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終末世界で少女は明日を見る  作者: がみれ
第一章「希望の光と絶望の認識」
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第二話「後悔と前進」

 夢の中で少女は平和な時を過ごしていた。

 ちょうど怪物が現れる直前の記憶だ。


『まただ……また記憶の夢。もう手に入らないというのに、何で見る必要があるのか』


「ご飯出来たわよ〜」


 母の声に少女は閉じかけていた目をぱっと開け、ソファから勢いよく起き上がる。


「は〜い!」


「今日はチャーハン。大好物でしょ」


「うん!」


 元気よく返事する自分に、胸の奥がざわつく。


 (嫌いだ。これから何が起きるかも知らない私自身が。なんて無邪気で自然に笑っているんだ)


 夢の光景は明るく、賑やかに談笑する姿と今の状況のギャップに少女は胸を締め付けられる。


 どうしてこうなってしまったのか。二人がご飯を食べている最中、突如としてある一つのニュースが報じられる。それが答えだろう。


「速報です。フルヲのセルトンネアス研究所から正体不明の生物が現れ、その被害に死者や行方不明者が後を立たず、街中がパニックに陥っています」


 これを期に全てが変わった。人々が恐怖のどん底に突き落とされ、一瞬にして日常が崩壊したのを少女は覚えている。


 母の手が震え、フォークが机に落ちる。

 少女の視線が母の顔へと自然に移る。


 この夢を見るのは、少女にとって三度目になる。不安定な記憶だからか毎回少し状況が変わっている。

 

 けれど大筋は同じだ。


「お母さん。なんで泣いてるの?」


 そう、これを見るのは三回目。しかし、全てにおいて母は涙を流している。少女には母が後悔しているように感じた。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は……私が」


 夢はいつもここで途切れる。少女もこの後、母が話した事の一切を覚えていなかった。








 高身長で黒髪ショートに猫耳、尻尾がついた年上に見える、制服を着た女性が少女の頬をつんつんして話しかけてきた。


「起きた?」


 母が書いた絵本に出てきた獣人にそっくりな姿に驚き、咄嗟に後ずさる。


「未知の生物」


「いや、そうだけど違う。人間だし君の味方だよ」


 獣人は少し不服そうにし、ムスっと頬を膨らます。

 どうやら、敵意はないらしい。少女はほっと胸をなでおろす。


「ここは?」


 見渡すと、静かな森の中にいることが分かる。


 (たしか、市街地にいたはず。運んでくれたのかな)


「山の中。覚えてないの?一人なのに」


「一人?男の人に助けられたはずじゃ……あれ?」


 (あの人はどこに……?)


 少女と猫耳女性以外に姿は見えない。立ち上がって確認しようとするも、めまいが少女を襲い、再び座り込む。


 (なんだろう…頭がすごい痛い。めまいも、それに喉が乾いて………)


「水が。水が飲みたい」


「いいよ。はいどうぞ」


 バッグから水が入った水筒を渡され、少女は思いっきりその中にあった全てを飲みほす。

 すると、さっきまでの症状がいくらか和らいだ。


「ありがとうございます」


「いいよ。ひとまず、ここは危険だし、私達の拠点に行こっか」


 笑顔で手を差し伸べられ、立ち上がる。


 助けられた人物が気になったが、少女は猫耳の人についていった。


 整備された道と繁茂する道を行ったり来たりする。

 下には崩れかけの建物の数々と、人間の骨らしきものが見える。


「着いたよ。ここが私達の第一拠点」


「何もないですけど」


 猫耳の人が枯れ葉をどかし、土を少し掘る。すると金属性の小さい扉が現れた。土で汚れた手で扉を三回叩き合図する。


「愛莉だよ。開けて」


「今の天気は?」


「う〜んそこそこの雨って感じだね。まあまあ降ってるし、雨具ぐらい持っていったらよかったよ」


 扉が開き一人の男が姿を現す。三十代ぐらいに見えるひげの生えた作業着を着たおじさんだ。


「その子は?」


「山で偶然見つけた。私はあっちに合流するから、この子は頼んだ」


「ああ、分かった」


 そういい作業着の人は、こっちに来るよう指で合図した。


 男の人に連れられ、はしごを利用し地下に入った。はしごを降りた右手には休憩所のような小さい部屋があり、前には下に続く階段がある。


 少女は下へ降りた。


 静かに踏み入れた足から金属音がよく響く。長い折り返しする階段を降り、辺りを見渡すと立方体の空間が広がっていた。


「ここは?」


「侵入者を迎撃する空間だ」


 男は腰につけたトランシーバーを手に取り口元に寄せる。


「こちら西門番の会津下。子どもを引き取った。南西区域で案内できるやつを回してくれ」


「了解」


 男は通信を終了しトランシーバーを戻し、階段の方へと歩いていった。

 

「案内人が来るからそこで待ってろ。俺は持ち場に戻る」


「わかりました」


 少女は一人になり、考えこんだ。これからどうするか、どう生きるか。その内、眠気が襲い、案内人が来る前に、気づけば眠ってしまった。








 少女を助けた後、猫耳獣人は雨の中を駆け抜け調達隊に合流しようとしていた。


 元々は護衛で行くつもりだったのを途中で拾ったことにより、予定がずれ戦闘員がいない状態で物資調達を行うことになった。


 ───その矢先の一報の救難信号。

 無線で外出の報告をしてなかったのだろう。本来、非戦闘員が外に出れないのを、戦闘員がつくことで特例として認めているだけで、いない状態なら絶対帰還命令が出される。


 (私がもっと念を押して外が危険だというべきだった。いくら取得能力で人知を超えたとしても奴らはそれすら軽く凌駕する。急がないと)


 人間には不可能な動きで飛び回り、調査隊がいるとされる地点へ向かっていく。


 川があれば飛び越えて、住宅街では屋根の上を、ビル群はそのまま突っ切り最短距離で突き進む。


 日没が近くなり雲が茜色に染まり始め、猫耳獣人は焦り始める。

 探知能力が千差万別の魂喰霊と違い、人間の探知は五感のみ。


 夜目が利かなければ視覚が奪われ、雨音は周囲の音を意識から外す。結果夜の雨は命を刈り取る凶器へと変わる。


 目的地までは約二分。

 (お願いだから生きていて)


 毎度の如く猫耳獣人は神に祈り、仲間の生存を信じる。どのみち今の彼女にはそれしかできないのだから。








 時間が経過し、少女は目を覚ます。


「起きました?」


 屈んだ状態で、猫耳獣人は問いかける。


 知らない天井が見える。どうやら寝落ちしたらしい。あまりの警戒心のなさに呆れる他なかった。


「よし起きたみたいだしまずは自己紹介しようか。ファーストインプレッションは大事だからね」


 猫耳獣人は立ち上がると、まっすぐ目を見て話し始めた。


「私は前進隊「アヤメ」の副隊長、愛莉あいり。分かんないことがあったら頼ってね。なんならお姉ちゃんって呼んでもいいよ」


「はい。お姉さん」


「お姉さん…。いいね割とありだ」


「……」


「ま、まあ冗談は置いといて。君の自己紹介を聞こうかな」


「はい。わかりました。私の名前は……?」


 数秒の沈黙が続く。


「どうしたの?」


 気の病む事を言い、心に傷を負わせたのかと愛莉は心配し言葉をかける。


「名前が、思い出せない……」


 ───心の奥がざわついた。


 (思えば記憶が少し変だ。夢の中の光景が現実にあった記憶がないし、自分が住んでいた家もわからない。他にもところどころ記憶が抜けている気がするし、何より私はこんな警戒心を持つような性格じゃなかった………気がする)


 愛莉はどんな言葉をかけるべきなのか分からず、時間が過ぎ去る。その時、言葉がない時間を埋めるように部屋の扉が開けられた。


「どんな感じだ?」


 見るからに病弱だと分かるほどに、痩せ細った病衣を着ている目つきの悪い男が入ってきた。

 壁に寄りかかり、疲れたような声で問いかける。


「て、隊長!?寝てなきゃ!!」


「うるさいな。静かにしろ。こっちは病人なんだ」


「いや病人なら寝てなよ…」


「それもそ…おっと」


 愛莉は転びそうになる病人を支え、近くにある椅子に座らせた。


「君がか」


 病弱だが鋭い視線でこちらを訝しむように見つめてくる。敵意というものは感じないが、少女はどこか居心地が悪い気分になった。まるで自身が悪であるとするような。


「何ですか?」


「いや、何でもない。今日は顔を確認できたしもう戻る」


 扉の方を見て、据えた腰を上げる。


「ほんと何しにきたんですか?」


 愛莉が呆れ半分に尋ねる。


「見たかっただけだよ」


「何がですか?」


「希望を」


 病人は扉を開け部屋を出ていった。


「ごめんね。戸惑ったでしょ」


「あの人は?」


「うちら前進隊の隊長。名前は、氷楼ひょうろう。まあ見ての通り、変な人だからうまくつきあえたらうまくつきあってね」


「分かりました」


「じゃあ気を取り直して自己紹介の続きをよろしく」


「まぁ特にないですけど…あるとすれば」


 それから少女は自分のこれまでの経緯を全て嘘偽りなく話した。化け物に襲われ命かながら逃げたこと。その後、謎の人物に助けられ、眠り気づけば山の中に居たこと。


 けれど、一つだけ、あの夢の記憶だけはなぜか言う気になれず話さなかった。


「なるほどねぇ〜。お互い人生大変だ。ま、気楽になんてこんな世界じゃ言えないけどせめて幸せに」


「幸せに生きれますかね」


 こんな希望もほぼない世界で幸せに生きれるかのかと、少女は疑問を口にする。


「できるさ!前に進む限り!こんな世界だって終わらせられる。少なくとも私はそう思ってる」


 その瞳にはまばゆい希望と、何があろうと進み続ける確固たる意志が宿っていた。


「狂気の沙汰だ」


 (こんな世界で前を見る?化け物が蔓延るこの世界で?)


 人がどれだけいようと奴らには敵わない。母と逃げる最中、振り向いて見た街は瞬き一つで消し飛んだ。人間とは力の位が違いすぎる存在に、少女は無謀だと下を向き、唇を噛んだ。


「それが、多数の犠牲を払ってでも成し遂げたいことなの?」


「うん。そうだよ。自分勝手だけど今のままだと心の底から笑えないからね」


 そう口にする愛梨は笑っていた。表面上で安心させようとしているのが分かる。心根が優しい人柄なのは十分伝わった。


「君はどう?このまま日の光を浴びずに、死ぬまで地下で暮らしたい?別にそれでもいいけど、君みたいに今もこの世界を一人で彷徨っている人間は少なからずいる。希望もない暗雲とした霧の中でね」


 少女は愛梨の言葉を受け、胸に突き刺さる。


「私みたいに………」


 助けもなく、希望もなく、死以外に救いがなかったあの時を思い出す。


 (もしも自分のようなこの世を闇雲に彷徨う人間がいるとしたら、きっとこのまま死ぬまで引きこもっても、心の底から幸せになんて無理だ)


 ───親が命をかけて繋いだ命は、いったい何の為にあるのか。

 少女はその問いにひとつ、答えが浮かぶ。


 人助け。

 自殺を止められ、抱きかかえられたあの温もりを、他に与えることが出来るのなら、母が救った命がまた違う誰かの命を救えるかもしれない。


 それは、救われた命以上に、人の為に繋がる行為だと少女は考える。

 

 泣いている子どもを助けられるような、誰かを守れるような、世界を救えるようなそんな人間に少女はなりたいと心に決める。


 (きっとお母さんは危険だから、身を乗り出して世界を救うことには反対すると思う。けど、全てが終わった後はきっと、心の底から笑って明日を見れる気がする。だから笑顔で叱られようと思うんだ、お母さん)


「私も進み続けます」


 先ほどよりも希望の灯った澄んだ目で、天井より上の天国にいる母を見る。

 少女は心に決めたことを母に伝えた。


「そうだね。化け物をこの星から追い出す算段もあるわけだし」


「え!?!?」


 日常会話のように落とされた重大な言葉に、目を見開き、身を乗り出しすぎてベットから落ちそうになる。


「追々、話すよ」


 愛梨は小さな声で呟き、部屋を出ていった。

現在、cnuを魂喰霊に名称変更しています。

この後の話にあるcnuは魂喰霊と同じ存在です。

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