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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第四十二話「戦闘本番②」

「え?」


 名無しの言葉に、勇人は理解が及ばず下を振り向きそうになったが、すぐに巨人へと視線を向ける。


 迫りくる巨人の両手で繰り出す攻撃を、体を捻り、捻った方向に合わせ片手を巨人の腕に添え攻撃を受け流す。そのまま巨人の腕を足場に魔力を込め蹴り、その場を離れた。


「何を言っ」


 解釈のずれを伝えようと、勇人を声を発するも、しかし、その言葉は途中で途切れる。


 周囲の空間が一瞬、燃えるような赤に染まったからだ。

 勇人の目線の先、同高度に緋色の球とそれに乗り、直立不動の緋狐の姿が目に入った。


(あれは緋狐の)


 反発の展開に使う緋色の球から間違いなく、彼女は反発の能力を行使しようとしていると勇人は理解した。それは、魔力を見ても明らかだった。


 しかし、勇人はある違和感を感じた。

 緋狐の反発は四つの球を展開し作る面に対し、斥力を生ませるという能力だ。


 だが、辺りを見ても、緋狐の乗る一つの球以外に、他の球は見当たらない。


 勇人は、地上方向に視線を向けた。

 緋狐の能力を引き起こすための球の在り方が気になったというのもあったが、警戒すべき敵から視線を外すのは迂闊すぎると判断したためだ。


「ん……?そうか!!」


 勇人は眼下に広がる光景を見て、口に手を当てる。


 そこにあるのは、メルメアスを中心とし霧の雲海に浮かぶ正三角形になるよう配置された三つの緋色の球。


(つまりこれは……)








「反発で空気を圧縮する」

 

 上方向に最大限の風の抵抗を受けるよう体を広げ、仰向きで落下する名無し。上に向かって拳を握りしめ、彼女の瞳が緋狐を映す。

 名無しは緋狐に勇人の鍔迫り合いの合間、ある事を伝えていた。


 四つの球が結んで作る面の片側に反発の性質を付与できるのなら、三角錐型に球を配置。面を形成し結界のようにして閉じ込め、その結界自体を縮小。


 内部の空気を圧縮することはできないかと名無しは緋狐に伝えていた。


(相手は私と同じ魔導書系統。内側の魔力に限界がある以上、人体に有効な攻撃は通るはず)


 名無しの目論見通りなら、これはメルメアスに有効な攻撃になる。


 もちろん、緋狐がこれに成功するかなんて保障はない。なにせ、初めての試み。かつ、内部に制御から離れた魔力が漏れれば、魔力が完全に同属性、同性質でなくなり単なる魔力の反発性質で魔力の操作が不安定になり面が保てなくなり粉々に砕けるだろう。


 出来るかできないかは、運次第。それでも、名無しはできると、自ら命をかけてまで信じた。


「私は仲間を信じる。緋狐が私達を信じて、力を託してくれたように。次は私が」


 それしかできないのだからと、言葉よりも行動で名無しは緋狐に覚悟を示す。


 皆が命をかけ戦っているのと同じように。


 落下しながら幾度も死にかけ助かってきたことを思い返し、聞こえる心臓の音を落ち着かせ、再生の魔力をゆっくりと刀に馴染ませる。纏わりつくように黄金色が白い光に混じっていく。

 できる限り長時間、魔力が刀から離れないように、刀を体に引き寄せ全身全霊で名無しは魔力を込める。


(これで決めるんだ)


 唯一にして攻撃が通った、再生の魔力を付与した刀。もし、弓月の神との契約に時間切れになった場合、これが最後の抗いになると名無しは勇人の意思を汲み、そして賭けた。


 魔力探知の穴とメルメアスの敵が一つに絞られていることに。








「まったく、無茶を言いますね!!」


 緋狐は仮面を投げ捨て、無表情な顔が露わになる。

 緋狐は地上に向かって両手をかざした。明確なイメージと強い意志を持って。


「展開!!」


 四つの球が互いを魔力の線で結び、反発の面が展開。

 一瞬の間に、メルメアスは反発の結界に閉じ込められた。


「これは……」


 メルメアスは眼前の出来事に戸惑いを隠せなかった。

 なにしろ、再生の魔力と勇人の弓矢以外で攻撃が通らない今、別の者が行動を起こすと予想してはいなかったからだ。


 冷たい瞳で緋狐を視認し、メルメアスは冷静に詠唱を始めた。


「縁を断絶し輪廻を壊滅の炎で焼き払い、願いは地へと堕ちる。崩壊の書第三章、崩滅の剣」


 しかし、


「潰れろ!!」


 緋狐の叫びに四つの球がメルメアスに近づくように移動し、囲いが縮小。

 刹那、メルメアスの肉体に異変が生じる。


「がッ」


 焼けるような喉の痛みと、突き刺ささるような鼓膜と頭の痛みにメルメアスの意識が一瞬遠のく。


 事実、燃えるような空気に喉が焼けていた。

 咄嗟に、メルメアスは自身の首を締め付け、瞼を閉じた。


 (なんだ……これは)


 急な身体の異常にメルメアスは驚きを隠せなかった。

 直接的な魔力による異常はなく、狐の仮面の少女の魔力量はメルメアスに比べ、小さなものだったからだ。


 だが、現に今傷を負ったのは事実だとメルメアスは理解出来ずとも受け入れざるを得なかった。


 急な出来事に集中を欠き、魔力の制御が緩くなったせいか、メルメアスは反発による影響を受ける。足に触れた面が反発し吹き飛び、次は頭に触れた面が反発し体が吹き飛ぶ。それを繰り返し、メルメアスは縦横無尽に吹き飛ばされ続けた。


 そして、予想外の出来事に、深く息を吸うタイミングを失い、息を止め供給がなくなったことにより、数秒で蓄えた酸素がすぐに枯渇する。


(まさか、呼吸の関係で空気を閉ざすわけにはいかないのを逆手にッ)


 メルメアスは真の意味での狙いを体感し察した。


 直接的な攻撃は、魔力を込めても、込めなくても崩壊の壁に阻まれメルメアスの喉元へと届かない。

 しかし、空気は別になる。生命活動を維持する上で酸素は必要不可欠であり、崩壊の壁を空気が通り抜けなければ酸欠になる。


 それを、逆手にした空気の圧縮。

 人体の影響が有害な形でメルメアスに現れる。


 しかし、これはまだ始まりに過ぎない。


 熱を帯びた空気だが、全身が酸素を求めメルメアスは、首を絞める力を緩める。 

 すると、空気が勢いよく肺に流れ、喉の渇きが潤うのに近い安堵の表情が一瞬浮かぶ。


 だが、すぐにメルメアスは事態の深刻さを悟った。

 酸素が供給されたことで、詠唱が可能と考えたメルメアスは崩滅の剣を取り出そうと詠唱の続きを行おうとした。


 しかし、


「我がッ」


 紡ぐ声は掠れ、瞬時に途切れる。


 (声が出せないッ!!)


 圧縮された外からの空気に胸が押し潰され、息を吐き出そうとしても力が足りず、かろうじて捻りだした言葉は文を作るには短いたった数文字程度。


 詠唱には足りない。


 それに加え、体内に流れ込む空気の奔流と圧縮された酸素の濃度がさらなる毒を体に入れる。それを理性よりも本能で、メルメアスは感じ取り自身が追い詰められた状況にいることをようやく察した。


(ならば……)


 この結界を壊す以外に選択肢はない。








「このままいけば、数秒で酸素中毒と二酸化炭素の蓄積で生じる毒性によってメルメアスは死ぬ。けど、そううまくはいかないよね」


 全てが予想通りと言うように、落下する名無しの表情に驚きはない。


 メルメアスの放つ全方向への崩壊の魔力が、結界とぶつかり紫色の魔力の稲妻が結界内で荒れ狂う。それにより結界に亀裂が生じ始め、名無しは結界の崩壊が近いことを悟る。


 魔力量による力量差が出ることは理解していた。こころが潮時だと霧の雲海に沈んでいく名無しは勇人を見て、両手で持った伝達の紙を真っ二つに断つ。


 体は霧に沈み、しかし上空に向け伸ばした唯一霧に沈まないその手で。


 紙に書かれた文字は「解除」という二文字。

 第二拠点に入る際、緋狐にもらったその紙により文字に起こした言葉は直接届く。


 緋狐は名無しの合図を感じ取り、意図的に結界の魔力操作を解き、名無しの前に姿を現す。


「これでよろしかったのですか?」


 学校の校庭ほどの正方形の反発の面を展開し、二人の体はトランポリンのように数回跳ね、霧の雲海の下で大の字のまま落下を止める。


「うん。あとは勇人が戦う」


 緋狐が能力を解除し、名無しを抱きかかえ二人は地上にゆっくりと降り立つ。


「ですが……」


「分かってる」


 幽霊船の出現とメルメアスの第六章。それに加え、三体の魂喰霊の参戦。


 はっきり言って上の二人に手放しに任せるには荷が重すぎる。緋狐も名無しも霧の上に行き、負担を減らしたい気持ちはある。


 しかし、緋狐は先ほどの圧縮で魔力が残りわずか。名無しは言わずもがな戦力外だと理解している。


 足手まといになるよりかは参戦するべきでないと、名無しは苦渋の選択をするのが最善だと踏んだ。ただ上を見るだけの今の状況にもどかしさが募りながら。


「私たちが助けに入れるのは最後の局面しかない」


 この残りわずかの力であの化け物に抗うのはそこだろう。


 (私の考えが正しいなら、この刀は勇人の手に届く)


 名無しは緋狐に作戦を伝えた。

 その機を待ち、二人は地上に身を隠した。


「信じよう。仲間を」










 結界全体に亀裂が走ると同時、結界が跡形もなく消え去る。結界を型取り、残る緋色の魔力も、崩壊の魔力に消し飛ばされメルメアスは深く息を吸う。


「はッ!!脆いですね!!」


 一時の生への歓喜と一瞬の安堵。

 それにより、メルメアスは勇人の存在を忘れ見失う。


 しかし、勘というものか気配を感じとり、メルメアスは勢いよく上を見上げた。


 そこにあるのは、上空から迫りくる数百の矢が束ねられた光の柱。


 緋狐の結界に囚われた時間の猶予により、勇人は十分魔力を集中することができ、その矢はその場しのぎの一撃とは違う束ねられた一つの柱となった。


「小癪なッ!!」


 メルメアスは片腕を天に伸ばす。

 魔力を手の先端に集中し、溢れる真っ黒の液体のような魔力が光の矢を覆うように広がる。


 しかし、メルメアスが全てを受け止めるように放出したそれを、避けるように半数近くの矢が光の柱から離れ、四方に分裂し単一の矢となった。


 その行いにメルメアスは嫌な予感を感じ、下を振り向いた。


「まさかッ……!!狙いは……!!」


 そこにあるのは、三十四個もの崩壊魔力の塊。

 魔導書の第六章で生み出したそれらに光の矢が降り注ぐ。

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