第六話「求めた者と応じた者」
そして私達は空中でその狼に拾われ九死に一生を得た。そして今彼は走っているラルの背中に乗り説教を受けている
『いつもいつも無茶し過ぎやろーー!』
「すみません」
ふてくされた言い方で言うその態度には仕方なかったという言葉が浮き出ていた。反省はないらしい。
『まぁこの子を助けたのは百歩譲っていいとして何ですぐ下に降りんかったんや』
それは私も思った。
「ええと…その…まぁいいじゃないですか」
『お前、もしかしてカッコつけようと』
「ああああ。きょ…今日は天気がいいな〜」
誤魔化すのが下手だなー。ほんとにカッコつけようとしてたんだ、と内心呆れたが命の恩人には変わりなく心の中では感謝しておこうと思った。
「で、これからどうするんですか?師匠?」
今度は自然に話を変えた。
『指令通り第二拠点に、といきたいんやけど指令が今まさにナウに来ててな』
「というと?」
『…物資調達』
「オーマイガー…」
頭を抱え、かすれた小声で彼は言う。そんなに大変なことなのだろうか?確かに大変なのは理解できるがそんなに気分が沈むものなのかな。まぁ気分が上がりはしないだろうけど。
「君はおそらく理解していないだろうから物資の調達がどれほど危険なものなのか教えよう」
「志麻さん」
「島名です。まず物資の重量による移動速度、体力の低下、それに食料が潰れないように運ばなければいけません。それに今回は新しい場所での調達なので敵との遭遇率も上がります。ついでにこの体躯なので」
ラルのことを軽く叩き巨体の意味が分かった。確かに体がでかいだけでも命に関わる。
「しょうがないやろ。そういう体なんやから」
「そうですね。まぁ要するに危険ということです。死ぬか死なないかは運でしょう」
「この人たちでも?」
明らか一般人の枠組みから逸れているこの人達ならなんとか倒せるのではないだろうか?そう思ったがどうやら私の考えは浅はかだったらしい
「相手は個でも強いのに多でやってきます。おそらく隊内で死なないと確証付けられるのは愛莉ともう一人だけでしょう」
あの人そんなに強かったの!?見た目と雰囲気から騙されてた。
『ま、要するに腹くくるしかない。気楽にな』
「そうそう、き、、気楽に、ね」
目が泳ぎ冷や汗が出る勇人を前に不安が大きくなる。これから先どうなるのか分からないが少なくとも相変わらず死はずっと横に座っていた。
それから20分ほど山林を走り私達は今食料調達の準備に移っていた。
「地形の把握やその他諸々大丈夫か?」
人型に戻った狼人間(名前はラル)は山の中にあった小さい家にあった服をもらい上半身裸でリーダーとして全体指揮をとっていた。
「「はい」」
名無しと勇人は返事をする。ラルは今回戦力にならないのでお留守番で洞窟に身を潜めることになった。本来であれば名無しも戦力外で任務に参加しないのだがどうしても参加したいという頼みで承諾された。
「じゃあ島名はんはここの洞窟で待機。予定の時間を超えたらすまんが第2拠点に一人で行ってくれ。他二人はわいに付いて来い」
「「はい」」
三人はさらに山を上り下りし目的地に向かう。それが地獄の地だと知りながら。
誰も居なくなり洞窟の奥に座る島名は独り言を口にする。
「三人にした」
「……………」
「ああ。予定通りだ」
「……………」
「お前には何が見えているんだ?これでよかったのか?」
「……………」
「信じるしかないか。そうだよな。俺たちはいつも見ているだけだよな」
真っ暗な洞窟の中で薄っすらと宝石のように青く光るその男の瞳には何が見え何を見ようとしているのか、それは地獄を歩んでることを知りそれでもなお進み続ける者もしくは神のみぞ知るのかもしれない。
流水の音を横で聞きながら私達は山を降り、目的の場所が見える位置に到着した。ちょうど山と街の堺にあるその場所にある物を少なからず名無しは知っていた。
「学校…」
自身が通うことは無かったが通学する人の姿と家から学校が見えたので何をしているかだったりは知っている。
「そう、ここが一番手っ取り早いからね」
私達は茂みに隠れ上から校舎を見ていた。学校の敷地全体の構造は山側にグラウンドとテニスコート、街側に正門があり正門から入ると少し開けた何もない広場がありそれを囲うように校舎がある。そしておそらく体育館は正門から入ってすぐ左に見える茶色の構造物だろう。私達が狙うのは防災備蓄倉庫なのでその周辺を捜索し発見次第回収して木鳩と一緒に第二拠点に向かう計画になっている。
「あれは?」
グラウンドに堂々と正門から一直線に校舎の二階と二階を繋ぐ渡り廊下の下を潜り侵入した黒いものを見て名無しは指差す。
「cnuやな。見た感じだと人型っぽいか?」
「どうします?師匠」
「幸い校庭をうろちょろしとるだけやし死角になるルートで備蓄倉庫に行く」
「一応念の為ルートをおさらいしますか?」
「お、そうやな。名無し。他にも何かあったらじゃんじゃか言ってくれ」
そこから計画を再確認し認識のすり合わせを行った。そしてやっぱり話している間にあったそういうものとすっ飛ばしていた疑問が出てくる。能力とは何か?人という生物はもとよりそのような力は持っていない。だが路地裏から目覚めた時から出会う人は皆何かしらの魔訶不思議な力を所持している。きっと私が寝ていた間に何かがあったのだろう。
今後にも関わるであろう能力について名無し
は訊ねることにした。
「cnuには核がある」
勇人は名無しの質問に回答した。
「奴らのエネルギー源はその黄緑色の核からあふれでる魔力らしい。だから核を取り込んだら自分らも強くなるのではないかとある人は考えそして食った」
いや、バカでしょ。あんな身体能力しているエネルギー源なんか食ったら普通死ぬじゃん。いやこんな話をわざわざするってことはまさか…
「結果能力を獲得した」
嘘でしょ…そんな簡単にいくものなんだ?どういう仕組みで能力を得ているのか分からなくて怖いけど状況に納得はいった。cnuを倒すためにcnuの力を使うのは確かに合理的だ。今ある世界の文明レベルで私達は一度敗北している。だからこそ銃火器が基本通用しないcnuに対抗するには有効な手段なのは理解できる。
「だが、核を食うにも厄介な条件があってな。核と自身の魔力の属性が一致しないと拒否反応が出て運が良くて後遺症、最悪死ぬ。せやから自分の属性を機械で測定する必要がある。後強くなろうと核を2個以上頬張るのは絶対にあかんからな」
つまり2つ以上の能力は所持できないということか。
「ちなみにわいは”人狼”という能力を獲得した。狼になったり仲間内で念話ができる。後、月が満月に近いと力を増す。そんなところやな。分かりやすい能力してるやろ」
確かに戦闘能力が一目瞭然に上がる能力で理解しやすいし使い勝手がいい。
「反して僕は”契約”という能力で他者と繋がりを持ち他者から求められた分力を発揮できるという分かりにくい能力してる」
確かに目に見えるような能力ではない。他者と繋がりを持つという曖昧な部分が力の原動力になっているのは確かに分かりずらいし万能よりではないだろう。けれど誰かを救う上ではおそらくどの能力より抜きん出ている。現に助けられた時に勇人が出したスピードはラルの全速力よりも速かった。それに能力が変動する分ピンチをチャンスに変えれる能力だと私は思う。だけど…
「能力は分かったけど勇人。途中で落っこちたりしないでね」
あれは心臓に悪すぎる。本当に死ぬかと恐怖した。
「そこは安心して。あの時他の人とは違う明確な繋がりが出来た。それから自分の能力の感覚が前よりはっきりしてるんだ。今なら何だって出来る気がする。だから任せて」
恐怖で手が小刻みに震えてる勇人に名無しは気づいた。
恐怖がありながらそんな簡単に断言出来るなんて。今の私には到底出来ない。そんな強い心は持っていない。けどこれぐらいは言える。
「任せた」
予想外の返答にきょとんとした顔を一瞬する勇人だったがすぐに笑って言葉を返す。
「応!任された」
場面が変わり学校のすぐ横まで私達は息を潜めて迂回し20m先に校門が見える後少しの位置まで来ていた。
作戦は至ってシンプル。経路は最悪を想定して最も危険な安全策、校庭からは丸見えだけど開けてる校門を通って左に見える体育館の外周を反時計回りで進みその途中に見える倉庫から物資を強奪。その後はラルが獣魔化して狼になり荷物ごと自分達を運ぶ。
「じゃあいくぞ」
慎重に私達は進み校門まで私達は進んだ。cnuは私達の居る反対方向校庭側を変わらなく歩いていた。
一歩一歩と悠然と歩くcnuは急に信じられない速さで左を振り向き静止した。
空気に緊張感がつきまとう。
リーダーの指示で私達も止まり気持ち見つかりにくい程度のダンボールと自転車の遮蔽物に隠れた。
『ただ止まっただけか?』
『どうですかね?あんな急に止まるとは思えないですが、』
ラルが逃げの判断を下すか迷っている最中、校庭側で唸り声が聞こえた。
この鳴き声…。そうだ!熊だ。山が近くにあるこの学校に降りてきたんだ!
名無しの予測通り熊は名無しらとcnuを繋ぐ直線上から真っすぐあみを引き裂き縦横無尽に校庭に侵入した。cnuに警戒心マックスな真っ黒な四足歩行の熊は戦闘ののろしをあげるかのように再度雄叫びを上げcnuに突進し前足を上げcnuを引き裂こうと襲いかかった。人間がもしcnuの立場にいたとしたらきっと見るも無残に胴体が引き裂かれ内臓や血が地面に垂れ流されることだろう。
数十秒止まっていたcnuは動き出した。熊の爪が降りかかる寸前急に動き出し、見ていた方向に足を踏み降ろし。その頭はまるで切れるのが当然かのようにポトリと流れるような挙動で落ちていった。
「う…」
黒のモヤに覆われているとはいえ首が急に落ちる光景に思わず声が出そうになり慌てて口を手で覆う。
『撤退や!あんな速度で追い回されたら絶対に逃げれん』
リーダーの合図と共に息を殺して立ち去ろうとしたその時、
「バシュン」と悪意があるとしか言いようがないように私達のすぐ横に弓矢が刺さり先端から白い光が円を描くように発されていた。
「白廻石!」
勇人が気付いた頃にはもうその石は爆発し失明するほどの光とキーンと高い音が辺りに響いた。
それに気付かないほど真っ黒の人の形をしたそれは鈍くなく、光が戻った時にはすでに私の目の前にいた。
「あ、」
死んだと思った。だがそれは私の目線を合わせるように屈み私を見つめ、黒い悪魔のような鋭い手を私の顔にゆっくり近づけ、ついには頬に触れ言葉を発した。
「アァ…セ………フェ」
機械のような無機質な声と何かに取り憑かれたような執念深さをが混ざりあったその言葉からはただただ不気味に恐怖を感じた。
言葉が出ない!体が動かない!逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!怖い!逃げたい!怖い!逃げたい!
今にも死ぬかもしれない恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
『お願い…誰か助けて…』
助けを求めるその想い、それだけで無力な勇人にとっては十分だった。
泣き出しそうなほどの恐怖と嘆願の気持ちに釣られるように、否釣られずとも自ら引きつけるように気持ちが想いが繋がり合い勇人と名無しの間に規律に基づいた正式な契約が結ばれた。
「その手をどけろーーーー!!!!!」
力いっぱいに横薙ぎに振り出した剣はcnuを吹き飛ばし建物が粉々にした。そして黒い体からは不思議と赤い血が流れていた。