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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第三十五話「狐との契約」

 霧が視界を阻む中、地上では雨が降り止み水溜りが溜まっていた。


「……なるほど、了解や。勇人!!」


 ラルの合図に勇人は数発斬撃を放ち手を止めラルの背に飛び乗った。


「じゃあ、掴まっといてな!!」


 三人を背に乗せ、力強く地を踏み込むと同時跳躍し空中を飛ぶラル。


 風を押しのけ最高点に到達すると同時、名無しは眼下に広がる街の光景を一望した。


 ほんの一瞬。

 目の前に広がる街全体の光景に一際目立つ建物が霧の隙間から微かに見え、名無しは即座に指を指した。


「あれだ……塔がある方に向かって!」


「了解や!!」


 緋狐が形成する足場を使い、落下の勢いを利用しながら速度を上げる。一直線に空中を駆け抜け、大通りに着地する。


「右に!!」


 その時、何かが崩れ去る音が背後から聞こえた。後ろから悪魔のような翼を広げ宙を飛ぶメルメアスが見える。


 建物を削る崩壊の魔力の塊が次々と投げ飛ばされ、寸前で次々回避しラルは大通りのど真ん中を縦横無尽に走り抜けた。


 だが、回避出来ても、速さに分が無い以上追いつかれるのは時間の問題。

 皆がそう思う中、名無しだけが違うと確信していた。


「この街は全て地下で繋がってる。私達はこれから地下鉄に入って路線を経由して、メルメアスを撒く」


「……地下鉄?」


「確かにこの地下鉄は複雑に絡みあってて時間稼ぎにはもってこいやな。cnuも感知しにくくなる。だがそれやと、ただ逃げるちゅうだけじゃないか?」


「いや、最大の狙いは魔力の消耗。あの崩壊の層は常に張ることは出来ない」


 張り続けられない理由は推測に過ぎない。

 だが、再生の書と崩壊の書の各章と節の効果が似通っているのは、なぜだか感覚で理解出来る。


 勘とは違う理解し難い言外の言葉がそう感じさせる。


「崩壊の書第一章一節。魔力を纏わせ自身の体に魔力属性を付与する魔術をメルメアスは多分使ってる」


(だけど、練度が尋常じゃない。私がやっても10秒ぐらいしか保てない制御をあんなに簡単に、しかも体を覆う層に一切の偏りも揺らぎもない防御を完成させている。正直攻撃が通っただけでも奇跡に近い)


「そこ!!」


 地下鉄へ続く階段を指さし、一行は地下鉄への入り口に飛び込む。


 仄暗い通路では照明が点滅し、雨水かポツポツと地面に滴っている。人の温もりが感じられない冷たい空気が重くのしかかる。


「あの魔力の層は魔力が枯渇すればなくなる。だから、私達の狙いはこの地下鉄を崩落しメルメアスを引きつけ続けること」


 後ろから聞こえる何かが削れる音から、地下鉄への階段まで迫ってきているのが分かる。


 シャッターが閉まった通路を通り、私達は改札まで辿り着いた。


「あれは……」


 四体の壁に寄りかかるように倒れていた服を着たままの白骨死体。どの死体も何故か心臓部にナイフが刺されていた。


「たまに見かけるやつや。それで何処に向かう?」


「………左のホームに降りて、真っすぐ鉄道沿い」


 その言葉通り、改札を飛び越え階段を降りホームへと辿り着いた。


 そして、線路に進む道を切り替える。


「勇人はもし追いつかれそうになったら足止めして。緋狐はその援護」


「了解!」


 線路上を駆け抜け、時間を稼ごうとする名無したち。だが、カーブになったその時漆黒の翼が顕になる。


「どこまで逃げるのですか!?」


 追いかけるメルメアスは翼を消し、地面に足をつけそのままの速度で迫ってきた。


 踏み出す一歩からなる足跡には同種の色の魔力の軌跡が暗闇の中明かりを灯していた。


「僕が出る」


 暗闇の中、勇人の刀から眩い白色の光が溢れ出る。


 勇人は地面に降り立ち、並走しながらメルメアスに近づき一閃。


 しかし、またもや刀は魔力の層に触れた途端消失した。


 勇人は足と地面の両方に魔力を込めた。


 制御から離れた自身と同種の魔力と制御している自身の魔力は反発の性質を持つ。 


 これは制御化を外れた魔力が属性が混ざりに混ざった周囲の魔力に影響され、制御していた魔力とは完全に同一ではなくなる現象と同属性、同性質に近いほどに互いの魔力が反発する現象から引き起こされることから引き起こされる。


 それを利用したメルメアスと勇人が行うこの技は終末世界前から広く知られ"瞬足"と呼ばれるようになった。


「緋狐!!」


 暗闇を駆け抜ける中地面に緋狐の反発が現れる。向きは地面に平行。勇人が片足を乗せ、狙い通りに天井に勇人の体が打ち上がる。


 勇人は上手く天井に着地し片足を天井につけ、もかい片方の足を緋狐が展開する天井すれすれに展開された反発に乗せた。


 向きはメルメアスに一直線。天井に飛んだ勢いよりも速く天井を"瞬足"の要領で蹴りメルメアスの首目掛けて飛んだ。


 まるで弾丸の如きその速さにメルメアスは剣で防ぐことは叶わず無防備な首元に刀が近づく。


 だが、刀は崩壊の魔力の層に消失する。


 それも勇人は十分理解していた。だからこそ、反発は既に地面に対し斜めに展開されていた。


 一撃よりも、攻撃を入れる数を意識。


 トンネル内を縦横無尽に白と黒の攻防が交錯する。全てが地面であるかのごとく白き刀はメルメアスに幾度も迫っていた。


 だが………、


「まずいかも……」


「何や?気配からして負けてはないやろ?」


 確かに初手と今は一見して違いがないように見える。だが、明らかに変化があった。


「対応され始めてる。勇人の速さに」


 最初はどの攻撃も防ぐことは出来なかった。だけど、次第に刀と剣がぶつかる数が多くなってきていた。明らかに勇人の動きを見切ってきている。


 勇人の体力もこのままじゃ持たない。


「勇人!戻って!」


 反発がラルの方を向き勇人がそれを踏み台に飛び、背の上に飛び乗った。


(緋狐との秘策は広い場所じゃなきゃ使えない。どうすれば………)


 今ある能力でメルメアスを倒すのは現実的じゃない。だが、何もしなかった場合追いつかれるのは目に見えていた。


「勇人様」


 トンネルの天井を転移で崩し、メルメアスに瓦礫を降らせながら緋狐は話す。


「契約は名無し様限定なのでしょうか?」


「いや、元々は誰でも出来た。けど名無しと繋がった今じゃ他とは一切繋がらなくなった」


 背を向け名無しの魔力が込められた斬撃を放ち勇人は言う。


「それは全ての人と契約をしてですか?」


「………一人だけ試してない人物がいる」


「その人物とは?」


「───新城茜」


 その言葉に緋狐の言葉は止まる。


 新城茜は魔炎病を発症している。負荷をかければ身を蝕まれ最悪死ぬおそれさえある。契約を行って命の保証は取れない。しかし、打つ手が無く死の恐れはこちらにもあった。


 猶予がない今判断を鈍らせるのは得策では無いと判断した名無しは決意して言う。


「………勇人。全て私の責任で、茜に契約で繋がりを作って」


「……名無し様!!」


 肩を掴み緋狐は当然反対する。

 仮面で表情は見えなかったが声から感情ははっきりと伝わった。


「契約は行使は勇人がする。それに、私にはもう一つ能力が負担にならない確証がある」


「それは?」


 魔力の性質は気体や液体のように変えられる。だが、魔力の色は個人特有で変えることは出来ないのだと色々試して分かった。


 そして、最初の神社とチェスの時に感じた禍々しい黄色の魔力。あれは黒色の茜とは似ても似つかない神のものではないのかと名無しは感じていた。


 どっちみち一か八かだがやってみるしかないと名無しは案を口にする。


「────茜を通じて神に契約の行程を一任する」


 魔力のやり取りも何もかも神に託し、茜の負担をかけずに繋がりから力を得る。今生き残る唯一の道だ。


「それが出来ると?」


「やるしかない。どのみち、下が倒せても時間が経てば特殊型が来る。僕たちがメルメアスを下に連れて行くわけにはいかない」


 勇人が目を瞑り刀を横にして前に取り出し手をかざした。契約が刀から来ているのを理解し何時でも行使出来る準備をする勇人。


「僕達は手段を選ぶほど力はない。目の前の敵が何時まで今を維持するかさえ運に身を委ねるしかないんだ」


 メルメアスが持つのが魔導書だ。まだ発動していない能力があるのは明白だと皆知っている。そして、盤面が覆るカードとチャンスを敵が所持していることも。


「ですが万が一茜様に何かあったら………」


「緋狐はあの神の分身なんでしょ。自分を信じて。茜の事が本当に大事なら、きみは見捨て無いはず」


 緋狐の話から二人は元々は神そのもの。

 神とは同じ考えとは思わないが、それでも元々同じだったのならきっと必死に茜を助けようとすると名無しは信じた。


「それに、茜は守られるだけの存在じゃない。きっと対等に見て欲しいと思ってるんじゃないかな」


 チェスをしてきたのは打算があったのは確かだが、緋狐達とやっても勝負にならないから単純に誰かとゲームをしたかったのもあったのかもしれない。


「………」


 一瞬の沈黙。

 緋狐は思考を巡らす。


「決めるのは緋狐でいい。もしやらないとしたら、何とかする手段を模索するまでだから」


 汗が額に浮かぶ名無しを見て、余裕がないことを緋狐は理解した。そして、守る存在だと認識していた自分がいることに緋狐は気づいた。


(思えば茜様は対等に接してくださっていた。私が名無し様方について行く際も命令ではなくお願いという形をとっていた)


 自分達だけが主従に徹し、対等な関係を遠ざけていたのかもしれない。茜の意思を汲み取っていなかったことに気づき、対等でいたいと願う茜の言葉に緋狐は決意する。


「───やります」


 その言葉には、人ととしての強い意思の強さが宿っていた。

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