第十八話「失踪現場②」
やはりそうだった。
植物の消失具合はエリアを沿うように一様。勇人が見つけた箇所と似通うように消失していた。
「よし、終わったぞ」
脚立を持ちおじさんは、二人に合図する。
「こっちもこれで終わりました」
(一様な消失。荒々しい攻撃じゃこうはならない。だとしたら、魔力の放出?でも、なんで?魔力の放出がもたらす効果……いや、茜の魂視を邪魔出来るのだとしたら筋が通る?)
「名無し、行くよ」
「………」
「聞こえてる?」
「……ん?あ、ごめん。何て?」
「もう行くってさ。ほら行……」
その瞬間、カコンと小石に木板が落ちる音が突然少女と少年の前で響く。
直後視界の端で落ちた"赤札"二つを勇人は捉える。
「「!!」」
赤札が指示すのは危険信号。
命の危険がある場合に限り出される撤退命令と差し支えない事柄が何の前触れもなく唐突に三人を襲った。
「ごめん!!」
すぐに勇人は反応し二人を脇に抱え、全速力で行き来た洞窟駆けへと出した。
いきなりの出来事と急加速による空気抵抗が発する強風により二人は状況の理解にすぐには追いつかなかった。
しかし、名無しはすぐに状況を飲み込み頭を冷静にする。
「待っ……て!」
強風により声を出すのが難しい。
途切れ途切れになりながらも声を大きくし、名無しは言葉を発する。
「ごめん!!待てない!!」
「赤札は……何個だった?」
名無しはある疑問を確認するように聞いた。
赤札の個数が示すものがあるかは名無しには断言できない。
だが、もしあるなら犯人への手がかりになる。
「ごめん。覚えてない」
「じゃあおじさんは目の前に赤札が落ちてきた?」
「……いや、落ちてないな」
(やっぱりこれは前と同じ。だから私達だけに………)
「おじさん!!………他に今外に出ている人はどこ!?」
徐々に強風にも慣れ、下をむいて話せば楽だと分かり声が通った。
「ん?この先の小屋を越えた先に右左に分かれた二組いるが」
「勇人!!多分赤札は私達に向けてじゃない!!この先にいる誰か。じゃないとわざわざ私達だけ赤札で知らせるようなことしない………と思う。それにこれが失踪したのと関連がある可能性は高い」
「ッ!!………確かに」
「多分状況は前と同じ……!!」
(けどもし違ってたらどうする………)
もし通常通り逃走を促していた場合、この行動は悪手であり最悪死につながる危険性がある。
だが、もし読み通りだとしたら?
あらゆる可能性が頭に浮かぶ中、それでも可能性はゼロではないと勇人に助けに行くよう名無しは提案した。
勇人の頭に葛藤が浮かぶ。
緊急事態だからこその赤札。それを無視して進むリスクは多いにある。だがその葛藤はすぐに消えた。
ここで行動しなければ後悔する。
助けられたのかもしれないチャンスを放棄し希望をなくす選択肢など勇人には出来なかった。
「後どのくらいで曲がればいいですか?」
「ああ、三つ目の曲がり角を左だ。あと、四つ目の曲がり角を右」
「了解。全て任せてください!!。あと、すみません」
「え?」
勇人は速度を下げ、地下から出てきた小屋を通り過ぎる。その時、勇人は左手に抱えたおじさんは小屋の側積み重なったゴミ袋の山に放り投げる。
そのまま勇人は急加速した。
重さを減らし勇人のスピードが上がる。
「て、!!おーい!!!!!!」
ゴミ袋に放り込まれたおじさんの声は遠くにいる二人にはもう届かない。
助けると決めた二人の耳には何一つとして。
「そこを左!!」
「了解!!」
走ることで起こる風が植えられた野菜を暴れさせ、蹴った足から土ぼこりがはい上がる。
次第に遠くに人らしき影が見え、だんだんと大きくなっていく。最初は生き残りの組なのだと思い安心した。しかし、それは近づくにつれ目当てのものではないと名無しは気づく。
「これで全員?」
名無しは目の前にいる四人組の男に聞いた。
「ああ、何が何だか知らないが緊急事態なんだろ」
「はい、みなさんは第二拠点にすぐに逃げてください」
避難を促し、再び勇人は駆け出した。
「こんな時に二分の一外すなんて」
勇人が余裕のない焦りを感じさせる声で言う。
確率的には割とハズレな値を出した二人は急いで四つ目の曲がり角へ向かった。
「いや、二分の一を二つ足してどっちの事象も引き出せばいいだけ」
「つまりスピードでゴリ押すってことだよね?」
「そう」
極論、小賢しい戦略なんてこの世界では一個人の超パワーでどうにか出来てしまう。
能力は人の枠組みに囚われない。
したいと思ったことがすんなり出来てしまうのが世の理になったのだ。
だからこそ、この世界のルールに乗っ取り、能力には能力で、理不尽はさらなる理不尽で対処すればいい。
人の限界を越えた勇人にはそれが出来る。
更に勇人は加速した。誰にも追いつけず誰にでも追いつける疾風となり、残った一組が視界に捉える。
木の側に寄りかかる人影が浮かぶ。
「あれだ」
「いや、待っておかしい」
動かない人影を見て名無しは冷静に言う。
考えなくとも違和感しかない。緊急事態にも関わらず走りもせず止まるなんて普通はありえない。
異常事態に名無しは勇人を止めようと言葉を発する。
「勇人、止まっ…」
しかし、言いかけた刹那、人の背丈ほどある畑から黒の外套を纏ったのが一人現れる。
仲間だと思っていた影二人も畑のと同じ服装でナイフを持ち名無したちを囲うように静かな歩みで近づいてきた。
急に現れた人間に勇人は走るのを止め、名無しを地面に降ろす。
誰だか分からず顔を見ようとしたが、外套で隠れて素顔は全く分からなかった。
「何者ですか?」
「敵、味方どっち?」
二人の問いに沈黙で返し、謎の人物は意を介さない。二人の事などお構い無しに近づき、歩みを止めない。
勇人はいつでも対応できるように柄に手をかけ警戒を極限まで高める。
勇人と名無しらは待ちの姿勢で謎の人物の歩みが止まるのを待つ。結果、雑談出来るほどの距離までその者たちは近づいた。
そして、沈黙は破られる。
声からして女と判断出来る者が二人に話しかけてきたのだ。
「私達は神に仕え神に従い世界を正す神の代弁者。─────貴方方の呼び名では教魔団と言えば分かるでしょうか」
「教魔団!!!」
勇人は柄を強く握り、刀身が露わになる。
唇を噛み、睨みつけるほどの怒りにより臨戦態勢から戦闘態勢に足を踏み込み、今にも飛び出そうになるも名無しに鞘を掴まれ止められる。
「それで、わざわざ会話する理由は?」
殺すのが目的なら不意打ちを狙えばよかった。
そのチャンスを放棄してまで対話を望んだ真意を知るべきだと名無しは対話を取る選択をした。
「我らの教会へ招待をしに参りました」
「招待?」
「三日後の塔の時計が鳴り響く深夜0時、教会へいらしてください。詳細はここに」
女は封筒を地面に置き、後ろに引いた。本当に戦闘の意思がないのかある一定以上の距離、正確には勇人の間合いまで踏み込んでこなかった。
「何のつもりだ!!!何で一切話を取り合わなかった教魔団がどんな風の吹き回しで対話しようなんて思った!!!!」
「信仰する神は同一であれ、個々の信条は千差万別でございます。個人に言いたければ直接個人に。それでは良い返答を」
「待て!!」
立ち去ろうとする女に斬りかかろうと勇人は前に出る。
それをまたもや名無しに腕を掴まれ止められる。
「名無し!!このままじゃ逃げられる!!!」
「それでいい。今の私達は一度話を持ち帰るべき」
「何で!?今ならまだ生け捕りに出来る!!」
その主張は当然正しい。
それでもここは一旦引くべきだと名無しは現状から判断する。
「戦闘は極力控えないと私たちは詰むんだよ。無限に人がいるわけじゃないし能力だって有限。その力がないと困る場所がきっとある」
「僕が負けると思うの!?」
「負けるか負けないかじゃなくて、相手がどんな力を持っているか未知数の状態で挑むのはリスクが高すぎる」
何の策も無く挑むのは無謀というものだ。
小賢しい戦略が一人の力でどうにか出来てしまうのは当然だが、どうにもならない場合も存在する。
それは理不尽をさらなる理不尽でねじ伏せられることだ。
少なからず力量差を考えなければ勝てた戦力でも相手の采配で勝敗は変わる。
「だから、一度帰るべき。思うところはあると思う。けど戦うのは今じゃない」
魔力的干渉がないのを確認して少女は地面に置かれた封筒を拾った。
「くっ………。分かった………」
少年は悔しくも立ち去る彼らを睨見つけ左拳を強く握った。
そして、握っていた柄を外し刀をゆっくりと鞘に納まった。
その後、食料を回収した名無したちは神社から転移門を通り帰還した。そして、事の顛末を島名、茜に伝えた。
「組織じみた動きは初めてですね」
島名が顎に手を当て考える素振りをして言う。
「あれが教魔団?」
「そうですね。あれが敵対勢力の一つ教魔団。そして今回の失踪事件の犯人もその方らで確定でしょう。私の視界共有が機能しなくなった地点とも一致しています」
「また、二人。これで合計四人ですか……」
「でも得られた物もある」
そう言い、名無しは封筒を机の上に置いた。
「さて、これをどうしますかね」
魔力的干渉がないのは確認しているが能力で何か仕掛けているか、能力を使わない普通のトラップがあるかもしれない。むやみに開けるべきではないだろう。
「誰に開けさせるかですか。適任者がいますよ」
そう茜は言うと、島名は訓練場について来るように勇人と名無し二人に合図した。
その人物とは今まさに訓練場で体を動かしているのだという。つまり戦いを想定している能力所持者ということだ。
そう、その人物とは───。
「あ、なんだ?」
「これを遠くで開いてください」
島名は十目裏炎弐に封筒を渡し、急いで名無しら三人は扉付近で顔を出すのみにした。いつでも閉めれるよう扉に手をかけて。
これが現状の最善。
今いる中で一番頑丈であろう炎弐に全てを委ねる。どうせどうにかするだろうと安直に思い、開けさせようと考えたのだ。
「お前ら、何してんだ?そんな遠く行って……」
「ん?………何でもないよ」
わざとらしく名無しは棒読みに返答した。
「あ?んなわけねえだろ、それ。まぁいいか。開ければいいだけなんだろ!!」
不満げに言い炎弐は躊躇なく封筒をビリっと破き中から紙を一枚取り出した。




