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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第三十九話「受け継がれる意志」

「ぶっ飛べ!!!!」


 集中した炎は爆発し、鎌を押し上げ、引力ともに加速する。

 瞬きする間にアルストに刃が迫り、直後炎は猛々しく円筒を覆い、火力は最高潮に達した。


 それにより、アルストの顔に火傷の跡がついた。

 それは、残響の無力化の表れ。能力行使の制限10秒の経過にアルストはようやく気づく。


 だが、アルストは動揺する素振りはない。

 それは劣勢であると理解しながら、打開するすべがあると知っていたからだ。


(傷がない過去に干渉出来ない………丁度10秒か。いや、まだだな)


 アルストは懐からナイフを取り出し、槍に向かって投げる。

 青白い魔力が刀に染まると同時、空中で静止し、ノイズが走る。


 それは残響の能力によって引き起こされる、過去への回帰。


(残響……!?そうかッ!!魔装武器を、はなから残響の対象外にしていたのか!!)


 アルストは自身と身の回りを対象に残響を付与。それは周囲を焼く高温から守るため。


 だが、魔装武器は、魔鉱石を原料としており、魔力、物理、様々な異常性に耐久を持って作られている。


 精霊による疑似魔力回路と内側の魔力の再現。許容魔力量は並みのものではなく、高温と魔力出力に魔装武器であるナイフは耐えるのだろう。重夢世界の適用時の多大な魔力出力に耐えるように。


 故に、残響を適用外にしていたナイフに、この時始めて能力が適応される。


 ナイフがその場の空中にあるという、1秒にも満たない過去へ遡るという残響。

従ったナイフは槍とぶつかり、静止する。


 爆発的な火力とともに、繰り出した初速は無に帰すことになった。


「はぁぁぁッ!!!」


 だが、炎弐の前進は止まらない。


 全身から絞り出すように魔力を引き出し、火力を増大した。魔力出力限界も近い。操作する魔力がいつ暴走してもおかしくない。


 それでも、ここで全身全霊を尽くす以外、炎弐には最初から選択肢はなかった。


(あいつが俺を殺す覚悟で、やってんだ!!)


「今の全力を尽くすなんて、生ぬれぇよな!!!」


 ナイフはコンマ数秒の経過とともに、大きな爆発によって弾かれ、鎌は再度加速する。先ほどの初速を越え、空を切り裂いた。


 その刃はアルストに届く。

 双対のナイフを握る、尊敬するかつての先輩へと。


 放出された魔力、互いの武器がせめぎ合い、火花とともに、魔力の稲妻が空中を伝播する。


 アルストの用いている能力は、おそらく残響プラス反夢。武器にノイズが走り、重なっていることから間違いないだろう。

 十秒間のナイフの無敵化と、防御の重複を行っている。


 それでも、両者の力は拮抗していた。


「まだだッ!!!!」


 炎弐は叫ぶ。

 すでに限界を超えていながら、それでもなお力を増大させる。

この場に全てをかける確固たる意思が、限界の先の力を引き出していた。








「これほどとは……!!」


 炎弐の炎と魔力にアルストは押され、壊れていない事象まで遡り続けるはずのナイフにヒビが入り亀裂が出来上がっていく。


 それを見て、アルストは驚嘆の表情を顔に浮かべる。


 炎弐の炎の魔力に魔力操作が乱され、残響の適用範囲が失われ始めているのだ。

それほどまでに高出力で高精度な魔力操作。

 自身が知っている炎弐では、到底できないことを行っていた。


 物理的にも魔力的にも、アルストは限界が近いことを察していた。

 だが、炎弐の火力は上がり続ける一方。


 焦りを感じながらも、アルストは冷静に次の行動を考える。


─────今を貫くべきか、一歩踏み出すべきか。

 行動を起こさねば炎に身を焼かれ、行動を起こしたとしても魔炎に身を焼かれる可能性がある。


 どちらの選択も確実な生還は保証されていない。


(もしこれ以上進めば、元には戻れないだろう)


 魔力回路は二つの能力の同時行使で限界まで酷使している。

 これ以上は、出力限界を超え、おそらく魔炎病を引き起こすだろう。


 だが、出力を上げる方法はたった一つしかなかった。自身の皮膚を魔力回路の代替として魔力を全開放するという禁忌の手段のみ。


 強大な力を引き出せはするが、ひとたび発症すれば、まともには動けなくなり最悪、体が朽ち果て塵となってしまう大きな反動がある。


(だが、ここで引くわけにはいかない!!)


 世界中にかつていた、失った大多数の命を救うのには、我が身可愛さを捨てずに成し遂げられない。


 自身の命よりも、過去へ回帰し終末世界となって失った世界中の人間を救う目的のために。

 反動も理解し、それでもアルストは命を燃やし刃を研ごうと、死の一線を超え、自身の身を賭す覚悟を固める。


「私にも譲れないものがある!!!」


 理念を強く持ち、アルストは魔力回路の限界の先、出力限界を超える。

 その身にある全ての魔力を全解放した。


 瞳が光り、周囲の炎の暖色が青白く変わっていく。

 失いかけていた魔力の制御を取り戻し、鎌を押し返し始めたのだ。


 だが、予想通りナイフを支える二つの手の甲に亀裂が入り始める。魔炎病が発症したのだ。血が流れるとともに、桃色の魔炎が傷口を伝い、亀裂が腕を上っていく。


 アルストは両手が真っ二つに引き裂かれるような感覚とともに感じる魔炎の痛みに苦悶の表情を浮かべる。

 魔力回路を通るはずの魔力が無理やり皮膚を伝っているのだと、アルストは感覚で理解した。


 泣きたくなるような痛みに、肉体はとうに限界を超えていながら、それでもナイフは手放さない。


 だが当然、手の力は弱まる。

 魔力の押し合いは優勢。しかし、鎌を吹き飛ばすことは叶わなかった。


 その時、アルストの耳に金属音が聞こえた。

 鍔迫り合いから生じる音ではない、武器が壊れる寸前に亀裂が入る音だ。


(魔力の一点集中か……!!)


 放った鎌に膨大な魔力を先端に集中させ、ナイフの破壊を狙っていると気づき、アルストはまたもや驚愕した。


 これほど膨大な魔力を遠距離から強固に操作するのは、アルストにとっても不可能だったからだ。


(何故だ。これほどの強さ………魔力もスピードも技術も私より劣っていたはず。今の炎弐の実力は一体どこまで……?)


 誘引の光円筒を消し飛ばすほどの炎がより太くなり、増大した魔力ともに天に迫ってくる。それを見て、己の認識が誤っていたのだとアルストは理解する。


 思えばいつも考えなしに、真っすぐに力で攻め続けるのが炎弐の戦い方だった。

だが今は、昔とは比較にならない魔力量と魔力許容量、狡猾さを兼ね備えていた。


 守りと逃げに徹しながら、反撃の隙を伺う戦い方はまるで自分自身を見ているようなそんな感覚さえアルストは覚えた。


 今の今まで過去に囚われ、今の炎弐を見ていなかったことのだとアルストは気づく。


(まったく……未来を変えるには後ろを向いたままではいけないと、言ったのは私だというのにな……)


 過去を見たまま前へは進めないと言った自分の言葉が自分自身に突き刺さる。


 武器を掴む指が一本、二本と減っていき、とうとう親指と手のひらのみでしか押さえられないほどに傷が広がった。


 ナイフも気づけば壊れる寸前までになっていた。

 魔力ももう押し返せるほどに残っていない。


 燃え滾る炎がアルストを覆い始め、重ねたナイフの一つが割れていき、自身を守り支えるナイフが粉々に砕け始める。


「初めてだな。君の勝ちは」


 アルストは悲し気にそれでいて穏やかな表情を浮かべ、誰にも聞こえない小さな声で呟く。


 鎌は勢いそのままに突き進んだ。

 尖った先端、槍の形状をした刃がいとも容易く肉を抉り取り、アルストの腹を貫通する。アルストの左脇腹に大きな風穴を開けた。


 流れる血は炎によって蒸発し、全身の力が抜けたようにアルストが落下していく。


「アルスト……」


 アルストは炎弐の真横に仰向けに、地面に勢いよく叩きつけらる。


 その体は右脇腹周辺が消失。両腕は骨折し、両手は中指から手首まで切り裂かれ、全身が火傷。魔炎が腕から顔、上半身全体に広がっていた。


 体を起こし炎弐はアルストを見た。

 その姿からは生気が感じられず、目の輝きが次第に消えていっている。


 死の直面にいるアルストに、炎弐はかける言葉を失った。


「後悔……する必要…はない。君は君の正義を……貫いたまでだ」


 血を吐き、途切れ途切れに言うアルストの言葉はか細く、もう助からないのだと炎弐は悟る。勝った喜びなど全くなかった。


「炎弐………大切な人は見つけたか?」


「……ああ、たくさん」


「そうか。よかったな」


 負けてもいない。それなのに、炎弐は悔しかった。こうなってしまうまで、何もできなかった自分が本当に。


 アルストは辛そうな笑みを浮かべ、弱弱しい手で炎弐の頬に触れた。その手は優しく温かかった。


 その時、アルストの微細な魔力が全身に伝うのを感じた。

 何をしようとしているのかは、炎弐は一瞬で理解でき、アルストを止めようと、手を振り払おうとしたがしなかった。


「待て……!!こんなことしたら………」


 炎弐の傷が過去に戻るように、みるみる消えてなくなっていく。

 最後の最後に能力で傷を負う前の過去に戻しているのだ。


「こんなこと…ぐらい……させてくれ。曲りなりにも先輩……なんだ」


 魔炎が一気に全身に広がり、頬に触れた手は灰となり崩れ落ちる。


「待ってくれ!!俺はあんたに話したいことが、まだ!!」


 炎弐の目から涙が零れ落ちる。

 分かっていた。覚悟していた。それでも、大切な人が消えてなくなるのを見て、炎弐は胸の奥を苦しくせずにはいられなかった。


「ありがとう。わたしを……止めてくれて。君が……後輩でよかった。もし、死後の世界でまた会えたなら……その時は君の夢が叶った世界を私に……聞かせて…くれ」


 目から一滴の涙が顔を伝い、アルストはやわらかな笑みを見せる。

 感謝の言葉が遺言に、アルストの目の光が消える。


「ああ、もちろんだ………」


 焦げた匂いとともに、アルストの涙も蒸発していく。

 絶望的な世界であっても、彼は彼女の意志を真っ当に継ぎ、世界を救い、必ず平和な世を取り戻そうと胸の奥で誓った。

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