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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第三十四話「過去から今へ」

「あの日からあんたに聞きたいことが山程あんだ………」


 言いたかったこと、伝えたかったことがたくさんある。

 言葉に出来ない事もいつか伝えられるこの日のために考え、積み重ねてきた。


「だが、その前に生きててよかった」


 言いたいことよりも、まず本心の言葉が口から出た。


 腹に手を当て、負った傷の具合から炎弐の表情には余裕は無い。


 それでも、アルストを見ると不思議と笑みが浮かんだ。


「私が死ぬと思うか?」


「いいや?まったく」


 終末世界になろうとアルストが死ぬイメージがつかなかった。


 それは、手合わせで何回もボコボコにされ、殴ることすら出来ないほど届かない位置にいると理解していたからだ。


 それに、正しくあろうと民に身を捧げる精神力はこの目で何度も見てきた。

 強さを持った女性であると炎弐は知っていた。


「まさか、こんな広い世界でもう一度会えるとはな」


 生きているとは思っていたが、広い星の中でお互い会うすべが無かった。


 四年もの長い諦めかけた再会の時。

 それが、今目の前にやってきた。

 心底嬉しい感情が胸の奥からこみ上げるのは炎弐にとって当然だった。


 だが、それとは別に一つの感情が心が落ち着くと共に沸き上がった。


「なぁ、なんで俺に何も言わずに去った?」


 あの日アルストが去った日の事を思い出し、悔しさが滲んだ。今まで一緒に接して、それなりに信頼関係は生まれていたと思っていた。


 ───先輩と後輩。

 自分たちの関係を示す言葉通り、赤の他人という関係ではなかったはずだった。


 だからこそ何も言わず去ったことに炎弐は悔しさと悲しさが胸の内にあった。


 そこまで、頼りにならないのかと。

 ついて行くことさえ許されないのかと。


 無力な自分を責めさえした。


「君を危険にさらすことになるかもしれなかった」


 平然と落ち着いた様子で言うアルスト。


「拒絶するな、と言ったよな……」


 地面に手をつき、ゆっくりと炎弐は立ち上がった。


「懐かしいな」


「とぼけんな!!あんたが何を言おうと俺はついていくつもりだったんだぞ!!」


 炎弐の言葉をアルストは見ないふりし、怒鳴る声に怒気がこもる。


 それは単に今敵対しているからではなく、守られるべき存在と見做され、同じ土俵に立っていないという暗示を示した言葉に対し、返す言葉もない自分自身に対する怒りと、かつての信頼を無視するような言葉に対する無力な悔しさからだった。


「そうはならない────君と私の世界のあるべき形と正義は違う。今こうして敵対しているのが何よりの証拠だ」


 アルストの意見も共感はできないが理解はできる。


 アルストが言う通り、教魔団が来た目的が能力所持者の抹殺なら、敵対しない選択肢はもうなかった。


 ────殺らなければ、殺られると。

 戦場では迷った奴から死んでいくのだとアルストから教わった。そして、今がまさにその時だと肌で感じる。


 だからこそ、この先の展開が見えて炎弐は憂鬱な気分になり声の調子が落ちる。


「一緒に来いとは言わねぇんだな。拒絶するなと言ったくせに」


「君に半端な覚悟で来てほしくはない」


 ついて行ったとして、知り合った仲間は殺せない。アルストはその事を理解していた。半端になるとは正にその通りだった。


「なぁ、何であんたみたいな人間が殺人なんかに加担してる?」


「言った通り、今この世界にいる人間を全て救った所で、失った命には遠く及ばない。屍の塔は積み上がったままだ。ならば、手を汚しこの星に生きていた全ての民を救うことが与えられた力に対する責務だと、私は思う」


「星の回帰に何の根拠がある?」


 突飛な時間を遡るという現実的ではない目的に、炎弐は未だ信じられなかった。


「神によってこの世界に特異点が現れた。それだけだ。君も私のやり方と動機には一部共感出来るだろう?」


 当然のように言うアルスト。

 神を信じていた様子は過去には無かった。


 だからこそ、かつてのアルストは変わってしまったのかと怒りがこみ上げた。


 何より自分の事をまるで理解していなく、決定事項のように共感出来ると言うアルストの言葉が癇に触った。


「んな訳ねぇだろ!!!」


 共感出来るというアルストの言葉に怒りが溢れ、声が震えた。


「俺はなぁ、この世界で好きなだけ暴れて勝った奴らと酒を酌み交わしてんだ。全員死ねば元通りになる??ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!!!そしたらどうやってもう一度会えるってんだよ!!!そこで起きた事も何もかも全部消えて無かったことにしたら今いる自分らは何もねぇじゃねぇか!!!」


「………それでも命の価値は平等だ。私情に左右された意思では世界は救えない。この世界は加護を受けなければならない。神による加護を」


 ────その言葉は平坦では無かった。

 まるで、自身に言い聞かすようにアルストはどこか迷いが滲む声で口にする。


 迷う心に釣られ、声量は大きくなっていた。


「なぁ一つ聞いていいか。あんた、人を殺したか?」


「ああ」


「それはなんも罪を犯していない一般人か?」


「ああ」


「………はぁ……そうか」


 言い訳を弁明の余地もない殺人の事実に、炎弐は目を背けたくなった。

 重い溜息と共に涙を抑えるように声が震えた。


 ────そして、決心した。

 教魔団の一員ではなく、尊敬していた軍人アルストとして戦うのだと。


 それが、せめてもの優しさと筋だと炎弐は思った。


「訓練じゃ、一度も勝てなかった」


 だからこそ、何度も負けた理由を考えた。

 どうすれば、勝てるか。

 どうすれば、一撃入れられるか。


 去ったあの日からずっとアルストの強さを探った。


「いつか、道を踏み外した先輩を止めるためあんたを倒すイメージをずっとし続けてんだ!!」


 そして、自分にない強さを知った。


「今度こそ、正々堂々あんたをボコボコにして殴ってでも止めてやる!!」


 炎弐は前を見て拳を構える。


「………私の能力は過去の事象の抽出と反映だ。重複しない最大十秒前まで過去に遡りその時点の事象を引き出す"残響"と存在する過去のパラレルワールドの事象を引き出し重ねる"反夢"」


「……何のつもりだ」


「正々堂々、だろ。手の内を隠すつもりは無い」


 後に引けない二人は戦う。

 見届人の居ない終末世界で。










 狐霊正殿堂4階にて───。

 リスウェルは分身を拡散させ、茜の魂視を使い建物内にいる全ての人間を無線で連携し一か所に集めた。4階の地上に繋がるルートがある入口、洞窟のような大きな広間の空間に。


「島名様は全員を連れ上へ。私は残り足止めをします」


「分かりました」


「何かあれば、小型の私経由で知らせてください」


 峡谷にある魔鉱石による妨害で無線が通らない可能性を考慮し、能力による情報伝達に頼ることにした。


 人形の形をした片手サイズの小さなリスウェルを島名に渡し、一行は奥へと進み退避する。


 足音が遠のくにつれ、下から聞こえる爆音が大きく聞こえた。

 戦闘が始まっているということは、じきに敵も攻めてくる。


「とは言ってもどう戦いましょう?」


 首を傾げ、どう戦うかをリスウェルは悩んだ。


 普段は偵察に使われ、前線に出ることはあった。だが戦う機会は一切皆無だった。戦闘経験は訓練以外には一切ない。つまり、実戦は初になる。


「ナイフぐらいは欲しいですね」


 生身だけでは心もとないと、リスウェルは得物がある場所に複数体、分身を向かわした。


 そして、自分の胸に問いかけなければいけないことがあった。


 それは、人間を相手にする。つまりはご主人様候補に反意を向ける事が出来るのかという問いだ。


 自身がメイドであるというのが前提である以上、ご主人様の方が立場が上になる。

 両立しないご主人様を救うという願いに葛藤を抱えリスウェルは頭を悩ませた。


「あ!!」


 リスウェルは手を叩き、マスターに言われた事を思い出した。


「私に従え。そうすれば優先度の高いご主人様に従っているお前は正しいと。そうでした」


 メイドがご主人様に敵意を向けることはあってはならない。だが、ご主人様の命令で違うご主人様に敵意を向ける場合、それはご主人様とご主人様の命令のせめぎ合い。


 優先度の高い方に仕えるのが忠実なメイドなのだ。


「あ。一人殺された」


 一体の分身が二階に上った集団の一人に背後から音もなく、ぐさりと刺し殺されたのが痛みとともに伝わってきた。


 ─────どうやら、相手は人殺しにためらいはないらしい。

 ならばこそ、こちらが手加減する必要はない。


「最悪マスターだけ、この世界に生きていればいいのですから」


 笑みを浮かべ当然のように言うリスウェル。


 ご主人様の優先順位に従い、上を向かう人間を死守しようとリスウェルは決意する。マスターを悲しませないために。


 そう言うリスウェルは、より笑みを強めご機嫌な様子だった。








「化け物」


 名無しの言葉通り、今の戦力で勝てるビジョンが全く浮かばなかった。

 だからこそ、手に持っていたこの街全体が書かれた地図を見ていた。


 ある秘策を名無しは思いついていた。


「リオレスア地区のどこだ?ここ」


 上空から落ちた事で現在位置ははっきりとは分からなかったが、逆算して逃走ルートはそれなりに頭に叩き込んだ。少し動き回れば現在位置から逃走経路を確保できる。


「わいが来たー!!」


 その時、聞き馴染みのある声が聞こえた。

 目に広がる光景に一つの巨大な狼が空中から現れたのを確認しすぐさま、名無しは思案していた通り、ラルに指示をとばした。


「……なるほど。了解や」

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