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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第六十話「最愛なる者のため」

「それで二属性ってやっぱ珍しいの?」


 さらに暗く、電灯がバチバチと音を鳴らし照明はあまり機能しなくなる通路で足音が響く。


「当たり前だ。異属性の魔力が回路を流れれば魔力の反発性質で体は破裂する」


「じゃあ、なんで私は」


 その時、地面に振動が響き、頭上の照明の光がバチンと音を立て消えた。


「ん?」


 後ろを一瞬振り向くが、ダブレスが横切るのを見て名無しも振り返り、足を動かす。


「おそらく、その体には魔力回路が二つ存在する。それも色々知りたいが、その前にご飯を食べるか」


「え、急になんで?」


「ちょうど十二時だ。皆は集まれないが別々で食事を取ってもらおう」


「じゃあ、引き返してルプスも一緒に」


「彼女は、別動隊に合流しに向かっている。あの場所にはいない。ほら、これだ」


 遮るように言うと、投げられた柄のない携帯食を渡され、名無しは食べる。


「分かるんだ。ってか、味しな!なにこれ美味しくない」


 自身の首を掴み、ぐえーっとなり舌を出す名無しに構わずダブレスは進む。


 正面のドアを開けると光が差し込む。

 眩しいその光に名無しは目を閉じる。


 そして、開かれた目に映るのは一面緑の空間。

 まるで森の中にいるかのように、植物が生えツタが巻き、様々な色の花が空間を鮮やかに色付けていた。


「ここは?」


「単なる観賞用の庭園だ。研究には一切関係ない」


 樹木が避けるように出来た真っすぐな道を、雑草を踏みながら進む。

 その中で鳥の鳴き声が聞こえた。


(見たことない植物だ)


「気をつけろ。人に襲うものもあるかもしれない」


「こわっ」


 ダブレスの後ろに隠れるように名無しは縮こまる。

 

 数分歩くと、無言の中ダブレスが突然止まる。


「なに?なんかあったの?」


「私の妻は自然が好きだった。君は死後の世界があると思うか?」


「いや、ないと思う」


 明確な根拠はない。

 それでもないとした方が今を大事にできると、きっぱり明確に断言した。


「私はあってほしいと思っている。もし、この楽園があの世で映像媒体を用い彼女に届くとしたら夢があるだろう?」


「それは…そうだけど」


「私は能力と魔力に可能性を感じた。あれは世の法則を超える力を持っている。そう断言出来る存在だ。彼女は」


「カイのこと?」


 ダブレスの手のひらの真ん中が開き、そこから映像が空中に投影される。そこに見えたのは通路を歩くカイの姿だった。


「ああそうだ。彼女は心を持った機械。パーツを交換、修復し続ければ不死身の存在。生と死の輪廻から外れたイレギュラー。だとしたら、死をも覆す力も探し続ければあるだろう。何百、何千年も生きればその能力を。精霊による疑似的な能力再現でも可だ」


「だから機械に?それにあんなに機械があったのも」


「いや、あれはカイの幼馴染作りのためだぞ」


 振り返り、何を言っているんだというような顔で言うダブレス。


 はっきり言って名無しには意味が分からなかった。


「は?」


「私が死んで人類が滅べば彼女は一人になる。それはあの世で妻が許さないだろう。特に気に入っていたから」


 下を向き、寂しそうに笑みを浮かべるダブレスはすぐに前を向いた。


 樹木は無くなり道は途切れ、緑色の雑草は灰色の地面に変わっていく。


 そして、行き当たりにある絶対に手で開けられないほど巨大な両開きの扉が見え始める。


「……もしかして、その妻は保存してあるの?」


 扉へ続く階段でダブレスは足を止める。


「ああ。その通りだ」


「じゃあ、もし出来るか分からないけど、私がダブレスの妻を蘇らしたら!!」


「残念ながら、それだけでは足りない」


 扉の目の前、モニターを触る。

 暗証番号、指紋、顔を確認し、重厚な扉が開かれる。


 その内にある異様な光景に名無しは目を見開く。


「なにこれ……」


 両隣に並べられた培養液の中にある黄緑色の球体は魂喰霊の核だろう。


 だが、正面にある扉と同等かそれ以上に巨大な一振りの小刀。それが生物でないのにも関わらず培養液に入れられていた。


 構わず進むダブレスについていき、扉が閉まる。


「君はあれが何だと思う?」


「何って巨大なナイフにしか見えないけど」


「では、質問を変えよう。あれが小さくなったものを見たことはあるか?」


「……あ!!」


 あごに手を当て考え込むと、名無しはある事を思い出した。


 飛び降りたアパートの一室。

 地下鉄のホーム。

 第三拠点への途中。


 その小刀が刺さり白骨化した死体を名無しは過去何度も見ていた。


 それを思い出すとより目の前のものが異様に感じた。


「場所を問わず世界中に存在する白骨死体。誰が何故やったのかは未だ不明だが、二つ確かなこととして分かったことがある」


 巨大な小刀の横を通り、突然ダブレスは培養液のガラスを殴りつけた。


 相当な強打に音が響くが、亀裂も入らずびくともしない。


「これに刺された死体にいかなる魔力的な干渉は通じない。加え死体から小刀はとることが出来ず、小刀の方を破壊すれば残った骨も消え去ることだ」


 淡々と語るダブレスだが、その目はかっぴらき目の前の小刀を凝視していた。

 それに名無しは言わないでも気づいてしまった。


「先にあるのはもしかして」


「今は体の調査だ。そちらにはいかない」


 ダブレスはきれいな白い扉ではなく、今まで通りの古びた金属扉の奥へ行く。


 その前に名無しは小刀を見つめた。


(誰がやったのか分からない、か。つまり元からここにあったってこと?いつから?)


「あれ?」


 急に手が震えだし、名無しは意図せずに後ずさった。心臓の鼓動も聞こえるぐらいに速くなった。


「何をやっている。先にいくぞ」


「あ、うん。そうだけど……」


(この先のことで不安なのか。まだまだだ。私は)


 何も見えない暗闇の中、ダブレスの手に引っ張られる。そして、ある筒の中に仰向けに入った。


 機械が動き駆動音が聞こえる。


 ガラス張りに隣の部屋でダブレスは暗闇の中、ただ一つ光る画面の前にいた。


 レンズのような目を動かし、可愛い顔が台無しになるほど口角を吊り上げる。


「つまり、彼女は後天的ではなく先天的に。やはり、魔力回路は二つ。だが、この波形的に一つの能力は常に使用されている。何に?どういった能力?同様の魔力波長はないな。であれば、もう少しだけ」


 ダブレスがレバーを動かすと、筒の中で物凄い音が鳴る。

 体が張り裂けそうな感覚に名無しは身じろぎする。


「しんど。けど、これで忘れた記憶が思い出せるなら」


「魔力出力が高まった。能力使用に使う分を身を守るために使ったか。であれば、許容範囲を超えれば能力は解かれる。さすれば、制限がなくなり使用はオートから任意に」


 感心するように目を輝かせ、レバーにかける手に力が入る。

 それにより、筒の中に魔力の反発による電撃が走る。


「くッ……」


 再生魔力は循環させ続けても、限界ぎりぎり。

 体がはち切れそうになり名無しは弱音を漏らす。


「もう無理……」


 その時、目の前の視界が一転した。

 暗闇だった視界は星が廻る夜空へと。背中につく感触は不思議だった。


 まるで湖のような水面の地面は手をつけると、波紋が広がった。


 体を起こすと、そこには自分とよく似た、少し自分より背が高い少女がいた。


 笑みを浮かべ、手を振るその人の素振りに違う姿であっても名無しはすぐに分かった。


「お母さん。お母さんでしょ!!」


 立ち上がり、一心不乱に駆け出す名無し。

 それに目の前の人物は動かず一言言った。


「この先を知るにはあなたじゃまだ早い」


 その瞬間、視界は元通りに。

 しかし、目の前には床に倒れ、左手を失ったダブレスの姿が。名無しは別の部屋へと移動していた。

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