旅立ちの決意、別れの足音
アザレアがうたた寝から目を覚ますと、窓から斜陽がさしていた。
体を起こし、軽く伸びをすると、階下から話し声が聞こえてきた。
「ローレンスは、アザレアが記憶を思い出すためのきっかけになってくれる気がするの」
「しかし、カトレアさん。俺がいなくなったら、この町や、師匠はどうなる?」
「…わがままを言っているのは分かってるわ。でも、アザレアの記憶を取り戻すためには、あなたの力が必要だと思うの」
カトレアは苦渋の表情を浮かべた。
「しかし、アザレアはまだ、過去の記憶に興味がないように思われる。俺が同行したところで、思い出す気がなければ、意味がないのではないか」
ローレンスが冷静に言った。
「それでも、試してみる価値はあると思うの。記憶をすこしずつ思い出してくれれば、自然と、興味もわいてくるんじゃないかって。」
「確かにそれはそうかもしれない。しかし、俺が言うのもなんだが、師匠はもう年だ。旅についてきてもらうことは、難しいだろう。師匠のことはおいていけない。」
ローレンスはレスターに目配せしながら言った。
「...余計な心配なんぞしおって、そんなことくらいわかっておる。俺のことなんか気にせず、行け。」
レスターは気前よく、ローレンスに答えた。
「…しかし、師匠...」
ローレンスは何か言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
「…ありがとう、レスター。私の覚悟を理解してくれて」
カトレアはレスターに寂しそうに微笑んだ。
その時、アザレアが静かに階段を下りてきた。
「…一体、何を話しているんですか?」
アザレアが声をかけると、三人は驚いたように振り返った。
「アザレア、起こしてしまったわね。ごめんなさい。」
カトレアが立ち上がり、アザレアに近づいた。
「…別に。それより、話の続きを聞かせてもらおうかしら?」
アザレアは三人を交互に見ながら言った。
「…実は、あなたを連れて、旅に出ようかと考えているの」
「旅?私が?」
アザレアは、眉をひそめた。
「ええ。今日、あそこまで怒りが湧いたのは、過去の記憶が刺激されたからだと思ったの。旅に出て、色々な場所を巡れば、何か思い出すかもしれない」
「それで、記憶を思い出すきっかけになりそうだった、ローレンスも連れて行こうと?」
アザレアはすこし嫌そうな表情で、ローレンスを見ながら言った。
「ええ。ローレンスは、ニゲラにどこか似ているところがあるのかもしれないと思って。」
カトレアはアザレアの機嫌をうかがうように答えた。
「…別に、私は過去の記憶にそこまで執着していないわ」
アザレアは、興味なさげに言った。
「アザレア…」
カトレアは困ったようにアザレアを見つめる。
「先生が行くなら、別に同行してもいいわ。一人でここにいてもつまらないし」
「しかし、アザレア!お前、少しは、カトレアの気持ちをだな…」
レスターが寂しそうに言った。
「なによ...私は先生についていくって言ってるじゃない。」
アザレアはレスターを軽くあしらうように言い放った。
レスターはやりきれない気持ちで唇をかみしめる。
その時、レスターが突然、体を震わせ、床に座り込んだ。
「レスター!?」
カトレアが駆け寄り、レスターの体を支えた。
「…大丈夫だ。少し、疲れただけだ」
レスターは弱々しい声で言った。
カトレアは心配そうな表情でレスターを見つめた。
「…カトレア、ローレンス。お前たちは、もう俺のことは気にするな。自分の道を進め...」
レスターは二人に言った。
カトレアは悲しそうにうつむいた。
「…アザレア。お前は…」
「…何?」
レスターはアザレアを見つめた。
「…前を向け。そうすれば、いつかは道が開ける。...この言葉、覚えてるか?俺の師匠が良く言っていた言葉だ。大好きな言葉さ。」
レスターは屈託のない笑顔でアザレアにそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、アザレアの脳裏に、昔の記憶がかすかに蘇った。
「…。レスター…?」
アザレアは勝手に流れる涙に困惑した。
「…アザレア…お前は思い出さなきゃならない。...応援してるからな」
レスターは、微笑みながら、アザレアの頭を撫でた。
カトレアとローレンスは、レスターを空き部屋へと連れて行った。
アザレアは、三人の後ろ姿を見つめながら、静かに涙を流した。
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