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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第三章「欺瞞の渦と波乱の予感」

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第四十九話「極彩の晴天画」

「今日はここで睡眠をとる」


 歪んだ街を抜け背丈の何倍もある針葉樹林の中、遅れて輝夜は合流した。


 その時、全員にかけ布団と何か地面に敷くものを渡され、輝夜は木に寄りかかるように座り目をつむった。左手に少しだけ引き抜かれた刀を持って。


 輝夜以外はというと、


「当機は夕食を用意する」


 カイは夕食を用意するためどこかに向かった。

 名無したちは動きを止め、少し肌寒く感じた二人は枝木を集め、勇人が持っていたライターを使って焚き火をした。


 火を取り囲むように二人は手を火の方に近づける。オレンジ色の火に照らされ、体の芯からだんだんと温かくなっていく。


「というか、勇人。あれで失神するなんて三半規管弱くない?」


 歪んだ街の中層、荒れ狂う重力場を抜けた名無しは無言を貫く勇人を流石だなと評価していた。


 信じられないほどに猛烈な動きは戦闘経験豊富な勇人にとっては余裕で耐えられるものなのだと名無しは感嘆していた。


 しかし、同じく背中に貼り付けられた勇人を街を抜けて見てみると、当人はとっくに気絶していたのだ。


「仕方ないでしよ。地に足つかないであんな飛び回ったんだよ。普通は耐えられないよ」


「戦闘の時はあんなに動き回ってたのに?」


「あの時と今じゃ身体能力が違うから。契約で力を求められてない今は普通の火程度で火傷するぐらい弱くなってるし」


 そう言って立ち上がった勇人は自身の右手を躊躇なく火元に突き刺した。


「ちょ、え??」


 突然の出来事に慌てふためき、立ち上がって何食わぬ顔を浮かべる勇人の手をすぐに引き抜いた。


「何やってるの!?」


「ほら火傷してる。痛てて……」


 確かに皮膚は赤く腫れ火傷していた。

 火に手入れて、腫れるだけで済んでいたのは名無しが勇人の腕をすぐ引き抜いたのもあるが、単純に魔力による自己防衛もあったのだろう。


 ヒリヒリとした手を振り、痛みで思わず若干の笑みを浮かべ名無しの前に勇人は手を差し出す。


「なんでそんな馬鹿なこと」


 勇人の手に再生の魔力を通し、すぐに右手は元通り肌色の手へと戻った。


「内側の魔力が守ってくれてるから多少はね。このぐらいの枝だったら」


 勇人は足元に落ちている枝木を拾うと、勢いよく自身の腕に尖った先端を突き刺す。


 しかし、勇人の腕には傷一つつかず、対する枝は折れ曲がる。目では見えないが内側の魔力が防御したのだろう。


 それと同時に体を大事に使わない勇人に呆れた。

 ため息をつき名無しは地べたに座り少しムスッとした顔で勇人を指差す。


「さっきから体を無下に使いすぎ」


「治癒出来るんだから多少はいいでしょ」


 それもそうかと名無しは納得出来なかった。

 顔を下に向け、目の前に落ちているそれなりな太さの枝木を拾い握る。


(これを自分の腕に突き刺すか……私にはとても出来ない)


 たとえ突き刺さらないと分かっていてもきっと同じ事は出来ない。


 想像するだけで痛くて、血が出る不快感が頭によぎり、名無しは枝木を地面に置いた。


「勇人は私が自分可愛さに逃げてると思う?」


「そんなことない!!黒剣の魂喰霊のときもメルメアスと戦ったときだって名無しはいつも我先に立って敵を倒してたじゃないか」


「それは、そうしなきゃいけない場面だったからで」


 俯き小さな声で呟く名無し。

 それに勇人は名無しの両手を強く掴み、名無しを数秒見つめた。


「名無しは僕たちと違って一発でも攻撃が当たったら死んじゃうんだよ、あっけなく。むしろ、もっと自分の命を大事にして!!」


「……分かった」


 真剣に前のめりになって言う勇人の言葉と真剣な眼差しに名無しは否定の返答は出来なかった。それでも納得は出来ないのか自然と視線は逸れていた。


 勇人の言う事は正しい。

 そもそも身体の耐久性、能力が違うのだから同じ事をしようなんて思う方が間違っている。


 それでも心の底から勇人の言葉に賛成は出来なかった。


 勇人の手から離れ、燃え盛る焚き火を名無しは見つめる。


(勇気も力も何もかも私にはまだ足りない。決断も行動力も何もかも。もっと頑張らなきゃ)


 燃え滾る炎が名無しの瞳に映る。

 その時、小さな虫が火の中へ入り燃えて死にゆく姿を名無しは見ていなかった。


「帰還」


 夕食を取りに行ったカイは空を飛んで戻ってきた。


「これは?」


 目の前に出された頭部のない六本足の動物の死体を見て、名無しはカイに聞いた。


「鹿」


 後ろに隠した頭部を角を持ってカイは上に掲げる。


「鹿ってこんなんだっけ?」


 六本足どころか二本だった角が三本になり、目は薄青色に変わっている。どう見ても鹿ではない。


「そのような場合もある」


「いや、なくない!?」


 そんなこんなで夕食は鹿肉を使ったシチューとなり、一夜明け、名無したちはまだ日光の日差しを感じられない早朝から行動を開始した。


 使ったものは地面に埋めた。

 魂喰霊が知性を持っている可能性が捨てきれない以上痕跡は出来る限り残すべきではないと判断したからだ。


「今日は赤の街を抜け、第三拠点に入る」


「赤の街?」


(また、昨日みたいな街だったらどうしよう……)


 天を仰ぎ、名無しは歪んだ街より荒々しい街でないことを願った。


「星の精霊が何を指すか知りたいと言っていたな」


 森を歩く道中、輝夜は唐突に昨日話した星の精霊についての話題を名無しに投げかけた。


 それに食いつくように名無しの返答は早かった。


「うん。知りたい」


 知っておくべきであり、興味を強く惹かれるには星の精霊という単語は十分だった。


「では、話そう。この星が終末を迎えた少し後、絶え間ない能力の行使に大地が割れ、天は砕かれ、空が緑色に染められ「終焉災害」という名の大災害とともに現れた星の精霊について。メルメアスに最後、能力を使った正体も含め」


 森の先、木々が途切れ日光が照らす茶色い地面が視界に映り、向かいから涼しい風が顔に当たる。


 冷たい地面を踏んでいた名無しは森を抜け、暖かな地面を踏み入れる。はっきりとした緑色の草原を目の前に名無しは空を見た。


「何あれ……?」


 霧や雲に隠れ終末世界以降、晴天がどんなものなのか灰色な風景だけを見続けた名無しは知らなかった。


 だからこそ、目の前の光景がより美しく色彩豊かに感じ、


「きれい」


 夜空に浮かぶ星々を眺め、その自然の雄大さに感動するのと同じくらいの感動を名無しは感じていた。


 空はオーロラのように極彩色に色を付け、朝であるにも関わらずまったく別の時間の景色、夢の中のような絵の中の景色を見せていた。


「あれが目視可能な星の精霊であり、星の魔力回路。私たちの空だ」


「す、ッ!!」


 すごい、と名無しは目を輝かせ言葉を発しようとする。

 その時、背後から草をかき分ける音ともに真っ黒な霧を纏う兎が瞬きする間に名無しの首元に迫る。


 瞬間、兎の魂喰霊が目の前で縦に真っ二つに切り裂かれ地面に肉と血、真っ二つになった核が血濡れた地面を転がる。


「見惚れるほどに美しい。だからこそ、警戒を怠り視野を一つに狭めた我々人間に自然は容赦をしない。どんな感情を抱えようが、常に最悪の未来の可能性を意識しろ。それだけにとらわれずにな」


 輝夜の言葉とともに目の前の死体を見て名無しは己がどれほど危うかったのかを悟った。


 もし、輝夜がいなければこうなっていたのは自分ではないのかという恐怖と、空に見惚れて警戒を解いた己の過ちに名無しは思考を改める。


「ごめん。もう大丈夫。次は気を抜かない」


(私はまだまだ子供なんだな。目の前の事ばかり見てしまう)


 峡谷の時も言われていた事だ。

 目の前の綺麗なものが入ると、それしか見なくなってしまう。


 仲間が守ってくれるという甘えた安堵もあったのだろう。


 名無しは悔しさとともに首を振り、現実を俯瞰するよう意識した。


「それで星の精霊って何なの?」


 漠然とした名無しの疑問に輝夜は答える。


「我々は肉体の内側部分を魔力回路の枠組みとし、魔力を循環させている。結果、回路は肉体からはみ出ることはない」


 (だからこそ、魔力の放出量に限度があってそれを超えると魔炎病を引き起こすわけだ)


 水がパイプを通るイメージと、魔力が魔力回路を通るイメージを名無しは頭の中で思い浮かべる。

 

 すると、魔炎病のイメージはパイプを大量の水が一度に一瞬で流れて壊れてしまう物だと名無しは理解した。


「精霊とは単に魔力と魔力同士を繋ぐ繋ぎ目。星の魔力回路とはその枠組みを空の上、無数にいる精霊に代用し、星全体を魔力で循環させているもの。つまり、あれの事を指している」


 輝夜の見上げた視線の先を見て、名無しは星の魔力回路の一端を見た。

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