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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第三十話「教魔団の知ること」

 第二拠点一階、神社前通路にて

 静まり返り、照明が仄暗く照らす通路の中、教魔団一行の影が浮かぶ。


 その中で炎弐は中心にいるただ一人の人物を見据えていた。


「おめぇがこん中のリーダーだろ」


 炎弐が集団の真ん中にいるフードを被った人物を指差し、鋭い視線で睨み言う。


 その者から溢れ出る魔力は並ではない。立ち姿には一切の隙がなく、戦闘経験に慣れた者であるのは立ち姿から感じられた。


 そして何より、自身の勘が油断ならない強者であると告げていた。


「お前以外はどっか行っていいぞ」


 その言葉に従い集団は後ろに静かに下がり右と左の通路に散開した。


 二人っきりになる空間。

 青白い魔力によって奇妙な雰囲気を醸し出す空間からは、一触即発の緊張と静寂が続く。


 どちらが先に動くか、相手の隙を探る二人。

 だが、以外にも沈黙を破ったのはフードの人物だった。


「この世界をどう思う?」


 突如投げかけられた漠然とした疑問。戦闘の合図ではなく、まさか会話をするとは思わず数秒思案し、炎弐は問いに答えた。


「いい世界ではねぇな。まあ、俺にとっては前よりずっと単純で分かりやすい世界だと思うが」


「ある日突然人々の平穏が失われ、死体を弄ばれ、人でいることさえ出来なくなるほどに世界は狂ってしまった」


 淡々と事実を語るフードの女。


「まぁ……そうだな」


 事実その通りだと過去を振り返り肯定する。


「果たして、この世界は正しき姿なのか」


 その問いに心の縁で自問自答する自分もいた。

 だが、たとえそうだとしても何もしないわけにはいかない。


 だからこその前進隊。魂喰霊を消し去り、平穏を取り戻す自身の立ち位置は正しいと納得する。


 平穏を好きなやり方で手に入れられるこの場所を炎弐はそれなりに気に入っていた。


「じゃあ仮に正しくねぇとしたらおめぇらはどうすんだ?」


 今まで教魔団は能力を私欲の限り、欲望のままに使い好き勝手に暴れるだけの一貫性のない集団だった。 


 だが、今回は今までと少し毛色が違っていた。


 時間と場所の指定。

 陽動と奇襲。


 組織じみた動きを持ちなおかつ対話をしている。

 何を目指して行動しているか、知れるかもしれないと炎弐は疑問に疑問で返答した。


「魔力、能力、精霊、異種族。この世界は異物で満ちている。悪夢のような霧の世界と、無数に積み重ねられた死体の山は果たして正常に動作した世界か───答えは否だ」


 フードから見える冷たい薄青色の目で炎弐を見て冷静に淡々と押し付けるように言った。その言葉からは明確な確信がうかがえた。


「魔力という存在が発見された約22年前、特異点によりこちらの世界に"ある人物"が渡ってきたその時から、この世界はすでに真っ当な世界ではない」


(ある人物?特異点?)


 意味が分からない事柄を口にするフードの女。

 何を指して何を言っているのか、感じた疑問に対する問いを出す前にフードを被った女はそのまま話を続けた。


「だからこそ、我らは神の教えに従っている」


 取り出した真っ黒な小さな本。

 二本の剣が魔法陣の上で交差している表紙に描かれたそれが、おそらく神の教えが書かれた教典なのだろうと悟る炎弐。


「星に存在する世界の異物を取りこんだこの世ならざる者を取り除け。神はそう望んでいる」


(世界の異物を取り込んだこの世ならざる者。能力所持者のことか………)


「はッ!真っ当な世界って分かってんなら、何で神なんてただの偶像を信じてる」


「偶像等ではない。神は実在する。現にこのような世界に至った原因の一端が神の御業によるものだからな」


(神の御業?つくづく分かんねぇな)


 いまいち要領を得ない返答の数々にまたもや疑問が浮かぶ。だが、続く会話には一貫性があり、単なる妄想であるとは思えなかった。


 渡ってきた謎の人物、神の御業、特異点。前進隊が知らない事を次々言う目の前の人物。教魔団は明らか何かを知っている。それでも炎弐は警戒を止めない。


「お前らが何知ってようが、まぁいい。本題はその先だ。おめぇらは何を目指して行動してる」


 狂信的な信条からか、はたまた明確な目的があるのか。どちらにせよこれ以上好きにやらせるのは危険すぎると、炎弐は直感で感じた。


「我らの目的は、星の再生。魔力が存在せず正常に動作していた約22年前へと遡り、世界が終末世界へ至らない、あるべき正しき史実へ変える。異物が介在しない世界へと。それこそが─────我ら教魔団の望み」


 その青白い真っすぐな目には揺るぎない信念がこもっていたように見えた。


「………二十二年前に遡る?にわかには信じらんねぇな」


 能力、精霊魔術理論、魔導工学はまだ未知の分野が多い。それにこんな世界。空想の中にある能力が当たり前にある世界だから到底言い切れない。


 しかし、それでも世界ごと書き換えるなんて事はあまりにも現実離れしすぎていた。


「そのためには星に存在する全ての能力所持者を消す必要がある」


「話が見えねぇな。なんで、消さなきゃなんねぇんだ?」


「星の魔力回路の繋ぎ役である精霊を使い、神による御業でこの星に奇跡を起こすため、反発する魔力は邪魔になる。それに邪魔者を排除するためにも」


 目の前の女は懐から双対のナイフを取り出し、得物を前に構える。


「戻ったとこでまた同じ史実を繰り返すだけだろ」


「確かに魔力異常現象自体は止めることはできない。あれ単なる自然現象だからな。だが、終末世界へと至る元凶を殺し、ゲートが開かれるのを阻止することは可能だ」









 地上。メルメアスとの対峙にて。


「どうですか?再度貴方方に問います。私達の手をとりませんか?」


 天井から鉄骨が落ち、真っ二つに割れた地面を境界にメルメアスが提案する。何故行動するのか、信念も事細かく説明されたのちに。


 理由も目的も不明。

 茜からはそう聞いていた。だからこそ絶対悪という認識があった。だが、語る言葉には芯があり、れっきとした考えがあり行動していた。


 目指す場所は同じだった。世界を平和な世界へと直すこと。やり方と目指す結果の在り方だけが異なる正義だと、そのことが分かったとき、何故だか敵なのに敵だとは思えなくなってしまった。


「素晴らしい世界へと共に再生しましょう」


 右手を伸ばし、虚ろな目でこちらを見る。

 敵意する心が一瞬揺ぐ。冷静になろうと揺らぐ心を落ちつかせようと名無しは心の中で敵を定める。


(いや、間違いなく目の前の男は敵だ………)


 思い返せば、この男が言っていた事に賛同できる訳がなかった。


 星に存在する世界の異物を取り込んだこの世ならざる者はおそらく能力所持者。つまり仲間たちを全て殺しつくすことが勝利であり、世界の救済となる。


 考える間もない。狂っている。

 今まで知り合った仲間を殺して世界をやり直そうという提案をこの者はしているのだ。


(却下に決まっている!!!)


「もし仮に全員殺して自分達だけになったその後は?」


「自害しますよ。それで皆が救えるのなら」


 明確な確証もない。それでもやると言っているのだ。狂人だとしか思えない。


(いや、私もそうか。明確な確証なんて無い)


 だがそれとこれとは話が別だ。やり方は気に入らない。提案には乗るつもりは無かった。果てはあの神の言葉だ。信用できるわけがない。


 欲楽の神は言った。

 苦難の道を歩み続けてやっと得られるもの、その過程を見たいのだと。あれはきっと名無しが教魔団についても願いは叶えない。


 それに、仲間を裏切るなんてできる訳がない。


「私達は別のやり方で平穏を手に入れる。勇人!!」


 勇人が飛び出し、純白の光が溢れる刀と崩壊と怨嗟の炎が漂う漆黒の刀がぶつかり合う。魔力による余波で風が吹き荒れ、建物が切れ端から倒壊した。








 目の前の女を見て炎弐は戦闘を始めようとしていた。


「そうかよ。おめえらがどんな考えで動いているかは分かった。その上で、乗れねえな」


 仄暗い通路で炎弐の周りを回る小さな螺旋状の炎が、揺らめき辺りを照らす。


「何故だ?貴様も失った仲間は大勢いるだろう。救えなかった命が、その手に零れ落ちた魂が生き返るかもしれないのだ。断る理由がどこにある」


「死んだ人間は戻ってこねぇ。俺ぁそんな夢を見られる性格でもねぇし、神を信じれる心も持ってねぇんだ」


 その目に揺るぎない覚悟が籠る。

 死んだ仲間への供養の心を強く持ちながら。


 フードの女は数秒沈黙し、言葉を発した。


「相容れないか。仕方ない────ならば”死ね”」


 瞬きする間にフードの女は間合いを詰め、懐に潜り込む。


 下から青白く光るナイフが炎弐の首へと迫る。

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