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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第五十八話「重なる記憶」

 困った顔で、名無しは口を出さずにはいられなかった。白と黒の入り混じるアイドル衣装を着たその小さな少女の姿に。


「逆になぜ君は学生服を着ているんだ?」


「それはッ……そうだわ」


 自分の姿を見ると、何も言い返せなかった。


「顔を会わせるのは初めてではあるが、いささか約束と違うな」


「そう言うな。気づかなければ予定通り。流石は輝夜家の者。腕は確かだ」


「それについても聞かせてもらおう」


「ああ。後ほど。条件は付けるが。そこの二人も私についてくるでいいだろう?」


「わたしは」

「名無しがそうならー」


 二人の言葉を聞き、ダブレスは手にもった赤いボタンを押した。

 すると、建物の奥から一台の軽トラックが向かって走ってきた。


 ドリフトし、ちょうどダブレスの横に止まる。

 砂煙が宙に舞った。


「どうぞ乗ってください」


 窓が開かれ、聞こえたのは抑揚のない機械音声。

 体の作りも金属製のアンドロイドに近いその機械はハンドルを握っていた。


「トランクの方がいいだろう。万が一があった場合」


「ああ。そうさせてもらう」


 結構なスピードを出す軽トラックに、風が強く当たり名無しは後ろを向いた。


「名無しと言ったか。君には隊長から属性検査の用がある」


 スピーカーから助手席にいるダブレスの声が聞こえた。


「私?なんで?」


「さあな。興味ないし知らん」


 冷たく突き放すと、名無しは空を見上げた。


(あの人、何考えてんだろ)


 車体は斜めに。

 上を見る名無しの視界に空が隠れ、灰色の天井が映る。


「地下?」


「まぁ、大体そうだよねー。外は危険だし」


 それから数分、入り組んだ地下の道路を走ると、ある駐車場に到着した。


 降りると、車はシャッターの向こう側に行って見えなくなった。


「ここからが私個人の研究・実験施設。能力関連の研究が主になる」


 半透明な自動扉の向こう側へとダブレスが行き、中が見える。


 先が見えない真っ白な壁の廊下。


「ッ!!」


 それを見た瞬間、名無しの視界にノイズが走った。同時、突き刺すような痛みに頭を抱え、片目をつぶった。


「大丈夫!?名無し」

 

 ルプスが心配そうに屈んで言う。


「大丈夫。けど……」


(一瞬、何かを思い出したような)


 ぞわっと寒気を覚える感覚とともに、気分が悪くなる自分の心を収め名無しは前へと進む。


「行こう」


 その手をルプスは掴んだ。


「なに?」


「なんかこうした方がいいなって。勘だけど」


「……ありがとう」


 半透明の扉が閉まり、一行は進む。

 それから数分歩くと、先には白い空間ではなく、岩石がむき出しのソファや椅子、ベッドが無造作に並べられた解放的な私室空間があった。


「元々魂喰霊から逃げてきた生き残りたちが作った場所だが、今は私が使っている。それで先に伝えておきたいが」


 ベッドに腰掛け、ダブレスは目の前の巨大な映画館クラスのモニターを見上げ、言葉を発した。


「私は自分の興味が向くこと以外はどうでもいい主義だ。そこの名無しの属性検査と輝夜家について語るのは契約上やろう。ただ、それ以外に協力する義理はない。混沌、精霊種エルフの女王、もしくは神の子が協力するなら話は別だが」


 テレビをつけるようなリモコンのボタンを押し、画面に分かれた人員が映る。


 彼らは外を歩き、まだ施設にはついていないようだった。


(この人は何を求めてる?それさえ分かれば……)


「ちなみに混沌が協力したら、前進隊の仲間になる感じー?」


「条件次第だ。しかし、混沌は遅れてくるのだろう?」


「隊長の指示に任せられている」


「であれば、調査が終わるまで奴はこない。まぁ、いい。先に事を済ませよう。名無しという者、ついて来い」


 ベッドから跳んで降りると、ダブレスは先に続く白の廊下へと歩みを進める。名無しはそれに着いていった。


「私は別働隊に戻ろう」


 輝夜は来た道を引き返していく。


「ん!私一人じゃん!」


 冷蔵庫から物色した飲料水を口にして、ルプスが言う。


「ルプスも来たら?」


「名無しが言うなら行ってやってもいいかな」


 自分の頬を人差し指でプニッと押し、可愛げに言うルプスは空になったペットボトルを背後のゴミ入れに投げ入れ、ついていく。


 廊下の白は灰色に。

 パイプ官が壁の色の変わりとともに現れ、蛍光灯が青白く通路を照らす。


 明かりの間隔は広く、チカチカと点滅する電灯で時折何も見えなくなるほど真っ暗になった。


 コツコツと進める足音が響き、通路の端でネズミが通りチュウと鳴いた。


「なーんか不気味になってくねー」


「元々の施設から改修していないからな」


 通路は行き止まりに着く。

 扉を開け、非常階段を降りていき、より一層足音が響いた。


「……ちなみに一つ聞いていい?」


「ああ」


「ダブレスはここで一人で生活してるの?」


「一人ではない。カイや数多の子供たちがいる」


「子供?……ダブレスはここで何をしてるの?」


「研究と実験その繰り返し。能力と魔力は可能性に満ちている。私は作りたいのだ」


「なにを?」


 ダブレスは扉を開ける。

 ギィーと重々しい音とともに中の光景が目に入り二人は息を飲んだ。

 

「完全自立補完自立思考を有した機械。カイと同様の種族を」


 赤色の光が幾百も暗闇で点滅しこちらを見る。

 空間を埋め尽くすそれらは一斉に、三人が通る道の両端に開け、ガシャガシャと金属の音を奏でた。


 その虫のような動きの気色悪さに、感じたままの表情が顔に出る。


 暗闇の階段の中央、ダブレスが先に進み、名無したちに振り返る。


「ああ。そうだったそうだった。招き入れる人が少ないせいで、照明をつけるのを忘れていた」


 バチンと指を鳴らし部屋が白色に照らされる。


「やっば。来ないほうがよかったかな?私」


「自分一人にするつもり?」


 頬に汗がにじむ。

 明かりでよく見えたそれらに体が強張った。


 腕に頭部がついたもの。

 首や足の関節が外れたまま、天井に張り付くもの。

 

 金属の体を持つその他奇怪な機械たちが、一階から三階まで中央を円を囲うように凝視する。


 気味が悪い。

 それでも名無しは白色の階段を降りていく。


「用があるのは私。ルプスはついてこなくても」


「なーに言ってんの」


 名無しに背後から覆いかぶさり、ルプスは名無しの頬を人差し指でつつく。


「ここまで来て引き返しても私一人で危険じゃね?だったらついてく。死なないならそれでいいもん。私」


「そう、だったね」


 ルプスの言葉と背中から感じる温かみに、口角を上げ名無しの一歩が軽くなる。ルプスを背負い、ダブレスの横に立つ。


 地面の草を踏み越え、ダブレスが指さすある一つのカプセルの中に名無しは入る。透明の扉が閉まり、外の音が一切聞こえなくなった。


「聞こえるか?」


 スピーカーからダブレスの声が届く。


「聞こえる」


「異変があればすぐに合図を出せ。何も意識せず身を委ねれば終わる。感覚は少しおかしくなるかもしれないが」


 ダブレスはレバーに手をかけ下に降ろす。

 すると、小刻みな振動とともに駆動音が響く。


 直後、下と上両方から魔力を感じ取った。


(これは霧?)


 空気中に漂うものとほぼ同じ属性。

 大して大きくない魔力だが、身を包むようにそれらはカプセル内に広がった。


(確かに何かに押されてるみたいな変な感じ。でも、それだけで)


 直後、名無しの視界にノイズが走る。

 頭を抱え名無しはうずくまり、倒れる。


「う、…また、同じ。いや、これは駄目なやつだ!!」


 目から涙が溢れ、全身に広がっていく体が張り裂ける痛みに意識が混濁する。目線の先、手のひらを見る。


 皮膚には亀裂が入り、桃色の炎が小さく噴き出る。


(魔炎病……いや、でもそれより私は)


 ノイズが入り、今度ははっきり見えた光景。

 ダブレスがレバーを下げるのと重なって見えた白衣の男。丸メガネをかけたその人を名無しは二度も見たことがあった。


(夢のあの人だ。何度も見たようで見たことがないようなあの人。でも、なんで……)


「待って!!待って!!やばいよ!!名無しが魔炎病に!!」


「いや、これはすごい!!見たことがない!!」


 目を輝かせ血走るようにパネルを見るダブレスをルプスは咄嗟に殴ろうと地面を蹴る。


 しかし、後ろから羽交い締めにされ止められる。

 六本の腕を持つ硬い金属の体を動かそうとするも、ピクリともしない。


「クソッ!!」


(なんで、自殺を止めたのがあの人なの?)


 飛び降り、助けられた時に見た長髪の男は間違いなく、重なって見えた白衣の人物。


 痛みなど忘れ、名無しは記憶を遡る。

 曖昧で霧がかった幼少期の記憶を思い出そうと身を任せ、そして気づく。


(私は何かを忘れている?)


 右頬から額に亀裂が走り、炎が目を焼いたその時、名無しの意識は消失した。

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