの機体を壊した後のように。


(駄目だ。この精神じゃ。怒りに飲まれて我を失うのも、無感情で立ち止まるのも、臆病で動けなくなるのも。理想は各々の狭間)


 深呼吸し、全身に意識を集中する。


(冷静に、機転を回し、感情を源泉に動くように)


 次々分身がやられていくのを見ながら、リスウェルの人形をポケットにしまい、名無しは両目をつむる。


 本来、気配を消すのは戦闘中、特に傷を受けた状態じゃ出来ない。意識は少しでも傷口に逸れるからだ。だが、無感情の感覚を得た今の名無しは少し違った。


 魔導書を消し、背中の天使の羽が散って、黄金の魔力が揺らめく。


 魔力は体に密着し、体から離れるように薄い膜が広がった。割れないシャボン玉が膨らみ、機械たちをシャボンの中にいれるように。


(捉えた!魔力と精霊の小さな粒!)


 暗闇の中、光り輝くホタルのように浮く様々な色の魔力。それらを繋げる無色透明の精霊の存在。


 その二つを名無しは感じ取った。


 メニャから習った気配の消し方その一。

 空気中を漂う小さな魔力を膜で捉え、自身の魔力がそれに当たらないよう操作しながら進み続ける。それも内側に自身の魔力を抑えながら。


 人の目は身体能力同様魔力によって強化されている。実際、それらは大概魔力の動きを捉えることに特化している。


 それによって常人の域を超えた速度を魔力を捉えて見ることが出来るのだ。


(もし、機械が魔力を捉える目で魔力を持たない物体を無視するのだったら、魔力の反発もない私は空気と同じなはず!!)


 名無しは駆け出した。

 視界に頼らず、目をつむり、漂う魔力と精霊を避けながら交戦するど真ん中に踏み込む。人ひとり分通れるか、ぎりぎりの隙間を縫いながら入り込み、目の前に迫るハンマーにスライディングして回避する。


 気配消しをものにした名無しに、横を通る大体の機械は気づかない。


 しかし、名無しの姿が消えたわけではなかった。


「リスウェル!!」


 その先で五丁は向けられる銃。

 着弾地点を見るため、半目を開き、弾丸がすり抜けるように体を通る。


 立ち上がり、後ろから襲い掛かる顔のない機械に去り際、手首を斬られた。

 出血し大量の血が流れる中、名無しは前だけを見ていた。


(あと、五体。ここを抜ける!)


 ギザギザと刃こぼれした刀を壊れた機械のように振り回す一体。薄皮一枚の顔の傷を受けるだけで収め、回避。


 その他鉄球を持つ二体をリスウェルが天井を経由して運び、回避。


 残る二体が銃を向けるも、目の前にリスウェルの分身が銃先に出現。


 リスウェルが身代わりとなり、名無しは機械の軍勢を抜けた。


 肩を掴み、そのまま背に乗って名無しは荒々しい呼吸を肩を上げ下げし整える。まるで人魚のように空中を飛ぶリスウェルに掴まり。


「ルプスはあと、どのくらい?」


「もう見えます」


 曲がり角を右に曲がり、行き当たりの正面の扉でカチャっと鍵の音がなる。


 そのまま、ドアノブに手をかけるリスウェルだったが、その体はすり抜ける。


 勢いそのまま、奥にいるもう一人のリスウェルに激突し両者どっちとも消失した。


 そのまま、落っこちる名無しがドアノブに手をかけ、引くと天翔たちの姿があった。

 

「無事みたいだね。そっちは」


 穴が開き、斬られた服の隙間から血のしみが広がっていくのを見ながら、天翔は出会ったころと変わらない平然とした様子で言う。


「ルプス渡して!!」


「そうだね。思ったより深刻そうだし」


 地面に寝かせたルプスに魔導書を取り出す。

 天使の片翼が背中に付き、天から羽がルプスの全身に降りかかる。


「それって詠唱無しで使えるの?」


「もう詠唱し終わってるから、同じ魔術だったら何回でも取り出せる。それで、聞いた?リスウェルから」


「まぁねー。でも、とりあえず地下を目指すのでいいんじゃないかな?」


「それが最善手になります」


 ルプスの前に気配もなく現れたリスウェルが真剣そのものの声色で言った。


 顔を上げると、薄目だった両目は開かれ、白と黒のぐるぐるとした目が不気味に名無しは感じた。


「構造分かった感じ?」


「はい。地下に行くほどフロアは狭まり、最下層に行けば特殊型魂喰霊にも探知されないでしょう。ただ」


「問題は敵さん方か。ダブレスが機体を移し替え続ければ殺さない。その上、敵はそれだけじゃない。これはもっともっと戦況が悪化するだろうね」


 天翔は考えこみながら、上を向く。

 すると、その時通路の天井にあるスピーカーからノイズが流れコンコンとマイクが叩かれる音が聞こえた。


「「えー、ピンポンパンポーン。こちら、教魔団副役巧者の一人。死神君でーす。助けが欲しいって連絡受けたので暇な僕が来ました。陣営はイロドリミドリ。地上は大変。仲間は見分けがつかない。ってことで、地下にいる全員殺して死体は回収。そういう流れになったことをお伝えしまーす。ピンポンパンポーン。あ、あともう一人来るよ」」


 可愛らしい幼い少年の声が軽快に通路に響く。

 教魔団。その言葉を聞き、天翔の顔が引きずる。


 名無しは白い羽で覆われたルプスを抱き抱え上げた。いまだ、傷口を治さず手首から血を垂れ流しながら。

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