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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第四十六話「奇怪ではない機械」

「色々予期せぬ事態はありましたが、まず無事生きて帰ってきてなによりです」


 あれから一夜明け、名無しは島名に呼ばれてある部屋にいた。


 椅子と机が一つずつあるだけの簡素な部屋。

 もちろん、座るのは島名だ。


「今回敵が落とした情報と敵の各能力については、第三拠点の本部にも通達します。そこで、敵から得た情報を口頭で話してもらいます」


「分かった。ん?口頭?紙に記さなくていいの?」


 机の上には書類もペンもない。

 記録媒体がないのに良いのかと、名無しは疑問に感じたが島名は必要ないというように言葉を続けた。


「はい。何せ彼女がいますから」


「彼女?」


 名無しの呟きとともに扉が開かれ、ある一人の人物が部屋の中へと入ってきた。


「マスターの命により仮指揮権を全ての副隊長、隊長に継承。当機体は島名様の指示に従い、第二拠点に現着しました」


 彼女と、島名が言うようにその人物は女性なのだと背後を振り向き分かった。

 しかし、入ってきた人物を見て名無しは緋狐や浅葱狐を見た時と同じような違和感、不確定な生命の如き異常を感じた。


 外見上は幼い少女のようだった。

 しかし、ピンク色の髪の上には天使のような輪が二重につき、膝元の肌は一部が剥がれ、銀色の光沢が剥き出しになっていた。


 その者は名無しを見るなり目を見開き、髪と同色の瞳を点滅させた。


 それを見て名無しは首を傾け呟く。

 

「機械?」


「肯定。当機の名は非戦闘初期型精霊魔力回路接続モデル支援機体アルファ「カイ」。マスターより当陣営の情報収集と協力の任を与えられている」


 感情のこもっていない無機質だがかわいらしい声で機械は言う。


「という事だ」


「名前……はどれ?」


「過去記録から呼称の約九割はカイ。固体識別名は長いのでカイと呼ぶことを推奨。私個人としてもマスターから与えられた名で呼ばれることは嬉しい」


「機械でも嬉しいとかあるんだ」


 その後、名無しは敵の情報を全て話した。

 敵の目標が約二十二年前の過去へ回帰し、終末世界へと至った元凶である一人の人物を殺すことであり、そのためには星にいる能力所持者を全て殺す必要があること。また、敵の能力についても。

 

「あと、」


 見間違いかもしれないが、勇人がとどめを刺す時、魔力の糸のようなものがメルメアスの防御を貫通したように見えた。


 けれど、あの膨大な魔力の中に阻まれてそれが可能なのか。


 名無しは疑問とともに不確定な情報である事から言うべきか悩み黙る。


「もしかして、メルメアスに干渉した魔力の糸についてですか?」


 それを見かねてか、島名は情報を付け加える。


「え?あ、うん」


 名無しの返答に「やっぱり」と、島名は納得したように頷いた。


「勇人も言っていましたがやはりそうですか。それはある一人の人物の能力によるものです。知りたければ輝夜雫に聞くといいでしょう」


「輝夜雫?」


 誰だ?と、よく分からないという風な名無しに島名が情報を継ぎ足し答える。


「ああ、鬼の角を持った女性の事です。あの方に聞けばきっとその糸の正体について教えてくれるでしょう」


(鬼の人……あの人が知っている?)


 島名が言葉を発したその時、名無しに被せるようにノイズのような機械音が後ろから聞こえた。


 名無しは振り向きカイを見る。

 すると、天使のような輪が薄い紫色に光っていた。


「疑問。何故自明の事柄を隠す?」


 カイはその場で動かず、首を傾け島名に問う。


「隠した?」


 名無しもそれには無視できず、島名の目を見て答えさせる。

 知っていながら隠すということは、教えると不都合が生まれるということだ。何故と、問いたいのは名無しも同様だった。


「長くなるからです」


 以外にも単純明快な理由に名無しは拍子抜けになり緊張を解いた。


「理解。であれば当機が後で簡潔な説明を」


「それはだめだ」


「疑問。何故?言語能力、情報処理能力は説明基準を満たしている」


「……」


 二人は互いに目線を合わせ、考えを探り合うかのように黙り続ける。


(え、きまず……どうしよ、これ)


「ともかく、駄目なものは駄目です。君のマスターが研究所の構造情報を隠すのと同じですよ。まぁ、そちらが情報を秘匿しなければ大概の言い分は聞きますが」


 沈黙は破り仕方なくと言うように下を向き、再度目を合わせ島名が言う。


「当該事項は機密事項として情報秘匿が義務化されている」


「そう、互いに隠してることの一つや二つある。だからこそ、互いが完全な信用を置くのはまだ早いのです」


「理解」


 それを聞き、納得したのかカイの天使の輪が黄色くなりもとに戻る。


「それは何より。さて、出発は特殊型が街から離れると予想される明日、新城茜と狐の少女を除いた皆を二手に別れさせ第三拠点に向かってもらいます」


(思ったより早い。数日はかかると思ってた)


「分かった」


「そこで、名無しはカイと共に第三拠点に向かってもらいます。なので名無しはカイと仲良くなることをお勧めします」


 島名に呼ばれ、話すことは全て話し終えた。

 部屋から立ち去り、ゆっくりと通路を歩く。


 焼けて黒ずんだ地面を踏み、ろうそくの灯らない暗闇を真っすぐ進む。


 そして、名無しはある事を思い出した。


「あれ?茜は残るの?」


「肯定。会話記録よりそのように推測できます」


「そっかぁ。うん。で、カイはどこまで着いてくるの?」


 部屋から出て名無しは通路を適当に進んでいた。特に目指す場所もなく数十分は歩いている。


 その後ろを無言でついて回り、何も喋らないカイの存在を流石の名無しも無視が出来なかった。


 背後を振り向き、顔は見えないと分かっていながらジト目でカイを見る。


「島名様の仲良くという命令遂行を確認するまで、当機体は名無しとの信頼関係構築を目指します」


「これのどこが仲良くできると!?」


 ただ後ろに無言でつきまとうカイに名無しは見当違いだとツッコまずにはいられなかった。


「人類は恐怖や不安からくる心拍数の上昇を恋愛感情と錯覚する、そうマスターは言っていた」


「つまり、吊り橋効果は狙ったと?」


「肯定」


 カイの言い分は理解できる。

 しかし、大事な部分が幾らか欠けていた。


「う〜ん。まず、大前提に私は女を恋愛感情として見ていない」


「当機体に性別はない。一人称、発声の変更と疑似人格の投影で男性のように振る舞うことも可能」


「え、それは何か嫌だ」


「……マスターを否定すると?」


「だって女の子から男の声するんだよ」


 不満しかないと言いたげな名無しの表情にカイは俯く。


「些事、とマスター言ったのに……。人の趣向は人それぞれだと記憶しておく」


 その後もカイはついてきた。

 色々話す内に名無しはカイの認識が絶妙にずれていると何度も感じた。知識として情報はあるが経験として人と接したことがないのだろう。


 それでも、心があり善性があるようで人間らしい機械だと、名無しは一緒に居て気分は悪くならなかった。


「茜はこの部屋かな」


 扉を開け、名無しは布団に横たわる茜の側へ向かう。


「大丈夫?」


 全身が包帯で巻かれた茜に名無しは聞いた。


「はい。かなり楽になりました。全身筋肉痛だった昔を思い出す程度に」


「そう……」


 第二拠点へ帰還し、最初見た茜の状態を思い出すと、今は大分回復していると感じる。


 血塗れな床と壁。

 全身の皮膚に亀裂が入り、魔炎で体が焼かれ会話が通らないほど悶え苦しんでいた昨日は、本当に死にそうで助かる見込みがあるとは思えなかった。


 だが、今は命に別状はない。

 軽口を言う茜に名無しは安堵の表情を浮かべ、拠点移動について聞いた。


「そうですね。私はここに残ります」


「何で……」


「散々この地に根付く死した魂を使いました。仲間のためとはいえ死者を弄ぶようなことを、私はしたのです。それで街が半壊し能力が弱まったからと何処かへ行くのは虫が良すぎる。道理か通らないんです」


「でも、だからと言って一人でここに残るのは……」


 島名はこの拠点にいる茜以外の人間を全て第三拠点に送ると言った。そうなればきっと一人ぼっちこの地下で生活することになる。


 それはあんまりだと、名無しは茜の意見に反対する。


 しかし、


「一人じゃないですよ。私には緋狐と浅葱狐がいます。彼女たちと共になら寂しくはありません」


「……分かった」


 茜が決めた事を無理に変えるなんてできない。茜には茜の心情がある。


 名無しは落ち込みながらも自身を納得させるように言う。


 それを見て茜は言葉を続けた。


「ではこうしましょう。全てが終わったら私を迎えに来て下さい。あの日能力を授かって以来長らく太陽を見ていないので」


 右手を両手で掴み、名無しは意志のともった真っすぐな目で茜を見る。


「絶対に連れてく」


 そして、はっきりと名無しは茜の言葉に応じた。


「約束ですよ」


 柔らかな笑みを浮かべ、茜は名無しを見て言う。

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