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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第一章「希望の光と絶望の認識」

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第六話「求めた者と応じた者」

 名無し達は地面に落ちるより前に狼の背に乗り、九死に一生を得た。


 だが、今名無しを救った少年はラルの背中の上でこっ酷く説教を受けていた。


『いつもいつも無茶し過ぎやろーー!』


「すみません」


 ふてくされた言い方で少年は項垂れる。

 しかし、心内では仕方なかったという言葉が浮き出ていたように名無しは見えた。反省はするが、助けたことに後悔はないというように。


『まぁ、この子を助けたのは百歩譲っていいとして何ですぐ下に降りんかったんや』


 (それは私も思った)


「ええと…その…まぁいいじゃないですか」


『お前、もしかしてカッコつけようと』


「あー、きょ…今日は天気がいいな〜」


 話題をずらす下手な誤魔化しで少年は、斜め上に視線を逸らす。


「で、これからどうするんですか?師匠?」


 今度は、自然に話題を変え、真剣な面持ちで勇人はラルに問いかける。


『指令通り第二拠点に、といきたい所やけど、指令が今まさにナウに来ててな』


「というと?」


『……物資調達』


「オーマイガー…」


 頭を抱え、かすれた小声で少年は言う。

 そんなに大変なことなのだろうかと、勇人の俯いた様子に名無しは少し不安と心配が身を襲った。


「君はおそらく理解していないだろうから、物資の調達がどれほど危険なものなのか教えよう」


「志麻さん」


「島名です。まず物資の重量による移動速度、体力の低下。加え、食料が潰れないように運ばなければいけません。それに、今回は新しい場所での調達なので敵との遭遇率も上がります。ついでにこの体躯なので」


 ラルのことを軽く叩き、名無しはその意味が分かった。

 確かに、体がでかいだけでも敵の視認性的な意味で命に関わるだろう。


「しょうがないやろ。そういう体なんやから」


「そうですね。まぁ要するに危険ということです。死ぬか死なないかは運次第でしょう」


「この人たちでも?」


 明らか一般人の枠組みから逸れているこの人達ならなんとか倒せるのではないだろうかと、名無しは考える。


 しかし、どうやらその考えは浅はかだったらしい


「相手は個でも強いのに多でやってきます。長時間の戦闘であるならば、おそらく隊内で死なないと確証付けられるのは愛莉ともう一人だけでしょう」


『ま、要するに腹くくるしかない。気楽にな』


「そうそう、き、気楽に、ね」


 目が泳ぎ冷や汗が出る勇人を前に名無しの不安がより大きくなる。

 これから先どうなるのかはまだ分からないが、少なくとも相変わらず死はずっと横に座っていた。


 それから山林を駆け抜け、名無し達は食料調達の準備に取り掛かった。


「地形の把握やその他諸々大丈夫か?」


 人型に戻った狼の人間、ラルという名の者はリーダーとして勇人と名無しに確認し、二人は返事をした。


「「はい」」


 島名は食料調達には参加しない。

 戦力外ということで、洞窟に身を潜め三人の帰還を待つ。本来であれば名無しも島名と同様、任務に参加しない方がいいだろう。


 しかし、どうしても参加したいという頼みと島名の承諾による後押しでラルは参加を受け入れたのだ。


「じゃあ島名はんはここの洞窟で待機。予定の時間を超えたらすまんが、第二拠点には一人で行くか他の人を待ってくれ。他二人はわいに付いて来い」


「「はい」」


 三人はさらに山を上り下りし、目的地である学校へ向かう。そこが地獄の地だと知りもしないで。


 誰も居なくなり冷たい洞窟の奥で島名は、独り言を口にする。まるで誰かと話しているように。


「三人にした」


「……………」


「ああ。予定通りだ」


「……………」


「お前には何が見えているんだ?これでよかったのか?」


「……………」


「信じるしかないか。そうだよな。俺たちはいつも見ているだけだよな」


 真っ暗な洞窟の中で薄っすらと瞳が宝石のように青く光る。


 その瞳には何が見え、何を見ようとしているのか、それは地獄を歩んでることを知りそれでもなお進み続ける者、もしくは神のみぞ知るのかもしれない。








 流水の音を横で聞き、名無し達は山を下る。目的の場所が見え、三人は動きを止めた。ちょうど山と街の堺にあるそれを名無しは少なからず知っていた。


「学校」


 名無しは学校に行ったことはない。

 それでも、通学する人の姿と家から見える学校の様子から何をしているのかは知っていた。


(行きたかったなぁ)


 名無しは過去に一度少しだけわがままを言い、学校に行きたいと母に言ったことがある。だが、絶対にだめだと母が言うので名無しは通学したことはない。


「そう、ここが一番手っ取り早いからね」


 名無し達は茂みに隠れ、崖の上から校舎を見る。 

 学校の敷地全体の構造は山側にグラウンド、街側には正門、正面には少し開けた何もない広場があり、それを囲うように校舎が位置している。


 そして、おそらく体育館は正門から入ってすぐ左に見える茶色の構造物だろう。名無し達が狙うのは防災備蓄倉庫なのでその周辺を捜索し、発見次第回収してラルとともに島名を拾い、第二拠点に向かう計画になっている。


「あれは?」


 グラウンドに堂々と佇む黒い何かを見て名無しは指差す。


「魂喰霊やな。見た感じだと人型っぽい、か?」


「どうします?師匠」


「幸い校庭をうろちょろしとるだけやし、死角になるルートで備蓄倉庫に行く。その前に名無し、能力がどういうものか知ってるか?」


 そういうものだと、すっ飛ばしていた疑問を聞かれひとまず名無しは質問に答えた。


「いや、知りません」


 そして、能力とは何なのか。その問いに深く思考を巡らせる。

 人という生物はもとよりそのような力は持っていない。魔力による身体強化や自然現象はあるが、念話が出来たり、狼になったりとかいう限定的な力は終末世界以前には無かった。


 だが、路地裏から目覚め人と出会う度、皆何かしら魔訶不思議な能力を持っている。


 今後にも関わるであろう能力について、その答えは名無しは浮かばなかった。


 だが、その疑問を失くすように勇人は能力について話し始めた。


「魂喰霊には核がある。奴らのエネルギー源はその黄緑色の核からあふれでる魔力で、能力の発動もそれ由来で行使している可能性が高い。だから、核を取り込めば、自身も強くなるのではないかと、ある一人の人物は考え核を喰らい、結果能力を獲得した」


「え、頭おかし」


 第一まず、食べ物ではないものを食べようとした思考が常識から乖離している。


 加え、敵のエネルギー源を体内に取り込み、無事でいられる保証はないにもかかわらず魂喰霊の核を喰らった行動が名無しには理解できず驚きを通り越して呆れてしまった。


(にしても、そんな簡単にいくものなの?)

 

 どういう仕組みで能力を得ているのかは不明だが、能力の説明には大方納得がいった。魂喰霊を倒すために魂喰霊の力を使うのは確かに合理的だ。今ある世界の文明レベルで人類は一度敗北している。


 だからこそ、銃火器が基本ほぼ通用しない魂喰霊に対抗するには能力獲得は有効な手段なのだと理解できる。


「だが、核を食うにも厄介な条件があってな。核と自身の魔力の属性が一致しないと拒否反応が出て運が良くて後遺症、最悪死んでしまうんや。せやから、魔力属性を一度機械で測定する必要がある。後、強くなろうと核をニ個以上食べるのは絶対にあかんからな。死ぬから」


 ラルは最後の方を小声で名無しに念を押し忠告する。

 名無しはそれをしっかりと理解し噛みしめ、固唾をのんだ。


「ちなみにわいは”人狼”ちゅう能力を獲得した。狼になったり仲間内で念話ができる。後、月が満月に近いと力を増す。そんなところや。分かりやすい能力してるやろ」

 

 笑みを浮かべ、自慢げにラルは言う。

 確かに戦闘能力が一目瞭然に上がる能力は理解しやすいし、使い勝手がいいと名無しは考える。


「僕は”契約”の能力で他者と繋がりを持って、他者から求められた分力を発揮できるっていう分かりにくい能力してるかな」


 対する勇人の能力は、確かにイメージしやすい能力ではなく、他者と繋がりを持つという曖昧な部分が力の原動力になっている。


 分かりずらい上に万能ではないだろう。

 けれど、誰かを救う上でその能力は輝く、と名無しは考える。現に、助けられた時に勇人が出したスピードはラルの全速力よりも速かった。


 ピンチをチャンスに変え、追い詰められたその時こそ必要な能力だと、名無しは助けられた時を思い出し思う。


「能力は分かったけど、さっきみたいに途中で落っこちたりはしないでね」


(あれは心臓に悪すぎる。本当に死ぬかと思った)


「そこは安心して。あの時は師匠が見えてたし、それに他の人とは違う明確な繋がりが出来た。それから自分の能力の感覚が前よりはっきりしてるんだ。今なら何だって出来る気がする。だから任せて」


 不自然な作り笑いと恐怖で手が小刻みに震えてる勇人を見て、名無しはそれには触れなかった。


 自身が恐怖におびえながらそんな簡単に断言出来るとは到底思えなかったからだ。それほど強い心は名無しは持ち合わせていない。


 けれど、今の名無しでも言えることはあった。


「任せた」


 予想外の返答にきょとんとした顔をする勇人。だがすぐに笑みを浮かべ、勇人は胸に拳を当て、今度は震えずに言葉を返す。


「応!!任された」








 名無しらは学校のすぐ横まで息を潜めて山を下り、正門が見える位置にまで来た。


 作戦は至ってシンプル。

 経路は最悪を想定した最も危険な内の安全策。


 校庭からは丸見えではあるが、開けてる校門を通り左に見える体育館の外周を反時計回りで進む。そして、その途中にある倉庫から物資を回収する。


 その後はラルが獣魔化で狼になり荷物ごと名無しと勇人を運ぶという流れだ。


「じゃあいくぞ」


 慎重には正門を越え、名無したちは敷地内に入る。


 魂喰霊は変わらず、正門とは真逆の校庭に佇み何かをしている様子はない。

 ゆっくり一歩ずつ悠然と歩いている。


(何をしてるんだろう?)


 瞬間、魂喰霊は信じられない速度で左を振り向きその場に静止した。


 空気が重々しく感じ、名無しは緊張で歩みを止める。

 リーダーも歩みを止め、手を横に広げて"動くな"と指示をする。


『ただ止まっただけか?』


「どうですかね?あんな急に止まるとは思えないですけど、」


 勇人は小声で囁く。

 ラルが逃げの判断を下すか迷っている最中、校庭側で謎の唸り声が聞こえた。


(この鳴き声……そうだ!!熊だ。山が近くにあるこの学校に降りてきたんだ!!)


 名無しの予測通り、遠目でも分かる真っ黒な毛並みを持った熊が校庭を囲う網を引き裂き、魂喰霊がいる校庭に侵入した。


 戦闘ののろしをあげるかのように雄叫びを上げ、熊は魂喰霊を睨みつける。

 それに対し、魂喰霊に反応はない。ただ、呆然と目の前を見ている。


 その様子に興奮状態の熊は突進し、前足を上げ魂喰霊を引き裂こうと襲いかかる。


 人間がもし魂喰霊の立場にいたとしたらきっと見るも無残に胴体が引き裂かれ、内臓や血が地面に垂れ流されむごい死体になっていただろう。


 しかし、数十秒止まっていた魂喰霊は動き出した。熊の爪が降りかかる寸前、見ていた方向に片足を踏み込む。瞬間、その頭はまるで切れるのが当然かのようにポトリと流れるような挙動で落ちていった。


「う…」


 あまりの光景に思わず声が出そうになる名無しは慌てて口元を手で覆う。


『撤退や!!あんな化け物に追い回されたら絶対に逃げられん!!』


 リーダーの合図がはっきりと伝わり、名無しは息を殺して立ち去ろうとした。

 その時、


 バシュンと悪意があるとしか言いようがないほどに、名無しのすぐ真横に矢が刺さり、先端から白い光が円を描くように発せられる。


「白廻石!!!」


 勇人が気付き時には既にその石は爆発し、失明するほどの眩い光とキーンと鼓膜を突き刺す高い音が辺りに響いた。


 矢による人体の影響はさほどない。近くにいた名無しもすぐに視覚と聴覚は元に戻った。

 しかし、問題はそれに気付かないほど真っ黒な化け物は鈍くないことだった。光が消え、瞼を開けた名無しの目の前それはいた。


「あ、」


 死んだと名無しは思った。冷静に考えて熊を一瞬殺した相手が目の前にいるのだ。助かるなんて甘い期待など持てようはずがない。


 だがそれは名無しの目線に合わせるように屈み名無しの目を見て、黒い悪魔のような鋭い手を顔に近づける。終いにはその手は頬に触れ、意味の分からない言葉を発した。


「アァ…セ………フェ」


 機械のような無機質な声と何かに取り憑かれたような執念深さが混ざりあったような言葉に名無しはただただ不気味に感じ、恐怖で全身が震えた。


(体が動かない!!逃げたい!!逃げたい!!逃げたい!!逃げたい!!怖い!!逃げたい!!怖い!!逃げたい!!)


 涙が零れ、逃げたいと思うも腰が抜けて立つことが出来ない。助けてと言いたくても言葉が出ない。

 今にも死ぬかもしれない恐怖で頭がおかしくなりそうだった。


『誰か、お願い……助けて』


 心の底から声は出ずとも助けを求めるその想いが勇人に届く。

 無力な彼にとってはそれだけで十分だった。


 泣き出しそうなほどの恐怖と嘆願の気持ちに釣られるように、否、釣られずとも自ら引きつけるように気持ちが、想いが繋がり、勇人と名無しの間に規律に基づいた正式な契約が結ばれた。


「その手をどけろーーーー!!!!!」


 勇人は力いっぱいに剣を振りぬく。横なぎのその剣は名無しの前に屈む魂喰霊を吹き飛ばした。その衝撃で魂喰霊は建物の壁を突き破りながら吹き飛ばされ、学校の外へと消える。


 吹き飛ばされた先は一軒家の二階。

 天井を壊して部屋に倒れた黒い体からは不思議と赤い血が流れていた。

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