第十六話「二人の任務」
「「はあああ!!!!!」」
二つのエネルギーの衝突で建物内は揺れ、壁は風圧で軋む。
発射速度、タイミングは等しく両者は魔力による押し合いへと持ち込む。
しかし、時間がたつほどに炎が金色の魔力をかき消していく。名無しの魔力操作の精度が足りないのだ。どうしても上下左右に照準がぶれてしまう。
やはり、戦闘経験の差による魔力操作の精度の差が顕著に出ると名無しは実感する。
それでも名無しは手を下げることは無かった。
意地というものが名無しにもある。
炎は刻一刻と迫り、ついには目の前へと迫る。
名無しが全身全霊で放った一撃であってもまだまだ遠く及ばない。それを炎の熱で実感する。
「くッ…!!」
指の先に火が移り、名無しは声を漏らす。
「そこまでや!!」
その瞬間、ラルが手を下に合図をし試合終了を告げた。
同時、炎は散り名無しの魔力も魔力切れで自然に消えていった。全開放による損耗で息を切らし、名無しは脱力するように地面に座りこむ。
「おい!!ラル!!今いいとこだったろ!!!」
「お前はここを消し飛ばすつもりか!?!?」
「いや、あいつが止めるだろ」
炎弍が名無しを指差し言うが、何を信じて言っているのか意味が分からなかった。不可能に決まっている。
「まぁ、いいか。やりたいことはまだあったが、それなりにやれたからな」
炎弍が名無しの方に歩き手を差し伸べる。
その手を掴んで名無しは立ち上がる。
「これからも頑張れよ!!せいぜい死なねぇようにな!!」
炎弍は笑みを浮かべそう言い、部屋を立ち去っていった。
「はぁ……疲れた」
「お疲れ」
膝に手をつき俯いた顔から汗が溢れ床に落ちる。
それに勇人は名無しに対し労いの言葉をくれた。
(でも、やっぱこのままじゃだめだ)
周りに頼りあげく予想外の出来事に対応出来なかった。加え、仲間を頼らなければ自らに力はない。
「頑張んなきゃ」
名無しは適当な部屋で休んだ後、三人で四階の会議室に向かった。中に入ると大きな縦長テーブルが部屋の真ん中に位置し椅子が囲うように並べられていた。
入って両隣は何も入っていない本棚が並べられ、圧迫感を感じた。
ホワイトボードも正面奥に位置し手書きで書かれた地図やら細かいメモが無造作に貼られていた。
その部屋の中には二人、新城茜と島名。
茜一人だけ扉を向き背丈に合わないでかさの椅子き座っており、そのすぐ右後ろには島名が立っていた。
そのことから権力は茜の方が高いのだろうと分かる。地位の差ではなく、命令の優先順位的な高さだろうが。
名無しは部屋に入って茜に席に座るよう勧められ茜の近くの席へと座った。
「名無しさん。先に謝罪します。申し訳ありません」
茜の言葉に名無しは何に対して謝っているのか分からなかったが、すぐに理由は理解できた。
「あなたを試すよう炎弐に手伝ってもらいました。能力は大きな力を宿す反面、身体や精神に異常をきたす場合があります。なので本性が露わになるまで追い込んでもらう必要があったのです」
「そうだったんだ」
それ自体名無しに驚きは無かった。
予測していた訳では無いが、どちらでも構わなったのだ。
きっと茜の指示が無くとも炎弐とは戦闘訓練はしていたし、結果は変わらなかった。
「ちなみにそれってラル達は知ってたの?」
「わいは知ってたな」
「僕は知らなかった。て、え?」
「それはそうと、ラルは任務があります。第一拠点に行き隊長達を回収。その後第三拠点まで連れて行ってください」
「わいはタクシーちゃうんやが。とゆうか遠いな。その後はどうする?」
「隊長の判断に委ねます」
「おっけー。了解や!!ちょっくら行ってくる」
ラルが席を立ち散歩にいくような気分で部屋を出ていく。
単独なら機動力をいかんなく発揮できるラルなら簡単に第一拠点には行けるのだろう。
「お願いします。それで名無しさん。全て拝見させてもらいましたが、あなたはどうやら悪い人ではないようですね」
茜の言葉に名無しは疑問に思う。
基本的に善人であると自覚はしている。しかし、悪い人という言い方は随分ふわっとしている。
善悪など見ている視点、価値観、立場、考え方なんかで大きく変わる。それに大体は自身を善と見なし正当化するものなのだから悪い人は稀な存在だ。
そう、十三年生きて培った考えで善悪を勝手に定義し偏見として名無しは見なした。
「色々知りたいことがあると思います。何でもお好きに聞いてください。私はそれに答えましょう」
「………じゃあとりあえず、隊長はなぜ第一拠点に一人残った?」
「知りません」
「名前からして国籍が異なる人が同じ言語で会話できているのは何故?」
「知りません」
「……何も知らないじゃん!!!」
「そう言われても知らないものは知らないとしか言えません」
知らないにしても全く得るものがないなんて予想外だった。こうなれば情報共有が出来ているのかすら怪しい。
なので、今度は島名から小耳に挟んだ事柄について聞いてみた。
「教魔団とは?」
その質問は島名が受け答えた。
「目的は不明瞭、何処にいるのかも不明。ですが、敵対関係にある陣営です。会話が通じれば交渉が可能かもしれませんが今の所は一方的に交戦してきます」
流石にこっちは知っているようだったが情報量は少ない。だが、ゼロではない分まだましだ。敵がいると分かっていれば必然的に警戒し、様々な予想に組み込める要素になる。無駄ではないだろう。
「じゃあ最後。これから私達はどうするの?第三拠点もあるみたいだったけど」
「時期的には今出て第三拠点に向かうのは推奨出来ません」
「ラルが居ないから?」
「それもありますけど特殊型と呼ばれる魂喰霊が三カ月周期でこの都市に来ます。街から出るのは過ぎ去った後、ちょうど一週間後が頃合いでしょう」
「特殊型?」
「大体の魂喰霊は死んだ人間を乗っ取り、研究所方面へ向かう"帰還型"と目的もなく自由に動き回る"漂流型"の二つ。その中である一点もしくはそれ以上の要素規格外だと認められたものが"特殊型"と呼ばれています」
島名の言葉通りならつまり魂喰霊は三種類。
すると、今までの個体がおそらく漂流型なのだろう。
だとしたら、やはり仇討ちは現実的ではない。
漂流型だとしたら、世界一周しても会うことなんて夢のまた夢なのだから。
「じゃあ街に来るっていう魂喰霊てどこが規格外なの?」
「一週間後に来る魂喰霊 は船ごと異形化した特殊型魂喰霊"ファントムシップ"。外見はまんま幽霊船。雲海を海のようにして航海し、こちらにやって来ます」
「なにそれ?」
特殊というか、それはもはや魂喰霊なのだろうか。無機物てある船の残骸を魂喰霊は死体だと認識したのか。何にしても名無しはその存在自体が疑問に思った。
(まぁ、実際見てるんだから事実なんだろうけど)
「よし。では、ここからが貴方方にお話しする任務です」
手を叩き、全員の視線を茜に集中させる。
そして、説明したのはまずその特殊型が来ると上の都市に滞在するのはほぼ不可能になるということ。
だから、食料を蓄えて地下で暮らすのだが、名無し達が第一拠点から来たせいでその備蓄が足りなくなり、緊急で必要になった。
それで、ルーヴェステリアに植えてある農作物を能力を持たない一般人に回収させていたが、その内二名が原因不明の謎の失踪を遂げた。
茜が言った任務というのは、名無しら含め第二拠点にいる者たちは三日後特殊型が来る前に食料を速攻で確保し、失踪した二人を捜索し発見するというものだった。
「この任務は急ぎで行わければなりません。一時間後に四階の階段を上がり、真っすぐに進むとある建物外の空間に勇人と名無しは集合。道案内とともに食料を回収してきてください」
「「了解」」
一時間後。
島名の指定した場所に二人は来た。
「お、君たちが護衛の人か。よろしくな」
建物の通路が途切れ、そのまま洞窟と繋がった広い空間にいた男に二人は話しかけられた。
名無しは顔を上げるとそこには頭の上から足まである灰色の外套を身に纏う、髭の生えた人当たりが良さそうに見えるおじさんがいた。
この人が案内役なのだろう。
「よろしくお願いします。名無しです」
「よろしくお願いします。勇人と言います」
「そうか。俺のことは案内役と呼んでくれ。よろしく。それじゃあ君はこれを」
おじさんは名無しに緑色のレインコートを手渡す。触ってみた感触からだだ撥水性があるレインコートでそれ以外に機能はなさそうに見える。
おそらく、これから夜に近づくことからくれたのだろう。気温は今より低下するだろうし、雨が降れば体が冷える。
ちなみに勇人の分はないらしい。
体が頑丈だから低体温症のリスクが無いのだと。
それと何も入っていない回収用のでかいリュックサックをもらった。これに食料を入れて帰還するまでが任務になるのだと。
「じゃあ行こうか」
おじさんが先導し、名無したちは目の前の三つの洞窟の内、右の洞窟へと進んでいった。
道中では暗くならないようランタンの火がゆらゆらと影を揺らし、ぽつんと水が滴る音が聞こえてくる。
その中で名無しと勇人の界隈は洞窟内に響いた。
「名無しはこの先最前線に行くつもりなの?」
「まぁ、そうだね。たくさん人助けできるし」
「……僕はあんまり行ってほしくないな」
「……じゃあ止める?」
「いや、僕も行くよ。死なせないために」
「そう。だったら頼もしい。戦闘に関しては私は思いっきり足引っ張るから」
「大丈夫。任せて。何が何でも助けるから」
自信に満ちあふれた表情に名無しは安心を覚える。だが、だからといって甘えてはいけないと自己を改めることをしないわけではない。
少なくとも自衛ぐらいは出来た方がいいだろう。
攻撃手段が皆無な現状、武器や装備といった付加要素に託す他ないと思うが。
そうこうすると、洞窟をあっという間に抜け、地底湖を横目に名無したち坂を上った。
光の差し込む先を見ながら坂を乗り越え、三人は霧がかっているある場所へとたどり着いた。
「「きれい……!」」
そこは巨大な峡谷だった。
眼前に広がる天上の星々に引けをとらない鮮麗に光り輝き無数の鉱石が介在する地下の空間。
まさに絢爛華麗の光景に童心に戻ったような心情、世界全てに目新しさを感じていたような懐かしい感覚が呼び起こされ、名無しは思わず感嘆し息を呑んだ。
「見惚れるのはいいが足滑らしたら奈落行きだからな」
風が峡谷内に音を響かせ吹く。
名無しの頬に冷たい風が当たり、意識は元に戻った。
冷静になり足元を見ると、確かに数歩先にはもう足場がなくなっている。
道は狭く安全柵がない。
事故誘発の危険性は一般的な山上りの比ではないだろう。気を引き締めなければ命に関わると名無しは強く意識する。
石ころを谷底に落とし、深さを確認しようとする。結果、すぐには音が返ってこないことから落ちれば死の一方通行なレールが引かれていると分かる。
反対に上を見ると、やはり地上が見えた。
この都市じゃ空の変わりとなった雲海が霧の隙間から微かに見える。
名無したちは峡谷の際を通り先へと進んだ。




