師と弟子、記憶の片鱗
正午を回った宿の居間で、カトレアは淹れたてのハーブティーをアザレアに勧めた。
「ローレンスはああ見えて、町では頼りにされているのよ。レスターの一番弟子で、腕も立つし、人当たりも良い。少し軽薄なのが玉にきずね」
カトレアは微笑みながらローレンスのことを話した。
「…そうなんだ。私には、軽薄な男にしか見えなかったけど」
アザレアはハーブティーを一口飲み、眉をひそめた。
「ふふ、アザレアは昔からああいうタイプが苦手だったものね。けれど、今回の騒ぎでは助けてもらったわ。」
「そうだね...でも、先生の魔法にも助けられて、我に返ることができたわ。私の魔法をいとも簡単に相殺するなんて...やっぱり、先生には相変わらず敵わないわ」
アザレアは安堵するように言った。
「いいえ、いいのよ...けれど、あなたの魔力量を考えれば、敵わない、は言いすぎだと思うけれど」
「そういえば、先生と私では魔法の導出方法が違ったね」
アザレアは思い出すように言った。
「そうね。精霊魔法は、精霊を媒介にして、周囲の魔力を集めて発動する導出方法ね。一度に少量の魔力しか扱えないけれど、魔法の構成を最適化すれば、十分、武器になる。私たちのような長命種にうってつけの導出方法ね。」
「一方、私の一般魔法は自分の魔力を使用するから、イメージ通りに好きな分だけ魔力をつぎ込める。それなのに、先生は数百分の一の魔力で私と同じような魔法が使えてしまう...」
アザレアは納得したようにつぶやいた。
「あなたは、生まれつき膨大な魔力を持っているから、一般魔法の使い手としては、恵まれた身体ね。魔力効率については、長く生きて、経験を積めば成長してくいくわ。とはいっても、あなたの魔力量なら効率化なんて必要ないのだけれど。」
カトレアは微笑んだ。
「先生は、本当にすごいわね...」
アザレアは感心したように言った。
「ところで、アザレア。どうして、あそこまで激高していたの?何か、思い出すことがあったのかしら?」
カトレアは探るようにアザレアに尋ねた。
「…分からないわ。でも、あの魔力渦を見た時、一瞬、既視感を覚えたの。そしたら、怒りが湧いてきたわ」
「過去の記憶かしら…?何か、思い出したの?」
カトレアは身を乗り出した。
「…少しだけ。あの男...ローレンスが口にした言葉もそうだった...。昔、誰かに言われたような言葉の気がしたの。でも、誰に言われたとか、どんな状況だったとか、細かいことは思い出せないんだ。」
アザレアはぼんやりと外を眺めながら、答えた。
「そう…。無理に思い出そうとしなくてもいいの。少しずつ、思い出していけばいい」
カトレアはアザレアの肩に手を置いた。
「…ええ。でも、どうしてあそこまで激高したのかは、自分でもわからないの。疲れたから部屋少しだけ休もうかな。」
アザレアは立ち上がり、自分の部屋へと向かった。
部屋に戻ったアザレアは、ベッドに腰を下ろし、今日あったことを思い出していた。ローレンスという男、魔力の竜巻、そして、既視感のある言葉。
―― 私は、何を思い出そうとしているの?
アザレアは静かに、目を閉じた。しかし、そこには、深い闇が広がっているだけだった。
アザレアは深い溜息をつき、ベッドに沈み込んだ。
疲労感が、全身を重く包んでいた。そして、思考の海に沈んでいった。
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