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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」

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第五十二話「第三拠点到着」

「やあ、初めましてかな。私はペイン。ここの市長だ」


 椅子に腰かけ、片目を閉じて言う市長に名無しは初対面でありながら悪態をつきそうになった。


「あんな、患者いるなんて聞いてない」


 目の下に隈ができ、瞼の重そうな名無しは文句を言う。


「ごめんて。でも、今の技術じゃ手に負えないから仕方ないでしょ」


 若々しい私服姿の市長は手を合わせ軽薄そうに言った。

 名無しはため息をつき、前に出る。


「初めまして。名無しと言います」


「島名から聞いてるよ。能力も君自身の勇敢さも。ちなみにこれから長話するっていったらどうする?」


 笑みを浮かべながら言うペインに名無しは少し冷たい目をする。


「出ていきます」


「気が強い人だ。まぁ、今急いでいるわけじゃないし、ゆっくりするといい。過労で死なれては困るからね」


「では、これで」


 背を向け名無しは扉に手をかける。

 それをペインは止めた。


「ああ、そうそう。カイについてだが彼女はどうだった?」


「どうとは?」


「あれは人間だと思う?」


「……さぁ?よくわからないです」


 少しの沈黙の後、名無しは扉を開け答えた。


「そうか」


 扉が閉まり、窓から差し込む光がなくなっていることに名無しは気づく。


(もう、夜だし今日は寝よう)


 重くなった体を壁に預けながら、通路を歩く。

 建物は大屋敷の造りのようで来客用の部屋があるらしい。今日はそこで休んでもいいという。


 真っ白で大きなベッドに飛び込み、体が沈みギシギシと音を立て一瞬で名無しの意識も沈んだ。


 ◆ ◆ ◆


「ねぇ!やめてこんなこと!!」


 母の声が遠く聞こえる。

 意識の奥から微かに。


「これも人類のためだ。我々が生き残るにはこうする他ない。君だって国に帰らねばならないだろう」


「でも、あまりにも!!」


「私情を殺せ。今だけだ。あと数年で未来が変わる。それまでの辛抱だ」


 誰かに手を握られる感覚とともに目を開ける。

 目に映るその顔はもやがかかって見えない。それでやっと気づいた。


(夢か)


◆ ◆ ◆


 窓からないはずの朝日が差し込み、名無しは目覚めた。

 体を起こし、窓を開ける。


「何見てたんだっけ。思い出せない」


 風が髪を揺らし、街の光景が目に入る。

 空は青く、太陽が昇り、様々な屋根が色を付け始める。緑の草原を通り、入ってくる空気は美味しく、街には様々な人がいる。


 地下であるにも関わらずそこは終末世界以前の街と同じ姿をしていた。


「こんな、場所があるなんて」


 その時、ドアが二回叩かれ、名無しは窓を閉めた。


「誰?」


「僕だ。勇人だよ。市長から話があるって」


(昨日の長話かな?)


「分かった。今行く」


 名無しはタンスにあった服に着替え、部屋の外に出た。


「って、なんで学生服?」


「これしか置いてなかったから。年齢詐欺ではないでしょ」


 そのまま市長室に向かい、名無しは勇人とともに部屋に入った。


「よく来てくれたね。昨晩はよく眠れた?」


「そりゃあね」


「それはよかった」


 昨日は疲労困憊だったからか市長を見て不思議に思わなかった。

 しかし、今見ると大役職の割に年齢は若い。年齢は二十歳やそこらにしか見えなかった。


「隊長も久しぶり」


「久しぶりか?一週間も経ってないぞ」


「え?」


 ソファに寝ころぶ白い服を着た”前進隊隊長「氷楼」”の言葉に名無しは目をぱちくりとする。


「さてと、どこから話すべきか。この世界に関すること終焉災害や七英傑、魂喰霊、各陣営の話は聞いているね」


「色々と」


「そこでだ。君には二つの選択肢がある」


「選択肢?」


「君には人を癒す明確な力がある。それも能力によるもの。たとえ、医学的に治療不可能な病もこの世の理を超えて治すことができるだろう。だからこそ、君の希少性を考慮した二つの選択。この街の中で暮らし人々の病を治し続ける医者になるか、それとも前進隊としてこのまま研究所を目指すか。どちらでも好きな方を選ぶといい」


 市長の言葉と表情は真面目にさっきまでの軽薄な様子は消えていた。

 それに名無しは視線を逸らし、あごに手を当てた。


(確かに、もしこの狭い街で原因不明の感染症が蔓延したら私一人でこの街の人は救える。それに魔力に由来する病なんかは多分今までの医療じゃ通じづらい。それはこの街の医者も言っていた。それに、)


 魂喰霊、メルメアスとの戦闘を思い出し顔が強張る。


「私には戦うすべがない。このまま先に進んでも多分死ぬ確率の方が高い。それでも……」


(どんなに先が怖くても)


「ゲートをなんとかするまで私は心の底から笑えない。幸せになんてなれない。今この街で苦しんでる人は、片っ端から全員治す。だから、このまま前進隊でいさせてください」


 頭を深々と下げ名無しは言う。


「死ぬかもよ」


「このまま年老いて仲間の墓を先に見るよりずっといい」


「……そうかそうか。君の覚悟は伝わった。私の負けだ。所属は隊のままにするよ」


 息を抜きペインは背に体を預ける。


「やっぱりな。こいつは頭がおかしいんだ」


「それはどういうことですか?隊長」


 その言葉に氷桜は入口とは真逆の方向に体を傾ける。


「よし、勇人の方もこのままでオッケーだよね?」


「名無しも師匠も行くなら僕も行きます。それに最近は能力についてよくわかってきましたし」


「よし、じゃあ本題だ。私とこの隊長から前進隊である君たちに一つ任務を与えよう」


 二つの封された紙を指先に持ち、ペインは二人に投げ渡した。


「調査任務だ」


 そこに書いてあったのは


「工場地帯を仕切る”機械人ダブレス・アールムト”の調査と勧誘?」


「そう!現在、僕たちには目下戦力が足らない。七英傑の一人レイナスが研究所に向かって以降消息不明なのを見るに、先にいるのは特殊型魂喰霊クラスが二体以上。七英傑が一人いるにしても今はとても真っ向から戦える状態ではない。そこでだ。同じく七英傑である彼を仲間に引き込む」


「それを私たちに?」


「そ」


「随分と信用してますね」


「そりゃ、君たちだけで行かせないからね。それに今でも君たちを使うのに私は反対だよ。こんな重要な任務、彼が言わなきゃ通してない」


 目線の先、眠っている隊長を見て名無しはよくわかった。


「それで調査って?」


「第二拠点で炎弐が戦った教魔団の一人アルスト。彼女が魔装武器を所持していた。ナイフや銃などといった量産型の武器はともかく、本来業物である魔装武器は地霊種ドワーフのみにしか作れない上、精霊種エルフか機械人を経由しこちらにも逐一存在を報告するよう約束を結んである」


「それがなかったと?」


「そう。登録されている武器種にはあんなのは見当たらなかった。教魔団に地霊種ドワーフがいるのか、それともわざと知らせなかったのか。まぁ、何にせよ怪しいことこの上ないわけだ。てことで、調査と仲間に引き込むことを君たちに依頼するからがんばってー。ある程度非道なことしても目を瞑るから好きに勧誘してきてよ」


(非道なことって……)


 目が泳ぎ、名無しは迷いと戸惑いの両方を含んだ表情を浮かべる。


「分かった。いつ出発するの?」


「それは追々伝える。それまでは街を見学するといいよ。ちなみに私のおすすめは占いの館。なかなか面白いよ」


 最後は笑みを浮かべ軽い雰囲気で言うと、名無し達を部屋から退出させた。


「頑張ってって何をすれば……」


「あ!!あの時の」


 通路から聞こえた声に名無しは顔を上げる。

 そこにいたのは猫耳の獣人。名無しを拠点まで連れてってくれた人物。


「愛莉さん?」


「違うよ。お姉ちゃんだよ」


 人差し指を前にし、否定する愛莉。


「名無しってお姉ちゃんいたの!?」


「違う。お姉さんって呼んでもらいたいだけの私の恩人」


「そう。私は君の恩人。ってことでお姉ちゃんは?」


「お姉さん」


「うん。そうだ。うんうん」


 うなずき名無しの言葉を噛みしめる愛莉の横を名無しは無言で通っていく。

 勇人も名無しに引っ張られ同じように素通りする。


 その時、愛莉が片手に持つ黄緑色の球体が目に入った。


(あれは魂喰霊の)


「あ、あれ?二人は?」


 愛莉は後ろを向くと、曲がり角に消える二人の影が目に入った。


「そっかぁ。まぁね。最近人との接し方よくわからなくなっちゃったから」


 一人言を呟き、愛莉は部屋に入っていった。

これから火曜、金曜の21:17あたりで定期更新していこうと思っています。ストックが0話なうえ、別作品が同時進行なので、できたら偉いぐらいで頑張ります。

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