新たな出会い、過去との邂逅
カフェを出たアザレアは賑やかな町の通りをゆっくりと歩いていた。
失われた記憶の欠片を探すように、一つ一つの店と行き交う人々をじっと見つめていた。
すると、ふと、軽薄な声がアザレアの耳に届いた。
「お嬢さん、綺麗な髪ですね。まるで、宵闇に溶ける絹糸のようだ」
声の主は、露店の前でアザレアに見とれている、金髪の青年だった。
「…そうですか。どうも」
アザレアは興味なさげに答えた。
「こんなところで、一人ですか?もしよろしければ、町を案内しますよ。俺はローレンス。竜の一匹や二匹、素手でねじ伏せるほどの腕っぷしなんです」
ローレンスは自信満々に微笑み、手を差し出した。
「お気持ちだけ頂いておきます。私は一人で十分ですので」
アザレアは軽くあしらい、再び歩き出した。
「そんなつれないことを言わないでください。それに、あなたみたいな美しい女性を一人で歩かせるわけにもいかないでしょう?」
「…余計なお世話です」
アザレアは付きまうローレンスの手を払い、冷たい視線を送った。
その時、ふと、ローレンスがアザレアに言った。
「本当に美しい碧眼をしている...」
その言葉を聞いた瞬間、アザレアの脳裏に、微かな既視感がよぎった。
―― どこか、聞いたことある、言葉…
アザレアはローレンスを見つめた。しかし、記憶は曖昧で、何も思い出せなかった。
その時、露店の前で、騒ぎが起きた。
「おい!この店は今日で終わりだ!大人しく、店の権利を譲り渡せ!」
柄の悪そうな男たちが、露店の店主を脅していた。
「そ、そんな…」
店主は、怯えた声で答えた。
「従わなければ、この魔力武器で店ごと吹き飛ばしてやるぞ」
男たちは、薄ら笑いを浮かべながら、手に持った魔力武器を発動した。
すると、小さな魔力渦が巻き起こった。
その光景を見た瞬間、アザレアは、血が煮えたぎるような感覚に襲われた。
アザレアは、男たちを鋭い眼光で睨みつけ、瞬時に魔力で縛り上げた。
「…貴様ら、一体、どういうつもりだ」
男たちは何が起こったかわからない様子だった。
だが、目前の禍々しいオーラを放つ少女見て男たちは戦慄した。
「な、なんだ、貴様は…!」
「…貴様らの行いは、許されない。その武器をどこで手に入れた?直ちに、この店主に謝罪し、二度とこの町に顔を見せるな。さもなくば、命はないぞ。」
アザレアは、殺意を込めて言い放った。
周りの人々はアザレアの激しい魔力の波に圧倒され、後ずさりした。
「お嬢さん、落ち着けって」
ローレンスが、アザレアに近づき、落ち着いた口調で言った。
「…邪魔をするな。こいつらは、許されないことをした。70年前のあの日を思い出す。」
「…落ち着け。暴力は、何も生まない」
「…邪魔をするならば、貴様も...」
落ち着いて諭すローレンスとは一方的に、アザレアは、冷徹に怒りを込めた声で言った。
その時、精霊魔法が唱えられた。
「守護の精霊よ。呼応しろ。」
カトレアが、男たちにかかった魔法を相殺した。
「アザレア、落ち着きなさい。」
カトレアの声に、アザレアは我に返った。
「…先生…」
アザレアは、放心状態になり、カトレアに体を預けた。
「ごめんなさい、ローレンス。うちのアザレアがご迷惑をおかけしたわ」
カトレアは、ローレンスに謝罪した。
「いえ、大したことでは…」
アザレアから発せられた、激しいオーラが収まり、騒ぎは収まった。
しかし、周囲の町の人々はアザレアを指さし、魔女だ、厄災だと騒ぎ始めた。
アザレアは、周りの声が遠ざかっていくような感覚に陥った。
鼓動が速くなり、全身が冷たい汗で覆われた。
過去の記憶が濁流のように押し寄せ、彼女の精神を蝕んでいく。
―― 違う。私は、救おうとしたんだ...。私は…。
アザレアは、自分の内側で渦巻く感情の奔流に押しつぶされそうになりながら、必死に抵抗した。
しかし、過去の記憶は、彼女を容赦なく引きずり込み、暗闇へと突き落とす。
―― 私は、一体…
アザレアは、自分の存在意義さえ見失い、深い絶望の淵に沈んでいった。
その時、ローレンスが大声を張り上げた。
「静かにしろ!!彼女は、私の信頼する人だ!!あなたたち、市民を悪党から守ったのだぞ!感謝こそすれ、非難するとは何事だ!」
ローレンスの声に人々は静まり返った。
ローレンスはアザレアを庇い、男たちの罪を糾弾したのだ。
人々は、ローレンスの言葉に納得し、騒ぎは収まった。
人々が去った後、レスターが現れた。
「お前たち!一体、何があったんだ!?」
レスターは三人に尋ねた。
「…ちょっとした、手違いがあったんだ。俺が、みんなの前で、この美しい女性に、永遠の忠誠を誓ったがために…」
レスターがローレンスを殴った。
「貴様は、いつもそうだ!しょうもない、ことばかりいいおって!忠誠なんぞ誓っとらんで、剣の修行に励まんか!」
レスターはローレンスを怒鳴りつけると、ローレンスを引きずってどこかに連れて行ってしまった。
「今日は徹夜で剣の素振りだ!逃がさんぞ!愚か者!」
アザレアとカトレアはきょとんとした様子で二人を見送った。
「…あれは、誰なの?」
アザレアは、カトレアに尋ねた。
「…ローレンスよ。町のみんなから慕われる戦士よ。レスターの一番弟子なの。」
カトレアは、微笑みながら答えた。
「…そう。それより、ありがとう。先生。私、少し疲れたわ。宿に戻らない?」
アザレアは、カトレアと共に宿へ戻った。
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