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終末世界で少女は明日を見る  作者: がみれ
第一章「希望の光と絶望の認識」
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第五話「求める者と求められる者」

「これは物語なんだよ。君達が絶望に打ちひしがれて、苦難の道を歩み続けてそしてやっと得られるもの。私はそれが見たい。いやその過程全てを見たい。物語において序盤から結末までショートカットする作品なんて面白くないだろう」


 この人は何を言っているのだろう。人間とは思えない思考に私は困惑する他なかった。て皆が幸せになる最善が面白くない、つまらない。この人は今それだけの理由で私の言い分を蹴り死傷者が多数出る方を選んだのか?つまりは人の命よりも自分の娯楽を優先したということになる。その考えに頭が追いつき不気味さと怒りの感情が湧き上がり手が震え始めた。私はそのまま怒りのままに机を両手で叩き女性を睨みつけた。


「そんなに怯えないで。子犬は怪物には勝てないんだから」


 その言葉は当事者の名無しにとってはよく理解できた。なぜなら机を叩いた後勢いそのまま机をどけて殴りかかろうと右足を踏み込もうとしたその時何故か踏み込むという意識はなくなっていたからだ。


 他にも色々殴りかかろうと試したがすべてやる前に行動ができなくなる。つまり一切手出しができないことが分かった。だから言葉でしか無力な名無しは主張するしかできなかった。


「お前に人の心は無いのか!?」


 激昂し声を荒げ名もなき神を睨みつけた。


「あるよ。あるからこういうシチュエーションを作れている。そう考えると私もまた物語の一部になれてうれしいよ」


「自分勝手な」


「そりゃそうだ。私はと〜っても悪い神樣だからね。そういえば名乗ってなかったね。私は名のない神。冠された名は欲楽の神。ただただ好きなように楽しみたいだけのただの女の子だよ」


「・・・」


 あまりの自分勝手さに返す言葉も見つからなかった。


「…もう時間だ。ここであったことは他言無用。これは制約によるものであり破ることはできない。じゃあまたね」


名無し目掛けて手をかざし真っ白の魔法陣を浮かび、世界が割れて全てが白になっていく光景が私を覆いつくす。まるで世界が崩壊しているようだった。


「どうか私を楽しませて」


 シルエットだけの人の形をした姿の女性は傲慢にもそんなことを言い放つ。まるでそれが必然であるかのように。




『お。やっと起きたか』


 ふかふかなベッドの上かと思うほどの毛並みの上で起き上がりベッドの上かと思ったが周りの騒音と暴風並の風が不愉快にも私を襲い焦燥感を駆り立て、その考えはすぐに捨てた。


『そのままにしとき。死にたくなきゃな!』


 私は自分の身長の3倍ほどあるでかい狼の上にいた。さっきまでの静かな場所は何処にいったのか今は必死にしがみついてなきゃ死ぬ過酷な環境下にいる。


 あの場所に戻りたい気持ちと二度と神に会いたくない気持ちの2つが入り混じるが名無しの決断は固い。すぐさま今の状況を認識しようと考えを巡らせる。


 その結果分かったことは狼が山の中を周りの光景が一瞬で過ぎ去るほどの猛スピードで木の間を駆け抜け、ある敵から逃げていたことだった。


「あれは!?」


 人に黒いモヤがついたような見た目をした何かが人の限界を超えた速さで名無したちに向かって接近していた。そうつまりあれが


『あれがcnuて言うやつや。まぁあれは人間の範疇であんまスピード出せてないし体力にも限界あるからそんな気にせんでええ。問題はあいつや』


 頭の中に言葉が流れ込んでくる。おそらく念話とかそういう類のものなのだろう。しかしあいつとは誰なのだろうか?見た所追っている来ているのは死んだほうがいいcnuしか見えないのだが。


「死神と呼ばれている男です。ああ自己紹介がまだでしたね。私の名前は島名幸一です。司令班のリーダーの役職を持っています」


 眼鏡をかけたスーツ姿の島名と名乗る男は振りほどかれないように片手でしっかり狼を掴みもう片方で私が飛ばされないように押さえつけてくれていた。おかげで私は吹き飛ばされずに済んだ。


「私は名無し」


「そうですか。死神はスナイパーです。見た獲物を絶対に逃さない厄介な相手なので射程圏外約2kmの範囲を抜け出さなければ永遠に命を狙ってきます」


(約2キロ!?そんな遠くから弾丸は飛ばせるわけが、)


 そう考えていた私の横を弾丸が通りすぎ頬をかすめ血が傷口からこぼれ落ち弾丸と言うよりも砲弾に近いその玉は真正面の木に当たり激しい爆発音をならせ、周辺の木諸共爆散した。少し横にずれていたらきっと頭は消し飛んでいただろう。


『お前ら無事か?』


「はい、問題ありません」


 二人ともしっかりと毛を掴んでいたお陰で衝撃に飛ばされることはなかったが気を抜くと向かい風だけで吹き飛ばされそうになる。


「距離は?」


『まだ全然や。距離で逃げるより奴の死角になるように山を回ってるところやな』


「…能力というものは知っていますか?」


 風の音で聞き取りづらい島名の声はしっかりと耳に届いた。能力?言われた言葉の意味は分かるが何を指して言っているのかが分からない。


「知らないです」


「まぁ簡単に言えば漫画とかに出てくる特殊能力みたいなものです。私達が死神と呼んでいるその男は」


 地面に弾丸が当たり土がえぐり取られ砂ぼこりが宙に舞い風とともに私達を襲う。目をつぶってやり過ごした後に男は話しだした。


「その男は能力を二つ所持しその内魔導書を一冊所持しています」


「魔導書?」


「隊長からは教わっていないようですね。色々細かいので後で話します。ラル!」


「応!任せろ!落ちんよう全力で掴まってな!」


 おもむろにスピードが上がりどんどんと風当たりが強くなっていく。後ろを見ればcnuとの距離は遠ざかっていき数秒もしない内に黒一点になっていた。

後ろを見る余裕があったのは最初だけだった。


 加速していくラルに幾度も振り落とされそうになり胴体が宙に浮くこともあった。何とか掴めていたのはおそらく死への恐怖による馬鹿力によるものだろう。


『もうすぐや。ポイントの場所に着く』


 そう言いラルは前脚で地面を押し付け徐々にスピードを落としていく。そして山を下り降り森を通り抜けた先にあったのは


「崖〜〜〜〜!」


 言葉を発した頃には私は崖の真下へ体を引っ張られ急な方向転換により掴んだ手を放してしまい私の体は慣性に従い前方に向かい宙を飛んでいた。


 その時の私は死を覚悟していた。地面に落ちていくこの体にはどうすることも出来ず慣性と重力に従い私はただ真っすぐ死という現実に向かっていた。


 走馬灯とはまた違うかもしれないがマンションから飛び降り助けられたあの時を思い出す。どうしようも無かった無力な私を絶望から救ったあの人は今何をしているのだろうか。窮地にいるにも関わらず他人の事を考えるのは現実逃避かもしれないが私はあの人の事が気になった。


 何故助けてくれたにも関わらず山に放置したのか。命の恩人であるのは確かだが最悪愛莉に見つからず野垂れ死んでいたかもしれない。何故あんな行動をしたのか一度でもいいから会えないかと切望する名無しの意思は虚しく体は地面へと落下していく。


 ラルが振り落とされた状況に気づき助けようと崖の岩を蹴り名無しを助けようと向かうが気づいた頃には距離が開けすぎていた。ラルが助ける前に確実に地面へと落下する。


 だが私はまだ助かるかもしれないと淡い希望を抱いていた。忌々しくも世界が鏡が割れるように分断され白一色になっていたからだ。つまりまたあの場所へ行かなければならないらしい。奴がいる神の間に




「死ぬかと思った?」


 眼の前には微笑みを浮かべ目を閉じた白い女性がテーブルの反対側にいて、私は神がいる空間に引き戻されたことに気づいた。


「はぁ二度と会いたくなかった」


「辛辣な意見だ。いいね。何故いるかと言われたらこんなとこで終わるなんてがっかりだからだよ」


「どういうこと?」


「君は漫画の主人公が序盤の序盤で死んで打ち切りされるそんな漫画があったらどう思う?」


「つまんない…かも」


「そう!つまらないんだ!どんな良い設定でもどんな伏線があろうとどんな上手い描き方をしようと中途半端はつまらない!だからアドバイスをしに来たんだ」


「アドバイス?」


「そう。今君が戻っても地面に落ちて体がばらばらになるだけ。だから戻ったら大きい声でこう言うといい「助けて」と」


「それで助かるの?」


 助けてなんて言ったところで状況は変わらないと名無しは現実的に思考した。


「五分五分だね。運次第だから。さてと」


また前みたいに世界が割れ始め全てが白に染まっていく。


「期待してるよ。あ、そうそう声を大きく出すコツは腹から出すイメージで、あと」


 欲楽の神は最後までセリフを言えずに虚空に消え私の体はもとへと戻り止まっていた世界がゆっくりと動きはじめる。だんだんと世界が色づいていき体が動かせ呼吸ができるようになった。あいつの言う通りなんてしたくないが助かるために仕方なく恥じらいを捨て私は思いっきり息を吸い全力で声を轟かした。


「助けて!」


 多分人生で一番声を出したと思う。だって私は昔っから引っ込み思案で本ばっか読んでて誰かと話しかけられずに一人で。……いや私は一人じゃなかった。私には神社にいたあの…


 だが突如その思考を遮るように何か微弱な電気のようなもの私にが流れ記憶は閉ざされてしまった。


「了解した!!」



遠くからはっきりと聞こえるその声は私を現実に戻すと同時に衝撃を伝えた。それは激しくも、とても優しく私を掴んで。


凄じい速さで30mはある木々の上を駆け抜けるその男はまるで話に聞く忍者の身のこなしそっくりでしかし荒々しいその動きは私を助けようと必死なのが目に見えて分かった。


彼との距離がだんだんと縮まり私の体が葉緑の海に沈み込む寸前、「カチャ」という彼が持つ鞘の音とともに私は抱きかかえられた。


「安心して。もう大丈夫」


「ありがとう」


私を助けてくれた人は武士が着こなす服を着ており持っている漆黒の鞘と雨に濡れているその様子は正に時代劇に出てくる武士のようであった。


『やばいな、。どっかで休まないと』


ん?念話?理由は分からないが彼に抱きかかえられた時から何故かずっと彼の考えてくることが頭に入って来る。


やばいとはなんの事だろう?今の私では結論がつかず直接聞くことにした。


「やばいって何が?」


「え?僕、今喋ってた?」


「いや」


?の文字が頭に浮かび男は名無しを見て首をかしげる。


「僕の持つ能力の一つ契約はさっきみたいに繋がりが出来て求める力を引き出してブワーって力が出てくる、そんな感じのやつなんだが親和性が高くてもしかして思考全部聞こえる?」


「聞こえるけど何言ってるか全くわからない」


「大丈夫。僕も分からないから。分かっていることと言えば契約が切れれば徐々に力が失っていって人並の力になること。こんな感じに」


次の木に飛ぼうとした彼はその言葉通り飛距離が足りず真っ直ぐ下に落ちていった。


「何してるの〜〜!?」


力が無くなるなら直前で下に降りればいいじゃん!何をしてるの!?


「大丈夫」


「何が!?」


彼がある方向を指さす。その方向には私が乗っていたあのでかい狼が私達めがけて木々の間を駆け抜けていた。

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