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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第三十二話「Profile:炎弐Ⅰ」

 全てが名無しに向かうよう二十の崩壊の槍は放たれた。咄嗟に魔力で防ごうとしたがそれを止める。防ぐ必要がない。勇人の方が槍より速いのだから。


 名無しは勇人に抱きかかえられる。

 緋狐が出現させた足場を蹴り宙を飛ぶ。槍が互いにぶつかり勢いを止め、すぐさま方向を変え迫りくる。


 それを阿吽の呼吸で連携し華麗に回避。回避が難しい槍は、体を捻り次々切り裂き数を減らす。


 迫りくる槍を全て撃ち落とし、勇人は着地した。

 最初の振りだしに戻る位置に両者は立つ。


「ラルはあとどのくらい?」


 勇人が焦りと焦燥の表情を滲ませ言う。


「あともうちょっと、だそうです」


「曖昧だなー、師匠………」


 軽い言い方だが、しかし汗が額から流れ息は途切れ途切れだった。


 互いに、視線を逸らさず相手を見据える。

 空気が張りつめ、雨音が急に強くなって聞こえた。


 緊張と警戒。

 神経を研ぎ澄ませ、感覚が鋭敏になっていくのが勇人には分かった。








 その頃、第二拠点では。


「お前、時間を巻き戻せんのか」


 目を見開き、自分で言っておいて疑わしく思いながら炎弐は言った。


「………厳密には違うが結果自体は正解だ。私は時間を巻き戻し、攻撃を受けるその前まで時を遡っている。故に私に如何なる攻撃も通用しない」


 いとも簡単に能力を明かすフードの女。


(正しくは違う?)


 その言葉に多少引っかかるが、結果として時を遡っているのならとんでもない理不尽極まりない能力に違いない。


 ただ、能力の性質を踏まえてもなお、今まで見てきた本物の化け物を知っている炎弐は勝てない相手とは思わなかった。


 ここまでの戦いのやり取りを振り返り、打つ手を模索する。


「道理で殴っても吹っ飛ばねぇわけだ」


「………」


「たがな、効かねぇのはおめぇの能力適用範囲と限界によるだろ」


 指を指し、挑発する炎弐。

 能力には必ず適用範囲と限界がある。


 炎弐が炎しか扱えず、外側の魔力が枯渇すれば火を出せないように。茜が魂のない物体しか転移出来ず、魂を介した入れ替えで酷使した魂が滅ぶように。リスウェルが自身の分身しか生み出せず、分身の数には制限があるように。


 大抵はある一定、能力の法則と魔力の法則に従い超常の力、能力を行使している。そしておそらく、時戻しの能力にも制限がある。


 時を戻すという特異性と、服が汚れていない様子を見るに外側の魔力によるというのは間違いない。内側の魔力は自身の肉体のみに効果をもたらすからだ。


「少し試させてもらおうかッ!!」


 全身に流れる魔力を拳に集中。拳を発火させた。

 燃えたぎるような魔力を纏い、身体強化をさらに強め、目の前の敵へ疾駆する。


 思い踏み込みで一手目の右拳を振るう。しかし、それは素手で止められた。

 続く二手目の拳も止められたが、炎弐は殴り続けた。


 止めている腕から鍛えられた肉体だというのが分かる。隙がなく的確な防御。能力を使わず最小限の魔力のみで捌く様子から、対人戦闘に長けているのだと炎弐は理解する。


 どんどんと速くなる拳の連打はだがしかし、全て腕と拳で対応され、フードの女には一向に通用しない。それどころか、一歩もその場から動かせなかった。


「チッ……」


 攻撃が通らないと、あえて殴るのを止め、足払いをしかける。


 だが、フードの女はその一瞬を隙と認識したのか、逆にその足を引っ掛ける。炎弐の体勢は崩れ、意図も簡単に倒れる。


「やべッ……!!」


 その隙まみれの無防備な胴体に拳が迫る。

 炎弐は咄嗟に両腕を前に構え、魔力を込め防御しようとする。


 しかし、


重夢世界かさむせかい


 フードの女の拳が触れる瞬間、魔力の集中とともに拳が二重、三重に重なる。

 炎弐は奇妙なその現象に嫌な予感がし、カウンター用の魔力も全て腕に集中させた。


 何の変哲もない拳が腕に当たる。

 そのはずだった。


「がはッ………」


 次の瞬間、重なったような共鳴音とともに腕にぶつかった拳は、とてつもない速度で炎弐を地面に叩きつけた。


 一人の人間が生み出したとは思えない衝撃。

 床を粉々にし地面を抉り、目の前の一人を気絶させた。


「貴様は世界を知らなすぎる。神の前では鍛え抜かれ、洗練された矛や盾も、鳥かごの中でしかないのだ」


 白目を剥き気絶した炎弐を見て、女は一息するとゆっくりとフードを取った。


 後ろに纏められた青髪と凛とした顔が露わになる。


「まさか生きているとは思わなかった………。しかし、相変わらず荒っぽいな」


 温かく、それでいて寂しげに倒れた炎弐を見て、フードの女は言葉を発する。


「元陸軍所属、軍一番の問題児、十目裏炎弐は………」


 立ち去ろうと後ろを向き、階段へと歩みを進めるフードの女。


「待て……」


 しかし、炎弐の言葉を聞き足を止める。


「やっぱり、あんた……だったか」


 炎弐の言葉にフードの女の表情は曇る。

 攻撃の受け流し、タイミング、仕草や癖。見間違うはずがなかった。何度も訓練でともにしていたから炎弐には分かる。


 だが、否定したかったのだ。

 尊敬していたかつての先輩が教魔団に入っているなど信じたくはなかった。


 だが、もう別人などとは言えない。

 戦いたくないという気持ちを片隅にしかし、正体が分かったからこそ、炎弐は戦わなければならない理由を見出す。


 道を踏み外した先輩をこの手で止めると、あの日誓った。


 ならばこそ、広い世界でもう一度会えたまたとない機会を無駄にはできない。炎弐は立ち上がり、拳に力をこめ強く握りしめる。


 四年前を思い出して。








 炎弐とアルストが出会ったのは四年前。

 神正教によって禁忌とされた、退廃した荒野。禁足地カリュエラの隣に沿って佇む西洋の国ルーザスト。


 その国に陸軍特殊魔導隊として所属していた十目裏炎弐は、一人テーブルに座り無言で食堂の飯を食べていた。


 付近のテーブルには避けられたように人がいない。


 無理もないだろう。

 炎弐の悪評は否が応でも知るほど有名になっていた。


「君か。軍一番と噂されている暴れん坊の問題児、十目裏炎弐とやらは」


 冷淡な印象を持つ理知的な眼鏡をかけた女性が突拍子もなく話しかけてきて、思わず口に運ぶ手を止めた。


 珍しかった。

 臆する者が多い中、空気を読まずに接してきたこの女が心底理解できなかった。


 ある事件以来炎弐に接してくるものは居なかったからだ。


「対人戦闘訓練で50人を一人で相手し、上官からの静止命令を無視。全員ボコボコにしてやって結果6名が重傷。階級を下げられた一般兵が君なんだって?」


 遠慮せず事実を言い、当然のように向かい席に座ってきた。


 その瞬間、周囲の雰囲気が一変した。

 さっきまでは話しかける女に対する戸惑いと不安が感じられたが、周りのこそこそ話が広まるにつれ、炎弐に対し意識が集中するように感じた。


「あいつ終わったな」「あの人ってあれだろ。ほら、勲章を授与された英雄」「え、あの人が?」


 小さい声だったが、聞き取れた。

 どうやらここじゃ有名人らしい。


(誰だ?)


 顔を見ても誰だか分からなかった。


「あ?そうだが………今は飯の時間だ。からかうならどっかに行け」


 目つきを鋭くし、威圧した。

 大抵はこれで居なくなる。


 しかし、


「うまいな」


 目の前の女はそれを無視し、スープを飲んだ。

 威圧が意味がないのが分かり炎弐は仕方なく黙々と食事をとった。


「………で、おめぇは一体誰なんだ?」


 諦めたようにフォークで女性を指差し言う炎弐。

 女は平然と応じ答えた。


「上官におまえとは命知らずだな君は………。私はルーザスト国陸軍所属大佐、アルストだ。よろしく」


 アルスト。聞いた事はあった。

 銃弾を物ともせず、勇猛果敢に戦場を駆け抜け、数多の武功を挙げた英雄。


「疾走」の二つ名を持つこの国最強の軍人だと。


「で、英雄さんが俺に何のようだ?」


「ある国の研究所からの要請で、私と君の戦闘データが欲しいらしい」


「上官からの命令には逆らわねぇよ。分かった」


「にしては、君の口調。どうかと思うけどな」


 そうして模擬戦が始まり”負けた”。

 一撃も与えられず完膚なきまでに叩きのめされた。


 魔力の扱い方と出力が高いだけじゃない。対人戦闘の経験と技術、鍛え抜かれた肉体の練度はどれを取っても炎弐より優れていた。


「立てるか?」


 息一つ乱さず、アルストは手を差し伸べた。


「うる……せぇ」


 炎弐はというと満身創痍で、立ち上がる気力さえ残っていなかった。


 悔しかった。

 単純に負けたからじゃない。周囲を蹴飛ばし、敵なしの最強だと思っていた自分が努力をせず、才能だけで誰よりも強いと思っていたことが悔しかった。


 対人戦闘訓練後、炎弐は執務室に呼びだされる。

 再びアルストと対面した。


 夕陽が窓から差し込んだ部屋には一人用の机と椅子が正面にあり、椅子にはアルストが軍服を羽織い座っている。


「怪我はどうだ?」


「何ともねぇよ。このくらい」


「そうか。それは良かった」


 椅子から立ち窓辺に立ち外を眺めるアルスト。


「何であそこまで強い?お前は」


「私は軍人だ。民を守り、平穏を享受するのが責務であり、そうあるべきだと思っている。何より私自身がそう望んでいる」


「…………君も戦争は経験したことがあるだろう」


「ああ……」


 魔力が人々に与えられすぐ、色んな国が戦争を始めた。発端の理由は知らないが、少なくとも国周辺でこの時代に生きる人々は皆、何らかの戦争の被害にあっている。


「私は戦争孤児だ。絶え間なく聞こえる銃声と血塗られた戦場で幼少期を過ごしたが、あれはまさに地獄だった」


 世界が変わり、開発された魔力兵器は地表を荒らし街を火や氷、雷の渦に包みこみ何百万の命が失われたというのは炎弐も知っている。


 窓の外から見える景色で子供達が無邪気にボールを蹴り遊んでいるのが見える。元気な声が壁越しに聞こえるのを見てアルストは優しい笑みを浮かべた。


「だからこそ、私は子供たちが何も知らず、無邪気に遊んでいられるこの平穏な地と民を守りたい。もう二度と地獄の業火にさらさないために」


「それがお前が強い理由で軍にいる理由か。真逆だな。俺は子供のころ、戦争で親を目の前で斬り殺された。二本の角が生えた鬼によってな。そのとき、子供ながらに俺は思ったんだ。力さえあれば理不尽な運命なんてねじ伏せられるってな。だから、俺は力をつけ、好き勝手暴れるためにここに入った」


 アルストを遠ざけ、あえて嫌われるような言い方で炎弐は言った。


「そうか。君も私と同じなのだな」


 だが、返ってくる言葉は理解と共感だった。


「あ?そりゃどういう………」


「力さえあれば全てを変えられると思っていることだ。ともかく、上からの指示でしばらく君を鍛えるよう命じられている。これからは共に過ごすことが多くなるだろう。よろしく頼むよ」


「は?要らねえよ。俺は一人でいい」


「一人はいつか限界がくるものだ。仲間や友を君も作った方がいい」

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