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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第五十五話「当然の生き方」

 光景は一変する。

 二人を覆うように水のカーテンが出来上がり、水面に水滴が落ちる音が頭上から聞こえた。


「あなたは遠くない未来、選択に迫られる。その選択が最良の未来へ続くかはあなた次第。もう一つは過去の自分に向き合い自分を知ると出ました」


「なんか、曖昧」


「そうですね。あと、そうそう、伝え忘れてましたが、このまま前進隊にいるだけなのであればこの先ほぼ間違いなくあなたは死にます。時期は不明ですが」


 感情のない淡々とした声で耳に入った死の宣告。

 それに名無しはため息をついた。


「やっぱそうだよね」


「驚かれないんですか!?」


「そりゃあ、何度も死にかけたし。でも、それでも、前に進むしかない。自分を守るすべはこれから知ればいいし。それで占いは終わり?」


「はい……、今のところは」


 呆気にとられたようにクルアは水のカーテンを解いた。


「じゃあ、聞きたいんだけどさ。あの狼の人ってどんな人?」


「え?」


「なんか怒ってたから気になって」


「怒るのはそうですね。別にあの人の性格が嫌いだからそうしてるわけじゃありません。ただ、私は彼女に情を移したくない。占い結果を知ってしまっているので」


「その占い結果って?」


「知りたいですか?生半可な覚悟では踏み入るべきではない」


「私は本気。少なくとも色々教えてくれた恩はある」


「……分かりました」


 名無しの頼みにクルアは被り物を外し、光のない目で名無しを見る。

 その目に名無しは心の奥が沈んでいくような感覚を覚えた。


 数秒の沈黙の後、クルアは深く息を吐き、深く吸うと答えた。


「彼女はもうじき死ぬ。それも残酷で苦痛を伴った形で」


「は?ちょっと待って、なにを」


「あの人は根が優しい故に人と関われば関わるほど、きっと多くを助ける。どんなに自分を大切にすると心に決めても意味が」


 クルアの肩を思い切り掴むが、名無しは言葉が出ず、そのまま座り込んだ。

 クルアも被り物をとりつけ、姿勢を直す。


「この街も絶対に安全とは言えません。過去に魂喰霊に攻め入られ、その時運よくその場に水の書を持つ者がおり、最終章を使うことで撃退は出来ましたが、次同じことが起きない保証はありません。占いにも数年以内に街は惨禍に飲み込まれると」


「その占いは百パーなの?」


 瞼の重そうな目で疲れたように名無しは言う。


「占い自体は間違いなく。ですが、占いを聞いた後、行動を変えた者は占いとは異なる結果になる人もいます」


◆ ◆ ◆


「どうだったー?占い」


 サメのぬいぐるみを抱え、狼の人は目線を掛け時計に移し言った


「死ぬかもだって」


 床を向き、目線が定まらない名無し。

 その視界に狼の人の靴が入ってきた。


「あはは。私と同じだー」


「ねぇ。少し話が」


「それはまだ早いかなー。これからお昼ご飯食べてー、それで」


「でも」


 手を伸ばし名無しは気弱そうに言うと、狼の人はぬいぐるみを置いた。


「私は人生の幸せの合計がマイナス100からプラス100あるとして1以上ならそれでいい。こんな世界で今まで生きのび続けられたのが奇跡!だから、今だけは楽しもう!!」


 目いっぱいに明るく、狼の人は手を伸ばし名無しを掴もうとする。

 しかし、その手は震え、表情は崩れる。目からは静かに涙がこぼれ落ちた。死ぬ自分の姿を想像したのだと、名無しはこの時思った。


「あれ、おかしいなー。楽しみすぎて、こんな」


 狼の人は涙を拭おうと右手を目に近づける。

 それを名無しは腕を掴んで止め、抱きしめた。


「偽らなくていい。あなたの本心はそうじゃない」


「何を言って」


「さっきまで、あの部屋にいたでしょ。ずっと占いを聞いて、最後の方は気配を消せてなかったからすぐわかった。あの時感じた感情も。私が何度も味わったものだから」


 震えた手を取り、名無しは言う。


「恐れている。死にたくない。あの時感じた感情はそうでしょ」


「………それでも占いの結果は変わらないからね」


 不自然で引きつった笑みを浮かべ、震えた声で言う彼女に胸の奥がズキズキと痛む。それでも、名無しは離さない。


「じゃあ、仲間を頼ればいい。人を頼って、市長を頼って、誰かに助けを。私にだって求めればいい」


「いつ死ぬかも分からないのに?みんなだって暇じゃない。それに私に危険が迫ってるんだったらなおさら駄目じゃない?」


 その言葉に名無しは顔を見上げた。


(やっぱりそうだ。この人は自分本位じゃない。言葉、表情、うわべを取り繕おうとしてる感情が表に出やすい正直者だ。だったら)


「前進隊に入る気はない?」


 両手を強く握りしめ、名無しは上目遣いに彼女を見る。


「何を言って」


「危険かもしれない。けど、強くて頼れる仲間が近くにいる。私だって仲間を治せるこの魔導書がある」


 二人の間に、黄金色の魔導書が浮かび上がる。

 それを握らせ、黄金の魔力が二人を包んだ。


 暖かく優しい、安心するぬくもりの中で涙が止まる。


「いっしょに行こう!私が絶対助けるから」


「……私は戦えるほど強くない。足手まといになる」


「そんなの私も同じ」


「私の良くない運命で他の人を危険にさらすかも」


「外に危険じゃない場所なんて一つもないよ」


 優しく微笑み、名無しは彼女の涙を拭う。

 かつて名無しを後押しした愛莉を自分に重ねるように。


「………いいのかな。私はまだ生きようとして」


「当たり前じゃない?人として。自分本位に生きるんでしょ?」


 その言葉に目を見開き、魔導書を名無しに押し付ける。

 自分の両頬を強く叩き、狼の人は後ろを向いた。


「そうだね。そうだった。ありがと。なーんか、変なこと考えてたかも」


 最初木の上にいた時と同じ明るく跳ねるような声で言うと、店の扉に歩き出した。


「私は自分のために生きる。前進隊に入って皆を巻き込んで、無理やり運命変えてやる。だから」


 ドアノブを半分開け、白い光が差し込み、外の声や足音が耳元に入る。

 しかし、それが聞こえないぐらい彼女の声が鮮明に聞こえた。


「いざっていうとき、助けてよね」


 振り返り、悪戯っぽく片目を閉じて言う彼女に名無しは、


「当たり前」


 彼女の横に立ち、覗き見るようにして言い、二人は店の外に出た。


「ていうか、名前なんなの?」


「ん?ルプス。そっちは?」


「名無し」


 二人の声が通りの喧騒に混ざり合う。

 ゆっくりと扉が閉まり、鈴の音を鳴らして、二つの影が店から消えた。

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