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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第四十五話「救世主の登場」

「これは……」


 展開される魔法陣を見渡す勇人。

 しかし、すぐさま耳に片手を当てた。


 甲高く響いた鐘の音を内側から聞き、鼓膜に突き刺すような痛みを覚えたからだ。

 だが、その鐘の響きが光の球を跳ね除け、結果全ての球が地面へと落下した。


 魔法陣が上から下に解体され、鐘が消滅していく。

 瞬間、解体する際生じた僅かな魔力の流れから勇人の神眼は術者の位置を辿った。


 そこは、雲の隙間から太陽が照らす塔の天辺。遠くてはっきりとは見えなかったが、天辺に立つ一人の人物が目に入る。


 鐘の音が消え、風が通り抜ける音だけが耳に入る。

 しかし、安心も束の間、船の先頭にいる骸骨の魔力が天にのぼり自身に落とした雷の音圧で二人は気付く。まだ、命の保証がないのだということを。


 雲の色が黒ずみ、雷が鳴る間隔がどんどん狭くなっていく。曇りだった天気が、嵐に変わる。


 骸骨は体勢を低くとった。

 船の先頭落ちるすれすれの板に足を乗せ、剣を抜いた。


 瞬間、振りぬかれた剣の斬撃が雨粒を蒸発させながら突き進む。バチバチと音を立て、雷が横を通り抜けるたび、斬撃は厚みを増し、さらに魔力が込められる。


 それを見て、勇人と名無しは峡谷を作り上げた正体を理解した。

 地形を変えるほどの一撃が、誰によるものか、全身から感じる圧倒的な魔力の圧で身をもって悟る。


(無理だ……)


 その時、時間の進みがゆるやかに感じた。

 雷よりもずっと恐ろしい斬撃を前に、今度こそ死を悟り名無しは繋いでいた手の力を無くす。


 心が諦め、下を向き、目の前まで迫る斬撃に頬が焼け始める。


 そのとき、視界の端に一つの点が見えた。

 雲海すれすれに光るその点はだんだん近づく。そして、それが霧の雲海の上を走る一人の人間だと名無しが気づいたときには、すでにその者は斬撃と二人の間に姿を見せていた。


 二本の白角を持った紺の長髪、赤い瞳のスーツを着た鬼の女の姿が。


「残鬼一夜の月」


 鬼の女は、体の前で持つ半分だけ引き抜かれた刀を鞘にしまう。

 瞬間、三日月の形をした斬撃が鬼の女性の前に虚空から現れる。


 それは、迫りくる雷の斬撃と同じ横薙の斬撃。

 月の斬撃が真正面から雷の斬撃に激突し、火花を散らし止める。


「すまない。遅れた」


 刀を右手に持ち、名無しを脇に抱えそう言う鬼の女は、目の前にいる勇人を下に引っ張り無防備な背中に向け躊躇もなく踵を振り落とした。勇人の体は一瞬で地面へと急速落下し、地面に衝突する音が霧の下から聞こえる。


「え……?あッ?え?」


 あまりの唐突な出来事に、名無しは頭の理解が追いつかず言葉が出てこなかった。


「舌を噛まないように」


 咄嗟に命令だけは従った名無しは、鬼の女に抱えられ落下。一瞬で霧を抜ける。鬼の女が言った意味を地上に降りたことで名無しは気づいた。


 鬼の女は、気絶し口から血を漏らす勇人を拾い、地上をとてつもない速さで駆け抜ける。


 風圧で隣接する建物の窓を割りながら、真っすぐ大通りのど真ん中を走り、その先二手に分かれたT字路を曲がらない。そのまま、宝石店の中へ窓を割って入り、三人は店内の床に倒れる。


 そして、霧の雲海の上数秒にも満たない僅かに静止した雷の斬撃が動き始める。


 月の斬撃を断ち、なおも雷によって魔力を込められたそれは厚みを増し続ける。そのままの勢いで突き進んだ斬撃は、山の中腹を真っ二つに切り裂き、その影響は地上にまで及んだ。


 風と魔力の圧で街の西側半分、街を覆っていた霧も、そこにあったであろう建造物も全てが突風に吹き飛ばされる。


 そんな中入りこんだ宝石店はその影響の範囲すれすれにあった。


 突風に吸い込まれそうになる二人の体は、鬼の女に床へ押し付けられる。天井が無くなり机も宝石も壁も床以外の全てが吹き飛んでいく。


 しかし、次第に風は止み鬼の女のおかげで二人は何とか吹き飛ばずに済んだ。


 鬼の女性は立ち上がり、西側の街を見た。


「流石の威力だ。とても正面から受けれるものではない」


 残ったのは、雷が辺りに降り注ぐ緑の消えた荒野のみ。

 さっきまであった大通りは見る影もなく、建物の外は一歩進めば道ではなくなっていた。


「こんな……」


 手を床につき目を開けた名無しは、目の前の光景を見てこれが現実であると信じられなかった。


 横を向くと影響範囲の境目、まだ原型はあったであろう建造物は視界の先まで続き、荒野も同様に続いていた。


 これがたった一体の魂喰霊によって引き起こされている。その事を名無しはこれ以上ないほどに目に焼き付け、戦ってはいけない相手であると記憶した。


 名無しは再び脇に抱えられ、勇人も反対に抱えられ鬼の女は再び残る街の方へと走り出す。


「このまま行けば奴は次のフェーズに移行する。地上に身を移し、先の斬撃がこの地で放たれでもしたら、私達は今度こそ逃げ場がなくなる。仲間の場所は知っているか?」


「地上はラルと緋狐がいる。居場所は」


 その時、目の前に緋狐が現れ、一瞬で名無したちの横を通り過ぎる。


「「左斜め前」」


 鬼の女と名無しの声がはもる。

 通り過ぎる瞬間、緋狐が指差した方向を二人は視認したのだ。


 その時、霧の上から先ほどの光の球と同じ幾千の魔法陣の存在を名無しは感じ取る。


 最悪の状況が迫っている。時間はないのだと名無しは焦る。


 進行方向を変え、家屋の上を駆ける鬼の女。

 その時、武器と武器がぶつかるような音が、正面から聞こえた。


「ラル!!」


 噴水のついた少し開けた場所でラルは魂喰霊と戦っていた。

 それを見て名無しは叫ぶ。


「今すぐ第二拠点に!!メルメアスは倒した!!」


 それを聞いたラルは、迫りくる鎖を跳ね除け、すぐさま獣の姿へと変える。

 

「彼女を。すぐ終わらす」


 すれ違いざまに鬼の女は名無しを放り投げ、ラルが合わせて、緋狐が掴み空中を飛んだ体は毛皮の上にうつ伏せで乗った。勇人は地面に置かれた。


 鬼の女は目の前迫りくる魂喰霊二体を前に立ち止まる。

 刀を持たず左親指で刀を鞘からほんの少し刀身が見える程度に抜き、即座に指を刀から離し、鞘にしまう。


 カチャという音が鳴り、その瞬間、魂喰霊の地面と頭上両方から三日月の形をした斬撃が現れる。敵はそれに気づかず、体は斬撃によって縦に真っ二つに切り裂かれ、血が豪快に地面へぶちまけられた。


「戻った」


「いや、一秒もたってないんやが!?」  


「峡谷は?」


「あれ」


 名無しが指差し、地面の亀裂に向かい二人は全速力で駆ける。


 やはりと言うべきか鬼の女はラルより速く、勇人を抱え一瞬で峡谷までたどり着き、そのまま地下へと消えた。


「やばい!!やばい!!早く!!」


 名無しが上を見て焦り、ラルを急かす。


 だんだんと霧の明るさが増している。

 光の球がすでに展開されているのだ。いつ、放たれてもおかしくない。


(あと、もう少し)


 峡谷まで残り約十メートル。

 その時、魔法が発動した。


 光の球が霧の雲海を通り過ぎ、辺り一帯に降り注ぐ。すぐに、名無したちの視界にもそれが映った。


 上空から放たれ視界に映るまでの猶予でラルの体は峡谷の上まではたどり着くことができた。


 しかし、光の球は手を伸ばせば届く寸前にまで迫っていた。回避は不可能。受けるしかない。


 そう思った瞬間、残り少ない魔力で緋狐が反発の能力を使用。


 ラル達を勢いよく下に叩き落とし、急降下。

 途中にあった側面の岩を足場に、縦横無尽に飛びながら落下の勢いを殺し、光の球を避ける。


 避けた先、着弾した煌びやかな魔鉱石が砕け様々な色の爆発が辺りに生じる。


 それを回避し、光の球を避け続けながら、目の前にある第二拠点へと続く洞窟を三人は目視する。


 最後の足場を使い飛んだラルの体は一直線に洞窟へ向かい、光の球が背中に当たる瞬間、獣魔化を解き三人の体はそのままの勢いで洞窟へと入り込み地面を転がった。








 第二拠点へ逃走は成功した。

 疲れ果て今にも休みたい名無しだったが、浅葱狐に連れられすぐに血だらけの床の上で死ぬ間際にいた茜の治療を始めた。


「容体は?」


 鬼の女は通路で壁に寄りかかり、治療が終わって部屋から出た名無しに聞いた。


「魔炎は消えたし、傷も治せるところは全て治した。数日は寝たきりになると思うけど死にはしない。今は緋狐と浅葱狐が付きっきりで、安静にしてる」


「そうか……また、無茶を」


 鬼の女性は帯刀する鞘を掴み、カチャっと少さく音を鳴らした。


「今後の動きや諸々は副隊長殿から伝えられる。が、今日は深く眠りを取るといい。どのみち、特殊型は数日居続ける。時間はあるだろう」


 鬼の女性は名無しと真逆の方向へ歩き出し、暗闇へ消えていく。


 名無しも疲れがどっときて、そのまま適当な部屋を借り、倒れるように眠りについた。

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