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終末世界で明日を見る  作者: がみれ
第二章「霧の街の失踪」

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第十三話「館内案内」

「ここが食堂。ここがキッチン」


 第二拠点で各自解散後、名無しは茜の勧めで緋狐に案内され建物内を歩いていた。


 今は一階。

 居住以外の生活に必要な施設はこの階が全てを占めているらしい。


 館内地図を見てみるとキッチンや食堂、風呂などの生活用エリアが神社側から見て左手側にあり、備蓄倉庫や訓練場などの施設が右手側に位置していた。


 また、一から四階まで吹き抜けの池や何も描かれていない空白の部屋も多かった。


「二階と三階フロアはご客人様たちの居住エリアとなっています。どの部屋でもご自由にお使いください」


 ご自由にと言われたが部屋が多すぎる。

 大通りの通路の突き当りが見えないほどにこの建物は広い。それが二階分全て居住区になっているのだから、どこを使えばいいのか逆に困る。


 とりあえず名無しは階段を上ってすぐ、通路の一番手前の板戸を思いっきり両手で開ける。勢い強く開いたからか扉と壁がぶつかる音がうるさく聞こえた。


 しかし、それよりもっと衝撃的なことがあった。

 中にはなんと人がいたのだ。


 畳の上で胡坐をかき、床に置いてある酒瓶を右手で掴んだ赤髪の男が暗い角で下を向いていた。


「あ?何勝手に開けてんだ。ぶっ殺!!!」


 男は振り返り名無しを鋭い赤眼で睨みつける。

 鬼の形相でこちらを向き、声を乱暴に荒げた。


 しかし、ぶっ殺すの「ろす」の声は名無しが扉の閉める音でかき消えた。


 まさか人がいるとは思わず、名無しは扉を咄嗟に閉めてしまった。だが、勝手に扉を開けるのは良くないだろう。


 名無しは謝罪をするために戸を三回ノックし中に入った。


「先ほどはすいません」


 深々と頭を下げて名無しは言った。


「だから入ってくんじゃねぇよ!!!」


 男は怒気を含んだ声でこっちを向いて怒鳴った。

 否定の回答に確かにと思い、名無しは顔を上げる。そして、改めてその男を見た。


 コートを羽織り、男の顔には二つの切り傷がついていた。よく見たら髪の毛の先だけがオレンジ色に染まっており、外見的に年齢は二十代は超えているだろう。


 その男は不機嫌そうにこちらを見た。


 男は立ち上がりこっちに向かって歩いてきた。

 怒られるかなと身構えていた名無しだが、自分の考えは甘かったのだという事を驚愕と共に知った。


 男はなんと名無し目掛けて酒を投げ、右手から人一人分は覆い尽くせるほどの炎を飛ばしたのだ。


 目を見開き名無しは咄嗟に後ずさる。

 しかし、炎は回避するより早く名無しに襲い掛かろうとしていた。


 じりじりと肌に触れる空気が熱くなっていく。

 間違いなく避けられないと名無しはそこで理解し魔導書を手にした。焼かれた瞬間に再生するように魔術を発動しようとしたのだ。


 だが、魔導書を持つ手は狐の少女によって引っ張られる。炎は名無しの頬を掠め、延長線上にあった柱に激突した。


 激突と同時爆発音が鳴り、柱は木っ端微塵に吹き飛んでいた。周りの木材にも火が乗り移り直撃すれば死んでいたかもしれないと、名無しは冷や汗が流れる。


「ありがとう」


 緋狐は頷き炎弐の部屋に入る。

 安心して冷静に頭が回るようになった名無しはそのとき、火事になることをまず第一に心配した。


 だが、視界にある光景からそれは必要ないのだと認識を改めることになった。


 火は徐々に弱まり、えぐれた箇所はなんと時間が巻き戻るように黒い炭のような魔力が建材を覆い、修復を始めていたのだ。


 おそらくは新城茜の能力だろう。


(いやそんなことより、いきなり炎ぶっ放すなんておかしいでしょ。私、ただ部屋に間違えて入っちゃっただけだよ?)


 抉れた箇所を見て名無しは思った。


十目裏とうめり炎弐えんじ様。棟内での武力行使は特定の場所以外禁止されています。おやめ下さい。それにこれ以上は茜様の負担になりますよ」


 釘を刺すように言った緋狐の言葉に炎がまだ消えていない板戸に手をかけた炎弐は反応し止まった。


「っ少し頭が熱くなってた。悪りぃ」


 後ろを振り返り男は直りかけの部屋へと戻っていった。


「あ、すみませんでした!!」


 勝手に入ったことに関しては名無しは悪いと思った。だから、名無しは炎弐に謝ることにした。


「いや、俺の方が悪りぃ。能力使うなんてどうかしてやがる」


 戸が閉まり、炎弍の姿は見えなくなった。


「三階でお話ししましょう」


 場所を変えるよう緋狐に言われた名無しは階段を上り三階についた。


「あの方は十目裏炎弍様。最前線帰りで今は第一拠点から第二拠点移動時の護衛任務をされてここにいらっしゃいます」


「最前線?」


 三階の通路を適当に歩きながら名無しは聞いた。

 コツコツと静かな棟内に歩く音と自分たちの声だけが通路に響く。


「現在、拠点は第一、第二、第三拠点まで存在します。最前線と呼ばれるものは第四拠点建設に携わっている者、もしくは第三拠点にて特別な任務に当たっている者のことを指します」


 要は前進隊の精鋭と言うわけだ。

 特別な任務は何か分からないが、名無しは先ほどの人物を思い出す。初対面の相手に酒瓶を投げて炎を浴びせる人物を。


(あんな人がちゃんと指示に従うのかなぁ?)


 さっきの光景を思い返し、指示に従う姿が一ミリも名無しには想像できなかった。


 そう思っていた私の考えを見透かされたのか炎弍について緋狐は話し出した。


「平時は人に向かって暴力を振るうほど荒くは無いのです。どちらかといえば明るく仲間思いなお方で。今は少し間の悪く、あのような態度になったのだと思います」


「そうなんだ」


「はい。悪い人ではありません」


 謝っていたし悪い人ではないと名無しは思う。

 だが、殺されかけたという事実は消えない。名無しはまだ許すつもりはなかった。


 そう簡単には感情がもたらす事柄に分別はつけられないのだ。


 だが、これが理由で関係を断つことはできない。

 どうせ、今後も関わりはあるんだろう。和解は必須だ。


 そう思った名無しは皆が揃う明日の朝食の場で炎弍と軽い挨拶だけでも話そうと決めた。


 緋狐は上を見上げ、何かに気づいたように案内を終える。


「今日はこのぐらいにいたしましょう。何かあればこの紙に文字を書いて切ってください。私達に伝わります」


 五枚ほど片手に収まる長方形の紙をペンとセットでくれた。それと腕時計を貰った。


 地下で今が何時なのか分からないから非常に助かる。


「ありがとう」


「では、ごゆっくりと」


 緋狐は階段の方へ歩いていった。

 名無しは貰った紙とペンをポケットにしまい、腕時計を右手に付けた。


 今の時刻は大体四時ごろ。時計を見て気づいたが、そういえばお昼ご飯をまだ食べていない。


「う〜ん。でもお腹空かないなぁ……」


 疲労で食欲が湧くどころではなかった。

 一応何か貰って部屋で食べて今日は寝ようと、名無しは館内地図を見て一階の食堂に向かった。


「あ」


 名無しは食堂に入る。

 すると、オレンジ髪の独特な目をしたミージュとラルが一緒の机で食事をしていて思わず声を上げた。


「お姉ちゃん!!」


「違う」


 ミージュは名無しの方を振り向かず、口に食べ物を入れながら元気いっぱいに言う。当然違うので名無しは否定の返答をした。


「お前ら知り合いだったんか」


「昨日会ったばかりで知ってはいるけど」


 目をそらし名無しは答えた。

 そう、名無しは知っているだけ。特に親しいわけでもなく、お姉ちゃんでもない。


 それにしても、毎回セリフにビックリマークが付くほど元気がある。見ていて元気は沸くが、勢いに負けてしまう。


「会えてよかった!!けど私もういなくなっちゃうから!!寂しい!!撫でて!!」


「いなくなる?」


 どういうことか分からず名無しはラルに聞いた。


「能力的に明日には第三拠点に行ってもらうことになったんやと。しかも、最前線組に同行して。こんなに小さいのになぁ」


 ラルは寂し気にミージュを見る。


 今の状況じゃ仕方ないとはいえ、やっていることは年端もいかない少女を死地に向かわせていることとほぼ同じだ。知っている仲だったら行かせたくないのは当然。


 世界は残酷だ。


 名無しはミージュの隣に座り、頭を撫でた。

 だからこそ世界をいち早く救わなければならない。ミージュのようなか弱い少女が命をかけず、無邪気に笑える世界にする必要がある。


 名無しは自分が何のためにここにいるのか再認識した。


 ミージュは頭を撫でられ嬉しそうに無邪気に笑った。この子は少しばかり心が強すぎる。そのことも再認識した。


 名無しは夜ご飯を食べて風呂に入った。その後衣服がいっぱいある部屋で寝る時の服を一着だけ貰い、三階で適当に部屋を選んで入った。


 荷物は何もないので別に部屋にこだわる必要性はない。


 倒れるように布団に仰向けになった。

 色んなことがあって疲れた名無しは一応今日を振り返ることにした。


 まず、隊長と話してて急に第二拠点に行くことになって途中で神に出会って、その後銃声で目を覚まして、崖で死にかけて神にあってなんやかんや勇人にあって助けられた。


 物資を回収するために学校で最初の時とコア食べる時と飛び降りる時で死ぬかもしれない経験をして、安全地帯だと思った神社でも死ぬような思いをした。何ならここでも消し炭になるところだった。


(計6回死にかけてる………。私このまま生きていけるかな?)


 底知れない不安がのしかかる中、こういうのは考えすぎるのも良くないと思い、名無しは深い眠りについた。疲労が溜まりすぎていたのか意識は一瞬で眠りに沈んだ。

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