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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第二十五話「Profile:新城茜」

「あれが教会………」


 名無しが雨を凌げる建物の下、望遠鏡を覗き呟く。


 遠くには西洋風な教会が霧の隙間から微かに見え正面左右に庭、正面には噴水があった。教会というより大聖堂のような大きさの建物に近い。


 あそこが指定された場所で間違いないだろう。


起動開始アウリス。消音」


 勇人が銀の球を取り出し、機械を作動させた。

 会議で知ったこの旧式探査補助が、現状拠点側に肉声を届けられる唯一の連絡手段。


 電波を使わず、精霊経由の魔力波長の伝達原理を用いているもので、前進隊の陣営では製造が難しい貴重なものだという。


 勇人はそれをラルに渡した。

 救出完了後、これで茜に合図を送り名無したちが撤退する流れになっている。


「じゃあ、頑張って」

「師匠。お気をつけて」


「応!!」


 名無しと勇人の掛け声にラルはまっすぐ応じ、霧の中へ消えていく。


 会議の時とは打って変わり、今は島名の配役を受け入れ真剣に任務に当たるラルの姿がそこにはあった。


 名無したちも陽動だと悟られない様、隠密行動をとり教会に近づく。


「ここで待とう」


 勇人が言った。

 ラルは迂回し、教会の背後からゆっくり接近している。


 その分のタイムラグを無くすため、名無したちは教会が見える場所で休息をとることにした。


 急な階段が続く途中階段の横に家があり、中に入って窓から外を見る。やはり街の中、人の姿は何処にも見えない。


「時間はあとどのくらい?」


「十五分ほどここで待ってほしいとのことです」


「けっこう長いね」


 緑色のレインコートを脱ぎソファに座る。

 茜が監視しているだろうから、無理に気を張る必要もないだろう。


 そう思った名無しは休むがてら一つ気になっていたことを聞いた。


「緋狐って人間?」


 その言葉に緋狐は座る名無しに視線を向ける。


「何故そう思いました?」


「呼吸してないよね。あとは、人とは違う違和感を感じる」


 緋狐の方を見ず、黙秘するだろうと踏んだ名無しは軽い口調で言った。


「全てお話しましょう」


 しかし、意外にも緋狐は知り得る一切を語った。

 自身の成り立ちや過去まで。








「あれがいつだったか、もう覚えてはいませんが、我々は遠い昔にある人物によって生み出されました」


 そう語りだしたのは、名無し達が知り得もしない別世界での出来事と緋狐、浅葱狐、茜の過去だった。


「山の麓に位置する狐月神社きつねつきじんじゃ弓月ゆみつきの神を祀るその神社はある山の麓の洞窟、最初名無し様達が入られたあの神社と全く同じ外観で存在していました」


 草が生い茂る洞窟の中、池の上に建っている神社がそれなのだろう。


「参拝者は少なかったのですが、皆信仰心が高く特に弓月の神の名から弓道を嗜むお方が多くいらしていました」


「このころはまだ意識がはっきりとはありませんでしたが建設されて何百年と経ったある日、不思議な人物が神社に現れたのを深く覚えています」


「不思議な人物?」


「目元は黒い布で覆われ、地面につくほどに丈の長い服と髪は黒く、体全体に漆黒の炎と新緑の炎が点在し纏った奇妙な女性でした」


 その外見は確かに不思議かもしれない。

 だが、服装は用意可能。火を纏うぐらいなら炎弐にだって出来る。今の要素だけではそこまで珍しくはないだろう。


 緋狐は話を続けた。


「不思議だと言うのは彼女が歩み、踏み入れた地面周辺の草花が活気づき、色鮮やかになった事。そして、常に纏う緑色の創造属性の魔力。その特異性からです」


 創造の魔力。特異で不思議なその力は異様だと当時の緋狐は印象を強く持った。まるで住む世界が違うような異質な恐怖さえあると。


 名無しは魔力の属性自体どこまであるのか知らず、どの属性が珍しいのか分からなかった。それでも、物語に出て来なさそうな属性のその名から稀有な魔力属性だとは感じ取れた。


「女性は一般的な来訪者と変わらず本殿へ近づき、礼儀正しく参拝しました。そして、心の中で祈りが聞こえました」


「「形ある神への存在へと形を成し、厄を祓う人の意思をその身に宿す事を切に願います」と」


「静かで優しい声の願いが聞こえたその瞬間、女性の溢れる魔力が神社を包み込み、元々自我のない祀る神の対象であった我々緋狐、浅葱狐が神の分身体として現実世界に姿を成し、人の意思を獲得したのです。もちろん、本体である弓月の神も同様でした」


(弓月の神……)


 意思と姿の獲得も気にはなったが、弓月の神という言葉に名無しは妙に引っかかった。


 第二拠点、狐霊正殿堂に入る前に起きた謎の存在とのコンタクト。姿の見えなかった異質な魔力を放っていたあの存在が弓月の神ではないのかという考えが頭をよぎる。


 時が戻った不思議な出来事も、チェスをした際に感じた異質な気配も、あの神のものだったとしたら……。


 魔力の属性色から人を絞れば、消去方的に辻褄が合う。


(────だったら、何で私だけ?)


 勇人やラルが同じような体験をしていた様子はなかった。多少疑問を抱く中、話は続いた。


「そして、私達はその後神社の中で何百年という月日を過ごしました」


「え、じゃあ私達より年上じゃん。敬語使わなきゃ」


「いえ、そこは茜様に従う身というのがありますので。話を戻します。人とほぼ変わらない心を持ち、私達が日々を過ごす中、ある日平穏は突然あっさりと崩壊しました」


 当時の事を思い出し、緋狐は遠い昔の出来事を淡々と語る。


「この世のものとは思えない何かの形を成した物体。人の口が全身にいくつもつき、体全体が流動的な黒い何かで構成された正体不明の生物が神社の入り口に見えたその時に」


「私は反発の力で厄を祓えと弓月の神に命じられ、物質体に顕現して能力を使おうと両手をその者に向けました。ですが、次の瞬間気づけば胴体の下半分が消し飛ばされ私は理解出来ないまま地面へと落下しました」


「残った浅葱狐は私を助けようと駆け抜け後一歩で私に手が触れる寸前、上半身が無くなりそのままの勢いで地面に倒れこみました」


 身構える間もなく告げられた衝撃的な事実に名無しは言葉も出なかった。


「我々の本体は魂を所有する弓月の神そのもの。意識と扱える力が違うだけの分身体です。なので幾ら外傷を与えられようと死にはしません。」


 よかったと、安堵する名無し。

 今ここにいる時点で死んではいないのは明白ではあると理解はしているが、それでも体の半分が消し飛ばされたと聞けば心配する。


「ですが、弓月の神が死ねば私達も死にます。最後に残った神は、新月の矢と生前の自身を具現化した神狐霊の弓を構え、敵を射抜こうと魔力を込めました。───ですが、その矢は放たれる寸前、神の両腕ごと音もなく消失し、その後はおぼろげな意識で神社が闇に覆われたことを覚えています」


 これが、茜の能力になる前の緋狐、浅葱狐、神の過去だと言う。








 そして、茜との過去は現在から少し前特殊型魂喰霊「幽霊船」と対峙した半年前まで時は遡る。


「そっちはどうだ?」 


 事の顛末は霧の街に入り調査、探索を始め街の中心に来た時、空に影と膨大な魔力が現れ特殊型魂喰との応戦が始まったことによるものだった。


「霧が濃く、混乱していて状況が分からない。だが死亡者は十に及ぶ。このままでは全滅するぞ」


 男が弾丸をぶっ放し言った。


 嵐が吹き荒れ、雷が落ちる地上では死者数の増加とともに敵が増える。加え、特殊型が召喚する骸骨の出現も合わさり戦場は混乱の渦にあった。


「クソッ……撤退するにも街を抜けるのは厳しいぞ」


 雲海の上には幽霊船。地上には骸骨の敵とさっきまで味方だった屍を喰らう魂喰霊。


 幽霊船は船長の斬撃と砲撃の相殺で手一杯なのだろう。主戦力は地上には降りてこない。


 地上にいる前進隊は防衛陣形で街を抜け出そうと移動はしているが骸骨に阻まれ中々思うように進まない。おそらくこのままでは皆魔力切れを起こし全滅するだろう。


「神の子の力を使えれば………」


「私は何をすれば」


 新城茜はリーダーに嵐に負けない声量で声を張り聞いた。


「大丈夫だ。何とかする。君はいざというときのために体力を温存しといてくれ」


 新城茜は無力だった。


 計測機械で測る周囲の魔力がどれだけ空間に影響を及ぼすかの値、魔力準位。測定値から大まかにレベルで分けられ、空の戦いの魔力準位はレベル4相当、地上がレベル2。


 基本的に能力を持たない個人の限界がレベル2なのを考えると、非戦闘員かつ能力を持たない新城茜には前進隊の助けになることは不可能だった。


「私は待つだけなんて嫌です」


「君に何ができる?」


 建物を遮蔽にアサルトライフルを使い敵のコアを次々破壊する男は冷静に目の前の骸骨の軍勢に集中する。


「倒した魂喰霊のコアはどこですか?」


 この状況を打開するにはさらなる力が必要だと、そしてそのためには能力取得が最善だと判断した茜はコアの在り処を聞いた。


「駄目だ」


 だが、ナバスという男はそれを止める。属性が合わずコアに適合出来なければ基本的に死ぬのだから当然の主張と言えるだろう。


 ナバスは氷属性が付与された特殊手榴弾を投げた。着地した瞬間辺りの骸骨から氷漬けになり、時間差で赤色の閃光を放つと同時、内側から爆発。遮蔽の近くに骨が弾丸のように飛び、茜は背筋が凍るような思いをした。


「何故ですか?」


 それでも、新城茜は食い下がれず、理由を尋ねた。


「不適合者の末路を知らないだろう。体が拒否反応を起こし吐血、流血あげくの果てには全身の体が崩れ人だった何かに変わる。俺はその光景を見た。だから、君にはそうなって欲しくはない」


「………それでも数パーセントの希望の活路を得られるのであれば私のこの命ぐらい安いですよ」


「君にとっての君の命は安くとも、俺にとっての君の命は失えば元には戻らない大切な命なんだ。片手で手放せるものではない」


 ナバスはピストルを茜の手に握らした。


「命よりも銃を使え。華奢な君には似合わないだろうが」


 戦況が変わるほどの決定的な力は銃一つにはないことは誰でも分かる。それでもナバスは銃を持たせた。


「銃一つでは何も変わりません」


「どこへ行く?」


 後ろを向き、コアの保管場所を検討をつけ走り出そうとする茜をナバスは振り向かず聞いた。


「わかっていますよね」


「……属性検査せずにコアを取り込むのは俺は断固として反対だ」


「気持ちは分かります。私があなたと同じ立場だったら止めますし。でも、これ以上私は犠牲者を増やしたくは無いのです。見知った顔の知人が化け物になる光景をもう二度と見たくない」


 その意思と声は真っすぐにナバスに届いた。


「俺はここを動く訳にはいかない」


 一人居なくなれば、隙をつけこみ一気に敵が入り込んでくる。そうなれば壊滅の一途をたどるのは目に見えていた。だから、ナバスは持ち場を離れる選択は出来ない。


「私は行きます」


「……ああ、それでいい」


「?」


 主義主張の矛盾に茜は戸惑い、足を止めた。


「誰かに何と言われても自分の人生は自分のものだ。他人にどうこう言われる筋合いはない。それに俺と君の目指す終点は同じだが、目指す景色はおそらく違う。終点と景色どっちを優先するかもな」


 自らの主張は反対。

 それでも、自分の人生は自分のものという考えをナバスは突き通した。


 最後を考えず今だけを見ている茜にはそれに返答できなかった。


「…」


「君を止めたのは最後の光景に居てほしいという景色を優先した単なる我儘に過ぎない。だから、君もそうするべきだと思ったのなら単なる我儘で行動するといい。俺もやりたいように好きにやる」


「……すみません。先輩」


 今の茜には必要ないとナバスは判断し、駆け出す茜の背中を押す言葉は言わずに狙いを定めた。








「そして、雨が降る中必死で走り、結果コアを見つけた茜様が「安住の地を得る力」を願って喰らい、それに我らが応じた形で能力を獲得しました。弓月の能力はその時に安住の地を作り出す能力へと変質し、狐霊正殿堂を構築。一行は地下に第二拠点を作り上げ壊滅を免れたというのが、茜様の今に至る一端の過去と我々の能力の関係です」


「なるほど」


「ですが、その際茜様は神の能力に器がもたず魔力出力許容限界を超えた事により魔力回路が焼き切れ魔炎病を患いました」


「魔炎病?」


「体中に傷が走り魔炎によってその身を焼かれる魔炎病です。今も傷は癒えず、体には常に負担がかかっている状態にあります」


 一回り大きい服を着ていて、顔にあった傷跡しか見えなかったがおそらく全身に傷があるのだろう。茜がまともに歩けない理由も名無しは納得がいった。


「つまりは緋狐たちは最初の謎の人物に生み出された何かって事?」


「はい。元々私達は弓月の神で、今は魂を持たず自我を持つ、途中で分かれた分身人形といえば分かりやすいですかね」

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