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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」
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第五十四話「いろんな人の子」

 回転を弱め、まるで雨粒のように魔力が形を保つ。輪郭をそのままに魔力を閉じ込めるようにして。


(よし。膜の形のまま輪郭を保てた)


「このまま膜を」


「それがそんな簡単じゃないんだよねー」


 見本と同じ薄い膜を作り出そうと意識を集中。

 しかし、シャボン玉が弾けるように魔力が弾け、目をぱちくりとする。


「なに…?今の」


「魔力は体から離れるほど制御が難しいから、そんな大きな魔力で膜を作ったら、制御の外の魔力が自分のでかい魔力と反発してパンって割れちゃう。やるなら、このぐらい」


 名無しから離れ、その人は右手の人差し指を地面に指さし、首を傾ける。


 すると、薄白い魔力で体が覆われる。

 その魔力範囲は名無しの目から見て異常だった。


 服を着るより密着する薄い魔力の膜で全身を覆っていたのだ。


「げっ……」


「そんな引かないでよー。ま、これは今やってどうこうなるものじゃない。私だって一週間ぐらい」


「できた…」


 手を握っては開いてを繰り返す名無し。

 それでも密着する魔力に当の本人でさえ驚いた様子で言った。


「へ?」


 間抜けな声を出すその人は、目を開け名無しを見て確認する。


 すると、揺らめいてはいるものの、体に密着する黄金の魔力が目に入った。


「確かにできてるー。なに?天才なの?もしかして」


「ふふん」


「あれかな。放出するより閉じ込める系の能力なのかな?」


 ドヤ顔をする上機嫌な名無しを眺めながら、その人は呟く。


「じゃあ、後はやってみるだけだし、教えるものと言ったら、な」


「ないなんて言うの?」


 さっきまでの笑顔のまま名無しは問いかける。


「なわけないじゃん。なに言ってるのー」


 その笑顔に合わせるように同じ顔で言葉を返す。

 胡散臭い笑みだと互いに思いながら。


「この膜の手法は、心が落ち着いた上集中しなきゃ扱えない。だから、合図を決める。私は人差し指を下にするだけで、強制的に心を落ち着かせられる。ってことでおわ」


「おわりー?」


 口調を真似するように名無しは言う。


「あはは。おわるにはまだ早いよねー、って言おうとしただけだよ。君が知りたい肝心のことは気配の消し方、でしょ?でも、なんか納得いかないなぁー」


 いきなり目の前それも宙に浮くその人に手であごを上げられ、上目づかいに彼女を見る。


「さっきから君の言う通りのまま。それじゃあ、こっちは面白くない」


 囁くように言う彼女に、名無しは目線を逸らさない。


「だったら、なにをすればいい」


「うーん……。じゃあ、こうしよう!!」


 ◆ ◆ ◆


「はぁ……」


 深いため息をし疲れた面持ちで道を歩く。


「なに嫌な顔してんの。まだまだこれからだよー」


「そうだよね」


 雑談に花を咲かせる道端の人々、和の造りをする家を横目に道を歩く。

 それもべったりとこの人につかれながら。


「いいねー。親友って」


「この距離感は親友なのかな?」


「そうだよ。このぐらい触れ合わなきゃ」


 この人がした要求は二つ。

 一つは、今日一日中魔力を閉じ込めながら生活すること。

 もう一つは、親友のふりをして街を歩くこと。


(はっきり言って意味が分からない。そもそも親友ってどういう風に接したら)


 「あ、混沌ちゃんじゃん。おひさー」


 狼の人が上に向かって手を振る。


 同じ方向を見ると、そこには空中で地面と反対を向きながらみたらし団子を食べる少年の姿が。


 黒と赤の入り混じる衣装を身に纏いながら、真っ黒な魔力が針のように突き出ているその人に名無しは咄嗟に引き返そうとする。


「なんで、そっちに行くの?名無し」


「だって、あんなのやばいでしょ!なんか」


 道の反対に向かって走り出した名無し。

 しかし、すぐに足を止めた。


「混沌混沌。天と地のありし混じり者」


 名無しの耳元で混沌は愉悦の如き声で囁く。

 その声にぞわっと身震いする。


「あー。おどかしちゃだめでしょー」


 顔を膨らませ狼の人が言うと、名無しに触れようとした手を混沌は引っ込めた。


「興味尽きず。我更なる混沌に胸が躍る」


 虹色に輝く目で混沌に見つめられる。

 頬を赤らめ、まばたきをしない混沌に名無しはゆっくり後ずさる。


「そ。この人は混沌ちゃん。性別も数も曖昧で言語もなんかおかしいけど、意外とかわいいんだよね。甘いもの好きで」


 いつの間にか手に持っている新たなみたらし団子を、狼の人は混沌の口めがけてぶっさす。すると、表情は柔らかくデフォルメされたかのように小さくなった。


「冷熱混じるスイーツ格別」


 薄目で混沌は満足げに言う。


「ほら」


「ほらって……。この街の人って全員こうなの?」


 遠くを見るような顔で名無しは天を仰ぐ。


「そういえば、混沌ちゃん。ここにいるってことは任務は終わり?」


「休息」


「あ、やりすぎたんでしょー」


「自我の暴走。混沌の掌握困難」


「確か次って調査任務でしょー。大丈夫?」


「後で、合流。隊長伝達。戦闘万全」


「それって、機械人の」


「あれ。知ってたのー?ってことは君は前進隊かー。混沌ちゃんの仲間だね」


「混沌混沌」


 食べて残ったくしを上に突き出す。

 混沌はそのままそれを口に放り込み、くしが折れる音とそれが喉を無理やり通るのを見て、名無しはドン引きするような表情をする。


(こんな人と一緒に任務するの……?)


「じゃ、また今度ねー」


 いつの間にかいなくなった混沌に、狼の人の言葉でハッとして気づく。


「もしかして、これぐらいで驚いちゃうー?あれはまだまだ優しい方。中にはもっともっとやばい人もいるよー。私は前進隊に入ってないし関わらないけどね」


「前進隊じゃないの?」


「そりゃそうでしょ。自分の身あってなんぼだよ。なんで自ら危険を冒しに行くのか意味が分からない。信念とか正義とかほんとうにくだらない。生きてさえいればそれでいいでしょ」


 珍しく明るかった顔は真剣に、それでいて狼の人の目は揺らいでいたように見えた。


「私もそう思う」


「それじゃあ、なんで前進隊に?」


「……それ以上の何かを求めちゃったから。それに約束もあるし」


「ふーん。じゃあ、その求めるものが手に入るか占ってもらおー!」


「え、ちょっ」


 手を引っ張られ、おぼつかない駆け足になる名無し。


「善は急げでしょ」


「そうだけ、うわッ!!」


 お姫様抱っこに抱えられ、狼の人は屋根に跳ぶ。

 屋根伝いに瓦を蹴り、道を跨ぎ、光景が一瞬で通り過ぎる。


 次第に街の様相が変わっていく。

 建物や道の作りも次第に白く、狼の人が着地したそこは西洋の街作りをしていた。


 通りに降り、街の光景を見る間もなく、狼の人は目の前の店のドアを開ける。

 チリンと鈴の音がなった。


「や!!久しぶり」


 薄暗い店でカウンターの奥に座る、頭だけカエルの着ぐるみを着たゴスロリ衣装のその人に笑顔で狼の人が言う。


「ん」


 こちらを一瞬向くと、その者は下を向き手元の針でウサギの人形を縫い始める。


「彼女は占い師のクルア。人形作りが趣味のちょっと変わってる無口の人ー」


「じゃあ、この棚にあるやつが」


「そういうことだー」


 棚ぎっしりに配置された人形の数々。

 狼や狐、形が摩訶不思議の動物の人形がたくさん。


 それ以外に目立ったものはなく、なんの店かも言われなきゃ分からない内装をしていた。


「ってことで占って」


 手を合わせクルアの前で言う狼の人。

 しかし、


「嫌」


 可愛らしい被り物の裏腹、不機嫌な少女の声できっぱりと断られた。


「なんでよー」


「気分じゃない。邪魔」


「そう言わないでよー」


「これ以上関わらないで。最悪なの」


「自分を占ったから?」


「占わなくても分かる」


「それは分かったふりだよー。子供だねー」


「はぁ……憂鬱。あなたと関わりたくないって言ってるの」


 被りものの人は手を止め、狼の人を見る。


「ふーん。そんなに悪い結果だったなら教えてよー。まだ、死にたくないんだけど」


「……」


 無言の返答に静寂で時計の針の音がカチカチと響く。それと同じように名無しには何故だか、心臓の音もはっきりと聞こえた。


 瞬間、手に持った針を狼の人の顔面目掛けて投げる。それを寸前、二本指で止め、狼の人は針で被り物を真っ二つに切り裂く。


 綿が溢れると同時、目が虚ろで隈が酷い少女の顔が出てきた。


「なんで……」


 瞬間、クルアは両目から涙を流した。表情を一切変えず。


「はぁ、死のう。死にたい」


「反撃されるの分かってたのにそういうことするからだよー。感情的すぎ」


「奥、被りもの」


「はいよー」


 人形のように脱力し、椅子から崩れ落ち、うつ伏せに倒れるルクアに狼の人は平然と店の奥に消えていった。


「あの、大丈夫ですか?」


「被りものないと死ぬ」


「なんで被りもの?」


「被りもの被った自分は自分じゃないから、悲しいは取り繕える」


「そう…なんだ」


(やっぱりこの街の人間ってどこか、)


「これでいい?」


 カウンターのさらに奥から、三毛猫の被り物だけがぶらぶらと揺れるのが見える。


「なんでも」


「じゃあ、つけたげてー」


 投げ飛ばされた被り物をジャンプしてキャッチし、名無しはカウンターに入る。

 首を持ち上げ、涙の止まらない少女の涙を拭き、猫の被り物を上から被せる。


 すると、


「ありがとうございます。私なんかに手をお貸ししてもらって」


「だれ?」


 先ほどの不機嫌な声と無気力な声とは段違いにおとなしい少女の声に、名無しは咄嗟に言った。


「あ、ごめん。酷いこと言った」


「いえ。私なんかに謝らないでください。それに違う人物に見えたのは、被り物の性格が出たからです。……占いをしに来たのですよね。奥に来てください」


 立ち上がり、奥へと進んでいくクルアに名無しは立ち止まる。


(街の人。初めて会ったのは四人だけど、やっぱり精神状態がいびつ……いや、これが普通なの?)


「なにしてるのー。早くきなー」


「でも、自分と他人の普通は違うし、私の魔導書は目に見える傷とか病だけで」


「ほら」


 手を掴まれ、名無しの意識は元に戻る。


「あ、ごめん」


「考えすぎ。魔力乱れてるよ」


 波立ち小さく渦を巻く魔力を指さし、名無しは肩に手を当てそれを抑える。


「忘れてた」


「ふふーん。まだまだ制御は私が上かな」


「すぐに追い越す。明日にでも」


 ◆ ◆ ◆


 店の奥、薄暗い地下への階段を降りていく。

 雑多に置かれた人形を踏まないよう気をつけながら進む。


 そして着いたそこは、


「これはなに?」


 テーブルと向かい合う椅子。

 それと、壁床天井一面に描かれる煌びやかな薄紫の魔法陣の数々。それらが全て繋がり、傘のように魔法陣の切れ端が中心部分、水晶の元に集まっていく。


「占いのなんかだってー」


「私の能力によるものです。他者の情報を読み取り、水晶に集め、占う。その一連の流れ。って、なんでついてきてるんですか?」


 少し怒った様子で狼の人に振り向く。


「ん?別にいいでしょ?私いても」


「占い結果はプライバシーなので」


「堅苦しいなー。じゃあ、終わったら言ってねー」


 そう言うと、狼の人はあっさりと引き返した。

 椅子に座り、二人は互いに向き合う。


「では、占いを」


 水晶に両手を近づける。

 すると、黄金色に渦を巻いた。


「あなたの未来について」

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