第二十二話「二つの陣営」
「半年前まで前進隊は第三拠点とここ第二拠点の二つを使っていました。空っぽの部屋はその名残です」
道理で何もない部屋が多いと名無しは思った。
「当時、私達は現状維持が目的の第二拠点班と先ほどの二国に交渉する第三拠点班の二つに分かれていました。その矢先、前進隊から大多数の脱退者が現れました」
「何でそんなことが……」
「元々前進隊というのはこの世界を魂喰霊が居ない平和な世界にするのを目標に動いています。ですが、中には危険な任務に就きたくなく、平穏に死に脅かされず魂喰霊がいない地下に隠れて寿命を終えたいと主張する保守派もいます」
当然、そういった主張もあるだろう。
というか常人は普通保守派のような考えをする。
目指すは一度人類が敗北した相手の本拠地。死地をかいくぐり犠牲覚悟でゲートを壊そうとする前進隊のほうが常軌を逸している。
「それにより班の分断で保守派の数が増加。流れは止められず第二拠点班から一つの陣営として独立した平和主義陣営ができました。まぁ、取引自体はこっちはまだ出来るので繋がりはあります」
こっちはという茜の言葉が引っかかる名無しだが最後まで遮らず聞いた。
「隊長も保守派が出るのは以前から分かっていたようですが止めず、私も隊長の命令で見送る程度にしました。現在は第三拠点に近い場所にいますね」
なるほど。大体掴めてきた。
この陣営と生き残りについて。
「こっちは協力的ってもう一個は違うの?」
茜の言葉に疑問を感じ最後の陣営のことについて聞いた。
「もう一個も成り立ちの経緯は同時期でまるっきり一緒です。考え方も家族を死なせたくないといういたって平和なのですが陣営のあり方が違います」
「あり方?」
「あちらはこちらとは完全に繋がりを立ち対話をすることも叶わなくなりました。拠点に近づいただけで襲撃に合い、現在は交渉の余地すらなく………」
「何をやったの…………」
完全に前進隊が嫌われている対応に、原因はこっち側じゃないかと名無しは独り言のように言った。
だがそれに茜はぼんやりとした回答を名無しにではなく独り言のように言った。
「一つの任務の隊長からの命令で不信感が頂点に達したのでしょう。あれはどっちも悪くはないのですが………………」
あえて名無しは聞かないでおいた。
「結論彼ら殺し屋、荒くれ者達の陣営は前進隊から脱退し荒くれ者陣営として現状手出し無用としています」
つまりこれらをまとめた敵対、協力関係は、
取引に応じる関係にあるのは平和主義陣営、精霊種国家、地霊種国家。
取引に応じない中立関係にあるのは荒くれ者陣営。
敵対関係にあるのは魂喰霊、教魔団陣営、謎の矢の陣営。
「合ってる?」
今考えた各陣営の関係性について茜に聞いた。
だが、少し違うと茜は言う。
どうやら地霊種とは外交はしているが国内の立ち入りは禁止の鎖国制度で精霊種を仲介人にして取引しているらしい。
もちろん仲介料はかかるから対価に得られるものは少なくなる。
それでも地霊種の技術は有益で前に進むには必要不可欠らしい。特に第三拠点では尚更とのこと。
「後は道なりに進めば教えてもらい知ることになるでしょう。詳しい事情は常に変化していきますから」
たしかにそうだ。
それにしても予想していたよりも陣営の数は多い。
世界には私一人だけと考えた自分がいかに世界を知らず人間を低く見ていたかを名無しは考えさせられた。
「……あ、それと今隊長様から伝言をもらい受けました」
茜は隊長から連絡が来たのか少し顔を上げ反応した。
「では、コホン。敵はそれだけとは限らないが敵かどうかは考えろ。だそうです」
声を低くし隊長の喋り方に似せるようにして短い伝言を茜は言った。お世辞にも似てはなかった。
しかし、隊長が何を指して今の言葉を言ったのか名無しには一切わからなかった。
考えても答えは出ず、きっと今は情報不足なのだろうと名無しは考える。
であるなら隊長の言葉は記憶に残しつつ今やるべきことは目の前の事なのだろうと名無し。
眼前の目標である四人の救出を念頭に置きやはり何か協力するべきだと、猶予期間を有意義に使おうと決める。
「これで情報は以上です。では最後に今から書くマークを見てください」
そして茜はメモ帳を取り出した。
「終わりましたよ」
「え?」
茜がメモ帳を取り出し、すぐに終了の合図が名無しの耳に入る。
これから見るはずの記憶が突然飛び、開始の合図が終了の返答に直結している状況に名無しは茫然自失になった。
「記憶は初期化されますから。それにしても大丈夫でしたか?ずいぶん取り乱されていましたが……」
(取り乱した?私は何を見た?)
なぜだか顔からは汗が流れていた。
余裕のない表情で机に両手で体重を乗せていた。
ただのマーク一つで取り乱すほど思い入れのあったものなど思い出そうとしても記憶にはない。
何故こうも鼓動が高鳴っているのか名無しには到底理解出来なかった。
だが、この忘れた記憶は名無しの中にあるべき記憶なのだということを心の底の自分は訴えていた。
困惑とともにそのもやもやが強く胸の中に残ったまま名無しは部屋を出た。
「僕の能力って本当に他者から求められた分力を使えるのかな」
勇人は訓練場で炎弐に稽古をつけてもらうため稽古の開始時間より早く、一人その場所にいた。
「じゃあなんで今もこの力を使えるの……?」
刀を取り出し純白の魔力を刀身に纏わせた。
魔力の質と濃さはあの時のまま刀の輝きは失っていなかった。
「わからないや」
勇人は刀をしまった。
勇人はそこまで頭が回らない。
そうやっていつも考えることを別の誰かに委ねてきた。
故に自分ごとである能力についての考察は頭を抱え、結局考えても分からないという結論を下した。
物事には役割分担がある。きっと自分が考えても仕方ない。
そう自分に言い訳して………。
「そこまで大事じゃないしいっか」
きっと助けられる。そんな事は言えないけれど絶対に助けると手に届くものに対し言えるよう次こそは後悔ではなく希望の光を掴む。
そう自分に言い聞かし、勇人は鍛錬を続けた。
「さて、何処の部屋でしたか」
幽霊のようにその身を浮かせリスウェルは二階のとある部屋を探していた。
それはリスウェルのマスターが念の為に残しておいたある機械。
今は旧式とされ使われなくなったが有益な代物ではあるのは間違いない。
役立てるようにと言われたリスウェルはそれがしまわれたマスターの私室を探すため一個一個部屋を開け調べて回った。
その途中で浅葱狐に出会う。
「何かお探しですか?」
「マスターの部屋に用事がありまして」
「あぁ、アリア様の私室でございますね。ついてきてください」
様子を見るなり浅葱狐はついてくるように言った。
(ん?よくよく考えれば浅葱狐には聞けば別によかったのでは)
そして、最初から聞けば早かったことにリスウェルは気付く。
「よろしくお願いいたします」
と言ったが今開けた目の前の部屋がそうだったようでリスウェルは気恥ずかしさを感じ、表情を隠すように先に部屋に入った。
マスターにもらった鍵を取り出し、部屋の奥にある金庫をガチャっと回し暗証番号を打ち、開ける。
だが、そこには何も入っていなかった。
「あれ?」
「アリア様の私物は片付けの際別に移しております。申し訳ありません」
頭を下げる浅葱狐に対しリスウェルは疑問が浮かび投げかける。
「鍵は閉まっておりますが」
「茜様の位置替えにより金庫の中身は取り出しております」
「確かにそうですね」
二人は倉庫部屋に向かい、ある物を取り出した。
「これです」
散らかってはいるが仕分けはされ床に転がっている目当ての物を彼女は拾い上げる。
一見ただの銀色の球体に見えるそれを持ちリスウェルは言葉を発した。
「起動開始」
「命令受諾しました。起動確認開始」
銀の球から無機質な機械音声が聞こえ、中心にある芯が繋がったまま球体の上部と下部が分かれる。
そして、機械はさらなる言葉を発した。
「演算•制御システム動作完了。動力•動作問題なし。機械システムオールグリーン」
球体の機械は宙に浮き、分かれた部分を戻して再び球となった。そして、白い光が円形に切断された部分に沿うように回る。
「旧式探査補助アルベスの光。動作していて何よりです」
かつて第二拠点で使われていた探査補助マシーン。
視界に入った構造物の模写、魔力の測定•感知、演算、連絡等々あらゆる事が機械の範疇で出来る、この星から観測される恒星アルベスの名を冠した一号機。
現在は二号機が出来たことにより使われなくなったが性能はまだまだ通用するだろう。
(まったくアリア様はなんと思慮深い。思慮深いって何でしょうか?)
だが、これにより目標達成率は上がったと言える。何せアルベスの光は一度見たその者の顔や体格、魔力を記憶し追跡可能なシステムが搭載されている。
救出に役立つのは間違いない。
「絶対に助け出します。尽くす相手は多い方がいいですし」
ご主人様である人類が多ければ多いほど尽くす対象は多くなる。
旧式を持ちリスウェルは部屋の外へと出ていった。




