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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第十五話「稽古試合」

(やばい。本当にやばい)


 右手、左手から放たれ襲いかかる無数の火の玉。

 それらは収まることを知らないかの如く放たれ続け、名無しは逃げ回るしかなかった。


 名無しは魔力を放出し火球の軌道をずらして、勢いを抑えることはできる。

 しかし、一発でも当たれば魔力操作の集中を欠き、数十の火の玉が連続して直撃するだろう。そうなれば負けだ。


 的が絞られないよう炎弍から離れるように距離を取るも、鬱陶しくも一定の距離を保つように炎弐が接近してくる。


 必死に思考を続ける頭で火球が来る軌道と自分の走る方向が交差するように部屋の中を駆け抜け被弾を減らそうと名無しは動く。


 それでも、火球を魔力で逸らさなければ二、三個は名無しに着弾する軌道をとっていた。


「油断出来ない!!」


 名無しは動きを止め火球を前に止まる。

 両手から魔力を放出し、多少力んではいたが火球を真正面から受け、三個同時に跳ね返す。


 だが、本当にやばいと名無しを焦らせたのは次の技だった。


「炎流爆!!」


「やばッ!!!」


 名無しは来ると分かった瞬間、床に踏み入れた足に力を乗せ急ブレーキ。

 何とかその場に踏みとどまる。


 体重を進行方向と逆向きに重心を傾け、名無しは足に最大限力をこめる。

 踏み込んだ足でその場から逃げるように全速力で走る。


 炎弍が両手をこっちに向けた二、三秒の経過。

 その後、赤色の魔力が手のひらに集中。赤く熱を帯びて手が光る。


 瞬間、放たれた灼熱の火炎柱が踏み込んだ右足の二十センチ程度先で床を抉りとり、炎の軌跡が作られた。


 抉りとられた周りは一瞬で燃焼し炭となり真っ黒に変色する。

 やがて、炎は障害物にぶつかったのか激しい爆発音とともに壁を粉砕した。


(あれに当たればただじゃ済まない)


 汗を手で拭い、名無しは必死に走り続ける。

 炎流爆であれば確実に名無しは傷を負う。ラルが止めない以上死にはしないのだろうが復帰は不可能。事実上の負け。


 そんな冷静な頭で考えなくとも、迫りくる炎の恐怖から絶対に受けちゃだめだと名無しは本能で分かっていた。


「くッ…こんな中……!!どう…辿りつけって!!!」


 紙一重で火球を掻い潜り近づこうとしても、炎弍に向かって直進すれば火流爆をくらい、ジグザグに避けながら進んだとしても、炎弐は簡単に距離を取れる。そうでなくとも、互いの距離が近くなればなるほど必然的に火球の当たる量が増えていく。


 (無理ゲーじゃん!!これ!!!)


「ッく……!!!」


 頭部に火球が迫り名無しは咄嗟に身を屈め回避する。しかし、止まれば止まるほど火球の集中砲火をくらう。


 床に手をつき、名無しは飛ぶように走り出した。


(駄目だ……。どう考えてもたどり着ける未来が見えない。避けるのがやっと。どうしたら……)


 今の盤面で正攻法じゃどうあがいても勝てないだろう。負けるのは時間の問題。


(何かないか……。もっと根本からひっくり返る)


「ははは!!!まだまだ余裕そうだな!!!」


「ど、こ、が!!!」


(何が余裕そうだ!!必死に避けてる姿が見えないのか!!あの赤髪!!いやあんな奴に気を取られるな私。あれはただの飲んだくれだ。酒を飲んで手をあげる非常識な大人だ。常識的な意見が返って来るのを求めるのは高望みがすぎる。大体酒瓶を床に投げる時点でやば……ん?酒瓶?)


 名無しは遠くに転がっている炎弍の投げた酒瓶が目に入った。

 そして、同時頭の中に会話が思い浮かぶ。


(炎弐は言った。魔力を使用する者らは魔力で物に触れられないと。影響を及ぼせるは能力を魔力で行使したものだけだと。そうだ!!!これだ!!魔力で物には触れられない!!)


 建物が茜の魔力、能力で作られたもので火球や火流爆によって影響が強く出ているのだとしたら、もしかしたら魔力の性質的弱点は魔力を帯びていない物体。


 炎流爆のような攻撃力の高い技はともかくとして、瓶が火球や単なる魔力の放出に影響はないのかもしれない。


 それだけの僅かな根拠で名無しは悟られないよう逃げまどいながら自然に瓶に近づく。この行動だけで何をしようとしているか、炎弍に感づかれるかもしれない。相手は最前線帰り。戦闘経験は雲泥の差。でも、それでいい。


 どうせ投げるときには既に、瓶をどう使うかなんてばれてるに決まってるのだから。


 瓶を拾い上げ名無しは火球を三つ避け、二つ逸らし、火球が片手で防げる限界ギリギリまで近づく。


 相手の攻撃は二つ。

 右手と左手から繰り出す火球。自身の魔力で相殺、もしくは逸らすことができる圧倒的物量の攻撃。


 そして、二つ目は何もかも抉りとり燃やす火炎の柱炎流爆。

 二、三秒のためを終え放たれる圧倒的な破壊力を持つ攻撃。


「そんなのが何の役に立つんだ!?!?」


 炎弍が瓶を見て、小馬鹿にするような言い方で名無しに言う。


「無視は出来ないでしょ」


 当然瓶だけで触れるとこまでいけるとは思ってない。

 それでも、無視はできない。意識は一瞬でも瓶に向く。


 そのタイミングに名無しは一度しか通用しないとっておきの隠し球を食らわせる準備をすればいい。


(どんな手を使ってでもって言ったのが悪いんだよ。言い換えれば持てうる全てを使っていいという事なんだから)


 このゲームの穴さえ利用してもつまりは不正にはならない。盤面にあるはずがない駒を使ったとしてもゲームに負けることは無い。ならば、使えるカードは二つも増える。


試合ゲームにルールが存在する理由を教えてあげるよ!!」


 悪い笑みを浮かべ炎弐の目を見る。

 直後、炎流爆が放たれ出来た僅かな隙に炎の柱に沿うように名無しは足を踏み込み、瓶を思いっきり天井に向け投擲する。


 炎の熱など知ったことではないように。


 狙い通りぐるぐると縦に回転し放り出された瓶はちょうど炎弍の真上で天井にぶつかり瓶は割れる。名無しの予想通り、微量の酒とガラスの破片が炎弐に降り注いだ。


「あ?何処投げ、!!!いや、アルコールによる燃焼か!!!」


 気づいた時にはすでに炎弐は頭から酒を浴びており手から炎が引火し顔が炎で覆いつくされる。


「おいおい、熱には耐性があんだ!!今さら普通の炎なんぞ効かねぇよ」


「それでも視界は悪いでしょ」


「ならぁ!!」


(アルコールを飛ばしに来る)


 名無しの予想通り炎弍は火力を上げ、自身を纏う炎を強く大きくする。

 その炎は天井にまで届きバチバチと音を立て、二階まで突き抜けるほどに天井を燃やした。


 それによりアルコールは蒸発。

 炎弐の視界はクリアになる。


 しかし、炎弐は目の前の光景に動揺し驚き、目を見開く。

 包まれた炎の隙間から現れたのは二つの影。


 名無しとともに現れたその人物を見て炎弐は驚く。


「おまえ……!!」


 その目に映ったのは、片耳に緋色の紐を結んだ狐のお面を被る少女、緋狐の姿。


 この空間に居なかったはずの存在に少なからず動揺するも、すぐに切り替え炎弐は咄嗟に下がろうとする。


 しかし、その体は動きを止める。

 背後にある物体にぶつかり炎弐は増えたのが一人ではないと背後を振り返り気付く。


 あまり見ない和の服を着た少年、勇人の姿を目視して。

 その時には炎弐は勇人に羽交い絞めにされ床に倒れこんでいた。


「何でお前ら…!!」


 勇人を振りほどこうとする炎弐は力一杯に抵抗し、倒れた体を起こそうとする。


「緋狐……早く!!!」


 勇人は押さえつけるのがやっとであり、徐々に炎弐が起き上がろうと力を強める。

 勇人は限界が来るのを悟って緋狐に助けを求めた。


 勇人の言葉を聞き、緋狐は手を前にかざす。

 すると、二人の上に四つの緋色の球を二人が収まる四角形を作るように配置され展開した。


 緋狐はその球に魔力を込める。

 瞬間、四角形の内部に緋色の結界のようなものが出来上がり降下。

 二人はそれに触れた瞬間地面にたたきつけられた。


「ッく……反発か。やっぱ強えな!!!」


(緋狐の能力"反発"は四つの球を展開して、その面の表裏方向選択した方に斥力を生ませる。面が小さいほど斥力は強く、同時複数展開はできない。勇人から聞いていて正解だった)


 炎から距離を取っていた名無しは床に叩きつけられている炎弐目掛けて全速力で走る。この勝負は相手を倒せば勝ちというわけではない。


 名無しにとっては、触れさえすれば勝ちが決まる。今できる最善はした。


 瓶を投げた後、渡された紙で緋狐を呼び勇人も以心伝心で呼んだ。緋狐はともかく勇人は想定外だろう。


 だから、この手は届く。

 そう名無しは確信していた。


 後一歩で指が届く距離。

 炎弐は咆哮のような叫びをした。


「はああああ!!!!」


 耳が痛くなる叫びを聞いたと同時、炎弐の体全体から膨大な魔力が一気に放出される。


 辺りに熱風と魔力が吹き荒れ、緋狐の四つの球は魔力の放出で割れ、炎弐はその場に立ち上がる。


 近くまで迫っていた名無しもその魔力に吹き飛ばされ宙を飛んだ。


「痛ッ!!」


 右手と頬に熱風から軽い火傷を負い、名無しの体は宙を飛んで床で二、三回転し地面に横たわる。


(今、何をされた?)


 一瞬で跳ね返された当の名無しには何が起きたのか何をされたのかさえ見当がつかなかった。初めてみる技に名無しは困惑する。


 しかし、感じた疑問はすぐに名無しの隣に吹き飛ばされた勇人が答えた。


「魔力の解放。この世にある全ての物質は魔力を微量ながら帯びてる。出力が高ければ空気が押されるのは当然。て、言ってなかったよね。ごめん」


「ごめんで、済まされない。っ痛!」


 頬に痛みを感じ手を傷口に近づける。

 勇人は一番近くにいたはずなのに無傷だったが、名無しは肌が出ている数カ所に火傷を負い、傷口にヒリヒリと痛みを感じた。


 魔力を傷口に集中し傷は金色に光って跡形もなく瞬時に回復した。

 どうやら傷が酷くない場合のみ、魔術を使わずとも魔力の性質とやらで回復できるらしい。


 しかし、傷は治ったとてあれがある以上どうやったって近づけない。


(どうする?私)


 予想外にくらった頭で打開策を再度考えるが、勝てる未来が一切浮かばない。不意打ちは通じず、力によるごり押しも触れる距離まで近づけば先ほどの二の舞いになる。


(考えろ。考え続けろ)


「おいおい。名無し。てめぇは人に頼ってばっかじゃねえか!!!」


 炎弍の体から解放された魔力が炎の形を成し、退路を断つかのように部屋を区切る業火で勇人、名無し、炎弐の三人は囲まれる。


 感情が起因し、出力が高くなっているのか室内の温度はますます上昇していく。


「当然でしょ!!私一人で勝てる可能性なんて万に一つもないんだから!!」


「ああ、そうだ!!てめぇは、弱い!!」


 今までより一回り大きい火球が右手から放たれ紙一重で名無しは避ける。


 しかし、もう一つの左手から放たれた火球はぎりぎり逸らすのが精一杯。逸らす際に魔力で覆ったとはいえ両手を見ると手は赤く、出血していた。


 火傷しひりひりとした痛みが不愉快に伝わる。


「知ってるよ!!そんなこと!!」


 魔力で火傷を治すことはできるが、名無しに出来るのはその程度。

 敵を倒す力もなければ勇気もないのは自らが嫌と言うほど今感じていた。


「じゃあお前はこんな強大な敵を前にした時、何もせずただ仲間に頼んのか?」


 炎弍の背後の業火が手元に集まって巨大な火球を作り始める。魔力が一点に集中し、その火力は先程の数段上。部屋の大きさの限界まで炎が集まる。


 対する名無しにこれ以上の力を引き出すことは出来ない。


 自分に足らない点があるのは分かってる。

 こんなの見せられたら尚更そうだ。


「炎弐が言う通り。私は弱い。こうやって自分1人では立ち上がれないぐらいに」


 勇人の肩を借り、フラフラになりながらも何とか立ち上がり一歩前へと歩みを進める。


「名無し……」


 手助け無用と言うように名無しは手を下にする。

 はっきり言ってあれがこっちに向かって来るのは怖い。当たれば想像もつかない激痛が全身を貫きこの身を焼き払うかもしれない。


 それでも、これから会うであろう最前線で戦う人々の方が痛みなんて慣れるかのように経験し死への恐怖を味わっているに違いない。


 名無しは非戦闘員。

 戦いに参加することができないただの人間だ。


(だから、せめて請け負え手を貸すことができるならその痛みはできうる限りが引き受けたい。それがたとえ地獄の道だとしても…!!)


「それでも私は自分のやり方で1人でも仲間を救いたい!!!救われ支えられた分の恩返しだけでも!!!」


 両手を前にし名無しは魔力を放出するイメージを練り上げる。全体に解放するのではなく一点に集中する収束した光のように。


「はは!!!いいじゃねぇか!!熱くておもしれぇ!!そんなら、俺の全身全霊を込めてやる!!受け取れ!!!」


 名無しと炎弐は同時に互いの全力の魔力を解放する。空気が押しかえされ、館内に異質な雰囲気を生み出すほどの魔力。

 同時、解放した魔力は互いの手元に集中。


 互いが赤と黄金の一点集中。互いが正々堂々正面からの魔力の押し合いを狙う。

 瞬間、息を合わせるように二つの魔力は同時に両者の手から放たれる。


 金色の魔力と赤色の魔力が互いの間で拮抗。 

 朱色の雷がバチバチと音を立て、室内に暴風を吹き荒れさせる。


 そして、なおも己の全力を放出した魔力に上乗せする。


 炎弐は炎流爆とは比べられないほどの炎爆柱とも言うべき炎の柱を。

 名無しは炎を包み込む金色の魔力を。


 二つは互いの中心でぶつかり、拮抗していた状況を破壊した。

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